【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
目を覚ますと、見慣れない天井がそこにあった。
まだ頭がスッキリしないが、確か俺は……
……そうだ!
ここが自宅だってあの五人のお姉さんたちに言われたんだった。
そして今いるここが俺の自室だってことも。
良かった~覚えてた。
またあれもこれも忘れてたらどうしようかと思った。
もうヤダもんなぁ~あんな顔されるの。
帰りの馬車なんて重くて暗くて息苦しくて最悪だった。
いっそ逃げ出したかったけど、他に頼りがいない。
右も左も分からない今の状況では彼女たちしか頼れる人間がいないのだ。
大きく溜め息を吐いて身を起こした。
ベッドから下りて自室を出る。
まだ誰も起きていないのかホールには誰もいなかった。
なんとなくホッとした俺は寝間着のまま玄関へ行き外へ出た。
眩い日光と青空が広がり、小鳥が楽しそうに囀(さえ)ずっている。
気持ちいい朝の空気を思いっきり吸い上げ、モヤモヤした気分と共に口から吐き出した。
そして手を伸ばし、んん! っと背伸びする。
果たして俺は辺りを見渡した。
俺の故郷らしい【エルガンディ】の街並みを拝見すると、どうにも堅苦しい石造りのものが多い。
まぁ前の【シエルグリス】って街もそんな感じなところはあったが。
「父さん!」
「え?」
聞き覚えのない男の声が聞こえた。
父さんと呼ばれた気がしたが、何故か不思議と振り向いてしまった。
まるで身体が勝手に反応したかのように。
「おはようございます。お帰りになってましたか。お疲れ様です」
現れたのは赤い髪でパープルの瞳をした背の高い男性だった。
あのカティアというお姉さんに似た鎧を着ている。
「えっと……君は?」
まったく知らない人物だったので俺はとりあえずそう聞いた。
「え?」
赤髪の男性は鋭い眼を丸くした。
いま思えば『父さん』と呼ばれていたのだから、彼が例の俺の息子カーティスだと気づくべきだった。
とは言ってもどう見ても俺と同じくらいか、俺より年上の男性なのだが?
奥さんといい娘といい、本当にどうなってんだこの家族。
「父さん朝から冗談はやめてくださいよ」
カーティスはまるでこちらを疑わずに笑ってきた。
屈託のない笑みで心が痛んだが、それより笑わなそうな彼が笑ったことの方が正直驚いた。
パッと見、彼はムスッとしていて堅そうなイメージがあったから。
「い、いやごめん。冗談じゃないんだ。実は俺……記憶がなくてさ」
苦笑混じりにそう言うと、カーティスはしばらく呆然とした。
「記憶が……ない?」
「そうなんだ。何も思い出せなくてさ」
「冗談でしょう父さん?」
「いやいや本当なんだって」
「残念ですがオレは騙されませんよ? 父さんは明るい性格ですから、そうやって悪ふざけもするんですよね」
褒められてるのか怒られてるのかワッカンネェナこれ。
でもどうしよう。
ぜんぜん信じてもらえない。
まぁ俺も彼が自分の息子というのが信じられないからお互い様かもだが。
「カーティス待ってくれ! 訳を話す!」
慌てた声音と共に家から出てきたのは寝間着姿のカティアだった。
助かった! と内心で思いつつ、俺は彼女の胸部に目が釘付けになった。
カティアが走ると、彼女の豊かな胸が激しく上下したのだ。
下品な言い方をするならブルンブルンとかボインボインとか。
普段は鎧姿で決して揺れないし、拝めない光景だった。
スタイル良い女性だと思ってたけど、やっぱり凄いなぁ。眼福である。
「母さん! おはようございます! 訳とは?」
「すまないなカーティス。詳しく説明するから家に入ってくれ」
「え?」
母カティアに言われるがまま、カーティスは自宅の玄関を潜った。
※
それからローエとフランベールも起こされ、ホールにみんなで集まった。
俺を含んだ五人でテーブルを囲み、カティアが事の顛末をカーティスに説明する。
【シエルグリス】を襲った【人型ドラゴン】のこと。
そのドラゴンから雷を受けて記憶を失った俺のこと。
「雷を受けた!? 父さんが!?」
カーティスが椅子から立ち上がり驚愕した。
冷や汗を流す息子を前に、母カティアはあくまで冷静に頷いた。
「命に別状は無かったが、脳をやられたらしくてな」
カティアの視線が俺に向けられ、何とも居心地の悪い感覚を覚える。
別に責めているわけではなさそうだが、あの悲しそうなカティアの目が辛いのだ。
できればそんな目で見ないでほしい。ほんとに。
「【人型ドラゴン】……おじさんに聞いたことはありますが、生きていたとは」
カーティスが険しい顔をしてゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「本当にすまないカーティス。次から次へと迷惑を掛ける……」
本当に申し訳なさそうにカティアは頭を下げた。
向かいのカーティスは慌てて首を振る。
「迷惑だなんてとんでもない! 母さんたちこそ無事で本当に良かったです。父さんの記憶は残念ですが、まだ回復しないと決まったわけではありません。諦めずに行きましょう」
なんとも力強いカーティスの言葉だった。
最初こそ動揺した彼だったが、すぐに芯のある頼れる長男を証明してきた。
それは心の拠(よ)り所を失っていたカティアたちにとって、とても救いとなる一本の柱となった。
……少なくとも俺にはそう見えた。
正直、俺はこのカーティスという男から妙な安心感を覚えていた。
初対面のはずなのに、心のどこかで彼を信じきっている。
ローエ・カティア・フランベール・グロリア・レミーベールの五人とは別の感情がある。
なんだろう?
この安心感は?
前の俺はよほど彼を信頼していたのだろうか?
息子だからという理由だけで得る感情ではない気がする。
「父さんの記憶に関してはオレがグリータ団長とアスレイ陛下に報告しておきます」
「いや、それは私たちがやる。お前には父の状態を知っていて欲しかっただけなんだ」
カティアが言うと、隣のローエも口を開く。
「陛下や団長への報告と説明はわたくし達がやりますわカーティス」
息子に迷惑を掛けたくないのだろう。
しかし当のカーティスは譲らなかった。
「何を言ってるんです。母さん達はいま一番大事な時でしょう?【シエルグリス】から帰ってきたばかりなんですから、あまり動かないでください。面倒なことはオレがやりますから」
「でもカーティスに迷惑は……」
フランベールが言い欠けてカーティスが言葉を被せた。
「ママ。オレは【フォルス家】の長男です。父が非常事で、母たちが妊婦ならば、率先して動くのは当然でしょう?」
「カーティス……」
「大丈夫です。父さんはきっと回復します。そう信じてみんなで頑張りましょう」
「……すまない。ありがとう」
カティアが礼を言った。
端から見ているだけの俺は疎外感を感じずにはいられなかった。
でも嬉しいことにカティアたちの表情が前より明るくなっていた。
それだけのことが無性に嬉しく感じたのだ。
俺の記憶喪失によってガタガタになった【フォルス家】。
それを持ち直してくれたカーティスには感謝しかなかった。