【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「……君の言うとおりだグロリア。彼女の名はセレン・フォルス。俺の妻の一人であり、君たちの祖母だ」
一瞬だけみんなが静まり返り、焚き火の弾ける音だけが耳朶(じだ)を打った。
カーティスはあまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。
祖父だけでなく、祖母も生きていた。
だがその祖母は少女の姿で、どこかおかしくなっていて……
「うそ……ほんとに?」
「本当だ」
驚くグロリアにフォレッドは淡々と返した。
「いや、でも! 若すぎない!? どう見たって14~15歳くらいよあの子!」
「……」
グロリアの言葉にフォレッドは視線を焚き火へ向けて黙り込んだ。
祖父は説明しにくい何かを隠している様だが、カーティスは『もしかして』と閃きを口にする。
「まさかセレンさ──お婆ちゃんは氷漬けにされて何十年もあの姿のままとかですか?」
若い姿のまま帰って来た両親を持つゆえに、そんな答えが思考から出てきた。
端から聞けばアホらしい回答なのだが、カーティスは真面目にそう思って聞いていた。
「ん? 氷漬け? いや、さすがにそんな理由ではない」
あまりに現実味に欠けたカーティスの言葉に、フォレッドは怪訝な顔で返した。
「なんだ違うんだ。アタシてっきり……」
グロリアが額を手の甲で拭う。
「いや、さすがに氷漬けだと1日も持たずに溶けてしまうだろう?」
そうフォレッドが言ってきた。
「それが溶けなかった氷もあったみたいで……」
溜め息混じりに答えたのはレミーベールだった。
本当にそうだな、とカーティスとグロリアは内心で同意する。
「?」っとフォレッドは訳が分からない様子だったが無視してカーティスは口を開いた。
「それはともかく! お婆ちゃんはどうしてあんな若々しい姿のままなんですか?」
「それは……」
またもフォレッドは黙(だんま)り。
パチパチと弾ける焚き火を見つめ、思い悩んでいる。
やはり答えにくい何かを隠している。
だが言ってくれねば答えが分からない。
カーティスはまた促すように口を開いた。
「ただならぬ事情があるのは察しています。どうか、教えてください」
「お爺様。ワタシからもお願いします」
「大丈夫よお爺ちゃん。アタシたち、ちょっとやそっとじゃ驚かないから」
レミーベールとグロリアの支援も有り、フォレッドは少し顔を上げた。
だがあと一歩で顔を曇らせ、言葉を詰まらせる祖父。
よほど言いにくい事なのだろう。
とくに他人には。
だが──
「──お爺ちゃん。ここには【フォルス家】しかいません」
「!」
そのカーティスの一言が決定打になり、フォレッドはゆっくりと顔を上げて、孫たちの顔を見回した。
「………………そうだな。君達には、正直に話そう」
どこか砂を噛むような気分を感じる言葉だったが、カーティスは「お願いします」と頷く。
するとフォレッドは重そうな口をゆっくりと開いた。
「もう薄々気づいているだろうが……セレンは普通の人間じゃない」
みなが驚く気配はなかった。
グロリアとレミーベールも、カーティスと同じく心のどこかでそんな感じはしていたということなんだろう。
「彼女は一度死んで蘇った人間だ」
「一度死んで蘇った……人間?」
聞いたことがある。
レグナたちが言っていた【オルブレイブ】での【エリザ】という女性のこと。
彼女も一度死んで蘇った人間らしいが、その末路はドラゴン化だったという。
なんの奇縁か、その【エリザ】はオフィーリアの姉だったらしいが。
「信じられんだろう? 死者蘇生など」
疑いの目を向けていると勘違いされたのだろう。
向かいのフォレッドがそう言ってきた。
しかしカーティスは首を振る。
「いえ、似たような事例を一つ知っています」
「本当か!?」
「はい。……ですが、その当事者もすでに人と呼べる存在ではなかったそうです」
「そうか……セレンと同じだな」
どこか嘆くようにフォレッドは俯いた。
深く溜め息を吐いて、ゆっくりと顔を上げる。
「……結論から言おう。ここ【ハーティシオ王国】を焼き尽くしたのは、あのセレンだ」
とんでもない事実だった。
レグナたちの証言と重ねるなら、セレンはドラゴンの姿を持っていることになる。
死者蘇生の代償がドラゴン化だとすれば、この話は成り立つ。
やはり祖母セレンもドラゴン化しているらしい。
あのとんでもない覇気がその証拠だろう。
「どうしてそんなことを……」っとレミーベール。
「時間と共に人としての記憶も理性も失ってしまったんだ。見た目は少女だが、中身はドラゴン。彼女の身体を巡るのは【竜の血】だ」
フォレッドのその言葉に反応したのはグロリア。
「まさか……前みたく【血のバスタブ】に浸けられて!?」
「【血漬け】か。いや……そんな
【血漬け】?
古い?
祖父フォレッドはカーティスたちの知らない情報をまだ持っているようだった。
「君達も騎士ならS級ドラゴンの存在は知っているだろう? 奴らは他のドラゴンとは比べ物にならない生命力を有している。能力だっていつも桁違いだ」
いきなりS級ドラゴンの話が出てきてカーティスは理解した。
「まさか……そのS級ドラゴンの血を?」
「血……というのは正解だが、少し違う。S級ドラゴンの中には稀にとんでもない再生能力を有したヤツがいるだろう? その手のドラゴンの【心臓】を抉りとって死者の遺骨に添えるんだ」
「遺骨に!?」
「添えるって……っ!」
絶句するレミーベールとグロリア。
「そんなので人が生き返るのですか?」
カーティスが聞くと、フォレッドはセレンが眠る大きな建物へ視線をやった。
「今のセレンがまさに、その生き返った奇跡の例だ」
まさか【竜の血】ではなく【竜の心臓】を使ったとは。
よくそんな発想ができるものだ。
「ここ【ハーティシオ】では昔からそんな研究が行われていたらしい。初めは女性の美しさを保つ方法を探していただけだったらしいが、いつしか不老の研究へ移行し、ついには死者蘇生の研究へと発展した」
「その末路がこれですか……」
瓦礫の山となり、燃え尽きた街並みの【ハーティシオ王国】を見ながらカーティスは言う。
フォレッドも同意らしく頷いた。
「ああ。そういうことだな」
死者蘇生は誰もが一度は考える夢だろう。
カーティスも両親が死んだと思っていた時は生き返ってほしいという気持ちを抱いたことは何度もある。
だから、そんな研究に手を染めてしまうのも分からなくもなかった。
大切な人を失った人間なら、特に理解をしてしまうだろう。
そう思っていると、ふとした瞬間にある疑問が浮かび上がった。
この話が本当なら【ハーティシオ】の連中は祖母セレンの遺骨に【竜の心臓】を使ったことになる。
こんな【エルガンディ】とは無縁の地で、連中はどうやって祖母セレンの遺骨を手にしたのか?
「……ひとついいですか?」
「なんだ?」
「【エルガンディ】から遠く離れたこの地で、どうやってここの人たちはお婆ちゃんの遺骨を手に入れたんですか?」
「それは……」
「わざわざお婆ちゃんの遺骨を使う理由も分かりません。それにお婆ちゃんの遺骨は20年前のドラゴンの大襲撃のせいで回収すらできなかったと聞いています」
「……」
フォレッドはしばらく黙り込み、意を決したように口を開いた。
「セレンの遺骨は……俺が回収したんだ」
打ち明けたフォレッドだが、カーティスはそれを予測していた。
フォレッドは一度【エルガンディ】へ帰還している。
しかもドラゴンに襲撃された後で、だ。
セレンの遺骨を回収するとしたら、そこしかタイミングがないはずなのだ。
息子ゼクードは死んだと考え、せめて嫁の遺骨だけはと回収したんだろう。
「……やはりそうでしたか。その遺骨をここの連中に使われてしまった、というわけですね?」
「いや……」
「え?」
「セレンの遺骨を差し出したのは……俺だ」