【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第280話【リイドの嘘】

 時を同じくしてグロリアはオフィーリアの自宅へと訪問していた。

 カーティスに頼まれた通り、父ゼクードの事を伝えに来たのだ。

 

 玄関をノックすると中から「はーい?」とオフィーリアの声がした。

 

「アタシよ。グロリア」

 

「グロリアさん!? ドアノブ壊さないでください!」

 

「いやあんたアタシをなんだと──」

 

 っと言いつつグロリアはしっかり加減を意識しながらドアノブを握った。

 また壊してカーティスに叱られるのはごめんだからだ。

 

 そ~っと、ほんとにそ~っとドアノブを回していく。

 卵を握る時と同じような力加減で回していく。

 ドアノブ一つに何故ここまで神経質にならねばならないのか。

 

 アホらしいと思いつつもグロリアは気を緩めず、やっとの思いでドアを開いた。

 

 そしたらなんか……オフィーリアが中で逆立ちしてた。

 

「……あんた何やってんの?」

 

「逆立ちです」

 

「見りゃ分かるわよ! そういう意味じゃなくて何しに逆立ちしてんのってこと!」

 

「あ~これはですね。子作りの一環です!」

 

「はぁ?」

 

 逆立ちと子作りになんの関係が……

 

「あの……グロリアさん」

 

「なに?」

 

「あ、頭に血がのぼって辛いです。腕も痛いんで逆立ち……やめて良いですか?」

 

「やめりゃ良いじゃないのよ!」

 

 盛大に突っ込むとオフィーリアはすぐに逆立ちをやめた。

 

「ふぃ~、腕がもうプルプルですよぉ~」

 

 仮にも彼女はSS級騎士。

 並の身体能力じゃないのだが、そんな彼女がここまで疲れるなんてどんだけやってたんだろう?

 

 まぁどうでもいいけど。

 

「聞いたわよオフィーリア。カーティスと結婚するんだってね」

 

「あ、お聞きになったんですか。そうなんです。思いきって強行したら受け入れてくれました!」

 

「あのムッツリカーティスには強行ぐらいがちょうど良いわ。本当におめでとう」

 

「ありがとうございます。これでわたしたち身内ですね!」

 

「ふふ、そうね。アタシもレミーもあんたの事は好きだから、いつでも頼りなさいね?」

 

 本心からそう言うとオフィーリアは頬を朱に染めた。

 

「ぁ、ありがとうございます! ……ちょ、ちょっと照れますね。こう真正面から言われると……」

 

「確かにちょっと恥ずかしいかも。……あとオフィーリア。もうあんたを【フォルス家】の一人として見て話すけど、お父さんが大変なの」

 

「お父さん? ゼクードお父様の事です?」

 

「そう。【シエルグリス】に行ってる時、ドラゴンの襲撃があったのよ。その戦いでお父さんは記憶を失ってしまったわ」

 

「え、記憶を!? どうしてですか!?」

 

「雷を撃ってくるヤバいドラゴンが一匹いたのよ。その雷にお父さん撃たれちゃって……命に別状はなかったんだけど記憶がね……」

 

「そんな事が……」

 

「だから今ウチのお母さんたちはみんな精神的に参ってるの。オフィーリアにもできるだけ気を使って協力してほしいのよ。お願い」

 

「もちろんです。わたしもあのお母様方は好きですから協力しますよ」

 

「ありがとう。感謝するわ。……で、なんで逆立ちしてたの?」

 

「いやですから! 子作りの一環なんですよ!」

 

 なるほど分からん。

 

 

 その部屋には、さまざまな記録が書き込まれているであろう本がたくさんあった。

 ここはエルガンディ城内部にある研究班の部屋だ。

 

 リイドは以前採取した【エリザの血】の解析を依頼し、結果を聞くために今日ここへ訪れた。

 

「失礼します~。お疲れ様です~。何か分かりましたか?」

 

 入室したリイドは前方で本に何かを記しているローブ姿の研究員に話しかけた。

 すると研究員は手を止めて、視線をリイドへ向けた。

 そして目を丸くして椅子から立ち上がる。

 

「おおリイドさん。お勤めご苦労様です。……残念ですが、正直なにも。この血に人間とドラゴンのものが混ざっているのは明らかなのですが、その先を調べるには……」

 

「やっぱり人体実験になっちゃう?」

 

「ええ。ですがこれは危険だと判断します。リイドさんの仰る通り人間がドラゴン化するのなら、とんでもないドラゴンを生み出してしまう可能性があります。それも国どころか、世界すら滅ぼしかねないドラゴンが」

 

「そりゃまた壮大だね~」

 

「可能性とはそんなものです。大袈裟なくらいがちょうど良い」

 

「確かに」っとリイドが同意すると、部屋の奥から研究員の班長が現れた。

 彼は研究員の隣に立ちリイドを見てくる。

 

「だがドラゴン化はともかく、死者が蘇生したという事実は捨てがたい。もし本当にドラゴンの血でそれが可能なら追及したいものだ」

 

「班長……それは」

 

 研究員が止めるように言い掛ける。

 当の班長は苦笑した。

 

「わかってるよ。これはリスクがデカ過ぎる。生き返ってドラゴン化されちゃあたまらんからな」

 

「用量を守れば生き返るとかだったらいいのにね~」

 

 リイドが思いつきを言うと、班長は近くのテーブルに手を掛けながら。

 

「その可能性はあるだろうが、見つけるまでに何人の人間がドラゴン化するか、になる。やはりその実験はリスクがデカ過ぎる。この事は外に漏らさず永遠に封印した方がいい」

 

 たしかに班長の言うとおりだ。

 ドラゴンによって大切な人を殺された者は多い。

 だからこの死者蘇生という爆弾は、決して公にしてはいけないんだ。

 

 もしこれが外に漏れたら、それこそ血眼になって可能性を追及する者が現れるだろう。

 そいつがどんな犠牲も厭わない人物だったら最悪だ。

 

 本当に国が滅ぶ事態にもなり得る。

 それだけあってはならない。

 

 ……自分にも助けられず食い殺された友人が何人もいた。騎士仲間だった奴等だ。

 

 助けられなかった部下もいた。

 助けられなかった好きな女騎士もいた。

 彼らを生き返らせられるのなら、もう一度会えるなら、このドラゴンの血の可能性は追及したくなる。

 

 その気持ちは痛いほど分かるのだ。

 このエリザの血を採取したのだって、死者蘇生の可能性があるならば、その助けられなかったみんなを生き返らせてやりたい。

 それが本音だ。

 

 ほんの少しでも生き返らせられるなら、これほど凄いことはないだろう。

 最後に言いたかった言葉とか、伝えたい思いなどは絶対にみんなあるはずだから。

 

「それにしてもオルブレイブの連中の頭ン中はどうなってたんですかね? 人間を血のバスタブに浸すなんて、正気じゃありませんよ」

 

 研究員が肩を竦めると、班長は顎を撫でた。

 

「ドラゴンの血は腐るまでに数年も掛かるからな。それで若さもと結論づけたんじゃないか? ……リイドさんの資料にも若さを維持させるためって、書いてありましたな」

 

「ええ。現場で見つけた日記にそう記されていましたから~」

 

 エリザとオフィーリアの母が残した日記。

 あれは燃やされたが、中身はすべて暗記していた。

 必要箇所だけ書き起こし、彼らに提出したのだ。

 

「なぜ回収しなかったんですか?」

 

「うっかり燃やしちゃったんですよ」

 

 リイドは笑いながら嘘をついた。 

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