【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「え……どしたのみんな?」
さすがに気になってゼクードは聞いた。
するとフランベールが。
「記憶……戻ってる?」
「え? ──……あ!」
ほ、本当だ……っ!
俺……俺っ!
記憶が戻ってる! いつの間に!?
分かる!
分かるぞ!
みんなの記憶がある!
「俺! 戻ってる! 戻ってるよみんな!」
「ゼクードくん!」
「あなた……良かったですわ……本当に!」
「もう戻らないかと思ったじゃないか……大バカ者!」
妻たちが堪え切れずに涙を流した。
「……ごめんよみんな。本当に」
釣られて涙が溢れてきたゼクードは、妻たちを一人一人優しく抱擁していく。
リリーベールは小さく微笑みながら、黙って分娩室を後にした。
残されたゼクードと妻たちは新しい命の誕生と、夫の記憶回復を祝って、互いに喜びを分かち合った。
ひどく長いこと妻たちには寂しい思いをさせた。
カーティスたちにも多大なる迷惑を掛けた。
グリータや陛下たちにも。
レイゼ姉さんたちにもだ。
またみんなに謝って回らないとな。
……ついさっきまで何もなかった自分が、記憶と共に取り戻した大切なもの。
たくさんの大切な人達に囲まれている自分を取り戻せた。
俺には……こんなにも大切なものが溢れている。
家族だけじゃない。
それを再確認できて良かった。
取り戻せて本当に良かった。
※
エルガンディ最強の黒騎士ゼクードが回復したことは、瞬く間に国中に広がった。
ある者が『エルガンディの双璧が復活した!』と歓喜し、それが火種となってあっという間にアスレイ陛下の耳にも届いた。
早急にアスレイは当の病院へ足を運んだ。
そこで時を同じくして会ったのは【南の領地】を管理する領主グリータ・ロードリーだった。
「陛下!」
「グリータ殿! あなたもゼクード殿の事を聞いて?」
「はい! 記憶が回復したとリリーベール嬢から話を聞いたので、居ても立ってもいられず………………陛下はお一人で?」
「うむ。私も居ても立ってもいられなくなって……」
「いや、せめて護衛の一人でも連れてきてくださいよ。危ないですよ」
「すまん。レミーさんには黙っておいてくれ」
「はぁ……」
「それでは入ろうか。ここにゼクード殿がいるのだな?」
病院内に数ある部屋。
その一つを指差すとグリータは「はい」と頷いた。
確認したアスレイは何度かノックしてから入ると──
「──じゃあこの子は【カレンティア・フォルス】って名前がいいんだな?」
ゼクードが聞くとベッドに座るカティアが赤子を抱き抱えながら「ああ」と頷いた。
「んでこの子は【オラージュ・フォルス】?」
「そうですわ」っとローエが赤子を抱きながら頷く。
「でこの子が【リィンベール・フォルス】か」
「うん」っとフランベールが赤子を撫でながら微笑む。
どうやらちょうど名付けが終わったところに出くわしたようだ。
「ゼクード殿!」
「ゼクード!」
「え? あ! グリータ! っと陛下!?」
「記憶が回復したと聞いたので」っとアスレイ。
「心配させやがってこの野郎!」っとグリータ。
「心配かけてごめん! もう大丈夫だから」
そう言うと安堵した様子を見せるアスレイとグリータは、ローエたちが抱く赤子を見た。
その赤子たちは母の腕で気持ち良さそうに眠っている。
「みなさん。ご出産おめでとうございます」
アスレイが言うと妻たちも「ありがとうございます」と返す。
「本当に無事に生まれて良かったよ。何年越しの出産になったんだこれ?」
ゼクードが言うとフランベールが「そのまんま18年越しだね」っと苦笑する。
「ホンット……やっと生んであげれましたわ……ごめんなさいねオラージュ……」
ローエが腕で眠る娘オラージュに囁く。
「いろんなムチャに付き合わせた。すまないなカレンティア……」
「もう絶対にムチャはしないからね。リィン……」
それぞれの妻たちが我が子に誓いを立てる。
見ていたゼクードも、黙ってはいるが思っていることは同じなのだろう。
本来ならこの子たちはすでに生まれて17~18歳くらいの若者に成長していたはずなのだから。
カーティス達の妹になる赤子たちだが、親くらいの年の差になっていて笑えない。が、氷漬けや母体の無茶な行動などを振り返ればよくぞ無事に生まれて来てくれたとは思う。
本当に無事に生まれて良かった。
★
出産も一段落付き、まだ動けないローエたちは赤ちゃんたちと共に病院で過ごす。
旦那のゼクードはもちろんやることがないので帰宅することになった。
また明日会いに来ると約束して、ゼクードはグリータと共に病院を後にした。
病院で時間をくったせいか、外はすっかり静かな夜になっていた。
月明かりが綺麗で夜道の視界も良かった。
なんだか久しぶりにも見えるエルガンディの夜道に、ゼクードは本当に記憶が戻ったことを改めて実感した。
「赤ちゃんも無事に生まれた。お前の記憶も戻った。あとはカーティスたちが無事に帰ってくるのを待つだけだな。きっと喜ぶぜ、あの三人」
隣を歩くグリータがそう言った。
ゼクードは頷き、少し苦笑する。
「そうだな……けど、また迷惑掛けたこと謝らないと」
「あんまり大黒柱がペコペコするのも考えものだけどな」
「それはそうかもしれないけど、迷惑掛けたことは事実なんだから。親しき仲にも礼儀ありって言うだろ?」
「ま、そこはお前らの問題だからな。オレは口出さねーよ」
会話がいったんそこで途切れ、ゼクードは甦った記憶を振り返った。
ドラゴンセレン。
カーティスたちが任務に当たっているドラゴンの名だ。
記憶を失っているときに聞いていた任務内容だが、このドラゴンセレンを今になって思い出した。
「……なぁグリータ」
「ん?」
「ドラゴンセレンの話なんだけど」
「ぁ、ああ……それか」
グリータが顔を少し曇らせるが、ゼクードは構わない。
「本当に、セレンって名前なのか?」
「オレが直接聞いたわけじゃないけどな。レグナたちの報告でそう言っていた。知らない騎士がそのドラゴンをセレンと呼んでたんだと」
「そっか……」
知らない騎士がそのドラゴンをセレンと呼んでいた、か。
ドラゴンに名前をつけるなんて、よぼど狂っていてもしないだろう。
しないだろうが、そのドラゴンが元は人間だったなら、有り得ない話ではない。
「いやゼクード? まだお前の母ちゃんって決まったわけじゃないぞ?」
「わかってるよ。けど──」
『フォレッドはこっちにはいないぞ。この大嘘つき者め』
『それから、セレンが消えた』
記憶を失っているときに見たあの時の夢。
あの夢の中で義母(ロゼ)さんに言われた言葉が蘇る。
「──今なら分かるんだ。夢の中で言っていた義母(ロゼ)さんの言葉の意味が」
「夢?」
「……信じてもらえないだろうけど、説明するよ」
ゼクードは夢で聞いたことをグリータに説明した。
ロゼのこと。
フォレッドのこと。
セレンのことを。
偶然にしてはタイミングが合いすぎていることも。
「おいおい……じゃあなにか? お前の父ちゃんは生きてて、母ちゃんは生き返ったって事なのか?」
「ああ」
確信があるわけではないが、ゼクードは頷いていた。
『セレンが消えた』と聞いてから数ヶ月後に現れたドラゴンセレンという名前。
『フォレッドはこっちにいない』と聞いてから数ヶ月後に現れたドラゴンをセレンと呼ぶ謎の騎士。
あまりにもタイミングが良すぎる気持ち悪さ。
胸騒ぎが止まなくなる。
もしかしたら、本当に俺の両親がまだこの世に存在しているかもしれない可能性があるから。
「そんな馬鹿な……人が生き返るなんて」
「でもグリータ。前に報告したエリザの件があるよ。有り得ない話ではないと思う」
「それはそうだが……じゃあ本当にドラゴンセレンの正体は【セレン・フォルス】って事なのか?」
「まだ憶測に過ぎないけど、タイミング的に間違いないような気がする。現に胸騒ぎがするんだ」
足を止めたゼクードは夜空を見上げた。
グリータも釣られて見上げる。
また残酷な現実が迫っているときに、夜空は無責任に綺麗だった。
何度も見たような夜空だ。
無責任で、俺たちが何をしようと関係なくて、本当に羨ましい。
カーティスたちも、今ごろこの夜空を見上げているだろうか?
「カーティスたちが無事なら良いけど……」
なんとなくフとゼクードはそう口にした。
対するグリータは小さく息を吐き、視線を空からゼクードへ移した。
「……そこはなんとも言えんがお前……どうするんだ?」
「え?」
「本当にドラゴンセレンの正体が母ちゃんだった場合、どうするんだ?」
そんなの愚問だ。
「倒すしかないだろう」
ゼクードの返しにグリータは虚を突かれたように目を見開く。
「即答だな。もっと迷うかと思ったのに」
「迷ってたら負けるからな。それに本当にドラゴン化してるならもう正気じゃない。母さんじゃないんだ。迷わずぶった斬るさ」
これもエリザの件のおかげで、ドラゴン化した人間の末路を知っているからこそ出来た回答だった。
ドラゴン化した人間を救うなら、むしろ早く倒すしかないのだ。
「そうか……やっぱりさすがだよゼクードお前は」
「……どっちかって言うと、そのドラゴンをセレンと呼んだ騎士の方が気になるな。父さんかもしれない」
父が生きている可能性がある。
それだけで胸が高鳴るほど内心では喜んでいたのだが、どこか妙な怒りも沸き起こっていて複雑な心境だったりする。
生きていたのなら、なんで帰って来てくれなかったのだろうか?
「【フォレッド・フォルス】か。オレたち世代の英雄だな。カーティスらの世代はお前だけど」
と、グリータがそんなどうでもいい世代の英雄について話すが、ゼクードはそれを華麗にスルーして話を続ける。
「……父さんだったらどうしようかな。なんで帰って来なかったのか、とことん問い詰めたいな」
「お前といっしょで雷くらって記憶でも失ってたんじゃないのか?」
「まさか。そんな何年も記憶が回復しないなんてことあるのか? 俺だって数ヶ月で治ったのに」
「いや数ヶ月かかってんじゃねぇか。それにお前の場合は運が良かっただけだろ」
運が良かった?
そうなのか?
まぁよく分からないが。
「まぁなんにせよ、本当に父さんなら一発くらい殴っても罰は当たらないよな?」
「ぉ、お前……目がマジで怖いって……」
「大丈夫だって。いきなり本気で殴るほど親不孝者じゃないって」
「いやそういう問題じゃない」
「とりあえず本当に父さんだったなら、俺の家族を見せたいな」
「!」
「俺はもう一人じゃない。こんなにもたくさんの家族がいるって、自慢したいな」
「ははは! そりゃいい! これ以上にない親孝行だな」
「だろ? ははは!」
……本当に生きてるなら会いたいな父さんに。
家族を自慢したいのはそうなんだけど、やっぱりもう一度会いたい。
会って話がしたい。
母さんも、父さんも、生きてるならもう一度だけ……