【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第273話【ローグ離脱】

 川の流れる音がする。

 とても静かで耳に心地良い。

 

『……ード……ゼクード……』

 

 誰かが俺を呼んでいる。

 女性の声だが、聞き覚えがない。

 誰だ?

 

『またお前に助けられたな。礼を言うぞ』

 

 不意に頭を撫でられた。

 そこでようやく俺は自分が横になっていることを自覚した。

 

 そして後頭部に当たる温かい物。

 それは枕ではなく、その声の主の膝枕だった。

 目を開ければ黒い髪と目の美しいお姉さんが微笑んでいた。

 

 え、誰?

 

『礼代わりに1つだけ教えてやろう』

 

 ?

 

『フォレッドは()()()にはいないぞ。この大嘘つき者め』

 

 フォレッド?

 

 まるで心当たりのない名を言われ、俺は困惑した。

 大嘘つき者とまで言われたが、お姉さんの顔は決して怒ってはいなかった。

 

『それから──』

 

 だが急にその顔色を暗くする。

 

『──セレンが……消えた』

 

 セレン?

 

 ……セレン?

 

 なんだろう?

 どこか懐かしさを覚える名だ。

 でも思い出せない。

 

 フォレッド。セレン。

 何かが引っ掛かる……

 

 っ!

 

 頭が……痛い……

 

 

「おいゼクード!」

 

「はっ!?」

 

 誰かの言葉に叩かれ、俺は覚醒した。

 昨日と同じ天井。

 そしてベッドの上だ。

 

「やっと起きたか」

 

 またも見知らぬ女性がベッドの脇で立っていた。

 見知らぬ女性だが、さっきの人ではない。

 この女性は銀髪だ。黒い髪ではない。

 

「……あれ? さっきの人は?」

 

「あ?」

 

「黒い髪の女の人……」

 

「黒い髪の女? なんだよ。オレの母ちゃんの夢でも見たか?」

 

 な、何言ってんだこの人?

 

「え? あ……いや、たぶん?」

 

 っていうかこの人だれ?

 すごい美人さんだけど……んん?

 なんかさっきのお姉さんと目が似てるような……

 

「そんなことよりほら。オレの顔を見ろ」

 

 ガシッと頭を掴まれ、彼女の目の前まで誘導された。

 

「え、ちょちょ!」

 

 ちかい!ちかい!

 顔と顔が目と鼻の先だよ!

 あ、でもめっちゃ良い匂いする。

 

「オレの事は思い出せねぇか?」

 

「え?」

 

「オレはお前のなんだ? 思い出してくれよゼクード」

 

 冗談は言っていない。

 凄く真剣な顔つきだった。

 

 思い出してくれって言われても……何も心当たりは……

 

「ぇ、え~っと……恋人?」

 

「正解」

 

「マジっすか!?」

 

「んなわけねぇだろ」

 

「えぇ……」

 

「お前の姉だよオレは。名前はレイゼ」

 

 姉!?

 姉ちゃん!? この人が俺の!?

 俺って姉いたの!?

 

「んでこっちはお前の姪ロジェールだ」

 

 め、姪!?

 今度は姪か!

 

「叔父様!」

 

「え?」

 

 レイゼの後ろから表れたのは、銀の長髪が特徴的なパープルの瞳の女の子だった。

 

 レイゼと似て甘い香りがする。

 もしかしてこの二人……親子?

 いや、レイゼが若すぎるし、まさかな。

 でもレイゼが俺の姉で、この子が姪なら……

 

「ロジェールです。覚えてませんか叔父様?」

 

 なんてこった。

 叔父様って呼び方にわざとらしさがまるで感じない。

 自然体で叔父様と呼んでいる。

 

 ホントに俺はこの子の叔父様だったのか……でも……

 

「ご、ごめん。ぜんぜん覚えてない……」

 

「そうですか……」

 

 ロジェールが暗くなる。

 昨日の女性たちもそうだが、そんな暗い顔をしないでくれ。

 こっちまで辛くなる。

 

 しばらく黙って俯いていると、レイゼがロジェールの肩をポンッと叩いた。

 

「お母様?」っとロジェール。

 

 お、お母様!?

 やっぱり親子だったのかこの二人!

 見た目が若すぎるだろこのレイゼって人!

 

「とりあえずゼクードお前、立てるか?」

 

「あ、はい。なんとか」

 

「なら良かった。お前の娘らが今日の昼に故郷へ帰るそうだ。そこにお前も連れてくってよ」

 

「俺も? なんでです?」

 

「察しろよ。お前の故郷でもあるんだ。ようは帰るんだよ家に」

 

「え、俺の家はここじゃないんですか?」

 

「ちげぇよ。ここは病院だ。いつまでも居られねぇよ」

 

「そうだったんですか……」

 

 故郷か……

 言われてみると故郷の記憶もないな俺。

 右も左も分からない。

 なんだか……怖くなってきたな。

 

「心配すんなって。お前には奥さんが三人と娘が二人。あとしっかりした息子が一人いる。家族に頼ってればなんとかなるって」

 

「はぁ……」

 

 俺……息子もいたんだ。

 6人も家族がいたのか。

 すげぇ大家族だな。

 

「にしても、お前が【シエルグリス】を守ると録な結末にならねぇな。ホントにすまねぇゼクード……」

 

「え?」

 

「……いや、こっちの話だ」

 

 

 ここ【シエルグリス】を昼に発って【エルガンディ】へ帰還する事をローグはグロリアに聞かされた。

 あまりに急で驚いたが、説明を聞かされれば仕方ないと納得せざるを得なかった。

 

 ならばとローグはまだ会っていない妹のエルジーを探した。

 本当ならもっと【シエルグリス】に居て母リベカや妹エルジーとたくさん話をしたかったのだが。

 

「おーいネオ!」

 

 街の中央広間で作業をするネオを見つけ、ローグは叫んだ。

 彼の隣には昨日のヒステリー女もいた。

 確かミオン……だったか?

 

 ネオの母親で、昨日凄いケンカをしていた。

 今こうやって一緒にいるという事は仲直りしたのか?

 

「ローグか。何の用だ?」

 

「実は人を探しててさ。エルジーって女の子なんだけど知ってるか?」

 

「知ってはいるが、どこにいるかは知らん。母さんは知ってるか?」

 

「ううん。今日はまだ見てない」

 

「そっかぁ……」

 

 ローグは肩を落とした。

 実はここに来るまで他でもいろいろ探し回っていたのだが、見つからずにいた。

 

 ここでダメならやはり城の中だろうか?

 でもおれ、エルガンディの一般騎士だし、さすがに城へは簡単に入れないだろうしなぁ……

 

 母さんを探して城へ入るしかないか?

 でも母さんこそ城にいそうだし、忙しいだろうし、弱ったな。

 

「彼女がどうかしたのか?」

 

 ローグに聞かれたので「実はおれの妹──」っと言い欠けると

「あなたリベカちゃんに似てるわね」っとミオンが割り込んで来た。

 

 昨日の今日でミオンが不安定な人間だと思っているローグは思わずビクついてしまった。

 

「ぇ……え?」

 

 っていうかこの人、母さんの知り合い?

 

「もしかしてリベカちゃんの息子さん?」

 

 当ててきた!

 スゲェ!

 

「あ、そうです! 昨日やっと母さんと会えたんですけど、妹のエルジーとはまだ会えてなくて……」

 

「そうなんだ。たぶんこの時間のエルジーちゃんなら城の食堂にいると思うよ。みんなのご飯作るのに忙しいはず」

 

「あ、そうなんですか……」

 

 忙しいのか。

 ……なら邪魔しない方がいいかな?

 食堂となれば昼まで忙しいだろうし……ああもう……

 

「ここで待ってれば、昼には食事を持ってくると思うよ?」

 

「それじゃダメなんです。おれ、昼には【エルガンディ】に帰還するんです」

 

「え?」

「!」

 

 ミオンとネオが驚いた。

 ローグは頭を掻きながら続ける。

 

「ゼクードさんがあんなことになっちゃったから、早めに帰還しようってなったんです。今日の昼にはもう出発するって」

 

「ならお前は残れば良いじゃないか」

 

「え?」

 

「レグナやリイドも一緒に帰還するんだろう? だったらお前一人くらい抜けても平気だろ?」

 

「それは、まぁ……」

 

「なんならこのまま【シエルグリス】の騎士になる?」

 

 ミオンのさりげない一言に、ローグの心は大きく揺れた。

 

「母さんそれは……」っとネオ。

 

「ダメ? リベカちゃんも喜ぶと思うよ? エルジーちゃんも」

 

「それはそうだろうけど……」

 

【シエルグリス】の騎士になる?

 おれが?

 母さんと妹のために?

 

『ローグ……お前、強くなったら、母さんと妹のところに行ってやってくれよ』

 

 揺れる心の奥で蘇った父の最後の言葉。

 

 そうだ。

 おれはもともと……そのために騎士になったんだ。

 

 揺れていた心に炎が宿り、それは一気に燃え上がった。

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