【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
戦塵が立っていた三ヶ所が静かになった。
どうやら【シエルグリス】内部のドラゴンは対処できたようだ。
一時の安堵を覚えたレイゼは街の高台に設置された【魔法大砲・改】に視線を戻した。
数人の部下が魔力を込め終えて、あとは発射するだけなのだが。
「おいどうした! なんで撃たねぇんだ!」
いつまで立っても【歌のドラゴン】を狙撃しない部下に痺れを切らした。
「ダメです! ドラゴンの飛行速度が速すぎて狙いを付けられません!」
「……確かにあれじゃ仕方ねぇか。よく見てチャンスを伺え。目を離すなよ。必ず狙撃の隙はあるはずだ」
「はっ!」
遠くでは【歌のドラゴン】がゼクードたちを一方的に攻撃している。
空からのブレスとなればゼクードたちに反撃の術はない。
高度が有りすぎて、ゼクードやネオの魔法が当たってもダメージになっていない。
さっきの【顔のドラゴン】のように撃ち落としてやれば、陸戦でゼクードたちが倒してくれる。
そのためにはこちらが狙撃を成功させなければいけない。
しかし先ほどの【顔のドラゴン】よりも動きが速く、さらに【シエルグリス】の外という距離もある。
これを当てるのは至難の技だ。
外せばリロードに時間を取られ、その間またゼクードたちが一方的に攻撃される。
この【魔法大砲・改】はオリハルコンを使った超長距離狙撃砲なのだが、希少なオリハルコン製ゆえに量産ができず【シエルグリス】にも【エルガンディ】にも一台しかない。
たくさんあれば順に連発できるのだが、一台だとそうはいかない。
一発必中を心掛ける必要がある。
しかしこの距離で、あの速度で動き回る【歌のドラゴン】にどうやって当てればいいのか?
正直、ここからではドラゴンが豆粒のような大きさに見える。
「レイゼ女王様!」
「あ? あ! フランベールさん!?」
高台を駆け上がって来たのは弟の妻だった。
妊婦なのにこんなところで何をやっているのか。
「その大砲はもう撃てるんですか?」
「ぉ、おう。いつでも撃てるぜ。だがドラゴンが遠くで速くて狙いが付けられねぇんだ」
「わたしにやらせてください。狙撃なら自信があります」
「え!?」
レイゼだけでなく、周りの騎士たちも戸惑いを見せた。
確かにフランベールは弓使いで、狙撃などの遠距離戦は得意だろう。
しかしこれは大砲だ。
さすがに要領が違うのではないだろうか?
「一発あれば十分です。わたしにやらせてください!」
一発あれば十分って……大した自信だな。
そう言えば昔……
真冬の視界の悪い場所で、さらに風の吹く中、フランベールは次々とドラゴンに曲射を当てていたな。
あれほどの神業を成せる彼女なら!
「わかった! なら頼むぜ!」
「はい!」
※
フランベールは狙撃主と交代し、スコープを覗いた。
遠くでは【歌のドラゴン】がゼクードたちに激しいブレス攻撃を続けている。
しかも俊敏。
的も小さい。
これは、面白いね。
絶対に当ててやる。
フランベールは胸が高鳴っていた。
難度の高い狙撃はいつもこうだ。
なぜか楽しくなってくる。
乱戦時の味方を巻き込まないよう狙撃するのも楽しいし、自分を活かしている気になれる。
自分にはローエさんのような攻撃力はない。
カティアさんのような防御力もない。
ゼクードくんのようなスピードも。
その悩みを少し前にカティアさんとローエさんに打ち明けた。
ちょうどゼクードくんがオルブレイブに行っている時のこと。
『フラン。お前の凄いところは正確無比な射撃だ』
『ゼクードだって味方のいるところに撃つのは怖いって言ってましたわ』
『自信を持てフラン。お前の狙撃は誰にも真似できない。あんなギリギリの援護は我々には怖くて無理だ』
『そうですわ。だからフラン以外の援護は怖いですもの』
遠距離戦でもゼクードくんに追い付かれて焦っていたが『味方に当てず狙撃するのだけはフランベールにしかできない』とみんなに褒められた。
正直に言うと、そんなの弓使いなら……後衛なら当たり前の技術だと思っていた。
だけど違ったらしい。
これはゼクードくんにも、カーティスにも真似できない素晴らしい技術なのだと。
わたしにもあったんだ。
そんな技術が。
持っていたんだ。
とっくに。
やっと自信が持てた。
わたしの強みは『狙撃』。
現にこんなにも『狙撃』を楽しいと感じてしまっている。
「発射はそこのレバーだ。もうそれだけ捻れば発射する。タイミングは任せるぜ」
「了解です」
言って、フランベールは小さく息を吐いた。
先程この【魔法大砲・改】が発射されるのは見ていた。
虹色の槍のような閃光だった。
弾速も覚えている。
あれだけの速度があれば発射から命中までのラグは少ない。
ちょっとした偏差撃ちで十分だ。
それにこの【魔法大砲・改】の親切装備【スコープ】がある。
しかもアイアンエイムサイトという照準アシストのオマケ付きだ。
弓にはないこの狙いをアシストしてくれる装備。
これで外せという方がフランベールには難しい。
フランベールは敵に照準を合わせ、移動方向を見切り、その照準をズラした。
見えた!
狙い撃つ!
「いけっ!」
フランベールは一息に射撃レバーを引いた!
※
轟音が鳴り響いた。
眩い閃光が空を裂き、虹色の槍が【歌のドラゴン】に直撃する。
それは敵の竜鱗を貫通し、肉を抉って血を吹き出させた。
「おおっ! やったぞ!」
悲鳴のような咆哮を上げて落ちていく【歌のドラゴン】を見て俺は歓喜の声を上げた。
あんな激しく動いていたドラゴンを撃ち落とすなんて凄いな。
しかもあの距離から。
【シエルグリス】にもフランベール並に腕の立つ狙撃主がいるらしい。
「ネオ! 一気に畳み掛けるぞ!」
「了解!」
俺は落ちた【歌のドラゴン】目掛けて走った。
隣にネオが並走する。
【歌のドラゴン】は致命の色が濃く、全身を震わせて立つのがやっとという状態だった。
動けば先ほど撃ち抜かれた胸部の傷から血が溢れる。
奴はもう瀕死だ。
抵抗する力もない。
終わりだ。
ロングブレードを抜刀し、いよいよ斬りかかろうとしたその時だった!
【歌のドラゴン】の背後から、何かが飛び越えてやってきた。
そいつの凄まじい殺気に当てられ、俺とネオは思わず足を止める。
同時に
どこかで感じたことのあるその殺気。
俺は悪寒を覚えながらそいつを見た。
「……っ!」
ドクン! っと心臓が跳ね上がった。
「お前……なんで……」
あの時の悪夢がそこに立っていた。
「お前はあの時俺が……」
黒い竜鱗に覆われた……あのディザスタードラゴンの最後の子。
『人型ドラゴン』だ。
「俺が……倒したはずだろ!」
左眼の傷が疼いて痛み、全身がトラウマを思い出して戦慄した。