【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
その男騎士は剣を敵に突き付けてこう言った。
「調子に乗るなよ狼モドキ! このおれローグが相手だ!」
……ローグ?
いま彼は……ローグと言った?
息子と同じ名前だ。
偶然の一致?
……いや、それより、彼の装備はオリハルコン?
ということは【エルガンディ】の
【エルガンディ】では希少なオリハルコンシリーズを与えるのはSS級クラス以上だけだと聞いている。
そのオリハルコンシリーズを装備している彼は、若くもSS級クラスの実力者ということになる。
だとしたら、なんて頼もしい援軍だろうか。
【エルガンディ】の騎士はみんなやたら強い。
あのカーティスを筆頭に若く強い騎士が揃っている。
彼もその一角ならば、あの【四脚のドラゴン】を倒せるかもしれない。
※
なんとか一人だけ救難に成功したが……ローグは素直に喜べなかった。
周りで倒れている【シエルグリス】の騎士たちがたくさんいるからだ。
もっと早く着いていれば、犠牲を減らせたかもしれないのに。
いや、それは自惚れか。
ローグは血だらけの現場に吐き気を覚えてしまったが、それをなんとか押し殺した。
敵の目の前で吐くなどあってはならない。
死体だらけの現場に慣れていない。
その経験の浅さがここで降ってくるとは。
やれやれである。
とにかく後ろの女性には下がってもらわねば。
「お嬢さん。下がっててください。ここはおれが止めます!」
「あ、ありがとうございます!」
助けた女性の気配が遠ざかっていく。
それを確認したローグは踏み込む──
──前に【四脚のドラゴン】が飛び込んで来ていた!
「いっ!」
凄まじい速度の突撃に慌てて身を捻って回避したが、敵の竜鱗はどれも刺々しいブレード状になっており、ただの突撃に斬撃を加えていた。
真横を通り過ぎる【四脚のドラゴン】だが斬撃が衝撃波に混じってローグに襲いかかる。
「うわ斬撃っ!?」
身を捻るだけでは避けられず、ロングブレードで流れてくる斬撃をなんとか捌いた。
しかし無理な態勢であったため、ローグはそのまま後ろへ倒れる形になった。
その隙を敵が見過ごすはずもなく、即座にターンしてローグに飛び掛かる。
隙を晒せば追撃が来る。
そんなことを予測できないローグではなく、飛び掛かってくるドラゴンをバク転して回避し、態勢を回復させた。
大振りの飛び掛かりを回避された敵には硬直が発生し、その隙を狙ってローグは叫ぶ!
「【
気を纏った斬撃は、敵のガラ空きになった頭部へ叩き込まれる。
だが刃は竜鱗を貫通できず、弾かれた。
「なにぃ!?」
驚く間に敵の反撃が来た。
噛み付きである。
「あぶね!」
ギリギリで避けてロングブレードを薙ぎ払い、敵の顔面を払いのけた。
しかしやはり効いておらず、敵はちょっとビンタされた程度のダメージしかなかった。
いやそもそもダメージにすらなっていない。
こいつ、硬い!
思ってる間に再度噛み付き攻撃が来て、ローグは慌てて大きくバックステップし距離を取った。
だがそれは誤りだったようで、敵のブレード状の尻尾がローグに向かって伸びてきた。
「伸びるのかよそれ!」
硬いクセに伸びるって、どんな身体してんだよあいつ!
S級クラスのドラゴンはいつだって反則的だ。
堅いし強いし技だって多種多様!
こいつも例外じゃない。
ローグは鞭のようにしなる尻尾ブレードを弾き、なんとかそれを捌き続ける。
が、次の瞬間に火球が飛んできた。
「どおっ!?」
またも慌てて避けて態勢を崩される。
その隙に尻尾のブレードが肩を突き刺した。
「ぐあああああっ!」
肩当てが吹き飛び、それでもやや深くブレードが肩の肉を引き裂く。次いで血を吹き出した。
肩当てが無かったら腕ごと持ってかれていた。
くそ! ヤベェこいつ! 速い!
再度飛んできた尻尾ブレードを弾き返したローグは踵を返して近くの民家に逃げ込んだ。
窓から飛び込んでガラスを地面に散らせる。
「きゃあああああああ!」
「え!?」
窓をカチ割って侵入した民家には一般の女性がいた。
逃げ遅れたらしく、ベッドの下に隠れている。
ローグとばっちり目が合った。
涙と鼻水で凄まじい顔になっているが、それだけ彼女が今まで恐怖に煽られていた証でもあった。
仕方ない。家の目の前で戦闘が起こってればこうもなる。
……それにしても、少しでも狭い場所へ行けばあの厄介な尻尾ブレードは範囲を狭められると、そう思い民家へ逃げたのだが……まさか一般人が逃げ遅れていたとは。
とんでもない不運だ。
さらに不運は重なり、尻尾ブレードは壁を破壊し、ローグと女性の姿をドラゴンに露出させた。
見つけたと言わんばかりに【四脚のドラゴン】はローグに火球を撃ち放つ。
「いやぁああああ!」
「くそっ!」
ローグの後ろには一般人がいる。
火球を避けたら彼女に当たる。
ならばとローグはその火球をロングブレードで一刀両断!
タイミングを間違えれば大怪我をする火球斬りを成功させた。
この土壇場で成功させ、真っ二つに割れた火球は女性の左右に飛んで壁を爆破。
「ひぃいいいい!」っと女性は頭を抱えて怯え、さらにベッドの下に縮こまる。
「死にたくない! 死にたくないよぉおお!」
「大丈夫だ!」
ローグが泣き叫ぶ女性に叫び返した。
女性はローグの背を涙目で見上げる。
「そこに居れば大丈夫だ! おれが守ってやる!」
「!」
女性が目を見開き息を呑んだ。
当のローグはロングブレードを構え、向かいのドラゴンに備えた。
ドラゴンもローグを見据えて、掛かるタイミングを見計らっている。
正直……肩を負傷したこの状態で戦いを継続するのはあまりにも危険だ。
この【四脚のドラゴン】は強い。メチャクチャ強い。
動きにはそれなりに対応できても、こっちの攻撃が通らないのであれば勝ち目はないと思う。
こいつの竜鱗を突破するには、それこそカーティスやゼクードレベルの【気】が必要になってくるのだろう。
おれにそんなものはまだない。
だからと言って、勝ち目がないからと逃げるわけにはいかない。
後ろに一般人がいて、迫るドラゴンがいて、そこに
ここで一般人を見捨てたら俺は、どんな顔して母さんと妹に会えばいいってんだ!
胸張って会えねぇだろ!
ローグは意を決してロングブレードを握り直し、大きく踏み込んだ。
「うおおおおお!【ブレード・イグニション】!」
唱えた矢先にロングブレードの刃が炎で覆われた。
炎をエンチャントする魔法であり、高熱を宿したブレードは斬れ味を増大させる。
そしてそれは【気】によってさらに!
「【紅蓮《ぐれん》竜《ドラゴン》斬り】!」
炎の斬撃を振りかざし、それを敵は尻尾ブレードで打ち払う。
だがローグは怯まずさらに踏み込んで炎の斬撃を叩き込んだ。
炎の斬撃と尻尾ブレードの連撃が重なり、凄まじい火花を散らす。
『撃ち合いの時こそパリィを狙え』
ふと浮かんだのはカーティスの教え。
何度も彼に稽古をつけてもらった経験ゆえに思い出した。
必ずどれかの一撃は甘い一撃が混ざっている。
それを見極め、その瞬間を逃すな。
集中しろ。その瞬間は必ず来る!
来た!
「今っ!」
パキィンと甲高い金属音を響かせ、尻尾ブレードをパリィする。
「もらったあああああ!」
弾かれた尻尾ブレードが天へ昇るその一瞬の隙に、ローグは敵の脳天へ【紅蓮竜斬り】を撃ち込んだ。
──っ!
炎の刃は敵の脳天を斬れずに止まった。
これでもダメなのか!?
驚愕したローグはドラゴンに剣を弾かれ、ロングブレードが空高く回転して飛んでいく。
今度は自分がパリィされるような形になった。
武器を失ったローグに、ゼロ距離にいるドラゴンが大口を開けて迫る!
やべ……死ぬ!
『お前もオレと同じ炎魔法の使い手なら、良い攻撃方法がある』
またも思考に流れるカーティスの言葉。
記憶が溢れてくるのは極限状態故か?
生存本能が成せる技か?
『どうしても敵の竜鱗を突破できないなら『エクスプロード』を使え。これは最終手段だ。下手をすれば腕を無くす。だが死ぬより良いだろう?』
そうだ。
まだこの手があった!
死ぬよりいい!
母さんと妹に会えずに死ぬくらいなら!
「うおおおおおおおおああああああああ!」
ローグは拳を握り締め、敵の大口目掛けて鉄拳を振りかざした。
ガブリと噛まれ、腕にドラゴンの牙が食い込む!
「腕くらいくれてやらああああ!【エクスプロード】!」
喉にまで達したローグの拳は赤く光り、大爆発を叩き起こした。
ドラゴンの喉が膨れ上がり、首から爆発して頭部と身体を吹き飛ばし切断した。
残ったドラゴンの身体は意思を失い、そのまま地面に倒れた。