【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
カーティスが幾度目かの斬撃を受け止めた時、仮面騎士は口を開いた。
「小僧。お前まさか【ルージ家】の人間か?」
「!?」
【ルージ家】と言えば母カティアの家名だ。
祖父クロイツァーを最後に、その名は途絶えた。
なぜこの男が【ルージ家】の事を知っているのだ?
先程の【竜獄斬】といい、こいつはいったい……
「【ルージ家】の人間かと聞いている」
「敵のお前に答える義理があるのか?」
「やはりそうか。その頭の固さ。その赤い髪。そしてあの剣技……クロイツァーを思い出す」
「!」
こいつ!
祖父の名を知っている!
仕切り直すように剣を弾き、仮面騎士から間合いを取ったカーティスは睨む。
「お前は、いったい……」
「その反応。やはりお前はあのクロイツァーの孫だな」
「……」
「個人的に奴は好かん男だったが……元気にしているのか?」
元気にしているのか?
なんだこの口ぶりは。
「……会ったことはない」
即答したカーティスに、仮面騎士は察したように「そうか」と顔を暗くした。
「次はオレの質問に答えろ。お前は何者だ?」
ルージ家・クロイツァー・竜獄斬などなど、エルガンディ関連のものをこの仮面騎士は次々と出してきた。
こいつはこの新王国の人間じゃない。
そんな気がしてきた。
エルガンディから遠く離れたこの地で生きていたなら、まず知り得ない情報を持っている。
「その質問に答えれば、戦うのをやめてくれるのか?」
「先に仕掛けたのはお前だぞ?」
「……そうだったな。すまない」
そう言った仮面騎士はロングブレードを地に捨てた。
「なにを!?」
「嫌いな奴だったが、奴の孫なら斬るわけにはいかん。降参しよう」
その言葉に嘘がないのは殺意で分かった。
先程と違ってまるで殺意が無くなっていたのだ。
もう戦う意思はないらしい。
あまりにもあっさりと降参した仮面騎士に虚を突かれたが、念には念を入れてカーティスは地面のロングブレードを蹴って仮面騎士から離らかした。
果たして、カーティスはロングブレードの切っ先を仮面騎士に突きつける。
「名を聞いていないな」
「カーティスだ」
「カーティスか。男らしいイイ名だ。そして優秀な騎士でもある」
「……」
「エルガンディはとうに滅んだとばかり思っていたが、生き残りもいたんだな」
「やはりエルガンディを知っているのか。お前にはいろいろ聞きたいことがある」
カーティスが言うと、仮面騎士も同じく口を開いた。
「俺も聞きたいことがある。先に質問させてくれないか?」
「……言え」
「ゼクードという男を知っているか?」
「!?」
父の名が出てきた。
「なぜ……その名を……」
「ゼクードは俺の息子なんだ。もし生きているなら………………」
何を思ったのか、そこで言葉を詰まらせた仮面騎士。
しかしカーティスもそれどころではなかった。
「息子……だと!? じゃあ……
そうとしか思えなかった。
老兵ながらも卓越したあの剣技。
父ゼクードが得意とした【竜(ドラゴン)斬り】。
祖父クロイツァーの名を知り、セレンを妻と呼び、あげく息子をゼクードと言った。
これ以上の証拠はない。
この仮面騎士は間違いなく!
「フォレッド・フォルス!」
父ゼクードより前の英雄。
ディザスタードラゴンと相討ちになり、消息不明となっていた伝説の黒騎士だ。
まさかこんな形で会えるとは。
生きていたなんて……
「ほぅ、俺の名を知っているのか? エルガンディではまだ俺の名が残っているんだな」
街中で小さく笑うフォレッドに、カーティスは確認するように呟いた。
「ゼクード・フォルス」
「ん?」
「オレの──……父の名です」
「…………?」
フォレッドは何を言われたのか分からない顔をした。
眉をひそめたフォレッドはカーティスを見上げる。
同じ輝きを持つパープルの瞳が重なり合う。
「オレの名はカーティス・フォルス。フォルス家の……長男です」
「カーティス……フォルス!?」
長い沈黙を経て、ようやくフォレッドがカーティスの言葉を理解した。
あれだけクールな態度を取っていたフォレッドだが、それが崩れるのにそう時間は掛からなかった。
「ま……孫? お前が……俺の? え? クロイツァーじゃないのか?」
「その方はオレの母方の祖父です」
「なんだと!?」
いきなり息を吹き替えしたかのように目を限界まで開いて驚愕してきた。
それもそうだろう。
この人はどうやら祖父クロイツァーのことを嫌っていたみたいだし、その嫌いな人の子孫と自分の子孫が結婚して子供を生んでいたわけだから。
驚かないはずがない。
「ちょ、ちょっと待て! 頭の整理をさせてくれ! いきなり過ぎてついていけん!」
それはカーティスも同じだったが、フォレッドがあまりにも大袈裟に驚愕するから逆に冷静になっていた。
いや……違う。
似たような経験を少し前にしたからだ。
『とうに死んだと思っていた両親が生きていた』
その経験がカーティスを冷静にしている。
どんな人生なんだオレは。
両親の次は祖父か?
『とうに死んだと思っていた爺ちゃんが生きていた』
不思議だな。
本当に。
こんな奇跡があるとは。
まさかの祖父が生きていた。
姿も年齢も昔のまま帰って来た両親と比べれば、このフォレッドの件はかなり優しい気がする。
「つまり……なんだ? ゼクードは生きているということなのか!?」
「はい。健在です。今も再建したエルガンディに住んでいます」
聞いたフォレッドの目がまたも仮面越しに大きく見開いた。
全身を震わせ、フォレッドは片手で顔を覆う。
「そう……そうか…………あいつは……あいつは無事だったのか……良かった…………本当に良かった」
肩を落としたフォレッドは大粒の涙を溢していた。
信じられない量の涙だった。
大の大人が鼻水まで垂らして泣いている。
先程の武骨さが微塵もなくなっていた。
それほどまでにゼクードの生存が嬉しかったらしい。
本気で嬉(うれ)し泣(な)きしている。
息子が生きていることを知った途端にこの涙。
やはりこの人は間違いなくオレの祖父フォレッドだ。
この涙を見て確信が持てた。
カーティスは抜刀していたロングブレードを鞘に納め、フォレッドに寄る。
「あの……大丈夫ですか?」
「すまん……あまりにも嬉しくてな。こんな良いことがあるなら、長生きはするもんだ」
本当に喜んでいる。
しかし、逆に分からなくなった。
こんなにゼクードの事を想っていたのなら、なぜエルガンディに帰ってこなかったのだろうか?
息子になんの感情も持たなかった男なら、こんな涙は流せないはず。
なぜゼクードを一人にしたのだろうか?
それが分からない。
「あの……」
「ああ。分かっている。なぜエルガンディに帰らなかったのか、だろう?」
「……ええ」
「俺はあるドラゴンの雷を避け損ねてな。それが原因で記憶喪失になり、回収された【リングレイス】で何年も過ごす事になった」
「!」
記憶喪失!
今の父ゼクードと同じだ!
「記憶のない俺は良いようにコキ使われていたが、そんなある日。【リングレイス】はドラゴンの大群に襲われ壊滅した。俺はその時のショックで記憶を回復させ、セレンとゼクードの事を思い出したんだ。なんとか生き延びた俺はすぐさま【リングレイス】を出て【エルガンディ】へ向かった。だが──」
フォレッドの顔が暗くなる。
「【エルガンディ】は……血生臭い廃墟と化していた」
フォレッドの言葉にカーティスはハッとなった。
彼が言っているのはおそらく、オレがまだ生まれていない20年前の惨劇。
四つの王国が滅び、人類がドラゴンに敗北した日の話だ。
「そこにセレンやゼクードの姿はなかった。生きてる人間さえ一人もいなかった。見つけたのは俺が昔使っていたロングブレードの柄だけ」
「!」
「もしかしたらゼクードが戦っていたのかもしれない。そう思ったよ。……いや、そうとしか思えなかった。ゼクードはきっとここで戦っていたが、武器が破損してそのままやられたんだと思った。周りに食い散らかされた人間がたくさんいたからな。そのどれかがゼクードだと、勝手に思っていた……」
「そうだったのですか……」
「しかし……そうか……ゼクードは生きていて、君はゼクードの息子か。はは……信じられんな。いつの間にか爺になっていたとは」
「あなたの孫はオレだけじゃありません。さきほど女騎士が三人いたと思いますが、うち二人はオレの姉弟です」
「なに? ……あ!?」
フォレッドが思い出したかのように落としたロングブレードを拾った。
「いかん! その三人が危ない! セレンを止めるぞ! ついてこい!」
「え、あ! ま、待ってくださいお爺ちゃん!」
「そ、その呼び方はやめろ!」
「ええ!? じゃあなんて呼べばいいですか!?」
「フォレッドでいい!」
「そんな無茶な!」