【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
見たこともない人の様な姿をした黒いドラゴンがそこにいた。
そいつの腕はグロリアの腹部を貫通していた。
そこから鮮血がブシャアと派手に舞った。
その光景を見たセレンは、時間が止まったような錯覚に陥る。
おそらくこの場にいる全員も。
「あ……ぁ……」
グロリアが崩れ、現れた人型ドラゴンは彼女から腕を引き抜く。
次いで背中を蹴り、グロリアを地面へ叩きつけた。
「あぐっ!」
「グ、グロリアアアアアアアアア!」
グロリアは地面へ倒れ、叫んだレミーベールが駆けつける。
『見つけたぞ。お前がリイスを殺したヤツだな!』
「!」
セレンにだけ分かる人型ドラゴンの叫び。
その人型ドラゴンが怒りを滾らせセレンを睨んだ。
リイスとはいったい?
いや、それよりもグロリアが!
「お前ええええええ!」
怒声を張り上げ人型ドラゴンに斬りかかったのはカーティスだった。
敵はカーティスの剣撃を避け、続くフォレッドの斬撃をもかわした。
「くそ! なんてことだ……孫を目の前でっ!」
「よくもグロリアを! 殺してやる!」
「落ち着けカーティス! こいつは危険だ! 二人で行くぞ!」
フォレッドとカーティスが連携し人型ドラゴンと対峙。
こちらから離れていく。
しかしグロリアは……
「グロリア! しっかりして!」
レミーベールが倒れたグロリアに必死に声を掛けていた。
寝ていたオフィーリアも目を覚まし、グロリアの悲惨な状態に目を開眼させる。
「グ、グロリアさん!? なんで!? どうしたんですか!?」
「は……早く逃げて。アタシは、もう、ダメ……ぅ、がはぁ! げぼぉっ!」
「む、無理に喋らないでグロリア! いま手当てするから! 死なないで!」
包帯を持ち出すレミーベールだが、傷があまりにも大きすぎる。
すでに致死量の血を流しているグロリアに助かる術はない。
おそらくそれはレミーベールこそ一番わかっているはずだった。
グロリアはうつ向けになっていたが、自力で仰向けになって、また血を吐いた。
鎧ごと貫通した腹部の穴からは血が止まらずに流れている。
グロリアが力尽きるのも時間の問題だった。
「姉さん……オフィーリアを連れて……逃げて……。アタシはもう無理だから……。赤ちゃん優先……で」
「いやよ! あなたを置いていくなんてそんなの!」
「バカ……こんな時、冷静に……ゲホッ! う、ぼぉっ!」
「グロリアさん! もう喋っちゃダメです! 本当に死んじゃいます! レミーさん! とにかく包帯をありったけ使って傷を塞がないと!」
「うん!」
レミーベールとオフィーリアが包帯を使おうとした時、セレンはグロリアの元へ立った。
当のグロリアはすでに気を失っている。
肌の血色も青ざめており、もう本当に長くはないだろう。
「どいて二人とも」
「セレンさん?」っとオフィーリア。
「お婆ちゃん!? お婆ちゃん! グロリアが!」
「分かってるわレミー。一か八か、やってみる」
「え?」
レミーベールが分からないといった顔をしたが、セレンはすでに自分の腕に爪を突き立てようとしていた。
グロリアが助かる方法は、たぶんこれしかない。
自分の身体に巡る【竜の血】を彼女へ分け与える。
この【竜の血】にグロリアが適合していれば、あれくらいの傷ならすぐに再生する。
ただ……もしグロリアが適合しなかった場合は、おそらく最悪の結末である【死】を迎えるであろう。
グロリアはセレンの孫。
同じ血が流れている。
だから適合する可能性は極めて高いはず。
だから拒否反応などの恐れはセレンにはなかった。
セレンが一番心配していることは……自分と同じように【人ならざる者】へとグロリアが変貌してしまうことだった。
孫まで自分と同じ末路を辿ってほしくない。
ここで助かっても、結局殺されなければいけない未来なら、ここで静かに眠らせるべきなのかもしれない。
でも……でも…………
孫の死を見ることになるなんて、それだけは絶対に嫌だ。
グロリア……ごめんなさい。
もしかしたら、あなたに一生恨まれるかもしれないけれど。
セレンは意を決して、自分の腕を爪で切りつけた。
「お婆ちゃん!?」
「な、何を!?」
レミーベールとオフィーリアが驚愕する。
セレンはそのまま腕から流血した【竜の血】を滴らせ、グロリアの腹の傷にそれを垂らしていった。
グロリアの血とセレンの血が混ざり合い、それはなんの抵抗もなく溶け合った。
セレンの遺伝子がグロリアの遺伝子と適合し、【竜の血】の適合を助け、瞬く間に傷を塞いでいく。
穴が空いたのは鎧だけとなり、その下の塞がった素肌からはヘソが見えた。
綺麗に再生している。
「き、傷が!」
「あっという間に!」
人間では有り得ない回復速度にレミーベールとオフィーリアが驚きを隠せなかった。
血色の悪かったグロリアの肌色も青から白へと回復し、心臓の活発化が伺えた。
無事に【竜の血】に適合したらしいグロリアを見て、セレンはひとまずホッとする。
やはりこの子はゼクードの娘。
自分の血を引いている。
すんなりと適合できたのはそれの証明だろう。
この【竜の血】に適合できなかった人間は血と血が拒絶し合い、固まり、最後は心臓を石のように固めて死に至らしめると昔フォレッドから聞いている。
そんなことにならないで本当に良かった。
「う……」
失った血を回復させたグロリアが呻く。
レミーベールとオフィーリアがグロリアの顔を覗き込んだ。
「…………あれ? アタシ……」
先ほどの瀕死が嘘のようにムクッとグロリアが身体を起こした。
「グロリア!」
「わ、ちょっ!」
レミーベールに抱きつかれ、グロリアは慌てて受け止めた。
「よかった! 本当によかった! グロリア! グロリア!」
「レミー……」
グロリアの胸で泣きじゃくるレミーベール。
こんなに取り乱した姉を見るのは初めてらしいグロリアが、果てしなく反応に困っている。
そこでフとグロリアとセレンの視線が重なった。
「!」
重なった視線でセレンは気づいた。
グロリアの瞳が変色していたのだ。
彼女の元の瞳はエメラルドグリーンだったが、今は血の影響のせいかセレンと同じピンク色となっている。
「お婆ちゃんが助けてくれたの?」
「…………そう、ね。これしかあなたを救う方法はなかったの。ごめんなさい」
「な、なんで謝るのよ。アタシ助かったんだしいいわよ。でもどうやって?」
「それは──」
「あれ!? グロリアあなた! 目の色変わってない!?」
「へ?」
レミーベールに言われ、グロリアは目を丸くする。
「あ、ホントだ! ピンクになってますよグロリアさん! セレンさんと同じです!」
オフィーリアに言われ「嘘!?」とグロリアが慌てて顔を触る。
「え、ちょっと! アタシなにされたの!?」
グロリアがセレンに聞くが、答える前に遠くで激しい戦闘音が鳴り響いた。
カーティスとフォレッドだろう。
まだあの人型ドラゴンと戦っている。
あのドラゴンは自分を狙っていた。
ならば自分が囮になればグロリアたちもカーティスやフォレッドたちも逃げることができるはず。
もう人には戻れない身。
せめて家族の盾になれるなら本望だ。
それに……グロリアに怒られるのがものすごく怖い。
「みんな。ここから逃げるのよ。カーティスとフォレッドは私が助けに行く」