【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「ゼクード!」
飛び付くように抱き締めてきた少女はグロリアの胸に顔を埋める。
「わっ! ちょっ! え、なに!?」
「会いたかったわゼクード! わたしよ! お母さんよ!」
「ぉ、お母さん!? え、いまゼクードって……!」
この子ゼクードって言った?
どういうこと?
偶然?
「あぁ……無事で良かった……胸もこんなに大きくなって羨ま…………あれ? ゼクードあなた……女の子だったっけ?」
少女の反応に呆れた。
目を覚ましたばかりで寝ボケているようだ。
そもそもこんな幼い少女がお母さんなわけない。
「アタシはグロリアよ! ゼクードじゃないわ」
「ええ!? でもあなた……わたしの匂いがするわよ?」
「はぁ?」
匂い?
何言ってんのこの子?
「あの、いまゼクードって言いましたけど、あなたのお子さんの名前なんですか?」
割り込むように聞いてきたのはレミーベールだった。
「んん?」っと振り向いた少女はグロリアから離れ、レミーベールの匂いを嗅ぎ出した。
くんくん……くん……
「あれ!? あなたもわたしの匂いがする! どうなってるの!? ゼクードが二人!?」
「え?」
レミーベールが首を傾げると、後ろからオフィーリアがやってきた。
「何か勘違いをしてるみたいですねこの子。寝ボケてるのかもしれませんよ」
「ん……あなたは……」
少女はオフィーリアの匂いを嗅ぎ始めた。
すると間もなく顔を険しくする。
「あなた……わたしの匂いがしない。でも……少しだけわたしの匂いが混じってる?」
「へ?」
「あなたのお腹から……わたしの匂いがする。少しだけ……なんで?」
「いえ……わたしに聞かれましてもぉ……」
反応に困るオフィーリアを下げ、レミーベールが再び問う。
「あの、あなたの名前はなんと言うんですか?」
「セレンよ。セレン・フォルス」
「フォ、フォルス!?」
「セレンって!」
さすがのグロリアでも背筋が凍った。
レミーベールも目を見開いている。
これを驚かないで済ませるには無理があった。
【セレン・フォルス】という祖母の名前とまったく同じだから。
しかもゼクードを息子と呼んでいる。
自分はお母さんだと主張もしている。
こんな馬鹿げた話があるだろうか?
本当にどうなってるの?
なに?
父親の次は祖母が年下になったの?
どうなってんのよウチの家系は!
「ちょ……レミーどうなってんのよ!? こんな偶然ある!? いくらなんでも!」
「ワタシに聞かないでよ。ワタシだって分かんない。なにがどうなってるのか……」
頭の整理が追い付かないのはグロリアだけではなかった。
レミーベールもかなり困惑している。
【セレン・フォルス】という名前が偶然の一致なら、ゼクードという息子さんの名前も偶然の一致になるのか?
偶然がそんな二個も重なるものか。
そもそもこの少女を祖母セレンだと仮定するなら、どうしてこんなエルガンディから遠く離れた場所に?
なんでこんな見た目が幼いの?
父ゼクードと同じく氷漬けにでもされたのだろうか?
いやそもそも父ゼクードを出産するには身体が幼すぎる。
母親と言うには無理がある。
ぁあもう! ワケわかんない!
「……どうしたの? わたしの名前を忘れちゃった? 酷いわゼクード」
「いやだからゼクードじゃないってば。アタシはグロリアよ」
「グロリア? わたしにそんな子いたかしら?」
「あんたの子じゃないっつーの!」
「あらあら照れてるの? こんなにわたしの匂いがするんだもの。あなたは間違いなくわたしの家族よ」
「なんで匂いだけで家族になるのよ……」
「匂いと言っても血の匂いよ?」
血の匂い?
なんでそんな匂いが分かるの?
どんな嗅覚してんのよ。
「あなたも家族よ。……え~っと」
「レミーベールです」
「レミーベールにグロリア……ごめんなさいね。わたしゼクードの事しか覚えてないの。母親として失格だわ。忘れて本当にごめんなさい」
「いやだから……」
忘れたとかじゃなくて、あんたから出てきた覚えはないっての。
そう言うおうとした矢先にレミーベールが。
「待ってグロリア。今は早くここを離れましょう。セレンさん。ワタシたちに付いてきてください」
「ん……どこ行くの?」
「ワタシたちの拠点です。そこには食料も水も寝るところもしっかり確保されています。あなたの保護を約束しますよ」
「ふーん、ゼクードはそこにいる?」
「え?」
「ゼクード。わたしの大切な息子なの。あなたたちみたいな姉弟がいたことを知ったら、きっとあの子も喜ぶわ」
姉弟じゃなくて親子なんだけどね。
突っ込もうと思ったが、どうにもこのセレンには言葉が通用しないような気がしたのでやめた。
「それは…………わかりませんが、一緒に探しますよ」
レミーベールが言うと、セレンは嬉しそうに手を合わせる。
「本当に! ありがとう! 早くゼクードに会いたいわ!」
ゼクードに会いたい、か。
まるで嘘を言っているようには見えない。
なんて屈託のない笑みだろう。
このセレン・フォルスという少女は何者なのだろう?
本当にアタシたちの祖母と同一人物なのだろうか?
本当にそうなら、祖母まで年下になるという世にも奇妙な体験をしていることになる。
なかなか有り得ない人生を歩んでいる気がしてきた。