【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
エルディン・ティミッド・エルガンディ
ここに眠る……
城の中庭に建てられた墓にはそう刻まれていた。
「……これは?」
「我々の先代国王様です」
ゼクードの問いにカーティスが即答した。
グリータ団長への報告後にガイス・リリーベール・レィナ・リーネ・アスレイなどに記憶喪失の事を説明して回った。
そして締めにとカーティスはゼクードをここへ連れてきて今に至る。
「父さんはこの方と二人合わせて【エルガンディの二つ柱】と呼ばれていたんです」
「ふたつばしら?」
カーティスは頷いた。
「過去に国が滅ぶほどの事態がありました。その時、みなの心の支えとなったのが先代国王様と父さんの存在だったそうです」
言うとゼクードの顔が疑いの色を濃くした。
大袈裟な話だと受け取っているようだが、カーティスは構わず続けた。
「弱り切った人類には力強いリーダーが必要でした。まだ人類は負けていない。そうみんなをまとめ続ける先代国王様と。人間はドラゴンに勝てると、信じさせてくれるほど強かった父さん。この二人なくして王国の再建は不可能だったとも言われています」
「す、凄いな……」
「父さんが背負ってるその剣は、この方の物でもあるんですよ」
「これ?」
「はい。王国の剣【ブレイブエルガンディ】。……国王様がオレに指導してくださった時にも使っていました。そして、初めてオレが握った本物の武器でもあります」
「そうなんだ……返さなくていいの? これ」
「大丈夫です。それはもう父さんの物ですから」
「そ、そうなんだ……」
「では、そろそろ戻りましょう」
カーティスはゼクードを連れて城を後にした。
※
城の外はすっかり夕焼け色になっていた。
虫の鳴き声とカラスの鳴き声がほのかに聞こえる。
街の住民たちも次々と帰宅を始め、カーティスとゼクードの横を通りすぎていく。
「なぁ……カーティス」
「はい?」
突然足を止めた父ゼクードにカーティスは振り向いた。
「俺って……どこまで本当なの?」
「え?」
「俺は本当に……記憶喪失なのか?」
「どうしたんです急に?」
「いろいろ聞かされたけど、あれもこれも現実味が無くてさ……」
現実味がない?
……確かに父ゼクードの人生は人並み外れたものがあるが。
「父さん……」
「それだよ。その【父さん】って言うのも現実味がないんだ。どう見たって俺と君は歳が近いじゃないか」
「それは氷漬けにされたせいです」
「氷漬け?」
「はい。あなたは雪のドラゴンに一度氷漬けにされてるんですよ」
もっと前に伝えておくべきだった事を反省しつつカーティスは告げた。
当のゼクードはしばらく唖然として、大きく息を吐いて髪を掻いた。
「またそんなブッ飛んだことを……」
それはむしろオレやグロリア・レミーベールのセリフなのだが……
「本当なんです。父さんは雪のドラゴンと相討ちになり18年もの間……氷漬けにされていました。それであなたの子供であるオレやレミーたちと歳が近くなってしまったんです」
「なんだよそれ。もう信じられないことばっかりだ。頭がパンクしそうだよ……」
そうだろうな。
カーティスも父ゼクードの言葉には同意だった。
あまりに非現実的だ。
子供の作り話でももう少しマシな気がする。
「気持ちは分かります。オレも……最初は信じられませんでしたから」
「……」
「でも父さんが記憶を失っているのは事実です。それだけは信じてほしいです」
「けど……」
現実を呑み込めずにいる父に、カーティスは詰め寄った。
まっすぐに父ゼクードの瞳を見つめる。
「オレはそんなにふざけてるように見えますか?」
息を呑み、絶句した顔をこちらに向けたゼクード。
冗談をやっているつもりはないと、カーティスはその眼差しで彼に訴えた。
同じパープルの瞳が重なり合ってしばらく。
ゼクードは視線を石畳みに落とした。
「……ごめん」
こちらの本気を感じ取ったらしいゼクードが謝ってきた。
「いえ、父さんの気持ちはごもっともです。人並み外れた人生歩んでますからね。父さんは」
カーティスがそう言うと、ゼクードはまたも溜め息を吐く。
「本当に全部現実なんだな……妻が三人もいて、子供が同じくらい大きくて、親友がオッサンになってて……氷漬けで……二つ柱で……」
端から聞くと本当に現実味のない人生を歩んでる父だなと、カーティスは再認識させられた。
半ば常識を残している今のゼクードには、確かにあまりにも非現実的すぎるのだろう。
「なのに、何一つ思い出せない……」
「焦らなくていいんですよ父さん。大丈夫。オレがついてますから」
なんとか励まそうとカーティスは父ゼクードの手を握った。
あなたは一人ではないと感じて欲しかったからだ。
当のゼクードは目を丸くしてカーティスを見つめ返す。
「……なぁ、カーティスってさ」
「はい?」
「記憶を無くす前の俺とは仲が良かった?」
「いや……どうですかね。悪くはないと思うんですが、なにぶん一緒にいる時間が少なくて、まだなんとも……」
「そっか。てっきり仲良しなのかと思ったよ」
「どうしてそんな事を?」
「君と初めて会ったとき、妙な安心感があったんた」
「安心感?」
父ゼクードは頷く。
「知らないはずなのに心が君を信じてた。よく分からないけれど、君にだけはそれを感じたんだ」
心がオレを信じてた?
記憶を失っているのにどういうことだ?
まさか少しずつ回復してるのかも。
「昔の俺はきっと……君をとても信頼してたんじゃないかな?」
「それは……本当にオレにだけなんですか? 母さんたちやグロリアたちには?」
「いや、彼女たちからは特には。悲しい顔ばっかりされて、それどころじゃなかったのかもしれないけれど……」
「そうですか……」
「まぁ何が言いたいかって言うと、君のお父さんはたぶん誰よりも君を頼りにしてたんだと思うよ。この胸の奥に感じる安心感はきっとそれだ」
言い切られ、カーティスは思わず笑ってしまった。
「父さんの事を父さんが代弁するなんて、変な感じですよ」
「まぁ確かになぁ」
父ゼクードも笑った。
本人は気づいていないが、悲しい顔をしているのは父さんも同じなのだ。
だからやっと笑ってくれた。
それだけのことが妙に嬉しい。
あと父さんにそこまで信頼されていた事実も、これ以上にない幸せを感じていた。
その信頼に答えるためにも、父さんが回復するまでオレがしっかりせねばと決意を新たにした。
「さぁ帰ってみんなと食事にしましょう。何が食べたいです?」
「ん~なんでもいいよ」
「その返しが一番困るんですよ父さん」