【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
あいつがリヴを殺した犯人か!
自分の夫となるはずだった男を!
ロジェールから父を奪ったのはあいつか!
「あいつ……っ! あいつがっ! リヴを!」
怒りのあまり歯が少し砕けるほど食い縛った。
爪が肉に食い込むほど拳を握りしめた。
今すぐにでもヤツをブッ殺したい衝動に駆られた。
しかしその殺意の衝動はすぐに抑えられた。
理性で押し殺したわけじゃない。
目前で巻き起こる、あまりにも常識離れした戦闘を見て、すぐ冷静になっただけだ。
【エルガンディ】きっての騎士ゼクード。
【シエルグリス】のエースたるネオ。
各国の最高戦力が放つ斬撃速度は尋常ではない。
動きもまさに風の如く見えず、火花が散るのみ。
人間二人の踏み込みは土を砕き、その余波で雑草が弾け飛ぶほどに凄まじい。
そんな化け物二人を同時に相手している『人型ドラゴン』も一歩も退かない。
何なんだあいつは!?
なんだこの強さは!
ゼクードとネオの二人がかりで互角だなんて!
見る者を圧倒する戦いだった。
負傷して動けない【歌のドラゴン】も。
ミオンや味方の女騎士たちも。
誰も動けないでいる。
敵も味方も全員だ。
なんだこの異次元の戦いは。
迂闊に首を突っ込めば瞬時バラバラにされると分かる。
加勢したところで二人の足手まといにしかならないと分かる。
だから誰も動けなくなっていた。
この威圧感。
あの『人型ドラゴン』が現れただけで、この息苦しさはなんだ?
たった一匹なのにこの支配力。
……化け物だ。
「じょ、女王様!」
城壁をのぼって現れたのはリベカだった。
「リベカ! 無事だったか!」
「はい! それより空を!」
「空?」
言われて初めて気づいた。
雲が集まってきている。
まるで何かに吸い寄せられるように。
「なんだこりゃあ!? 雲が!」
レイゼが驚いていると、またも下から三人の影が駆け付けてきた。
ゼクードの妻たちローエ・カティア・フランベールだ。
待機してろって言ったのに。
さらには姪のグロリアとレミーベールまで。
こいつら、なぜ【シエルグリス】に?
「ローエ! フラン! あの雲!」
「あれは……まさか!」
「嘘ですわ! あれはディザスタードラゴンの雷雲じゃありませんの!?」
雷雲?
ディザスタードラゴンの話なら聞いたことはあるが……
「お、おいなんだ!? やべぇのか!?」
慌てて聞いたレイゼだが、カティアたちはゼクードの戦っている相手を見て顔を青ざめさせていた。
「『人型』だと!?」
「生きてましたの!?」
「そ、そんな……!」
どうやら彼女たちはあの『人型ドラゴン』を知っているらしい。
詳しく聞きたいが、そんなことよりも風が強くなってきた。
今にも雨が降りそうなくらい空はすでに黒雲に覆われていた。
※
風が強くなってきた。
辺りが暗い。
空を見れば黒雲が集まってきている。
こいつ!
雷を撃つ気か!
そうはさせるか!
『人型ドラゴン』の速さにようやく慣れてきた俺は、奴の爪攻撃をパリィした。
ぐらりとよろけた敵は、しかし俺の追撃の間もなく後ろへ跳んだ。
速いな! だが! 仲間がお前を逃さない!
──次の瞬間!
『人型ドラゴン』の着地を狙っていたネオが斬撃を叩き込んだ!
敵の首と腹を同時に一閃!
浅いが血が吹き出た。
「よくやったネオ! もう一発頼むぞ!」
「はぁ……はぁ……はいっ!」
ネオはかなり息が上がっていた。
俺と人型ドラゴンを追い掛けるだけでかなり消耗している。
まずいな……ネオがやられたら勝てない。
その思考を読まれたのか、敵は俺ではなくネオに狙いを変えてきた。
さっきまで無視していたのに、ネオも脅威の一人だと認めたらしい。
敵はネオに瞬きの間もなく接近し、爪による猛攻撃を放った。
一つ一つが凶悪な殺意を孕んでおり、さながら死神の鎌を連想させた。
しかしネオも天才を自称するだけあって然る者だった。
上がった息を即座に整え、二刀の刃にて敵の烈撃を迎え撃つ。
常人ならばとうに八つ裂きにされている苛烈な攻撃。
それに晒されても動じないのはさすがと言う他なかった。
何よりあの『人型ドラゴン』の攻撃に対応しているのがすでに凄い。
かなり押されているが、少しでも踏ん張ってくれればそれでいい!
押される分は俺がカバーする!
「おおおおっ!」
ネオを攻撃する『人型ドラゴン』に俺は真横から斬りかかった。
敵は俺の殺気を察知してすぐに退避。
大きく後ろへジャンプした。
やっぱり後ろへ跳んだか!
回避先を予想していた俺はロングブレードを構え、敵を追撃する。
「【真・竜斬り・銀雷】!」
銀の雷の如き斬撃が飛んで『人型ドラゴン』に飛来する。
すると敵は腕に蒼い炎を纏わせ、それを振り抜く。
蒼い炎の三日月状のブレードが腕から飛び、俺の発した銀雷を相殺した。
──が!
「【真・竜斬り・閃空】!」
間髪いれずネオの放った二刀の斬撃がクロスし、敵の腹に直撃した。
『人型ドラゴン』は撃ち落とされ、地面に膝をつく。
素晴らしいアシストだった。
ネオが居てくれて本当に良かった。
これなら勝てるぞ!
だが問題は……
俺は空を見上げた。
空から轟音が鳴り響く。
雲と雲の摩擦でいよいよ雷が迸っている。
ダメだ!
ヤツを仕留める前に雷が先に落ちる!
『人型ドラゴン』も完全に俺を見据えて狙っていた。
奴は大きく吠えた。
刹那! スパーク!
俺は天へ向かって手を掲げ【ブラックホール】を展開していた。
あの時のように、吸収すれば凌げる!
そう思っていたのだが……
バチン!
「──っ! か……っ!」
「っ!? ゼクードさん!」
ネオの声が遠ざかる。
全身が灼熱し、意識がスパークと共に消え去っていく。
俺が受けた雷は【ブラックホール】の許容力を遥かに越えていた。
あの時とは比べ物にならない威力で吸収し切れなかった。
漏れた雷はゼクードの全身を回り、意識を焼いていく。
それは悲鳴すら上げる間もない一瞬の出来事。
脳が破壊されるような熱を感じ、消え行く意識が最後に写したのは『人型ドラゴン』そのもの。
少し遠いが、確かに俺の目の前にいる。
意識が消える直前、最後の力を振り絞り俺は敵に手を突き出した。
【ブラックホール・リバース】
※
雷の閃光に目が眩み、次に目を開けた時にはゼクードが雷を食らっていた。
それはあまりに一瞬の出来事で、気が付けば『人型ドラゴン』にも雷が直撃していた。
ゼクードは白眼を剥いて倒れ、敵のドラゴンは全身を雷で震わせ膝をついた。
かなりのダメージを負ったようだがまだ生きている。
「ゼクードさん!」
ネオが呼び掛けてもゼクードはピクリとも動かなかった。
見ればロングブレードから手を離している。
完全に意識が飛んでいる。
「しっかりしてください! ゼクードさん! 返事をしてくれ! ゼクードさん! ゼクード! ゼクードォオオオオ!」
柄にもなく必死になっていた。
胸の奥が死ぬほど熱い。
彼は雷を食らったのだ。
もしかしたら……死んで……
そんな最悪な結末を予想してしまったネオに、再び立ち上がった『人型ドラゴン』が迫る!
「こいつ!」
※
ゼ……
ゼクードが……やられた……
その光景はこの場にいる全員を絶望の縁に叩き落とした。
この光景をローエ・カティア・フランベールは見てしまっていた。
「うそ……うそっ! うそだよ! ゼクードくん! ゼクードくんっ!」
「ダ……ダメだ。ゼクードに雷が直撃した!」
レイゼの一言にフランベールが本気の悲鳴を上げた。
「うそだ! うそだよこんなの! いや! いやあああああああああああああ!」
「フラン落ち着け! 落ち着くんだ! ローエ! お前も大丈夫か!?」
「は……は、はい!」
カティアに言われたローエの顔は血の気が無くなっていた。
信じられない現実にショックが大きすぎたらしい。
フランベールは今にも飛び出しそうで、ローエは動揺で今にも倒れそうだ。
泣いて暴れるフランベールを抱き締め、カティアは歯を食い縛る。
騎士ならば、いつかこうなる覚悟はしていたはずだ。
自分か、ローエか、フランベールか。
それがまさかのゼクードだった。それだけのこと。
なのに、カティアは涙を流していた。
ゼクードが白眼を剥いて倒れているあの姿が信じられない。
無敵だと思っていた夫の存在。
お前がやられるなんて、信じられない。
頼む……嘘だと言ってくれ!
夢なら今すぐ覚めてくれ!
こんなの……私でも耐えられない!
ゼクード……っ!
「あ、あのゼクードさんが、やられるなんて……お、終わりだ……私たちは……」
リベカが震える声を絞り出す。
その隣でレイゼはローエを抱き締めながら、未だ戦うネオと『人型ドラゴン』の攻防に目をやった。
「くそっ! 信じられねぇ! 二人掛かりで互角だったのにネオだけでやれるのか!?」