【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「ちょ、えと、ど、どうすればいいんだ!?」
「いや、なんでアンタが慌ててんのよ……」
グロリアに呆れられ、パチパチと火の爆(は)ぜる音だけがやたらと夜空に響いた。
「だ、大丈夫なのかオフィーリアは? 今すぐ拠点に帰した方がいいか?」
自分の膝で眠る妻を見ながら、やはり冷静になれないカーティスが言った。
するとレミーベールが首を振る。
「慌てないの。明日でいいわ。今日はもうそのまま寝かしてあげましょう」
「そ、そうか……わかった」
安堵したカーティスは気持ち良さそうに眠るオフィーリアをそっと撫でた。
……彼女が自分の子供を妊娠している。
それがどこか遠く。
しかし近く……何とも言えない不思議な心境だった。
オフィーリアはずっと子供が欲しい欲しいと言っていた。
夜だって何度襲われたか覚えていない。
だがその甲斐あってか、想像以上に早く恵まれたらしい。
嬉しい気持ちもあるが、ついに自分もゼクードと同じく父親になるのかと、思わぬプレッシャーが沸き起こった。
初めて隊長に任命された時と同じく、重いものを感じる。
子供を持つ親の心境というのは、みんなこういうものなのだろうか?
果たしてオレは良い父親になれるのだろうか?
自分がかなり不器用な性格をしていることは分かっている。
だから余計に心配だ。
……できれば男の子がいいな。
女の子だと、なんだかいろいろと心配だ。
グロリアやレミーベールのように騎士になるとか言い出したらどうしよう。
無理に止めて嫌われたりしたらキツい……
「カーティス?」
「!」
グロリアの呼び掛けにカーティスは我に返った。
「な、なんだ?」
「いや急に黙り込んじゃったからどうしたのかなって」
「オフィーリアの妊娠……嬉しくないの?」
レミーベールに問われ、カーティスは大袈裟に首を振った。
「い、いや! 嬉しいは嬉しいんだ。ただ……その……いきなりでちょっとな……」
優しくオフィーリアを撫でながら、カーティスは視線を焚き火へ向けた。
するとグロリアとレミーベールがクスクスと笑った。
「心の準備がまだってヤツ? アンタも可愛いとこ残ってたのね」
「大丈夫よカーティス。ワタシたちもついてるから」
グロリアはともかく、レミーベールの言葉は頼もしかった。
こんなとき最も頼れるのはやはり身内なんだろう。
……もし女の子が生まれても、レミーベールのようなしっかりした女の子になってくれれば嬉しいな。
「……そうか。彼女は妊娠していたのか。なるほど」
一人で納得したのは祖父のフォレッドだった。
彼からしてみれば曾孫(ひまご)の話となるが。
「なるほど、とは?」っとカーティスが聞く。
「いや、少し気になってはいたんだ。なぜセレンがオフィーリアを敵対視しないのかが」
「え?」
「セレンはおそらく自分の血縁者を見分ける鼻を持っているらしい。だから君達が彼女に襲われないのは理由としては納得していた。だが……オフィーリアだけは分からなかったんだ。やっと合点がいった」
言われてみると確かに。
セレンのこれまでの言動から見るに、血縁者には敵対しないのが見てとれる。
自分たちとフォレッドへの対応の違いでそれはもう証明されていた。
彼女が血縁者の匂いで判断していたならフォルス家の匂いがないオフィーリアは敵対されるはず。
「あ、それならなんか言ってたわよね? オフィーリアはお腹から自分の匂いがするとかなんとか」
グロリアが思い出しを口にし、隣のレミーベールが焚き火に薪を追加しながら頷く。
「うん。オフィーリアからは自分の匂いはしないけど、お腹から少しだけ自分の匂いがするって言ってたわ」
「やはりそうか」
フォレッドが腕を組み、眠るオフィーリアを見つめる。
「本当に運が良かったな。もし彼女が妊娠していなかったら殺されていたかもしれん」
「殺され……」
カーティスはゾッとして呟いた。
あのセレンという少女は、そこまで狂暴なのだろうか?
いや、狂暴さについてはフォレッドへの対応でもう暴露している。
彼女は彼に殺気を全開にして『食い殺す』と言ったんだ。
普通なら有り得ない。
「あの、お爺様。あのセレンという少女は、いったい何者なんですか?」
焚き火越しにレミーベールが聞くと、フォレッドは黙り込んでしまった。
「アタシたちのお婆ちゃんと同じ名前なんだけど、まさか本当にお婆ちゃんじゃないよね?」
グロリアの言葉にフォレッドの身体は一瞬だけ揺れた。
それは図星を突いたことへの証明となってしまい、カーティス・グロリア・レミーベールは思わず顔を見合わせる。
「……君の言うとおりだグロリア。彼女の名はセレン・フォルス。俺の妻の一人であり、君たちの祖母だ」