【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第279話【母の元へ】

 2階にあるアスレイ陛下の私室へ来たレミーベールは、握り拳を作ってドアをノックしようとした。

 

 その時。

 

「ああああどうして私はいつもこうなんだああああ!」

 

 アスレイ陛下の悲痛な叫び声が聞こえた。

 

 珍しい……あの優しくて温厚な陛下がこんな声を上げるなんて。

 いったいどうしたのかしら?

 

「陛下。落ち着いてください」

 

「落ち着いてるよ!」

 

 何やら中で側近と揉めているようだ。

 レミーベールは気になって耳を澄ませた。

 

「いや落ち着いてないですよ。そんなに落ち込むなら私がレミーさんに伝えてきましょうか?」

 

 え、ワタシ?

 あ、もしかしてさっきの。

 だったら……

 

「ダ、ダメだ! やめろ! それはそれでなんか……ダメだ!」

 

 ?

 

「面倒くさい方ですね。じゃあどうするんですか?」

 

「……えっと」

 

 陛下が黙ってしまった。

 どうしたんだろう?

 食事の件だったら了承しようと戻ってきたのだが、話の中身が見えない。

 

「……陛下はどうしてそんなにレミーさんが好きなんです?」

 

 ──…………え?

 

「いや……だって、見て分かるだろう? 彼女は頭が良くて、綺麗で、美人で、優しくて、母性的で、可愛くて、強さも感じる素敵な女性だ」

 

 ぇ……え!?

 

「フワフワした雰囲気に暖かさを感じるあの笑顔! 空の様に青い瞳はいつもキラキラしてて! 銀の髪は新品のカーテンを想わすほど美しい! 常に妹と弟を思う長女としての包容力! こんな素晴らしい女性が他にいるか!?」

 

 え、ちょ…………これ、ワタシのこと!?

 

 ようやく理解が追い付いて来て、レミーベールの心臓が張り裂けそうなほど脈動し始めた。

 

 ドクンドクンではない。

 バクンバクンという爆発しそうな脈動だった。

 一気に呼吸が苦しくなって来て、顔に血が上って熱くなってくる。

 

「でも私は……まだレミーさんを外見でしか見ていない。レミーさんの中身を何も知らないんだ。だからもっと話したい……もっとレミーさんを知りたいのに……」

 

 嘘……友達になりたいんじゃ。

 

 異性として見られていたことに驚きを隠せなかった。

 だって相手はエルガンディのトップ。

 国王だから。

 

 ……よく気に掛けてくれる優しい人だとは思ってたが、まさか自分をそう見ていたなんて。

 予想外にもほどがある。

 

「まだ私の一方的な一目惚れ状態なんだ。結婚なんて程遠い」

 

 結婚!?

 頭がオーバーヒートして遂に汗が出てきた。

 もうどうして良いか分からない。

 身体が震えている。

 

「陛下……レミーさんほどの女性ならば、他の男性に取られてしまう可能性があります。ここは王としての権利を使って呼び寄せる方法も」

 

「言っただろう? レミーさんは頭の良い方だ。そんな情けない男性を認めてはくれん」

 

「しかし……陛下はもう25ですし、そろそろ婚約の事は考えて頂かないと。言っておきますが……陛下と結婚したい女性は何十人にといるんですよ?」

 

 !

 

「わかっている。だが私はレミーさんが良いんだ。もう少し時間をくれ。頼む……」

 

「は……私もご無礼が過ぎました。お許しください」

 

「良い。それより【人型ドラゴン】の件。みなに報告頼むぞ。ゼクードさんの事も」

 

「はっ!」

 

 側近の足音が近づいてくる。

 ハッと我に返ったレミーベールは思わずその場から逃げ出した。

 

 誰もいない廊下まで走って、壁に手をつけ乱れた呼吸を繰り返す。

 心臓がまだ激しく脈動している。

 血が顔に集中し過ぎて、酔いにも似た気持ち悪さを覚えた。

 こんなの、初めてだ。

 

 男性経験などないレミーベールには、今回の件はあまりにも刺激が強かった。

 ほぼプロポーズされたようなものだから。

 

 アスレイ陛下の心中を知ってしまった。

 しかも友達ではなく、嫁に欲しいと言っている。

 こんな地味な自分をだ。

 

 自分より華やかな女性はたくさんいる。

 きっとアスレイ陛下と結婚したがっている何十人の女性もそうだろう。

 

 妹のグロリアなんてそこら辺の女性より圧倒的に美人だし……自分と比べると尚更そうだし……

 

 そんな華やかな女性陣がいながら地味な自分を選んでくる理由はなんだろう?

 

『まだ私の一方的な一目惚れ状態なんだ』

 

 一目惚れ……陛下が、ワタシに?

 

 それこそ信じられなかった。

 

 自分に対する評価があまりにも低くて、肯定できない。

 

 いや、そもそも何故こんなに自己評価が低いのだろう?

 

 ふと冷静になり、自分を改めて見つめ直すと、ある事が浮かんできた。

 

【なにもしてない】

 

 これが答えだった。

 女を磨いた経験がない。

 積み重ねたものが一つもない。

 

 騎士としてならばそれなりにあるが、女性としてはなにもない。

 

 これが原因か。

 今にして思えば、カーティスの負担を減らしたくて騎士として腕を磨いて来たが、それしかない。

 

 オフィーリアのように好きな男性を追いかけたこともない。

 

 普通の女性ならとっくに経験してそうなことを、自分はまだ何も経験していなかった。

 

 急に身の毛もよだつ不安が込み上がってきて、しかしどうすれば良いかも分からず、レミーベールは壁に寄りかかった。

 

 そして一息つく。

 

 ……アスレイ陛下の心中を知った身としては、これからどうすればいいのだろう?

 

 一国の王が自分に好意を抱いている。

 この事実を冷静に聞いてくれそうなのは……

 

 グロリア?

 リリーベール?

 レィナ?

 リーネ?

 

 どれも何故か違う気がした。

 

 そしてぼんやりと浮かんだのは母フランベールの顔。

 

 冷静に相談に乗ってくれそうな人物は、彼女のような気がした。

 

 ただでさえ父ゼクードの事で傷心している母に相談など……

 

 そう思いつつもレミーベールは実母の元へと歩を進めていた。

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