【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
陽はとうに沈み、あれだけ騒がしかった街中が静寂に包まれた頃、カーティス・グロリア・レミーベールはやってきた。
「──というわけで父さん。オレたちは任務に就くことになりました」
自宅のホールでカーティスが率直に告げてきた。
どうやらセレンというドラゴンを探して倒す任務らしいが、俺にとってはそれよりも。
「え……み、みんな行っちゃうの? グロリアとレミーも?」
そこが問題だった。
いきなり一人にされるような不安が込み上がってきて怖くなった。
「ごめんねお父さん。アタシたちも【カーティス隊】だから」
グロリアが言うと、隣のレミーベールも口を開いた。
「大丈夫よお父さん。お母さんたちにはもう言ってあるし、グリータ団長やガイス団長にも話を通してあるから」
……そっか。
お母さんたちにも話を通してあるのか。
それならそれで多少の不安は消えたが、どのみち一人にされる事は変わってない。
今になって気づいたが、俺はカーティスたちにかなり依存していたんだな。
こんなに離れるのが怖いなんて。
それにドラゴンを探して倒すとの事だが、そんなことが人間に可能なのだろうか?
A級ドラゴンとやらなら何回か見せてもらったことがあるが、あれでも人間より大きくて強く、人間が勝てるような生物には見えない。
しかもカーティスたちの任務はそのA級ドラゴンより強いドラゴンを相手にするって言ってた。
そんな化け物を人間が倒せるのか?
「いや、で、でも……ドラゴンってメチャクチャ強いんじゃないの? 人間が勝てるもんなのか?」
するとみんなが目を丸くした。
あれ? 俺なにか変なことを言ったのか?
「ま、まぁ……今のお父さんドラゴン見たことないんだっけ?」
レミーベールがそう苦笑すると、釣られるようにグロリアも苦笑し始めた。
「うん。っていうかお父さんがそんなこと言っても違和感しかないよ」
「まったくだ」っとカーティスが同意する。
あ、そっか。
俺はもともとドラゴン狩りの英雄だったんだっけ?
今になってようやく自分の本当かどうかも分からない過去を思い出した。
みんなにこんな反応をされても仕方ないと恥ずかしくなっていると、カーティスはコホンと咳で間を取り繕った。
「父さんの仰る通り、並の人間ではドラゴンに勝つことは不可能です。でもそのドラゴンに勝てるのが我々のような騎士なんですよ」
「そうだったね。ごめん」
「いえ……それでその、父さん。もしかしたらですが」
「ん?」
「オレたちが任務に行ってる間に母さんたちが出産する可能性があります」
「え!?」
「もういつ生まれてもおかしくないからね」
グロリアが言うとカーティスは頷く。
「その時は父さん。どうか母さんたちの側に居てあげてください」
「え!? いや、でも……俺が居たって……そんな」
「お父さん。ワタシからもお願い。来てくれたって事実だけでもお母さんたちは嬉しいはずだから」
レミーベールまでそんなことを言ってきた。
果たして本当に嬉しいのだろうか?
気持ちの込もってない形だけの行動に、あの三人のお姉さんたちが喜ぶとは思えない。
「……」
「もぅお父さん! こんな時に悩まないでよ! 側に居てあげるだけでいいんだから。本当に大変なのはお母さんたちなのよ?」
それは分かっている。
出産は命懸けだ。
だからこそ、仮にも彼女たちの夫なら責任を持って側に居ろというのだろう。
筋を通すという意味では正しいと思う。
正しいと思うが……あの三人を嫁として抱いた記憶もないのにそんなこと言われても、という負の気持ちが渦巻いて気持ち悪くなる。
誰にも共感されないだろうこの気持ち。
愛し合った記憶もないのに自分の子供が生まれてくる恐怖。
誰が分かってくれるものか。
結局俺は孤独だった。
だからこそカーティスたちに依存してて、物理的に一人になるのが怖かったんだ。
唐突に得心した俺は、カーティスたちに嫌われない選択をした。
「……そうだね。わかったよ」
記憶がないと言われても、その記憶がそもそもあったのかすら確信が持てないこの恐怖はきっと誰にも理解されない。
だから俺はずっと一人で怖がってるんだ。
自分に確信が持てない恐怖に打ち震え続けている。
でも一つだけ確信があるのは、カーティスたちに嫌われたくないというこの気持ち。
これだけはやはり本物だと確信できる。
出産の立ち会いくらい、なんとかこなしてみよう。
※
【フォルス家】を後にしたカーティスは、そのままグロリアとレミーベールを連れて帰宅した。
わざわざ煩い姉二人を連れてきたのは今後の任務についての説明をするためである。
自宅内の居間にてカーティスは立ち、目の前には椅子に座って話を聞くグロリア・レミーベール・オフィーリアが並んだ。
複数のランプで明るさを確保し、カーティスは淡々と部隊員に任務の説明をする。
「今回の任務は主に二つだ。一つ目はセレンという名のドラゴンを探すこと。二つ目は正体不明の騎士とのコンタクト。その騎士とは可能なら協力しろとの事だが、例のドラゴンをセレンと呼んで追い掛ける頭のおかしいヤツでもある。まともに話せるとは思えん。見つけても気を許すなよ?」
「ねぇセレンって、ワタシたちのお祖母(ばあ)ちゃんの名前なんじゃ?」
レミーベールが言うとカーティスは眉をひそめた。
「偶然の一致だろう。だからこそ不愉快なんだがな……」
「これでその追い掛けてった騎士の名前がフォレッドだったら笑えるわね」っとグロリア。
「笑えるかバカ者。オレたちの先祖を貶(けな)されているようなものだ。まったくもって不愉快だ!」
先祖が頑張って生きてくれたから今の自分たちがいる。そういう考え方をするカーティスにとっては名前一つにしても笑えるものではない。
故にやや感情的になってしまった。
「まぁまぁそう怒らないでカーティス。他に任務の説明は?」
レミーベールに宥められ、カーティスは一息入れてから返した。
「……基本的には新たに発見された王国内の探索になるだろう。ドラゴンの痕跡はもちろんだが、その王国がどのような王国だったのかは調べる価値がある」
「運が良ければ生き残りの人もいるかもしれないわね」
グロリアの言葉に「そうだな」と返して、そして気づいた。
さっきから妙に静かなオフィーリアのことだ。
見た感じボーッとしているが……
「…………おいオフィーリア? さっきから黙ってるが、ちゃんと聞いているのか?」
「……」
返事がない。
視線も窓の外を見つめていて、どこか上の空だ。
「……オフィーリア?」
「え?」
「え? じゃない。お前ちゃんと聞いてなかったな?」
「あ、すみません……ボ~ッとしてました」
オフィーリアが照れながら頭を掻いた。
そんな彼女にカーティスはあまり怒る気にはなれなかった。
ここのところオフィーリアはボーッとしている事が多い。
何かの病気ではないかと心配しているんだが、本人は特に何も悪くない様で、医者に見てもらっても異常はないと言われたそうだ。
なまけ癖か? と疑ったこともあったが、そもそもオフィーリアは人一倍のがんばり屋なのでそんなことはまず無いだろう。
「最近ボーッとしてること多いなお前。疲れてるんじゃないか? 大丈夫か?」
「大丈夫です。わたしもそう思って鍛練の時間を減らして疲れを調整してます」
確かに最近は鍛練を短くしていたな。
寝ていることも多くなったが、自分なりに管理している結果なのだろう。
「ならいいが……無理だけはするなよ? 何か不調を感じたらすぐに相談しろ。男のオレに言いづらい事ならグロリアとレミーでもいい。わかったな?」
「はい。了解です」
そう返事をしたオフィーリアは、どこか眠そうだった。