【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
ちょうど昼に差し掛かる頃、カーティスは姉二人を呼び、フォルス家の玄関前で集まった。
「父さんの事は聞いた。お前たちも無事で良かった」
グロリアとレミーベールにそう言うと、グロリアは肩を竦めた。
「ほとんど何もしてないけどね」
「そうそう。グロリアが家をひっくり返したくらいよ」
なんかレミーベールが耳を疑うようなことを言っているが、グロリアならやりそうで笑えない。
とりあえず聞かなかった事にして話を進めた。
「オレはこれから父さんを連れてグリータ団長の元へ行く。アスレイ陛下への報告はレミー。お前に任せていいか?」
「了解よ。任せて」
「アタシは?」
「お前は帰って寝ていいぞ」
「何しに呼んだのよ!」
「冗談だ。二人には先に言っておこうと思ってな」
「え?」
「なに?」
「近いうちにオレはオフィーリアと結婚する」
「「え!?」」
姉二人が思った通り驚愕した。
カーティスはそのまま続ける。
「あいつもあいつになり焦っていたみたいでな。ならばと思ったんだ」
「あ~ビックリした。あなたが結婚を決意するなんて」
「だからお父さん記憶無くしたのよ絶対」
「オレのせいみたいに言うな」
グロリアに突っ込むと、レミーベールが口を開いた。
「その結婚のことはまだお父さんたちには?」
「まだ言うタイミングじゃないだろう。みんな今ボロボロだ。もう少し時間を置いて落ち着いてからでいい」
「わかったわ。とにかくおめでとうカーティス」
「本当におめでとう」
レミーベールとグロリアが今までにない優しい声音で言ってきた。
本当に祝福してくれているようで、なんとなく照れくさくなる。
「ありがとう」
思ったより恥ずかしい気持ちをなんとか押さえて、カーティスはグロリアを見た。
「……グロリアすまないが、オフィーリアに父さんの事を伝えておいてくれ。あいつも【フォルス家】の一員だ。今後は協力してもらう」
「りょ~かい」
※
昼寝をしていた俺はカーティスに起こされた。
俺は鎧を着ずに私服のまま連れられ、見知らぬ豪邸の中へ。
その豪邸の一角にある部屋に入ると、金の鎧を装備した派手なオッサンがいた。
誰だこの人? っと思っているとそのオッサンは椅子から立ち上がり、俺を険しい顔で見てからカーティスを見てきた。
「レグナとリイドから聞いたぞ。ゼクードが記憶喪失になったって本当なのか?」
「はい。残念ながら……」
「まったく……なんで普通に帰って来れんのだお前は」
なんか呆れられてる。
そもそも誰なんだこの人?
妙に初めて会った気がしない人物だが。
「ねぇねぇ……この人だれ?」
俺は隣のカーティスに聞いた。
「ここ【南の領地】を治めている領主のグリータ団長です。父さんの親友でもある方ですよ」
し、親友!?
どう見ても俺より遥かに年上のオッサンじゃん。
もうワケわかんない……
昔の俺っていったいどんな生活してたの?
「親……友? なんか……ずいぶんと歳が離れてない?」
「言っておくがお前が勝手に離れたんだからな?」っとグリータ。
「え、えぇ……?」
「帰ってきたと思ったら今度は記憶喪失かい。まったくお前って奴は……生きてたから良かったけどよ」
「グリータ団長。話によれば【人型ドラゴン】も健在だったようです」
人型かぁ。
何度か聞いたなその名前。
なんか俺の左目が開かないのもソイツのせいらしいが。
「そうそれ。一番ビックリしたぞ。あんなヤバイ奴がまだ生きてたなんてな」
「父さんとネオの活躍によって、なんとか撃退はできたようです」
「トップクラス二人掛かりで撃退か。やっぱり恐ろしい奴だ。野放しにはできないな」
「どうするんですか? 団長」
「奴の巣を見つけ出して最高戦力をぶつけるしかないだろう。生半可な兵器が効くとも思わない。まして当たらないだろう。それだけ速い奴だったからな」
「なるほど。最高戦力ならば、やはり父さんにはなんとかして回復してもらわないといけませんね」
「そういうことだ。だからゼクード。お前さっさと記憶取り戻せよ? あの【人型】とやり合えるとしたらお前とカーティス。あとネオしかいない」
「いや、そう言われてもぉ……」
「父さん。記憶に関してはオレたちがしっかりサポートしますから。頑張りましょう」
「うん……」
ムチャを言ってくれるなぁ。
こっちはそもそも記憶を失ってることすら自覚できてないのに。
※
「陛下! いらっしゃいますか? 陛下?」
【エルガンディ】の中央にある城。
その城内にあるアスレイの自室のドアがノックされた。
「いま忙しい。レミーさんとのデートプランを考えているんだ。あとにしてくれ」
「そのレミーさんが来てます」
「なんだって!?」
「陛下にご報告があるそうです」
「【王の間】じゃなくてこっちに呼んでくれ!」
「え、よろしいのですか?」
「レミーさんなら良い!」
「かしこまりました」
その声が終わると同時にアスレイは慌てて身なりを整えた。
レミーさんが来た!
レミーさんが!
帰還してたんだ!
胸が激しく高鳴り、今か今かと彼女の訪問を待った。
するとついに部屋のドアがノックされる。
「ど、どうぞ!」
「失礼致します。陛下」
入ってきた!
相変わらず美しい!
銀髪と碧眼。
整った顔立ち。
流麗な立ち姿。
もの静かで落ち着きのある声。
全てが美しい。
結婚したい。
「レミーさん! 帰還なされてたんですね! お疲れ様です!」
「身に余る御言葉ありがとうございます。それで……報告なのですが──」
レミーベールの顔が急に暗くなった。
何やら不幸な出来事があったようだ。
身構えたアスレイに聞かされたのは……
「ゼ、ゼクードさんが記憶喪失!?」
「はい。敵の雷を受けた影響で……命に別状はないのですが」
想像以上にとんでもない事態の報告だった。
まさかあの一騎当千のゼクードさんが雷に撃たれて記憶を失うとは。
しかも【シエルグリス】のエースと名高いネオ・ラザの支援もあってこの結果とは。
【人型ドラゴン】……やはり恐るべき存在だ。
「【人型ドラゴン】……父上から聞いてはいましたが、まさか生きていたとは……」
「はい。今後は警戒が必要だとレイゼ女王も仰っていました」
「なるほど。ならばみなにはしっかり説明しておきましょう」
「ありがとうございます。それでは」
踵を返したレミーベールにアスレイは慌てて声を出した。
「あ、レミーさん! ちょっと待ってください!」
「はい?」
レミーベールが止まって振り返ってくれた。
もっと話がしたい。
もっと声を聞いていたい。
ここで食事の件を引き出すのもありだが……
「あの……──」
──食事の件……今はタイミングが悪い気がする……
父が記憶喪失になったばかりのレミーさんを、こんなタイミングで食事に誘うのは、あまりに無神経なのではないか?
その思いに至り、アスレイはグッと堪えた。
「い、いえ! なんでもありません! どうぞ、お気をつけてお帰りください!」
「? 失礼しました」
一瞬怪訝な顔をしたレミーベールだが、結局そのまま出て行った。
彼女を見送ったアスレイはベッドに飛び込んで枕に顔を埋め尽くし泣いた。
私のバカ野郎おおおおおおお!
※
陛下……何か言い掛けてた気がするけど、なんだったのかしら?
そう言えばワタシも、何か忘れてるような気がする。なんだろう?
この胸のモヤモヤは。
「あれ~? レミーじゃん」
城の廊下でバッタリ会ったのはリイドだった。
「あらリイド。あなたが城に来るなんて珍しいわね?」
「前に採取した【バスタブの血】で何か分かったか聞きに行くところだよ。レミーは何してんの?」
「陛下にお父さんの事を伝えた帰りよ」
「なんだ~。てっきりお食事の件かと思ったよ~」
「お食事の件?」
「ん? もしかして忘れた? ほら【シエルグリス】に向かう前に陛下がレミーに言ってたじゃん。一緒に食事したいって」
──あっ!
リイドに言われて、レミーベールはようやく思い出した。
「そうだった! ありがとうリイド! 思い出したわ! 陛下あああああ!」
そうだった!
帰還したら食事を検討してほしいって言ってた!
さっき陛下が言い掛けていたのはこれなんだわ!
友達になってあげないと!