【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「セレンの遺骨を差し出したのは……俺だ」
とんでもない祖父フォレッドの発言に場が凍りついた。
重い沈黙が数秒。
信じられないとカーティスはフォレッドを睨んだ。
「どうして……どうしてそんなことを!」
「すまない……本当に、すまない!」
フォレッドは俯き、声を震わせた。
「あの時の俺には…………何もなかったんだ」
その震えた声は、すぐに涙声へと変わる。
「ロゼを見つけられず、セレンも、ゼクードも、何もかも失ったと思っていたんだ」
全身を震わせ、大粒の涙を溢す。
「何も守れなかった。天才だのなんだの言われていた俺は、結局何一つとして守れなかったんだ」
大の男が流す大粒の涙は地面をひたすら濡らした。
孫たちの前で、惨めたらしく。
「いったい俺の人生はなんだったのか? そう後悔しない日はなかった。そんな絶望の縁(ふち)に立っていた時、この死者蘇生の話を聞いた」
仮面から溢れる涙を拭いながら、フォレッドは続ける。
「手元にあるのはセレンの遺骨だけ。だから藁にもすがる思いだった。またセレンに会えるなら、会いたかった。その願いで胸がいっぱいになった……」
フォレッドは拳を握り締め、声を絞り出す。
「ロゼでも、セレンでも、ゼクードでも……何か一つでも取り戻せるなら……取り戻したかったんだ。だから……すまない。俺はセレンに取り返しのつかないことをしてしまった……本当にすまない」
フォレッドの震える声に、カーティスは先ほどまで込み上がっていた怒りが一気に小さくなっていた。
なんて声を掛ければいいか、分からなくなった。
大切なものを全て失って、身も心もボロボロ。
そこへ大切なものを取り戻せる手段を見つければ、誰だって彼と同じ事をしたのではないだろうか?
オレもオフィーリア・グロリア・レミーベールを失ったとき、誰かを取り戻せる手段があるなら、がむしゃらにそれを求めただろう。
フォレッドのやったことは決して許されないが、完全に否定はできない。
もっと早くオレたちが出会えていれば、こんな運命にはならなかったのだろうか?
今となっては答えは分からない。
いろんなものが巡りめぐって今がある。
もう変えられない現実が。
「──フォレッドを許してあげて」
「!?」
聞こえてきたのはセレンの声だった。
寝ていたはずのセレンが大きな建物から出て来ていた。
不思議なことに、今のセレンからは覇気が感じられなくなっていた。
それどころか、どこか優しく、安心さえ感じる。
おかしい……さっきとはまるで別人の雰囲気だ。
「セレン!」
フォレッドが立ち上がると「近づかないで」とセレンは片手で彼を制した。
「セレン……?」
「またいつ正気を失うか分からないの」
フォレッドやカーティスたちと距離を保ちながらセレンが言った。
「正気…………じゃあ今は!」
察したらしいフォレッドが言うと、セレンは小さく頷く。
「ずっと意識はあったの。でも逆らえなかった。ごめんなさい」
カーティスたちに向かって頭を下げるセレン。
さっきとあまりに違う優しい雰囲気に、カーティスは思わず聞いた。
「お婆ちゃん……なんですか?」
「うん」
優しい……本当に優しい笑みだった。
温かく包容力さえ感じる。
これが本当の祖母セレンらしい。
「みんな……会えて嬉しいわ。あなた達のおかげで意識を少し取り戻せたの。あの子の、ゼクードの子供たちって聞いたら、もう無我夢中で……」
「お婆ちゃん……」
「もっと近くであなた達の顔を見たいけど……またいつ意識を持っていかれるか分からない。だから……これが最初で最後」
優しい祖母の笑みは、ゆっくりと悲しみの顔に色を変えていった。
そして言う。
「もう私のことは忘れて」
「!?」
「な、何を言ってるんだセレン!」
フォレッドがまた一歩前に出た。
「俺はお前を──」
「やめて! 目を覚ましてフォレッド! 私はもう死んだのよ!」
「!」
近づくフォレッドから一歩下がり、セレンは現実を叩きつけた。
「……こうやって、いま喋ってるだけでも奇跡だわ。でも事実は変わらない。私は死んだの」
「セレン……」
愛する妻の名を、今にも泣きそうな声でフォレッドが呟いた。
セレンはそれを見るのが辛くなったのか、視線をカーティス・グロリア・レミーベールへ向けた。
「みんなごめんね。ダメなお爺ちゃんとお婆ちゃんで」
「そ、そんなこと……」
オレはそう返すだけで精一杯だった。
今日はあまりに色々なことが起きすぎた。
祖父フォレッド。祖母セレン。
二人の再開と、そして別れを見ようとしている。
セレンの言葉を借りるなら、いまこうして話しているだけで奇跡だ。
とっくに死んだ祖母と、こうして向き合っているのだから。
「……あなた達を一目見れただけでも良かった」
可愛い孫たちを見つめ、そして満足したらしいセレンがゆっくりと踵を返す。
するとフォレッドが。
「待ってくれセレン! 俺を……俺を一人にしないでくれ!」
しかしセレンは振り向かない。
「…………何言ってるの。あなたはもう一人じゃないわ。エルガンディへ帰って。ゼクードに会って。謝りなさい。やることいっぱいよ? あなた」
「セレン……」
そうだ。
フォレッドはもう一人じゃない。
オレたち家族がいる。
でも、だからって、祖母セレンを忘れるなんてことは……
「ま、待ってよお婆ちゃん! 正気に戻れるなら、ずっと正気でいられる方法探そう? お婆ちゃんも一緒に帰ろうよ!」
どうやらオレと同じ事を考えたらしいグロリアが立ち上がってそう言った。
するとセレンは彼女へ振り返り、今にも泣きそうな顔で微笑む。
「……ごめんねグロリア。でも、きっと無理なの」
「え?」
「分かるの……どんどん私が消えていく。少しずつ暗くなって、私が、私じゃない何かになっていくの。これはもうきっと、止められない」
「そんな……」
「だからお願い。私のことはもう忘れて……私を殺して」
「!」
全員が息を呑んだ。
セレンのあまりの発言に。
「もう一人の私は家族を求めてる。いつかゼクードを……あなた達を探してエルガンディへ辿り着くわ。そうなったら、ここと同じ末路になる」
ここと同じ末路……
【ハーティシオ王国】はドラゴンセレンの炎に飲まれて焼き尽くされた。
【エルガンディ王国】もそうなると言うのか。
よりによって祖母セレンの手によって。
そんなことは絶対に阻止せねばならない。
だが……
「だからお願いフォレッド。私を殺して、止めて」
彼女の懇願にフォレッドはただ目を見開く。
「もう私……これ以上人を殺したくない。みんな覚えてるの。ここの人たちが焼け死ぬところも。子供や老人まで炎に飲まれて、泣き叫んで死んでいく様も」
!
ドラゴン時の意識もあるのか!?
なんてことだ……こんなの……こんなの……!
「こんなの……辛すぎる……」
ついに涙を溢したセレンに、フォレッドは歯を食い縛った。
「だからお願い……私を殺して」
全身を震わせ、さらに歯を食い縛るフォレッド。
彼もまた涙を溢れさせていた。
セレンを生き返らせたフォレッドが、今度はそのセレン本人に自分を殺してくれと頼まれている。
なんだこの地獄絵図は。
こんなの、あんまりだ。
歯が砕けそうなほど食い縛って悩んでいるフォレッドが、あまりにも可哀想で、それを頼んでいるセレンも、あまりに哀れで。
本当にどうすることもできないのだろうか?
祖母セレンを救う方法は……ないのだろうか?
父さん……オレはいったい……どうすれば……
なんとかしたい。
セレンを殺したくない。
フォレッドも、セレンも救いたい。
無理だと分かっていても、心のどこかで可能性を探している自分がいた。
せっかくこうして家族みんな出会えたのに。
こんな末路……
重い沈黙が蔓延する中、それを撃ち破るように空から轟音が鳴り出した。
黒雲である。
今にも雨が降ってきて雷が鳴りそうだ。
肌もピリつく空気に──いや、これは……殺気!
「グロリア! 後ろだ!」
迫る殺気に気づいたカーティスは叫んだ。
だが時はすでに遅かった。
ドシュッ
「──え?」
ゴプッとグロリアは口から吐血した。
漆黒の鱗に覆われた腕がグロリアの腹部を貫いていた。