【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
弟カーティスから任務を聞いた後、レミーベールは自分の家へと歩を進めていた。
妹グロリアとも途中で別れ、今は一人で夜道を歩いている。
このまま明日に備えて寝るだけなのだが、ふとアスレイ陛下の顔が脳裏をよぎった。
任務に出ればアスレイ陛下とはしばらく会えなくなる。
片道で一週間も掛かる道のりだ。
往復するだけでも二週間掛かるし、任務遂行の期間を考えると3週間は帰ってこられない。
ほぼ1ヶ月はアスレイ陛下と会えなくなってしまうのだ。
ストレスの毎日を送っている陛下は自分と会うことが唯一の癒しだと言っていた。
その癒しである自分と1ヶ月も会えなくなるアスレイ陛下は大丈夫だろうか?
……いや、大丈夫に決まっている。
陛下だって子供じゃないんだ。
たった1ヶ月くらい。
そうだ。
帰って来たらワタシから食事に誘ってみよう。
そして王妃の仕事についていろいろ聞かせてもらおうかな。
そういえば陛下って何が好きだったかな?
んー……どうしよう……もっと食事の時に見ておけば良かった。
陛下と結婚して王妃になったら、やっぱり陛下の身の回りを世話したりするのかしら?
だとしたらカーティスにちゃんと料理を教えてもらった方が良いわよね?
まずはアスレイ陛下の好物を知って、それを上手く作れるようになるとこから目指そうかしら。
あと結婚するってことは、やっぱり陛下の子供を生むことにもなるのよね。
何人欲しいのかしら?
3人くらい?
いや6人かも。
王国の後継者となる子だから責任は重大ね。
健康で元気な子をちゃんと生めればいいけれど、大丈夫かな……。
未経験の部分はやっぱり不安を感じる。
そもそも男性経験ゼロだから、陛下との夜もちゃんと出来るか心配だ……
ここはオフィーリアに聞くべきか、それともお母さんたちに聞くべきか。
いやそもそも聞くのが恥ずかしい。
やっぱりやめておこう。
いきなり子作りってことは無いだろうから、まだ焦る時じゃない。
そう思い至って自分を落ち着かせ、レミーベールは夜空を見上げた。
かなりの夜更け。
今からアスレイ陛下に会いに行ってもすでに就寝していることだろう。
城の門前で追い返されるに決まっている。
仕方ないとレミーベールは一息吐き、自宅へ向かった。
歩きながらアスレイ陛下の笑顔を思い出し、会いたいなぁと胸の中でボンヤリ彼を想った。
これが恋心なのだろうかと未だに悩んでいる。
放っておけない。
支えてあげたい。
必要とされたい。
これらの感情をワタシは陛下に抱いている。
でもこの感情はカーティスやグロリアにも抱いている感情だ。
そのせいか自分がどれだけアスレイ陛下が好きなのか分からなくなる。
……お母さんはなんて言ってたっけ?
『ふとした瞬間に会いたくなるような人なら正解だと思うわ』
いつかの母フランベールの言葉を思い出し、今まさに自分がその状態であることに気づかされ、胸の奥が熱くなった。
そっか……これが──ん?
自宅の前に着いたが、月明かりに照らされた人影があった。
不審者か? と身構えたが──
「レミーさん!」
「え……陛下!?」
レミーベールの自宅の前で待っていたらしいアスレイ陛下だった。
「どうしてこんなところに!?」
「レミーさんに会いたかったんです!」
「え!?」
ドキンと胸が高鳴った。
まさか陛下まで同じ事を考えていたなんて。
こんな素敵なことがあるのだろうか?
「明日から長期間の任務に就くんですよね? もう居ても立ってもいられなくなって、こうして城を抜け出して待ってました!」
「そ、そこまでして……」
「いやぁでも、いつまで経っても帰って来ないから心配しましたよ。何かあったんじゃないかって……」
「陛下……ワタシは女でもSS級騎士ですよ? そんな簡単に襲われたりしません。されても返り討ちにしますよ」
「あ~いやいや、それはもちろん理解してますが、私が心配してたのはそういう事じゃなくてですね……」
そういう事じゃない?
じゃあ何だろう?
「ほら……こんな遅くまで帰って来ないってことは、なにかこう……だ、男性友達との交遊とかそういうので……」
何かと思えばそういうことか。
別の男と遊んでないか心配だったんだ。
アスレイ陛下の心配事を理解した途端にレミーベールは笑ってしまった。
こんなに可愛い陛下を見たのは初めてかもしれない。
「ふふ、ご心配なく陛下。ワタシは浮気なんてしませんよ。陛下一筋ですから」
「え!?」
「あ」
ワタシ今……なんて言った?
恐ろしく自然に出た言葉にレミーベールは顔を真っ赤に染めた。
対するアスレイ陛下も顔を真っ赤にしている。
二人の心臓の音が聞こえる。
信じられないくらいハッキリと。
お互い赤くなりながら見つめ合い、しばらく呆然としていると陛下から口を割った。
「レミーさん……今の言葉……本当ですか?」
「ぁ……いや……その……」
本当です、と言えばそれで良かったのに。
その一言が返せない。
今さら恥ずかしがる自分に嫌気さえ差しそうになる。
「レミーさん……」
「ワ、ワタシ……」
「──……レ、レミーさん!」
「は、はい!?」
「わ、私は! あなたが!」
「っ! ま、待ってください陛下! それは――」
「いえ! 待ちません! もう絶対に言います!」
「いや、あの! でも!」
「先に仕掛けてきたのはレミーさんですからね! もうここまで来たら止まりませんよ! すぅーーー、はぁーーーー! 言いますよレミーさん! 覚悟してください!」
「は、はひ!!」
「私はあなたが好きです! ずっと恋い焦がれていました! あなたの全てが愛しいです!」
「へ、陛下……!!!」
ついに告白され、レミーベールは真っ赤な顔を上げた。
「最初はあなたの見た目だけに惹かれていました。ですが、あなたを知れば知るほどに、やはり私はあなたに惹かれていきました」
「陛下……」
告白されている。
今この瞬間。
まるで時が止まったかのような感覚。
告白されてるんだ。
陛下が勝負を仕掛けてきている。
今この瞬間に、ワタシを手に入れようと必死に、勇気を出して自分と戦っている。
赤面した顔の裏には、そんなひどく冷静な自分がいた。
陛下がこの瞬間に全てを賭けてきているのが、何故か手に取るように分かった。
これが本当の女の勘というヤツなのだろうか。
ワタシは未だに恥ずかしがっていたのに、陛下が勇気を出してプロポーズしてきた。
その事実が妙に嬉しく、陛下を初めて男らしいと感じた瞬間でもあった。
「あなた以外の女性など考えられない。あなたを手に入れられないのなら、私は一生涯孤独でいい!」
「!」
陛下……そこまで……
「レミーさん! この任務が終わったら、私と結婚してください! ずっと側に居てください!」
瞼の奥が熱くなってきた。
涙が込み上がってきて、そしてそれは溢れた。
一国の王にここまで求められる自分は、おそらく世界一の幸せ者だ。
ワタシと会うためだけに、こんな夜遅くまで待っていてくれる彼を拒む理由なんてない。
「はい! ワタシも陛下に気づけば惹かれてました。ワタシも陛下の全てが……愛しいです!」
「レミーさん!」
「この任務が終わったら必ず結婚致します。どうかよろしくお願い致します。陛下」
「ほ、ほ、本当に!?」
「はい。陛下のお側で、ずっと支えてさせていただきます」
思いを言葉にしたら、なにか胸の中がスッキリした。
ワタシ……本当に陛下のお嫁さんになったんだ。
エルガンディの王妃に……
現実味が沸かないが、それはどうやら陛下も同じようでホッペを自分でツネッている。
「イタッ! ゆ、夢じゃない! 夢じゃない! ほ、本当にレミーさんが私のお嫁さんに!」
そんな陛下の仕草にレミーベールはまた笑ってしまった。
その後、アスレイ陛下が「やったあああー!」と叫んだせいで見回りの騎士に見つかり、そのまま城へと連行されてしまう。
捕まった未来の夫を少しでも擁護しようと、レミーベールもそのまま城へと同行したのだった。
そしてその日は夜が遅いこともあり、レミーベールはアスレイの寝室で一夜を過ごすことになった。