【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
今日は何事もなく平穏無事な1日だった。
カーティスは自宅に戻り、オフィーリアと共に夜食を取る。
彼女として付き合い始めてからオフィーリアは当たり前のようにウチに来るようになった。
追い返すのも面倒なので受け入れて一緒に過ごしているわけだが、今日のオフィーリアは何かが違った。
ずっとソワソワしている。
というより……こちらの隙を窺っているような、そんな危うい気配さえ感じさせていた。
おかげでこっちも警戒せざるを得なくなり、心休まらない時間を過ごしている。
オフィーリアは皿などを台所へ持っていき、全て洗って片付けた。
するとすぐカーティスの座るソファーへ来て、隣に座った。
ただならぬ雰囲気を発するオフィーリアに、カーティスはとんでもない息苦しさを味わった。
オフィーリア本人は何かを言おうとしているようだが、いったいなんなのだろうか?
食事の時もあまり喋らなかった。
いつも1人でペラペラペラペラと喋るのがオフィーリアなのだが、今日はまったく喋らない。
何か怒らせるようなことをしただろうか?
正直まったく心当たりがない。
無言の圧力を掛けてくるオフィーリアに動揺を隠せないカーティスは、仕方なく自分を落ち着かせようとエールを口にした。
するとオフィーリアが意を決したように口を開く。
「カーティスさんわたし! 赤ちゃん欲しいです!」
ブパァアアアッ!
カーティスは盛大にエールを吹いた。
ゴホゴホとむせて涙目になる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない! いきなりなんだ!?」
エールをテーブルに置いてカーティスはオフィーリアを見た。
すると当のオフィーリアは意外にも真剣な気配を見せていた。
「だってわたしもう21歳ですよ? 同い年の女の子はもうみんな3~4人ほど子供いるんですよ?」
21歳で3~4人? そんなバカな。
逆算すると17歳から一年単位で1人生んでる計算になるが、そんなにみんなポンポン子供を作ってるのだろうか?
確かにうちの母たちは17~19歳でもう自分たちを生んでいたから不思議ではないが。
「……そうなのか?」
「そうですよ! カーティスさん修行とか仕事ばっかりで知らなすぎるんです! わたしはもう遅すぎるくらいなんです! だからカーティスさん! 抱いてください! 今すぐ!」
あの糸目のオフィーリアがまさかの開眼!
ライトブルーの美しい瞳が露出したが、その瞳から発せられるのは盛りがついた獣のような気。
隙を見せれば食われそうな、油断ならない気配に覆われている。
「お、落ちつけ! 俺たちはまだ結婚すらしてないだろ。先に結婚してからだそういうのは」
「じゃあ結婚しましょう!」
「わかった」
「え!?」
今度はオフィーリアが驚いて止まる番だった。
先程のオフィーリアの主張を聞けば、彼女は彼女なりに悩んでいたんだろう。
女性には女性の悩みがある。
叔母のリリーベールから聞いた言葉だが、まさにオフィーリアの悩みがそれなんだろう。
21歳でありながら子供がいない。
それが今のオフィーリアにとって最大の悩みになっているのは間違いない。
焦っているのも事実。
ならば彼氏として聞き入れないわけにはいかないだろう。
「父さんや母さんたちが帰ってきたら結婚の話をしよう。それでいいな?」
「ぇ、え……え!? 良いんですか!?」
「いや……こっちが聞いてるんだが?」
「もも、もちろんですよ! 良いに決まってるじゃないですか! やったあああああああああああああああああ!」
本気で喜ぶオフィーリアに、カーティスも満更ではなかった。
オフィーリアは意気揚々とカーティスの隣に密着してきた。
するとオフィーリアの甘い薫りが鼻をくすぐり、なんとも言えない安らぎを感じてしまった。
オフィーリアはいつも良い薫りがするが、今日は一段と濃厚だ。
官能的と表現するべきか?
いつもより魅力的に見えるのは何故だ?
やたら肌が綺麗に見えるし、なんだこれは?
「そうと決まったら子供の名前を考えましょうカーティスさん!」
「ん? ああ。気が早いな……」
「だってもう嬉しくて!」
子供の名前を考えようと言うのに、その母となる女が子供のようにハシャイでいる。
なんとも微笑ましい光景だが。
「名前か……」
「男の子だったらどうします?」
「父さんに似た名前がいいな。ゼクー……ゼク……いや、ゼド」
ゼド……悪くない。
我ながらなかなか秀逸な名前な気がする。
父さんに似て強そうだ。
「ゼド! なかなかカッコいい名前ですね! じゃあ女の子だったらどうします?」
女の子か……
正直、女の子だと育児が大変な気がする。
叔母リリーベールの話ではグロリアとレミーベールがヤンチャだったらしい。
男のカーティスは大人しくて助かったとかなんとか。
普通は逆らしいのだが、自分たち三姉弟は別だったようだ。
あと個人的に女の子だと叱る時どう叱ればいいか分からない。
男の子なら多少は力で分からせる事もできるが、女の子だと話は変わってくる。
できるなら男の子だけでいいのだが…………いや、今は名前の話か。
「そうだな。女の子ならお前に近い名前がいいな。オフィーリア……オフィー……んー……リア?」
「いやリアはさすがに安直すぎますよ。カフィってどうです?」
「カフィ?」
「カーティスさんの【カ】とわたしの【フィ】を混ぜてみたんです! けっこう可愛くないですか?」
「……」
「……ダ、ダメですか?」
「いや、悪くない」
カフィか。
呼びやすくて良い名前だ。
でも男の子がいいな。個人的に。
「良かった~。じゃあとりあえずキスしましょうか!」
「なんでだ!? 意味がわからん!」
しかしオフィーリアはソファーでカーティスを押し倒して来た!
「逃がしませんよ! 結婚するならもう速い方がいいんです! 人間が一番若いのは今この瞬間ですから!」
「ま、待て! まだ心の準備が──」
その先を言う前に口で口を塞がれた。
※
夜もすっかり更けてしまった頃にカティアたちは【エルガンディ】へ着いた。
記憶を失ったゼクードはローエたちに任せ、カティアはカーティスの自宅へ足を運んだ。
深夜で静まり返った街中を歩く。
まだ起きていればいいが、こんな時間に重い話をするのもどうかと、ちょっと考えていた。
明日の朝、改めてカーティスへ報告する方が良い気もするが……
「……?」
カティアはカーティスの自宅の玄関前まで来て止まった。
玄関の奥から音が聞こえる。
窓からはほんのり光が見える。
どうやらカーティスは起きてるようだが、なにやら様子がおかしい。
ギシ、ギシ、ギシとリズミカルな木の軋む音が聞こえるのだ。
そして聞き覚えのある女性の声まで。
「カ、カーティスさん! 激しい!」
「仕掛けてきたのはお前だろう?」
荒い息遣いのまま繰り出される声。
生々しい肉と肉のぶつかる音。
その時点でカティアは察した。
よし。
帰って寝よう。