【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
【シエルグリス】の騎士に志願する。
ローグはそう決意し、ネオに城への案内を頼んだ。
直接案内されたのは母リベカが仕事をする実務室。
そこに母リベカはいなかったが、数分後にミオンがリベカを連れてやってきた。
わざわざ探してくれたようである。
ありがたい。
そして案内を済ませたネオとミオンはそそくさと退散し、実務室にはローグと母リベカだけとなった。
「話は聞いたわローグ。でも……本当にいいの?」
どうやら【シエルグリス】の騎士になることはミオンからすでに聞いていたようで、リベカはそう切り出してきた。
話が早いとローグは頷く。
「ああ。おれは母さんと妹を守りたい。そのために今日まで努力してきたんだ。それに……父さんの最後の願いでもあるし」
「最後!?」
リベカが過剰なほど驚愕してきた。
そんな母を見て、今さらローグは母が父の死を知らないことを思い出した。
迂闊な一言だったのだ。
だが、どのみち話すことだ。
「エドガードは……まさか……」
察した母にローグは静かに頷いた。
「病気で、亡くなった……」
リベカの目が大きく開く。
何かを言おうとして、しかし呑み込んで、俯いた。
「──…………そう」
下を向く母に、ローグは思い出しを口にする。
「父さんは……最後まで母さん一筋だったよ」
「え……」
「父さん顔はそこそこ良かったからさ。けっこう女性にモテてたんだ。でも『俺には心に決めた女がいる』って、誰とも再婚しなかった」
「嘘……」
信じられない、と母の瞳が訴えていた。
だが事実だ。
ローグは構わず語り続ける。
「なんか色々と後悔してたよ。謝りたいって何度も言ってた。欲望に負けたあの時の自分を殴りたいって」
「……!」
正直ローグは父エドガードと母リベカの別れた理由を知らない。
断片的な話だけで察するなら、父エドガードが悪いだろうことは分かる。
だが、父の母に対する想いは本物だった。
だからそれを間近で見てきたローグには、なかなかどうして? という思いが沸いてくるのも事実で……
「最後の……」
母リベカが呟き「え?」っとローグは目を向ける。
「あの人の最後の願いって、なに?」
振り絞るような声で母が聞いてきた。
ローグは腕を組んで答えた。
「ああ、おれが強くなったら母さんと妹のところへ行ってやってほしいって。それが父さんの最後の願いだよ」
「そう……」
「あと」
「?」
「…………これは本当の最後の言葉なんだけど──」
伝えるべきか?
一瞬だけ悩んだが、ローグは母に父を許して欲しい気持ちがあった。
だからすぐに答えは出た。
「──父さんは『もう一度だけリベカとエルジーに会いたかった』って言ってた」
「っ!」
「そのとき初めて父さんの泣きっ面を見たよ。本当にずっと後悔してたんだなって、そのときハッキリしたんだ」
「泣いてたの!? あいつが?」
ローグは素直に頷く。
「本当に死ぬ直前まで泣いてたよ。泣きたいのは一人にされるおれだってのにさ」
まぁ、当時は自分も泣いていた。
唯一の家族だったから、当然と言えば当然だろう。
過去を振り返っていると、母リベカは俯いて踵を返してきた。
「母さん?」
「ごめんなさい……ちょっと……外に、行ってくる……」
感極まったらしい母が実務室を出て行った。
床を見れば涙の落ちた痕がある。
やっぱり泣かしてしまったか、とローグはちょっとだけ後悔した。
でも、知っていてほしかった。
母さんはかなり父さんのことを嫌っていると聞いていたから。
もう元には戻れないけれど、父さんのことを少しでも許してやってほしい。
父さんがなんの欲望に負けたかは知らない。
けれど、ちゃんと反省はしてたんだ。
「お母様?」
いきなり別の女性の声が聞こえた。
リベカにそっくりな声だったが、リベカではない。
メイド服を身に纏った茶色い短髪の女の子だった。
感情の起伏が少ない顔と、茶色い瞳。
なんだか守ってあげたくなるような小柄な女の子だ。
凄く可愛い。
「あの、何かあったのですか?」
「あ~いや、ちょっとね。今はそっとしておいた方がいいと思うよ」
なんて説明したら良いのか分からなくて、ローグはそう答えてしまった。
するとそのメイドの子は目を鋭く細めた。
「……さてはあなた。お母様に何かしたわけではありませんよね?」
こ、怖っ!
よく見たら腰に剣を装備してるし!
今にも抜刀してきそう!
「してないしてない! 何もしてないから斬らないで!」
慌てて彼女を宥めるも、ローグは先ほどの「お母様」という発言に今さらながら気づいた。
「っていうかお母様って……君もしかしてエルジー?」
「……? そうですけど、それが何か?」
やっぱり!
じゃあこの子が自分の妹!
なんて可愛い妹なんだ!
やっぱ母さんがあれだけの美人だと、娘もそれ相応の美人になるんだなぁ。
「あ、いや! おれローグって言うんだ!」
「ローグ?」
「そうそう! 母さんに聞いたことあるだろ? ローグって名前の兄がいるって」
ついにカミングアウトしたローグだが、当のエルジーは目を険しくして止まっていた。
「……」
あれ?
「……もしかして、ない?」
「いえ、ありますけど」
あるのか!
よかったー!
兄がいること聞かされてないのかと思った。
「よかったー! やっと会えたなエルジー! 今日からおれ【シエルグリス】の騎士になるからよろしく!」
「は……はぁ……」
「困った事があったらいつでも頼っていいからな? 182個の必殺技でおれが助けてやるよ!」
言われたエルジーはポカンとしていた。
感動の再会なのだが、いまいちエルジーは乗れていない気がする。
なんでだろ?
「エルジー? どうした?」
「……なんか」
「ん?」
「思ったより」
「うん」
「よく喋る人ですね」
……思ったよりクールな妹だ。