【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「【シエルグリス】の騎士になるぅううう!?」
グロリアの驚愕した声が空に響いた。
もうすぐ昼になるため、ゼクードや母たちを運ぶための馬車を門前に用意している最中だった。
そのとき手伝ってくれていたローグが【シエルグリス】の騎士になるといきなり明かしてきて今に至る。
「おう。もうレイゼ女王様から許可はもらった」
「迷惑じゃねぇか?【シエルグリス】が」っとレグナが笑う。
「うるせぇよ」っとローグも笑った。
そんな男同士二人のやりとりを聞きながらレミーベールが口を挟む。
「それはいいんだけどローグ。あなた【エルガンディ】にある家の整理とかはしなくていいの?」
「ああそれなんだけど【シエルグリス】が落ち着いたら一回【エルガンディ】に行って、諸々の手続きや整理をするつもりだ。とりあえず今は母さんたちを手伝いたいからさ」
「なるほど」っとリイドが納得し「まぁそれならそれでいいけどさ。んー、その~……その子が妹さん?」っとローグの隣に立つエルジーに視線を向けた。
「そうそう。エルジーって言ってロジェール王女のメイドさんをやってるんだって。すげぇだろ」
自慢気に言うローグを横に、当のエルジーは綺麗にみなへ一礼した。
「レグナ様。リイド様。昨日は危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」
「へ?」
「え?」
思い当たる節がないのかレグナとリイドは目を丸くした。
「御二人がS級ドラゴンと交戦したあの場所に私とロジェール様もいました。御二人のご助力がなければ私もロジェール様も命はなかったと思います」
「いやいやそんな。僕たち結局なにも出来なかったからさ~」
「そうだなぁ。むしろオレたちこそカティアお姉様が来てくれなかったら危なかったくらいだし」
頭を掻きながら言うレグナにグロリアがまたも驚く。
「え!? カティアお姉様って……お義母さんも戦ってたの?」
「おう。凄かったぜ? 硬くてぜんぜん刃が通らなかったドラゴンをあっさり倒しちまったからな」
「あれには本気で驚いたね~」
のんびりした口調で言うリイドにグロリアは溜め息を吐いた。
「んもぉ……なんでお義母さんが戦ってるのよ。アンタたち二人がいながら……」
正直に言うとグロリアはレグナとリイドの実力をかなりアテにしていた。
悔しいけどこの二人は本当に頼りになるから。
「んなこと言ったって仕方ねぇだろ。なんかやたら硬いドラゴンだったんだから。なぁリイド」
「そうそう。あの硬さは異常だったね。カティアさんには無問題だったけど」
「そんなに硬かったの?」
レミーベールに聞かれ、レグナは怪訝な顔をした。
「なんだよお前ら戦ってないのか?」
聞かれてレミーベールは即座に頷く。
「ローエお義母さんがいきなりやってきて一撃で倒しちゃったから」
「いやお前らも戦わせてんじゃねぇか……」
「し、仕方ないでしょう。いきなり来たんだもの」
レグナに呆れられ、レミーベールが焦る。
とは言えレミーベールの言うとおりで、まともに交戦する前にローエが突っ込んできてドラゴンをあっという間に倒してしまったのだから仕方ない。
どれだけ硬かったとかそんなのはまったく分からなかった。
「なんだお前らみんな助けられたのか? おれなんか一人でドラゴン倒したんだぜ?」
割り込んできたローグにレグナが耳をほじくりながら答える。
「嘘こけ。お前んとこのドラゴンだけ弱かったんだよきっと」
「おいおい悔しがんなよ~。仮にそうだったとしても倒したのは事実だろ~? おれは討伐数1でお前は0だ~」
「うるせぇバーカ」
言い合いながらもレグナとローグは笑っていた。
仲の良いことである。
アホなローグの実力がかなり高いことは知っていたが、まさか単騎でS級ドラゴンを倒してしまうとはグロリアも思っていなかった。
いつも訳のわからない必殺技を考えてるアホだと思ってたけど、やる時はやるから凄い。
「よくあんな硬い竜鱗を突破できたねローグ」
リイドが感心するように言うと、ローグは肩を竦めてきた。
「いや? おれもぜんぜん攻撃が通用しなかったから敵の口に腕突っ込んで、おれの必殺技【エクスプロード】をぶっ放したんだ」
なんか凄い危険なことしてた!
「マジかよ!?」
「なんて危ないことを……」
レグナとレミーベールも驚いていたが、ローグは苦笑して返した。
「そうでもしないと勝てなかったんだ。本当にヤバい相手だったよ今回は」
「……まぁそうみたいね。腕も無事みたいだし、ほんとに良かったわ」
グロリアがそう言って「だね」とリイドが同意した。
するとレグナが大きく溜め息を吐く。
「……にしてもさすがに今回の件は心にキタぜ」
「なにが?」っとリイド。
「カティアお姉様の強さ見たろ? あれでSS級騎士なんだぜ? 自信なくすっつーの」
どうやらレグナはグロリアの義母カティアの強さを目の当たりにして自信を失っているようだ。
グロリアも彼の気持ちは理解できた。
自分も母ローエに助けられ、S級ドラゴンを一撃で倒した様をしっかり見ていた。
あの圧倒的な攻撃力は凄まじいの一言。
とても妊婦とは思えない破壊力だった。
あれで昔はSSS級騎士にもなれずに、父ゼクードの影に埋もれてしまっていたというのだから信じられない。
父ゼクードが如何に化け物なのかがよく分かる。
オフィーリアの時でもそれは痛感していたが。
「そうね。アタシたちももっと頑張らないとね……」
自らの未熟を反省しつつも、グロリアは母ローエの圧倒的な強さを知れて嬉しかったという気持ちが沸いていた。
素直にカッコいい。
そう思った。
自分と大して変わらない実力だと思っていたが、それはとんでもない勘違いだった。
五千のS級ドラゴンをたった三人で殲滅したのも、今なら本当に信じられる。
※
馬車の準備が整い、レミーベールが手綱を握って待機している。
すでに馬車の中にはゼクードが入り、発進を今か今かと待っている。
護衛にはグロリア・レグナ・リイドが付き、それぞれが馬に乗って待機していた。
彼らを待たせながら【シエルグリス】の門前にてカティア・ローエ・フランベールが女王レイゼとネオに挨拶を済ませていた。
「国がこのような時に……本当に申し訳ありません女王様」
カティアが頭を下げると、習ってローエとフランベールも頭を下げた。
向かいのレイゼは首を振る。
「んなこと良いって。むしろ助けられたのはオレたち【シエルグリス】の方なんだ。……本当にありがとう。みんな」
レイゼにとっては弟ゼクードの嫁であるこの三人も大切な身内だ。
だから今回の戦いに巻き込んでしまって申し訳ないと思っている。
だが、彼女たちの加勢が無ければ【シエルグリス】の被害はこんなものでは済まなかったと報告を受けている。
頭を下げなければいけないのはこちらの方なのだが。
「でも……なんでだろうな。ゼクードやあんたらが【シエルグリス】を守ってくれると、必ずあんたらに不幸が起こる」
18年前のあの時も雪のドラゴンと相討ちになって氷漬けになり、今はゼクードが雷を受けて記憶喪失になってしまった。
どうしてこうも代償がデカいのか。
ゼクード達がいなければ、とっくにこの国は滅んでいただろうに。
「それは偶然ですわレイゼ女王。まだたったの2回ですもの」
さも当然のようにハッキリと言ったのはローエだった。
気にしなくていいと、エメラルドグリーンの瞳が訴えている。
心の広い一家である。頭が上がらない。
「……そう言ってくれると救われるぜ。もしゼクードが回復したら報告頼む。オレから会いに行くからよ」
「了解ですわ」
「御世話になりました」
最後にフランベールが締め、カティアたちは馬車へと乗った。
すぐに馬車は動き出し【シエルグリス】の門を潜って外へ。
街道に沿って走り、そして見えなくなった。
レイゼはしばらく閉じていく門を見つめていた。
『それは偶然ですわレイゼ女王。まだたったの2回ですもの』
ローエの言葉を思い出し、俯く。
「……たった2回って言ってくれんのか」
彼ら【フォルス家】の失ったものはあまりにも大きい。
とんでもない代償を払っているというのに。
彼らに報いるとしたら、ただ1つか。
「なぁネオ」
「は……」
「【シエルグリス】をもっと強くしたい。ゼクードに……あの家族に頼らなくてもいいぐらいに」
「はっ!」
【フォルス家】のおかげでまた首が繋がった【シエルグリス】。
今回の戦いで痛感した自国の騎士たちの実力不足。
もっともっと強くなってもらわねばならない。
幸いネオがゼクードのおかげで大きく成長した。
ミオンとの関係も回復した。
【シエルグリス】はここからだ。