【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第288話【戻らぬ記憶と全滅の部隊】

 俺は今日もカーティスの稽古から逃げて、城壁の上で夕焼けに染まる空を眺めていた。

 

 もうすぐ俺の子供が生まれるらしい。

 二人目とのことだが、まるで実感が沸かない。

 

 いい加減自覚を持たねばと思っても、妻たちのこれまでの経緯を思い出せなくて、まったく感情移入できないのだ。

 

 今でもたまに思う。

 俺がみんなに騙されてるんじゃないかと。

 

 年上の息子や娘。

 年上の三人妻。

 

 この家族構成だけでもあまりに現実味がない。

 常識的に考えてもおかしい。

 

 でもカーティスたちは至って真面目で、バカをやっている様には見えない。

 まして俺を騙しているようにも見えないのだ。

 

 俺を父さんと呼ぶカーティスたちにワザとらしさは微塵もなく、またローエたちの態度もワザとらしさがない。

 

 みんな俺を父や旦那として扱ってくる。

 

 少しでもウソ臭さがあれば疑えて楽なのだが……

 

 あぁ……どうにも嫌になる。

 自分が記憶を失っているということすら自覚できない。

 自分が自分を一番疑っている。

 

 本当に記憶を失っているのなら、早く取り戻してほしい。

 出てこいよ前の俺。

 もうすぐ二人目の子供が生まれるんだぞ?

 

 お前が出迎えないでどうするんだよ。

 

 思わず泣きそうになり空を睨んでいると、不意に視界が真っ暗になった。

 

「っ!?」

「だ~れだ?」

 

 すぐに誰だか分かった。

 目を覆う柔らかいふにふにした手。

 心落ちつく優しい香り。

 そして癒しのある声。

 

()()()()()()()()?」

 

「ざんね~ん。ワタシだよお父さん」

 

 目を解放されて振り向けば、そこにはレミーベールの姿があった。

 

「ぁ……君か」

 

「お母さんの声に似てた? どっちかって言うとリリーさんに似てるって言われるんだけど」

 

 言われてみると確かにリリーベールの方に似ている気がする。

 けど、なんで間違えたんだろう?

 いま俺、先生って言わなかったか?

 なぜ……?

 

「ぁあ、うん。匂いかな」

 

「匂い?」

 

「フランベールさんと君は匂いが似てるから間違えたんだと思う」

 

 これは正直本当だ。

 親子なせいかレミーベールとフランベールは似たような匂いがする。

 人を安心させる優しい香りだ。

 

「匂いかぁ……まぁ、よく分かんないけど。それはともかく! お父さんまたカーティスから逃げたんでしょう? あの子探してるわよ?」

 

「勘弁してくれ。カーティスの稽古は厳しすぎるよ。昨日なんて剣の素振り1000回もやらされて、そのあと鎧を着たまま街を何周も走らされて……」

 

「気持ちは分かるけど、S級以上の騎士ならみんなやってる事だし……」

 

「君もやってるの?」

 

「もちろん。日々の鍛練は怠らないわ。でないと人間の身体ってすぐに鈍るんだもの。ワタシみたいに女の身体だと特にね」

 

 女の身体……

 

 ふとレミーベールの胸の膨らみに目が行って、その豊かさに思わず赤くなり目を逸らした。

 

 その仕草と目線でバレたのか、レミーベールも赤くなる。

 

「んもう! 娘の胸見て赤くならないでよお父さん!」

 

 そうだった!

 彼女は娘だった!

 いつまで経っても慣れない。

 

「べ、べ、べつに見てないよ?」

 

「その顔でよく言うよ……」

 

 呆れられた。

 これもこれで非現実的だよ。

 フォルス家の女性陣は揃いも揃って胸が大きい。

 

 スタイルの良い女性しかいない。

 妻たちも娘たちも。

 個人的には嬉しいが、前の俺はとんだ巨乳好きだったらしい。

 まったくけしからん。気持ちは分かるけど。

 

「……あのねお父さん」

 

 急にトーンの下がった声でレミーベールが言ってきた。

 俺は視線だけ彼女に向ける。

 

「正直に言うけど、もうお父さんの記憶が回復することはないんじゃないかなって思ってるの」

 

「!?」

 

「ワタシだけじゃない。グロリアも、お母さんたちもみんな諦め出してる」

 

「…………そうか」

 

 諦めてくれるなら、それはそれで楽になって助かる。

 常に無い物ねだりされる毎日は、もう嫌だから。

 

 けれど……それを寂しく感じている面倒な自分がいて、複雑な心境だ。

 

「でもカーティスだけは諦めてないの。父さんは必ず回復するって……」

 

「そっか……」

 

 自分を諦めてない相手がいる。

 その事が妙に嬉しく、また厄介だと捉える矛盾した気持ちが交差する。

 

 俺はいったいどうしてほしいのだろう?

 

 あまりに面倒で矛盾した自分に腹が立ち、胸壁に置いた拳を強く握り締めた。

 

「ワタシもお父さんは回復してほしい。元のお父さんに戻ってほしいよ。でも……無理なら無理で、それでいい。それよりも次に生まれてくる子供たちの側には居てあげてね?」

 

 虚を突かれ、俺は隣のレミーベールの顔を見た。

 

「記憶が無くてもお父さんの子供である事実は変わらないから……たとえ分からなくても、自分の子供だと認めて側に居てあげて」

 

 揺れ動きながらもこちらを直視し、レミーベールが本気の声音で言う。

 

「ワタシたちみたいなことしちゃダメよ? どんな理由があっても。絶対よ? 約束して」

 

 ここまで言われてようやく思い出した。

 

 そうだった。

 レミーベールたちは本当の両親に育てられたわけではない。

 だからこんなにも念を押すのだろう。

 

「それは……わかってるよ。約束する」

 

 まったく身に覚えのない子供に責任を持てと言われても難しいが……ここで頷かなければレミーベールに嫌われそうな気がした。

 

 彼女だけじゃない。

 グロリアとカーティスにも嫌われそうな気がしたのだ。

 それだけは嫌だと、俺の心は正直に叫んでいる。

 

 父親としての心か、俺自身の心かは分からないが……

 

「居た! お父さん! レミー!」

 

 突如として響いたのはグロリアの声だった。

 彼女も階段を使って城壁を登ってきたらしいが、何やら顔色が悪い。

 

「グロリア? どうしたのそんなに慌てて?」

 

「大変なのよ! レグナたちが帰って来たの! でもレィナさんやリイドが大火傷を負ってた! 他にも何人か大火傷で大変なのよ!」

 

「なんですって!?」

 

「とにかく来て!」

 

 

「重傷者7名。死亡4名。全部隊の半数以上が戦闘不能。いわゆる全滅って奴だ」

 

 カーティスは【南の領地】にある広間にてレグナから被害の報告を聞いていた。

 

 レィナやリイドなどは病院へ搬送され、残ったレグナとアルベールから話を聞いている最中だったのだが、被害は想像を絶して深刻だった。

 

 まさか総司令のレィナが大火傷で倒れてしまうとは。母さんが知ったら悲しむだろう。

 友人のリイドまで大火傷を負っていた。リーネが知ればと思うと胸の奥が重くなる。

 

 しかも死人まで出ている。

 これほどの被害を被るとは。

 

「そうか……だが二人とも無事で良かった。レグナ。アルベール」

 

「良くねぇよ! 母さんとリイドがやられたんだぞ!」

 

「おいレグナ。カーティスに当たってどうするんだ」

 

 怒るレグナにアルベールが手で制する。

 確かに今のは自分が悪かったと、カーティスはすぐに口を開いた。

 

「いや、今のはオレが無神経だった。すまないレグナ」

 

「……」

 

「とにかく今は陛下への報告を急ごう」っとアルベールが沈黙の間を消し去ると「その必要はない。ここにいる」っと割り込んできた声に虚を突かれた。

 

 アスレイ陛下がわざわざここまで足を運んでくれたらしい。

 陛下の両脇には【南のグリータ団長】と【北のガイス団長】が顔を揃えていた。

 

「陛下!」

 

 アルベールが跪き、カーティスとレグナもそれに習う。

 

「みんな、よく戻ってきてくれた。顔を上げて話を聞かせてくれ」

 

 言われたレグナとアルベールは事の顛末を説明した。

 桜色のドラゴンによる奇襲。

 たった一発のブレスで第2拠点は燃やされ、逃げ遅れたレィナやリイドたちは大火傷を負い、部隊も壊滅した。

 

 何より奇妙なのは見知らぬ騎士が現れ、そいつが桜色のドラゴンの事をセレンと呼んでいたことである。

 

「桜色のドラゴンをセレンと?」

 

 アスレイ陛下が眉をひそめ、向かいのアルベールは頷いた。

 

「我々を襲ったドラゴンはそのように呼ばれていました」

 

「アルベール。その呼んでいた騎士はどうした?」

 

 父ガイスに聞かれたアルベールは小さく首を振る。

 

「詳細は分かりません。しかし例の王国の騎士であることは間違いないかと」

 

「そうか……」

 

 一時の沈黙が生まれ、街中のざわめきが一際大きくなった時、グリータが思い出しを口にした。

 

「セレンという名は……」

 

 みんなの視線がグリータに集中する。

 

「グリータ団長? どうされた?」っとガイス。

 

「いえ、ただの偶然でしょうが……ゼクードの母親と同じ名前だな、と」

 

「なんですって?」

 

 ガイスが驚き、アスレイやレグナたちも同じ気配を見せた。

 グリータはカーティスを見る。

 

「カーティスも聞いたことはあるだろう?」

 

「はい。それはもちろん。祖母の名ですから」

 

 父方の祖母セレンと祖父フォレッド。

 さすがに英雄の名を冠する男の妻なだけあって、セレンという名を知っている人は割といる。

 

 偉大な父ゼクードの母親だ。

 その息子である自分が知らない方が無理がある。

 

 だがそれ故に不愉快だ。

 仲間を襲ったドラゴンの名がセレンなど。

 その名を呼んだその騎士とやらも気にくわない。

 

「名前なんてどうでもいいけどよ。あのドラゴンはヤバイぜ。ブレスの範囲が広すぎる。あんなもんが街に入ってみろ。一瞬で火の海になっちまう」

 

 レグナが言うとアスレイ陛下は険しい顔で顎を撫で、アルベールに口を開いた。

 

「……例の王国の生存者は?」

 

「分かりません。自分たちのことで精一杯でしたから」

 

「そうか……いや、そうだろうな。一命をとりとめた数名は応急処置が良かったから助かったと医者が言っていた。本当に良くやってくれた」

 

「は……」

 

 誉められたにも関わらずアルベールの顔は沈んでいた。

 隣のレグナも悔しそうな顔を更に強めるだけだった。

 

「親父……すまねぇ。オレがいながら母さんとリイドを……」

 

「謝るな」

 

 グリータはレグナを言葉で叩いた。

 

「自惚れるなよレグナ? お前が居ても居なくても母さんとリイドはこうなっていた。無駄に責任を感じることはない。今はただ無事だったことを喜べ」

 

「親父……」

 

「レィナが倒れた以上、復帰するまではお前が部隊の中心になる。しっかり頼むぞ」

 

「……了解」

 

 気を引き締め直したレグナを見たグリータは小さく笑った。

 

 それを見守ったガイスはアルベールに問う。

 

「そのセレンというドラゴンはここへ来ると思うか?」

 

「ドラゴンの移動距離です。まず来るでしょう。いつかは」

 

「ならば早急に手を打たねばならないな。奴の居場所を把握し、討伐隊を編成する」

 

「そうですね」っとグリータがガイスに同意する。

 

「けど、なんの手掛かりもないぜ親父?」

 

「わかっている。だからまずは例の王国を調査する。第2拠点の復興を優先し、ドラゴンの痕跡などを探すんだ。今回の任務にはカーティス。お前も必ず参加してくれ。理由は分かるな?」

 

「はっ!」

 

 言われるまでもない。相手はS級。

 祖母の名を持つ不愉快なドラゴンだ。

 この手で狩り取ってやる!

 

「ドラゴンを追っていた騎士の方はどうしますか?」

 

 アルベールの問いにガイスとグリータはしばらく悩む。

 団長同士顔を見合せ頷くと、ガイスは答えた。

 

「可能なら協力しろ。出来ればここへ連れてきてほしい。話を聞きたい」

 

「了解です」

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