【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第266話【ナイトとリイス】

 敵が逃げ去った空を見上げ、ネオは倒れるように草原にへたり込んだ。

 上がり切っていた息を整えようと休む。

 そんなネオの背後では勝利の声が喝采していた。

 

「勝った! やっぱりさすがだ!」

「ネオには敵わないわね!」

「見事だ! シエルグリスのエース!」

 

 そんな声には答える気になれなかった。

 シエルグリスのエース?

 冗談じゃない。

 

 さっきの戦い……ゼクードさんがいなければ負けていた。

 

 2対1の時だって、僕はゼクードさんと敵についていくのがやっとで、ひたすら振り回されていた。

 それでもゼクードさんが僕に攻撃をする隙を作ってくれたからまだ戦うことができた。

 

 1対1の時だって、ゼクードさんが倒れる直前に敵に雷を当ててくれたから、僕でもギリギリ張り合えた。

 

 全部あの人のおかげなんだ。勝てたのは。

 

 気安くエースと呼ぶのはやめろ!

 

 ……思っても口にはせず、ネオはただ歯を食い縛った。

 

 誰の助けもいらない。

 自分は天才だと思っていたのに。

 一人ではどうにもならない戦いを、こんなタイミングで経験することになるとは。

 

 運が良かったと考えるべきなのだろうか?

 ゼクードさんに助けてもらえた今回の事を。

 

「ネオ!」

 

 駆けてきたのはレイゼ女王だった。

 ネオはフラつきながらもなんとか立ち上がり、主君に振り返る。

 するとレイゼ女王に両肩を掴まれた。

 

「良くやってくれた! さすがオレの国のエースだ!」

 

「……。あの、ゼクードさんは?」

 

「今さっきミオンが近くの医療屋に連れてった。あいつの容態はまだ分からねぇ……」

 

「そうですか……」

 

雷の直撃を受けていたんだ。

ただで済むはずがない。

だがあの一瞬で【ブラックホール】を使い、雷を吸収していた見切りにはさすがとしか言いようがなかった。

 

 あんな光の速度によく反応できたものだ。

 ゼクードさんのあれがなかったら敵は弱ることなく、僕は負けていた。

 

 そしてみんな殺されていた。

 

 そう思うと、あの一瞬こそ勝つか負けるかの運命の分岐点だったのかもしれない。

 やっぱりゼクードさんが居たから勝てたにすぎないのか。

 

 情けない。

 もっと強くならねば。

 ゼクードさんのように。

 

 

 そこは遥かに遠くの森の奥。

 小鳥の囀りが聞こえる心地良い場所。

 リイスはそこへ下りて羽休めをしていた。

 抉られた胸の傷も痛むのもあったのだが。

 

『なぜ俺を助けた?』

 

 隣のナイトが聞いた。

 彼もまた、脚の傷が痛むのか座っている。

 

『その言葉……そっくりお返しします。なぜ私を助けたの?』

 

『前に言っただろう? あんたの声が俺の母と似ているんだ。だから死んでほしくなかった』

 

『私の声が聞きたいから?』

 

『ああ』

 

『……』

 

 正直、複雑である。

 彼の求めているものは私ではなく、私の声で、母の声である。

 なんとも気分の悪いことか。

 

 このナイトというドラゴンはかなり若いが、もう立派な成竜にも見える。

 いつまで母を求めているんだか。

 

 とは言え、自分の息子たちも似たようなものだったから、あまり言えたものではないか。

 

 息子…………あの子達は、ガナー・ゲイル・ブレイドはどうなったのだろう?

 みんなやられてしまったのではないだろうか?

 

 そんなはずはないと思う。

 彼らには【硬化の歌】を聴かせて竜鱗の硬度を最大にまで高めてある。

 並大抵の攻撃は弾き返す。

 

 だからやられてはないと思うのだ。

 どのみち迷ったらここへ来るよう打ち合わせはしてある。

 時間が立てば戻ってくるだろう。

 

 それまでは自分も傷を癒すことを優先しよう。

 

『おい』

 

『はい?』

 

『何か食べたいものはあるか?』

 

『え?』

 

『俺が取ってきてやる』

 

『え、いや、しかしあなたも脚が……』

 

『いま治った』

 

『え!?』

 

『昔はもっと早かったんだがな。あいつにやられてから遅くなってしまった』

 

『あなたはいったい……なんのドラゴンなんですか?』

 

『さぁな』

 

『さぁなって……』

 

『何も分からん。母は俺を生んですぐに死んだ。あの時なにかを俺に伝えていたが、生まれて間もなかった俺には何も分からなかった』

 

『そう……ですか』

 

 まさか母をすぐに亡くしていたとは予想外だった。

 なるほど、だから彼はこんなにも強く逞しいのに子供みたいなのか。

 ずっと感じていた彼への違和感がやっと分かった。

 

『お父様はいなかったのですか?』

 

『オトウサマ? なんだそれは?』

 

『え!? あ……いえ、知らないなら良いです』

 

『そうか。で、何か食べたいか? 取ってくるぞ』

 

『い、今は特には……』

 

『そうか。何かあったら言ってくれ。なんでもする』

 

『なんでも!?』

 

『ああ。だから……側にいさせてくれないか?』

 

『それは……』

 

『あんたの声をもっと聞いていたいんだ』

 

『……』 

 

 リイスは小さく溜め息を吐いた。

 このナイトというドラゴンは、どうしようもなく母が恋しいのだろう。

 弱ったものだ。

 

 だが彼は強かった。

 私の歌と彼の強さが合わされば、人間に勝つことも可能なのではないだろうか?

 

 そう考えれば、彼には利用価値がある。

 ここで靡かせておけば都合がいいだろう。

 ならば。

 

『側に居てもいいですけど、変な気を起こしたら怒りますからね?』

 

『変な気? 例えばなんだ?』

 

 本気で分からないと言った顔でナイトが聞いてくる。

 思わぬ返事にさすがのリイスも顔を赤くした。

 

『それくらい自分で考えてください!』

 

『ぇ……え?』

 

 そっぽ向くリイスにナイトは本気で意味が分からない顔をした。

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