【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
【リングレイス】を【第一拠点】とし、そのさらに北東へ向かった先に作られた【第二拠点】。
そこは川沿いに作られた小さな拠点であり、今回の新たに発見された【王国】を調査するための重要な足場となる。
川沿いに作ることで見張りの人数を減らすことができ、最悪ドラゴンの奇襲からも逃げやすくなっている。
本来ならばドラゴンに見つかりにくい、侵入されにくい場所に拠点を立てるものだが、適した場所がなかったのでここになった。
ドラゴンは泳げないのか、水の中にまで追ってこないことが多い。さらに奴らのブレスも水の中ならやり過ごせる。背後に川を置いたのはそういった逃亡・生存率を高める理由もあるのだ。
現在ここ【第二拠点】は休憩用のテントや調理用・食事用タープが設置されている。
一番大切な食糧や水などは穴を掘って地下へ保存させてある。
指揮はレグナの母親であるレィナが総司令となって取っている。
配置された部隊はレグナ隊・リイド隊・アルベール隊と他二個部隊と合わせて20名。
レィナを含めて21名となっている。
どれもSS級の精鋭揃いだが、やや大袈裟な戦力だと思わなくもない。
今回の任務は他国へのコンタクトだからだ。
いよいよ明日、新たに発見された王国へコンタクトを試みることになっている。
今は先行調査隊が王国付近を調査している。
これは安全確保のためだが、うっかり王国の人間と接触してしまわないか心配だ。
迂闊な接触は争いの火種になる。
それを想定してのこの戦力なのだろうが……。
なんせよ面倒だ。
ぜったいトラブルが起きそうで面倒だ。
さっさと帰りたい。
「はぁ~、かったりぃなぁ~」
「レグナ。またそんなこと言ってたら義母さんに怒られるよ~」
近くの岩に座り込んだレグナがリイドにつつかれた。
レグナは足を組んで口を尖らせる。
「んなこと言ったってよう。よその国とコンタクトを取ろうなんて、かったりぃと思わねぇか? どうせ面倒なことになるぜ? なぁアル」
目の前に立つアルベールに言うと、太陽に照らされた彼は腕を組んだ。
「決めつけるな。まずは行動してからだ。お前も隊長なんだからしっかりしろ。ぶーぶー言うな」
これだよ。
こいつもカーティスみたいな堅物で苦手だ。
「えぇ~……やる気出ねぇ~……。こんな面倒確定な任務してるくらいなら、可愛い女の子と遊びたいぜ。なぁリイド?」
「うん、まぁ。ていうかレグナさぁ……カーティスがオフィーリアと結婚してからず~っとそんな感じだよね? もしかして先越されて悔しいの?」
「うん」
「素直~」
「やれやれ。また女絡みか。くだらん」
アルベールに切り捨てられ、さすがにムッとなったレグナは言い返した。
「くだらんくねぇって。お前だって少し前に失恋してたじゃねぇか。フランベールさんだっけ? 自分の叔母に恋するとか有り得ねぇ~っての」
「え、レグナがそれ言うの? 都合の悪い記憶は消すタイプ? 正直引くわ~」
なんかリイドが言ってるが無視する。
しかし当のアルベールは特に堪えた様子はなかった。
「俺は別にフランベールさんに恋したことは後悔していない。本当に綺麗な人だからな。あれは仕方ないと個人的に思っている」
面白くないほどキッパリ返された。
いじり甲斐のない奴である。
「歯切れのいいこって……まぁ確かに? オレたちの叔母って揃って美人だもんなぁマジで」
「ああ。だが、どうしても未だに信じられん事がある」
「ハーレムしてるとこ?」っとリイド。
「いや、フランベールさんが俺の母の妹というのがまっっったく信じられないんだ」
「なんで?」っとレグナ。
「なんで? 見て分かるだろ!? ぜんっぜん似てないぞ!? フランベールさんはあんなに可憐で儚げで優しい顔をしてるのに、俺の母は目付き悪いし性格キツイしガサツだし、もう似てるとこ探す方が大変だぞ!」
すんごい早口で言ってる!
よほど信じられないみたいだ。
まぁ確かにリリーベールさんとフランベールさんはビックリするほど似てない。
これは恐らく腹違いの関係もあるのだろうが。
「今の発言全部リリーさんに言っておくぜ」
「や、やめてくれ! 殺される!」
レグナの言葉にアルベールが吹きそうになるほど本気で脅えた。
リリーベールさんを怒らすと怖いのはレグナもリイドも知っている。
下手なS級ドラゴンより怖い。
「た、隊長! レグナ隊長!」
拠点の奥から血相を変えて一人の騎士が走ってきた。
その顔には見覚えがあった。
今日、先行調査隊として出ていった部隊の隊長である。
もう戻ってきたようだが、いくらなんでも早すぎる。
何かあったのは彼の顔を見れば明らかで、レグナは一瞬で嫌な予感がした。
「なんだどうした?」
「レィナ隊長はどちらに!?」
「テントで休んでるよ。オレが聞くからどうした?」
「大変なんです! 調査対象の王国が燃えていました!」
「はぁっ!?」
レグナは思わず立ち上がった。
そのとんでもない報告は拠点内に響き渡り、何人もの仲間がテントから出てきた。
調理していた奴らも手を止めてこちらを凝視してくる。
集中する視線に構わず彼は報告を続けた。
「偵察のために王国へ向かっていたのですが、黒煙が上がっていて、一匹の見慣れないドラゴンが暴れていたんです!」
ドラゴンが暴れていた!?
嫌な予感とは的中するものだ。
「おいおいマジか! リイド!」
隣のリイドに声を掛けると彼はすぐに頷いて走り出した。
「母さんを起こしてくるよ!」
「頼む!」
「そのドラゴンはどんなドラゴンだったんだ?」
彼に水を渡したアルベールが冷静に聞いた。
彼は水を飲み干し、何度か咳き込んでからすぐ話した。
「桃色の鱗で覆われたドラゴンでした。遠目から見ても分かるほどの巨大で、口から発せられるブレスは街一つを飲み込むほどの広範囲でした」
「街一つを飲み込む!? おいおい冗談だろ!? そんなのどうやって避けりゃいいんだよ!」
ゾッとしたレグナに対し、彼はまだ報告を続ける。
「まだあります。奴の羽なんですが、翼膜がピンク色に光っていました。そこから……たとえるなら、そのピンクの光がヒラヒラと何十個もの花びらとなって地面に落ちていくんです。そしてそれらは全て爆発します」
「なんだそりゃ!? 翼膜から爆弾が大量に降ってくるってことか?」
「はい。しかし落下速度は花びら同然で遅く、避けること自体はそこまで難しくはないかもしれません。ただヤツは飛んでいるだけで爆弾を撒き散らす災害そのものです」
「……どう考えてもS級ドラゴンだな。これは」
レグナの言葉にアルベールは頷く。
「ああ。まさかこんな事態になるとはな。君、他のみんなは無事なのか?」
「問題ありません。敵を確認後、すぐに撤退しました。部隊の損失はありません」
「賢明だな。さて、どうする?」
アルベールに聞かれ、レグナは肩を竦めた。
「まずはレィナ隊長と相談をだな」
──刹那!
異様な風が空気がレグナの肌をヒリつかせた。
これは!?
「て、敵襲! 北東の空!」
見張りの一人が叫んだ。
北東の空を見上げれば、そこには確かに巨大な影が迫ってきていた。
太陽がその影を照らし、正体を露にする、
今さっきの報告通り桃色の鱗に覆われてあり、大きな翼の膜はピンクの光を発していた。
まっすぐこちらにやってくる!
「ぁ、あいつだ!」
先行調査隊の隊長が叫んだ。
王国で暴れまわっていたドラゴンはやはりあいつらしい。
「こっちに来るぞ!」
アルベールが叫び「やべぇ! みんな逃げろ!」っとレグナも叫んだ。
桃色のドラゴンは拠点の上空を通過し、突風が巻き起こった。
テントやタープなどがゴミのように吹き飛ばされ、何人もの仲間も巻き沿いに遭い、悲鳴と共に吹き飛ばされた。
レグナとアルベールたちは岩影に避難し、なんとかそれをやり過ごす。
さらに追い打ちのごとく、
翼膜から散ったピンクの花びらが地面に降り注ぎ、着弾と同時に爆発を起こした。
その爆撃に何人もの仲間が巻き込まれ悲鳴が轟く。
仲間が!
くそ! あのドラゴンめ!
レグナは花びらを避けつつ、空飛ぶドラゴンを睨み付け双剣を抜刀しようとした。
しかし!
「ブレスが来るぞ!」
アルベールが先に叫んだ。
空を舞うドラゴンは大きく口を開け、青い炎を溜め込み出していた。
あれは確かにブレスの予備動作。
しかも青い炎という極めて危険なブレスだ!
街一つを飲み込むほどの広範囲という報告を思いだし、レグナは声の限り叫んだ。
「みんな川に飛び込めええええ!」
叫びと同時に青い火球が発射され、レグナとアルベールは川へジャンプした。
次の瞬間には背後で大爆発が起き、レグナとアルベールは爆風で背中を押されて川へ叩きつけられた。
視界が泡だらけになり、水面下から見える外の光景は青い光でいっぱいになった。
凄まじい熱気が川を熱くし、レグナとアルベールは慌てて深く潜った。
潜りながらレグナはリイドとレィナを心配した。
爆発に巻き込まれた仲間たちは逃げ遅れてないだろうか?
気にする余裕もなく襲われ、逃げるので精一杯だった。
リイド! 母さん!
どうか無事ていてくれ!
頼む!
祈りながら外のブレスが止むのを待った。
幸いにも息が尽きる前にブレスが止まり、やっと水面から顔を出すことができた。
「ぶはっ! はぁ! はぁっ!」
レグナとアルベールが大きく息を吸い込むと、目の前にドラゴンの顔があった!
「っ!?」
背筋が凍った。
奴の眼は完全にレグナとアルベールを捉えていた。
食い殺される。まさかの待ち伏せだ。
この距離だと水中へ逃げても深く潜る前に食われる。
ここまでか!
死を覚悟したレグナは、走馬灯のようにレィナを思い出した。
せめて母の無事だけでも確認したかった。
このあと食われてあの世で再会は勘弁してほしい。
「セレン! やめろ! やめるんだ!」
突如として聞き慣れぬ声が響き、目の前のドラゴンがピクリとして振り返った。
燃え盛る拠点を走るのは一人の騎士。
背中にロングブレードを携えている。
誰だあいつは?
その答えは得られず、セレンと呼ばれたドラゴンは彼から逃げるように飛び去って行った。
な!? 逃げた!?
助かったのか!? オレ!?
「待ってくれ! セレン! 俺だ! 思い出してくれ!」
その男は顔を鉄仮面で覆っており、素顔は確認できなかった。
だが声からしてかなりの高齢者だと分かる。
彼は「くそっ!」っと吐き捨て、口笛で馬を呼んだらそのまま乗馬して駆けて行った。
こちらの事態などお構い無しだった。
「な、なんだったんだ……今の」
アルベールが絞り出すように言った。
「わかんねぇ」とだけ返し、レグナは拠点に視線を戻した。
そこはすでに火の海になっており、何人かの仲間が燃えているのが見えた。
その光景に呆然としていた意識が一気に覚醒し、慌てて川から上がった。
「み、みんなは無事か!? 被害報告を!」
レグナは叫ぶが返事は返って来なかった。
リイドとレィナさえも。