【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「ちょ、ちょっとお父さん! みんな本気で心配してたのに冗談やめてよ!」
ぉ、お父さん!?
え?
俺が? この子の?
え、俺に言ってるのお父さんって?
嘘だろ?
俺何歳なんだよ?
……あれ?
俺……何歳だっけ?
「……っ!」
俺は急に頭が痛くなってきて、思わず手を当てた。
「ゼクードくん!?」
「お父さん大丈夫!?」
知らない女性たちに心配されている。
悪い気はまったくしないのに、なんだこの居心地の悪さは。
何も思い出せない。
俺は…………誰なんだ?
「ゼクード! わたくしはローエですわ! 覚えてませんこと!?」
金髪の美人さんがエメラルドグリーンの瞳に俺を写してきた。
目が覚めるような美しい女性だ。
凄く良い香りもする。
だけど……思い出せない。
こんな美人を忘れるなんて、どうかしてる。
「ローエ……さん?」
ローエと名乗った女性を思い出せない俺は、首を傾げるしかなかった。
すると彼女が露骨に絶望に染まった。
それを見て俺は胸が苦しくなる。
初対面の女性にこんな顔をさせてしまうなんて【女性想い】としてあってはならないことなのに。
……【女性想い】?
なんだこれ?
脳の片隅に残ってた言葉が口をついて出てきた。
記憶にないのに、何故か知ってる。
気持ち悪い……なんだよこれ。
「ゼクード……私はカティアだ。お前の妻だ」
妻!?
俺結婚してたの!?
「つ、妻!? あなたが、俺の!?」
カティアと名乗った女性は頷いて、ゆっくりとした口調で続けた。
「さっきのローエもお前の妻だ。そこのフランベールも」
「ぇ……え!?」
妻が三人も!?
どういうこと!?
「そしてそこの二人はお前の娘グロリアとレミーベールだ」
先ほど俺を【お父さん】と呼んでいたツインテールの子と、短い銀髪の子を紹介された。
グロリアとレミーベールというらしいが、俺の娘ってどういうことだろう?
妻がこの目の前の三人なら、この娘二人はこの三人の誰かとの子供ってことだろ?
どう見ても親と子の見た目が同世代なんだが……
もしかして俺、騙されてる?
「……思い出せないか?」
それはカティアの、あまりに切ない声と顔だった。
騙されてると思っても、彼女たちからその気配がまったくしない。
この重苦しい窒息しそうな悲しい空気は、彼女たちから発せられている。
こんな空気を嘘で展開できるとは思えない。
けれど……彼女たちに関する記憶がまったくない。
何も思い出せない。
「……うっ!」
また頭が痛くなって、俺は頭部を押さえて俯いた。
「ゼクード!」
「お父さん!」
心配するカティアたちをよそに、医者は「これはダメだな……」っと息を吐いた。
「残念だがゼクードくんは記憶を喪(うしな)っている」
「そんな……」
医者の言葉にフランベールが涙した。
俺はそんな彼女を見てられなくて目を逸らす。
記憶を喪っている?
俺が?
すると医者が構わず続けてきた。
「身体の火傷は軽度だし、その他の外傷もない。となると原因は雷による脳へのダメージだろう」
「せ、先生……治るんですかこれは?」
レミーベールが聞いたが医者は「分からない」と答えた。
「ある日ふと記憶が回復するかもしれないし、しないかもしれない。わたしも雷を食らって生きていた患者は彼が初めてでな。よく分からないんだ。すまない」
また重い沈黙が小部屋に充満した。
俺は雷を食らったのか?
なんでそんなことに?
よく生きてたな俺。
「今は……一命をとりとめただけでも良しとしよう。記憶に関しては望みがないわけじゃない。時間が解決してくれるかもしれないから、諦めるんじゃないぞ?」
医者は医者なりにローエたちを励ましていた。
だが彼女たちの暗さを払拭することはできなかった。
俺もどうすればいいか分からず、彼女たちと目を合わさないよう俯くしかなかった。
やだなこの空気……苦しい。
「! ……すまんが君たち。今日はもうこれで帰って休みなさい」
「え?」っとカティア。
「ゼクードくんを休ませてやりたい。これでも雷を食らった重傷者でもあるんだ。あとはわたしが彼を見ておく。心配しなくていい」
「…………わかりました」
みんなを代表してカティアが言った。
カティアはローエたちを外へ出るように促し、一人、また一人と個室を出て行った。
みんな暗い顔をして出ていく。
それがあまりに俺の胸を締め付ける。
なんでこんなに苦しいんだ……
どうやら心臓は彼女たちの事を覚えているらしい。
なのに脳は綺麗さっぱり彼女たちの事を忘れている。
あまりにも気持ち悪く、もどかしい気分になった。
「お父さん! 思い出したらすぐ呼んでよ! 絶対よ!」
あのグロリアという女の子が最後にそう言い残して行った。
返す言葉もなく、俺は彼女たちを見送って、閉められたドアから視線をベッドに落とした。
五人も美人に囲まれていたのに、今はポツンと個室に一人ぼっちになった。
いや、まだ医者がいるが。
「ゼクードくん。気分はどうだ? 吐き気とか、目眩とかはないか?」
「大丈夫です」
「ならいい。何か少しでも身体に異変を感じたら言うだぞ」
「……あの」
「ん? やはりどこか痛むのか?」
「いえ、そうじゃなくて……さっきの人たちは何なんです?」
「君の家族だよ。奥さんが三人。娘さんが二人。いやはや凄いな君は」
「……本当に、身内なんですか? 彼女たちは……俺の」
「まぁ信じられないのは仕方ないだろう。記憶がないのではな」
「それは……そうなんですけど、あの……グロリアとレミーベールっていう二人は娘って言ってましたけど、どう見ても親とそんなに歳が離れてるように見えないんですが」
すると医者は驚いたようにゼクードを見る。
「ふむ……記憶が無くてもそのへんの常識は残ってるのか。不思議なものだな」
「え?」
「いや、何でもない。とにかく今は休みなさい。回復したら彼女たちともっと話してみるといい。もしかしたら記憶が回復するかもしれん」