【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
セレンのもう1つの人格が覚醒した。
竜の人格だ。
真の人格であるセレン本人は意識のみ。
意識はあるのに身体の自由が利かない。
完全に乗っ取られてしまっている。
だが、目の前の人型ドラゴンは恐ろしく強い。
戦いの経験がないセレンでは、たとえ再生能力を持っていても歯が立たない。
悔しいが、ここはもう、この竜の人格に頼る他なかった。
禍々しい覇気を発した竜の人格たるセレンは、目前の人型ドラゴンを見て嗤う。
それはまるで獲物を見るような不気味な笑みだった。
その笑みを見た人型ドラゴンは大きく飛んで後退した。
どうやらセレンの突然の変貌に驚いたようだ。
「ふふ……」っとセレンは立ち上がり、人型ドラゴンを見る。
『なんだお前は……』
セレンの気配が変わったことにやはり気づいていたらしい。
人型ドラゴンは険しい顔つきでそう聞いてきた。
「あなた相当無理してるみたいね。今にも倒れそう」
質問に答える気がないらしいセレンが言うと、人型ドラゴンは目を大きく見開き驚愕する。
「身体を無理矢理再生させて消耗したみたいね。本気を出さなくても勝てちゃうかも」
笑ったセレンが次の瞬間消えた。
すぴん……
人型ドラゴンの左腕が小さな切断音と共に吹き飛んだ。
『!?』
驚愕する人型ドラゴン…………の背後に立つセレンが、彼の尻尾を掴んで振り回す。
「あーはっはっはっ! おもしろーい!」
散々振り回したあげく、セレンは人型ドラゴンを建物に向けて投げ飛ばした。
『ぐあああああああああ!』
何件もの家を貫通し吹き飛ぶ人型ドラゴン。
勢いが収まりそのまま瓦礫に埋まった。
が、すぐにその瓦礫を吹き飛ばしセレンを探す。
そして当のセレンはすでに人型ドラゴンの目の前に!
『!?』
気づいたときにはもう顔を掴まれていた。
セレンがニヤリと嗤い、次の瞬間には彼女の拳が蒼く光って爆発した。
顔面に爆発を直撃させられた人型ドラゴンはまたも吹き飛び悲鳴さえ上げられない。
セレンの攻撃はまだ止まらない。
吹き飛んでいる最中の人型ドラゴンを追尾し、かかと落としを繰り出す。
だがそれを見切っていた人型ドラゴンはセレンの足を受け止め、そのままがむしゃらにへし折る!
「痛っ! やあああああ!」
悲鳴を上げたセレンと人型ドラゴンは、共に近くの瓦礫に打ち付けられた。
街中での凄まじい戦闘は廃墟をさらに劣化させる。
足が折れたセレンと、左腕を失った人型ドラゴン。
だがセレンの骨折はすぐに回復した。
しかし人型ドラゴンの左腕は回復しない。
先程のセレンが言った通り、真っ二つにされた時、無理矢理に再生能力を上げたせいで、もう体力が残っていないのだ。
再生能力は便利だが、代償がまったくないわけじゃない。
大きい傷を回復させるには、それ相応の体力が必要になってくる。
人間と比べれば体力は何百倍もあるドラゴンだが、さすがに連戦が過ぎた。
あの人間たちも強かったが、この人間も恐ろしく強い。
「酷いわね。足をへし折るなんて」
『リイスを殺しておいてよく言う』
「リイス? あぁ……あの変な声したドラゴンの事?」
『変……だと!?』
「あの声、耳障りだったのよね。だから殺したわ」
『きさまっ!』
「ふふ……今でも笑えるわ。卵だけは! 卵だけは! って泣きながら私に言ってた。おかげで余計にやりたくなって卵ぜ~んぶブッ壊してやったけど」
プツンと人型ドラゴンの線が切れた。
『きさまあああああああああああああああっ!』
怒りが限界を越えて、あるはずのない力を呼び起こす。
失った左腕を再生させ、人型ドラゴンはセレンに向かって吠えた。
『生きて帰れると思うな! きさまだけは刺し違えても殺す! きさまだけは絶対に!』
「あら? あなた怒ってるの?」
殺意をぶつけられたセレンは冷静だった。
しかし、人型ドラゴンの殺意を優に越える殺意を発する。
「図に乗るんじゃないわよ。怒りで気が狂いそうなのは私の方よ。よくもグロリアを刺したわね?」
メキメキと音を立てて、セレンの姿が変異していく。
それは徐々に人ではなく、竜の姿に。
『なん……だと!?』
「生きて帰れると思わないことね。家族に手を出したあなたは私を怒らせた」
★
セレンと人型ドラゴンが争う領域から逃げたカーティスは、出来るだけ離れた場所に身を隠した。
半壊した建物の内部だが、隠れるだけなら十分だった。
しかし担いできた祖父フォレッドが致命傷で、セレンに穿(うが)たれた胸部から血が大量に流れてしまっている。
オリハルコンかミスリルかは分からないが、鎧ごと貫かれている。
とんでもない威力だ。
カーティスはフォレッドを横にし、急いで包帯を取り出した。
だが傷が広すぎて、こんな包帯だけでは血が止まらない。
助かる見込みのない傷だった。
このままではフォレッドが出血多量で死んでしまう。
分かっているのにどうする事もできず、カーティスは必死に包帯を巻いた。
巻いても巻いても血が滲み出し、それは止まらない。
「カー……ティス……俺は、もうダメだ………………捨て置け」
「何言ってるんです! 祖父を置いていく孫なんていますか!」
「お、前も……気づいている、だろう? もう、手のほどこしようが……ない、ことを……」
「……っ!」
図星を突かれ、カーティスは言葉を無くしてしまった。
「しゃ……喋れる内に、喋って、おく。聞いてくれ」
「…………はい」
もう時間がないことをフォレッドは暗に示していた。
カーティスももはやどうにもならないと、内心で諦め、せめてとフォレッドの手を握る。
「セレンが、言っていたな。竜のセレンは、いずれ……ゼクードを探して、エルガンディを襲うだろう……そうなる前に……セレンを、止めてくれ……」
「……お婆ちゃんを、殺せと……?」
「それしか、方法はない。これはセレンの……セレンの願いでも、ある」
「……」
「頼むカーティス……あいつを、止めてやってくれ……自分の故郷を……燃やす、なんて、あいつには、辛すぎる……」
「…………くっ!」
返す言葉もなかった。
祖母セレンは、ドラゴンに身体を乗っ取られている最中でも意識があるようなことを言っていた。
つまりエルガンディを焼き尽くす光景を目の前で見せられてしまうわけだ。
こんなの、正気でいられるわけがない。
「本当に、すまない……俺がやらねば、ならないことなのに……本当に……すまない」
「……いえ。フォルス家の家訓は【家族には迷惑を掛けても良い】です。父さんが言っていました」
「そうか……ゼクードか。あいつが、父親……か。最後に会ったのは……いつだったかな…………会いたかったな……あいつにも」
フォレッドはポロリと大粒の涙を流した。
「お爺ちゃん……」
「カーティス……ゼクードに、伝えてほしい。『帰って来れなくて、一人にしてしまって、本当にすまなかった』と……」
「……必ず、伝えます」
「ありがとう……カーティス……俺は…………今…………幸せだ」
「え……」
「もっと…………惨めで…………孤独で………………死んでいくのかと、思っていた……」
「お爺ちゃん……」
「まさか……………………孫に……………………看取られ…………て…………死、ねる………………なん……………………て…………──」
「お爺ちゃん……っ!」
「──」
フォレッドの呼吸が止まった。
仮面越しでも分かる安らかな死に顔だった。
「お爺……ちゃん……っ!」
もっと話したかった……
父さんや、母さんたちに、会ってほしかった……
歯を食い縛るカーティスは、涙を流した。
もう泣かないと決めていたのに、堪えられなかった。
祖父の死に涙するカーティスなどお構い無しに、遠くから轟音が鳴り響く。
方角からしてセレンと人型ドラゴンが争っている場所だ。
「!」
物陰から身を乗り出してその方角を確認したカーティスは、目を大きく見開いた。
遥か遠くに見えるのは巨大な竜の影。
そして夜空を切り裂く蒼い火柱。
「あれは……っ!」
セレンのブレスか。
蒼い炎だとは聞いていたが、まさか本当に。
蒼い火柱が消えると、次に響いたのはセレンの咆哮だった。
鳥肌が立つほどの恐ろしい威圧感を覚える。
こんなに離れてるのに。
カーティスは見つかるまいとフォレッドを担ぎ上げ【ハーティシオ王国】の外へと逃げ、オフィーリアたちが戻っているであろう拠点を目指した。