【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
レミーベールは半泣きになりながら【フォルス家】の館に向かっていた。
『彼女は頭が良くて、綺麗で、美人で、優しくて、母性的で、可愛くて、強さも感じる素敵な女性だ』
『フワフワした雰囲気に暖かさを感じるあの笑顔! 空の様に青い瞳はいつもキラキラしてて! 銀の髪は新品のカーテンを想わすほど美しい! 常に妹と弟を思う長女としての包容力! こんな素晴らしい女性が他にいるか!?』
道中、アスレイ陛下の言葉が脳裏に焼き付いて離れない。
何度も何度もそれが繰り返され、頭の中で回っている。
それがレミーベールの集中力を決定的に阻害した。
ボーッとしていた彼女はそのまま街の川へドボン。
ずぶ濡れになったレミーベールはいったん家に帰り鎧を脱いで身体を洗い、そのまま私服に着替えた。
しかし集中力が回復したわけではなく、立って歩いた瞬間ガンッとタンスの角に頭をぶつけて悶絶。
さらにイスがあると思って腰を下ろしたら何もなく、そのまま派手にずっこけた。
その勢いでテーブルの角にまた頭をぶつけ、ついには涙目になって散々だった。
そんなこんなで半泣きレミーベールが完成し、今に至る。
やっとの思いで母フランベールの居る【フォルス家】の館に着いたレミーベールは母の部屋を尋ねた。
「あらレミー! どうし……って、どうしたのそのタンコブ!?」
※
なぜか二段のタンコブを頭に乗せた半泣き状態の娘レミーベールが自室にやってきた。
フランベールはそんな娘を部屋に入れ、ベッドに座らせた。
「それで、どうしたの?」
向かいのイスに座ったフランベールがレミーベールに聞いた。
娘の顔は見たこともないほど暗かった。
何かあったことは明白だが。
「実はその……相談があって……」
「相談?」
レミーベールが頷く。
「アスレイ陛下がワタシの事を、好きみたいで……」
「え?」
アスレイ陛下がレミーを?
へぇ~。
陛下ってレミーみたいな女の子が好みなのね。
妙に冷静な自分に驚きつつ、フランベールはレミーベールの顔を見返した。
娘は俯いていて、静かに震えた声を絞り出す。
「ワタシ……どうすれば良いか分からなくて」
「陛下にプロポーズされたの?」
「ううん。陛下の部屋の前で聞いてしまったの。凄いワタシの事をベタ褒めで、もっとワタシと話したいとか、もっとワタシを知りたいとか、いろいろ言ってて……」
レミーベールは膝に置いた手をキュッと握り締めた。
「最初、陛下は友達が欲しいんだって思ってた。でも……違ったみたいで……」
「そう……」
「結婚まで考えてるみたいで、ワタシ、どうすればいいか……」
結婚……なるほど。
アスレイ陛下はそこまでレミーが好きなのね。
それでレミーは反応に困っていると。
「うーん………レミーはアスレイ陛下の事をどう思ってるの?」
「ど、どうも思ってないよ。好きでも嫌いでもないし……ただの主君で、ワタシはただの騎士。それ以上でもそれ以下でもないよ……」
「そっか」
思った通りの反応だった。
このレミーの反応を見る限り、アスレイ陛下はまだ何も行動を起こしていない。
たまたまレミーに話を聞かれてしまって、そのレミーが困惑している状況なだけ。
この状況から脱却するには。
「なんでワタシなんだろって……思っちゃって……」
「え?」
突如としてレミーベールが口を割り、フランベールは驚いた。
「陛下と結婚したい女性はたくさんいるって聞いたわ。そんな中でワタシを選ぶ理由が分からなくて……」
「なんで? あなた可愛いじゃない。自分に自信がないの?」
「かわ!? そ、そりゃあ…………自信なんてないよ。何もしてこなかったし、髪だってグロリアはあんな風に整えてるけど、ワタシは面倒だから短くしてるし……」
あ……面倒だったんだ。
レイゼと似たような髪型してるから、真似してるのかと思った。
「え? でもその髪型似合ってるよ?」
「……見た目だってこんな鉄の塊だし」
「それは鎧がそんなんってだけでしょう?」
「……腕だってその辺の女性より太いよ? ほら」
「いや腕の太さならわたしだって太いし、カティアさんもローエさんもグロリアも太いよ? 騎士だし仕方ないよ。細すぎるより良いんじゃないかな? ほら健康美って言葉もあるし」
「……」
まだ納得してない娘。
どうにも自分の容姿にはまったく自信がないようだ。
なにもしてなくてそれなら寧ろ誇ってもいいと思うのだが、今のレミーにその言葉は届かないだろう。
「……まぁ見た目の話は置いといて。レミーはどれくらい陛下の事を知ってるの?」
「え? …………何も知らない。優しい人だってのは分かるんだけど」
「じゃあ今後はもっと積極的に会って話してみたりするしかないね」
「なんで?」
「そうしないといつまで経っても陛下の事が分からないし、あなたも答えが出せないと思うの。たくさん会って、たくさん話してみて、ふとした瞬間に会いたくなるような人なら正解だと思う」
フランベールは自分の経験則で答えた。
今では夫のゼクードだが、昔は学校で教師と生徒の関係だった。
彼に心を奪われてから何度と会えるときに会って、話せるときに話した。
そしたらどんどん会いたくなった。
だからこれは、きっと正解なのだと思う。
「会いたくなる人……」
「うん。結婚とかそういうのはそこまで行ってから考えてみても良いんじゃないかな。これはすぐに答えを出してイイ話じゃないし」
「……そっか。そうだよね。すぐに答えなくていいんだよね」
自分に言い聞かせるようにレミーベールが言った。
その顔は前よりハッキリと明るくなっていた。
「うん。焦らなくて大丈夫。ゆっくりと階段をのぼろう」
「……ありがとうお母さん。なんか、かなり気が楽になったわ」
「なら良かった」
どうやらすぐに答えを出さなければいけないと思い込んでいたようだ。
よかった。娘の役に立てて。
やっとお母さんらしいことできたかな?
『ありがとうお母さん』っというありきたりな言葉が凄まじくフランベールの心を潤した。
すると向かいのレミーベールは片手をフランベールの前に突き出してきた。
「見てお母さん」
「うん?」
見てと言われたので娘の突き出した片手を凝視した。
その片手は小さくだが、僅かに震えていた。
「身体がずっと小刻みに震えてるの。あんな風に男の人に言われたの、初めてだったから……」
言われてフランベールは娘レミーベールの手をそっと握り返した。
暖かい娘の手は、確かに小さく振動していた。
「ホントだ震えてる。これは一緒に寝れば治るかもね〜」
ちょっとふざけて見ると、当の娘に思いっきり睨まれた。
「じょ、冗談だよ冗談。もう言わないから怒らないで」
「…………今日だけ」
「え?」
「今日だけ……一緒に寝ていい?」
さすがに耳を疑ってしまった。
あれだけ嫌がっていたのにどういう風の吹き回し?
「え!? いいの!?」
レミーベールが頬を赤くしながら頷いた。
「一人でいるとなんかソワソワして、落ち着かなくて、ちゃんと寝れない気がして……だから、今日だけ……お願い」
またもフランベールは内心で感動した。
それは一緒に寝てくれることだけでなく、
あのレミーベールにとって自分は弱さを見せてもいい存在になれた事がとてつもなく嬉しかった。
「もちろんよレミー」
微笑んで答え、その日の夜は母と娘とで同じベッドで一夜を過ごした。
娘の寝顔を見ながら、フランベールはまだ赤子だった頃のレミーベールを思い出した。
その記憶は鮮明で新しく、今のレミーベールとハッキリ重なった。