【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
川の流れる音がする。
とても静かで耳に心地良い。
『……ード……ゼクード……』
誰かが俺を呼んでいる。
女性の声だが、聞き覚えがない。
誰だ?
『またお前に助けられたな。礼を言うぞ』
不意に頭を撫でられた。
そこでようやく俺は自分が横になっていることを自覚した。
そして後頭部に当たる温かい物。
それは枕ではなく、その声の主の膝枕だった。
目を開ければ黒い髪と目の美しいお姉さんが微笑んでいた。
え、誰?
『礼代わりに1つだけ教えてやろう』
?
『フォレッドは
フォレッド?
まるで心当たりのない名を言われ、俺は困惑した。
大嘘つき者とまで言われたが、お姉さんの顔は決して怒ってはいなかった。
『それから──』
だが急にその顔色を暗くする。
『──セレンが……消えた』
セレン?
……セレン?
なんだろう?
どこか懐かしさを覚える名だ。
でも思い出せない。
フォレッド。セレン。
何かが引っ掛かる……
っ!
頭が……痛い……
※
「おいゼクード!」
「はっ!?」
誰かの言葉に叩かれ、俺は覚醒した。
昨日と同じ天井。
そしてベッドの上だ。
「やっと起きたか」
またも見知らぬ女性がベッドの脇で立っていた。
見知らぬ女性だが、さっきの人ではない。
この女性は銀髪だ。黒い髪ではない。
「……あれ? さっきの人は?」
「あ?」
「黒い髪の女の人……」
「黒い髪の女? なんだよ。オレの母ちゃんの夢でも見たか?」
な、何言ってんだこの人?
「え? あ……いや、たぶん?」
っていうかこの人だれ?
すごい美人さんだけど……んん?
なんかさっきのお姉さんと目が似てるような……
「そんなことよりほら。オレの顔を見ろ」
ガシッと頭を掴まれ、彼女の目の前まで誘導された。
「え、ちょちょ!」
ちかい!ちかい!
顔と顔が目と鼻の先だよ!
あ、でもめっちゃ良い匂いする。
「オレの事は思い出せねぇか?」
「え?」
「オレはお前のなんだ? 思い出してくれよゼクード」
冗談は言っていない。
凄く真剣な顔つきだった。
思い出してくれって言われても……何も心当たりは……
「ぇ、え~っと……恋人?」
「正解」
「マジっすか!?」
「んなわけねぇだろ」
「えぇ……」
「お前の姉だよオレは。名前はレイゼ」
姉!?
姉ちゃん!? この人が俺の!?
俺って姉いたの!?
「んでこっちはお前の姪ロジェールだ」
め、姪!?
今度は姪か!
「叔父様!」
「え?」
レイゼの後ろから表れたのは、銀の長髪が特徴的なパープルの瞳の女の子だった。
レイゼと似て甘い香りがする。
もしかしてこの二人……親子?
いや、レイゼが若すぎるし、まさかな。
でもレイゼが俺の姉で、この子が姪なら……
「ロジェールです。覚えてませんか叔父様?」
なんてこった。
叔父様って呼び方にわざとらしさがまるで感じない。
自然体で叔父様と呼んでいる。
ホントに俺はこの子の叔父様だったのか……でも……
「ご、ごめん。ぜんぜん覚えてない……」
「そうですか……」
ロジェールが暗くなる。
昨日の女性たちもそうだが、そんな暗い顔をしないでくれ。
こっちまで辛くなる。
しばらく黙って俯いていると、レイゼがロジェールの肩をポンッと叩いた。
「お母様?」っとロジェール。
お、お母様!?
やっぱり親子だったのかこの二人!
見た目が若すぎるだろこのレイゼって人!
「とりあえずゼクードお前、立てるか?」
「あ、はい。なんとか」
「なら良かった。お前の娘らが今日の昼に故郷へ帰るそうだ。そこにお前も連れてくってよ」
「俺も? なんでです?」
「察しろよ。お前の故郷でもあるんだ。ようは帰るんだよ家に」
「え、俺の家はここじゃないんですか?」
「ちげぇよ。ここは病院だ。いつまでも居られねぇよ」
「そうだったんですか……」
故郷か……
言われてみると故郷の記憶もないな俺。
右も左も分からない。
なんだか……怖くなってきたな。
「心配すんなって。お前には奥さんが三人と娘が二人。あとしっかりした息子が一人いる。家族に頼ってればなんとかなるって」
「はぁ……」
俺……息子もいたんだ。
6人も家族がいたのか。
すげぇ大家族だな。
「にしても、お前が【シエルグリス】を守ると録な結末にならねぇな。ホントにすまねぇゼクード……」
「え?」
「……いや、こっちの話だ」
※
ここ【シエルグリス】を昼に発って【エルガンディ】へ帰還する事をローグはグロリアに聞かされた。
あまりに急で驚いたが、説明を聞かされれば仕方ないと納得せざるを得なかった。
ならばとローグはまだ会っていない妹のエルジーを探した。
本当ならもっと【シエルグリス】に居て母リベカや妹エルジーとたくさん話をしたかったのだが。
「おーいネオ!」
街の中央広間で作業をするネオを見つけ、ローグは叫んだ。
彼の隣には昨日のヒステリー女もいた。
確かミオン……だったか?
ネオの母親で、昨日凄いケンカをしていた。
今こうやって一緒にいるという事は仲直りしたのか?
「ローグか。何の用だ?」
「実は人を探しててさ。エルジーって女の子なんだけど知ってるか?」
「知ってはいるが、どこにいるかは知らん。母さんは知ってるか?」
「ううん。今日はまだ見てない」
「そっかぁ……」
ローグは肩を落とした。
実はここに来るまで他でもいろいろ探し回っていたのだが、見つからずにいた。
ここでダメならやはり城の中だろうか?
でもおれ、エルガンディの一般騎士だし、さすがに城へは簡単に入れないだろうしなぁ……
母さんを探して城へ入るしかないか?
でも母さんこそ城にいそうだし、忙しいだろうし、弱ったな。
「彼女がどうかしたのか?」
ローグに聞かれたので「実はおれの妹──」っと言い欠けると
「あなたリベカちゃんに似てるわね」っとミオンが割り込んで来た。
昨日の今日でミオンが不安定な人間だと思っているローグは思わずビクついてしまった。
「ぇ……え?」
っていうかこの人、母さんの知り合い?
「もしかしてリベカちゃんの息子さん?」
当ててきた!
スゲェ!
「あ、そうです! 昨日やっと母さんと会えたんですけど、妹のエルジーとはまだ会えてなくて……」
「そうなんだ。たぶんこの時間のエルジーちゃんなら城の食堂にいると思うよ。みんなのご飯作るのに忙しいはず」
「あ、そうなんですか……」
忙しいのか。
……なら邪魔しない方がいいかな?
食堂となれば昼まで忙しいだろうし……ああもう……
「ここで待ってれば、昼には食事を持ってくると思うよ?」
「それじゃダメなんです。おれ、昼には【エルガンディ】に帰還するんです」
「え?」
「!」
ミオンとネオが驚いた。
ローグは頭を掻きながら続ける。
「ゼクードさんがあんなことになっちゃったから、早めに帰還しようってなったんです。今日の昼にはもう出発するって」
「ならお前は残れば良いじゃないか」
「え?」
「レグナやリイドも一緒に帰還するんだろう? だったらお前一人くらい抜けても平気だろ?」
「それは、まぁ……」
「なんならこのまま【シエルグリス】の騎士になる?」
ミオンのさりげない一言に、ローグの心は大きく揺れた。
「母さんそれは……」っとネオ。
「ダメ? リベカちゃんも喜ぶと思うよ? エルジーちゃんも」
「それはそうだろうけど……」
【シエルグリス】の騎士になる?
おれが?
母さんと妹のために?
『ローグ……お前、強くなったら、母さんと妹のところに行ってやってくれよ』
揺れる心の奥で蘇った父の最後の言葉。
そうだ。
おれはもともと……そのために騎士になったんだ。
揺れていた心に炎が宿り、それは一気に燃え上がった。