【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第310話【涙】

 夜が明けて、カーティスはテントの中で目を覚ました。

 

 無事に【第1拠点】へ着いて休んでいたカーティスは起きて、仲間たちを集めて整列させた。

 

 ここに来るまでにレグナやアルベールたち全ての仲間に今回の新王国炎上の元凶でもある【セレン・フォルス】の事は説明した。

 

 その【セレン・フォルス】を追っていたエルガンディの元英雄【フォレッド・フォルス】の事も。

 

 最初こそみんな戸惑っていたが、あの堅物で有名なカーティスが嘘を吐くなんて有り得ないと判断し、すぐに理解をしてくれた。

 

 グロリアの瞳の色が変わってしまった事も、祖母が助けてくれた結果だと説明し、深く追及するのを遠慮してもらった。

 

 ……つまり、今こうして目の前で整列している仲間たちはみんなカーティスたち【フォルス家】の内情を知っている。

 

 だからこそカーティスは、ずっと考えていた案をみんなに話すことにした。

 

 蒼天の真下に整列する仲間たちを見つめ、カーティスは意を決して口を開く。

 

「みんな聞いてくれ。これからこの【第1拠点】に残るのはオレとグロリアとレミーベールの三人に絞る」

 

 すると一瞬でみんなが驚きざわめく。

 

「おいおい! たった三人かよ!」

 

 目の前で立つレグナが驚愕するとカーティスは頷いた。

 

「ドラゴンセレンはオレたちの匂いを覚えている。それを辿って追ってくる可能性があるんだ。その可能性がある限りオレたち三人は【エルガンディ】への帰還はできない。ヤツを招いてしまう可能性があるからだ」

 

「待てカーティス! 本当に匂いで追い掛けて来た時どうやって討伐するんだ?」

 

 アルベールの問いにもカーティスは迷わず答えた。

 

「策ならある。だがこれはオレたち三人じゃないと危険な作戦なんだ」

 

 カーティス・グロリア・レミーベールの三人でないと危険な理由。それは──

 

「──まともに戦ってあのドラゴンを倒すのは難しい。だがヤツは血縁者に対して隙を見せる。その隙を突いて一撃で仕留める。それしか勝つ方法はないだろう」

 

 つまり不意討ち。

 騎士らしくない非情なやり方だが、相手が相手だ。

 手段は選んでられない。

 

 魔法大砲という手もあるが、輸送する時間はないだろう。

 

「……やっぱ本当に、あのドラゴンは【セレン・フォルス】なのか?」

 

 またもレグナが問う。

 カーティスは躊躇いなく頷いてみせた。

 

「説明した通りだ。その騎士の正体もオレたちの祖父【フォレッド・フォルス】だ」

 

 袋に包まれた祖父を指し、それをみなが見てざわめく。

 そのざわめきを打ち消すようにカーティスは話を続けた。

 

「……この件はオレたち【フォルス家】が片づけなければいけない問題でもある。そして1番片づけられる可能性があるのがオレたち三人なんだ」

 

「……失敗したらどうすんだよ」

 

「その時はレグナ。オレの父さんの記憶を何としてでも回復させてくれ。そしてオレたちに代わってドラゴンセレンを止めてほしい。そう伝えてくれ」

 

「おいカーティスお前……マジで言ってんのか?」

 

「大マジだ。騎士の仕事に絶対はない。だから頼む」

 

「……」

 

 黙り込んだレグナから視線を離し、カーティスはアルベールを見た。

 

「アルベール。どうか祖父の事を頼む」

 

「ああ。そこは任せてくれ」

 

 フォレッド・フォルスの遺体の事をゼクードや母さんたちに伝えてもらうのをアルベールには頼んでおいた。

 

 さすがにセレンによってレィナやリイドに怪我を負わされたレグナに頼めるはずもなかったからだ。

 

「さぁみんな【エルガンディ】へ向けて出発の準備だ」

 

 アルベールが号令を掛けると、みんなどこか重い足取りで動き始めた。

 

 

「カーティスさん!」

 

 話が終わるとまっすぐカーティスの元へ来たのはやはり妻のオフィーリアだった。

 

 来るだろうとは、予想していたが。

 

「オフィーリア……もういい加減『さん』付けで呼ぶのはやめたらどうだ?」

 

「無理ですよ。そんなことよりわたしも残ります!」

 

 やはりそう来たか。

 だがオフィーリアはもう妊娠している。

 作戦に参加していい状態じゃない。

 

「ダメだ」

 

「わ、わたしを一人にしないでくださいよ!」

 

「一人じゃないだろう? お前のお腹にはもう赤ちゃんがいるんだ」

 

「それはわかってますけど……わたし……」

 

「……まるでオレが帰って来ないみたいな言い草だな」

 

「……だって」

 

「いや、それくらいの気持ちで良いんだオフィーリア。オレもお前も騎士だ。いつ死ぬか分かったもんじゃない。だからそれくらいの気持ちで居てくれると、オレも助かる」

 

 お互いに騎士だから不安にもなるし、怖くもなる。

 だからオフィーリアの気持ちも凄く分かるのだ。

 

 帰って来ないかもしれない、という感情を抱いたオフィーリアは間違っていない。

 むしろちゃんと騎士の妻として覚悟ができている証拠でもある。

 

 オレは強く良い妻を持った。

 

「……お願いですから……死なないでくださいよ……」

 

「わかってる」

 

 泣き出したオフィーリアをカーティスはそっと抱き締めた。

 優しく頭を撫でてやる。

 

 オフィーリアの肩が震え続け、涙はカーティスの胸を濡らした。

 

「やっと……やっと結婚できて、赤ちゃんまで来てくれたんですから……」

 

「ああ、そうだな。ここで死んだらオレは……父さんより下だな」

 

 何がなんでも生きて帰りたい。

 オフィーリアと子供を置いて死ぬわけにはいかない。

 

 オレだって父親になりたいし、自分の子供を抱いてみたい。

 

 何よりここで死んだら帰って来ない分、父さんより酷い父親になってしまう。

 

 何がなんでも生き延びたい……だが、現実がそれを許してくれるか……

 

「だが……すまないオフィーリア。『必ず帰ってくる』なんて無責任な事は言わない。ただ全力を尽くす。それしか……言ってやれん」

 

「……わかってます。わかってますけど、わたしは……ずっと待ってますから……」

 

「ありがとう。オフィーリア」

 

 二人は抱き締め合ったまま、唇を重ねた。

 

 

【第1拠点】にある倉庫の裏で、グロリアは姉レミーベールと休んでいた。

 仲間たちが帰還の準備をする中で、人気の少ないここを選んだのはグロリアだった。

 

 座りやすい大岩に腰を下ろしたグロリアとレミーベールは、ただ呆然と青空を見つめていた。

 

 しばらくしてグロリアが口を開く。

 

「ねぇレミー」

 

「ん?」

 

「あんたも帰ったら?【エルガンディ】に」

 

「は? 何言ってるの急に?」

 

 怪訝な顔をしたレミーベールに、グロリアは視線を合わさず続けた。

 

「万が一、あんたに何かあったらアスレイ陛下が悲しむわ」

 

「!」

 

「ここはアタシとカーティスに任せて、レミーは帰還した方がいいわよ」

 

 そう言ったグロリアに対してレミーベールは大きく溜め息を吐いた。

 

「そんなこと出来るわけないでしょ。カーティスも言ってたじゃない。これは【フォルス家】が片付けなければいけない問題だって」

 

「違うわレミー。【フォルス家】の()()()、よ」

 

 思わぬグロリアの一言に、レミーベールは虚を突かれた視線を向けてきた。

 

 それでもグロリアは視線を合わせない。

 合わせないまま、真実を伝えた。

 

「それにさ……その……デキてるよ。レミーも」

 

「え?」

 

「赤ちゃん」

 

「は? 赤ちゃん?」

 

 言われたレミーベールは無意識に自分のお腹をさすった。

 なんでそんなことがわかるの? っとレミーベールが言いそうだったのでグロリアは先に口を開いた。

 

「アタシも……匂いで分かるようになったの」

 

 その言葉にレミーベールは目を限界まで開いた。

 

「匂いでって……まさかあなた!」

 

 グロリアは視線を合わさず、小さく頷いて肯定した。

 

「お婆ちゃんの血でアタシもドラゴンになっちゃったみたい……」

 

「!」

 

 レミーベールの額に汗が浮かび、それは頬を伝って下へ流れた。

 

「そんな……グロリア……あなた……」

 

「そんな顔しないでよ。お婆ちゃんだってアタシを助けようと必死だったんだろうしさ……」

 

「それは……」

 

「アタシもう人間じゃなくなったみたいなの。急に鼻が利くようになってさ。オフィーリアの匂いの違いも分かるようになっちゃった」

 

「匂いの、違い?」

 

「お婆ちゃんが言ってたでしょう? オフィーリアからは少しだけお父さん(ゼクード)の匂いがするって。あれよ」

 

「……ワタシにも陛下の匂いがするってこと?」

 

「うん。お腹から少しだけレミーの匂いじゃないのが混じってる。それが分かるの。2つの匂いを持ってる人間は妊婦だけみたい。他の人からはそんな別の匂いなんてしないわ」

 

「そう……なんだ……」

 

 レミーベールは新しい生命が宿っているらしいお腹をそっと撫でた。

 妹がドラゴン化してしまったが、お腹には陛下の子供が宿った。

 

 喜びたいのに喜べない。

 そんな心境なレミーベールに、グロリアは小さく笑う。

 

「だからレミー。あんたは帰りなさいよ。アスレイ陛下のためだけじゃないわ。お腹の赤ちゃんのためにも帰った方がいい」

 

「……」

 

「そのお腹の赤ちゃん。アタシたちの未来の国王かもしれないんだから」

 

「!」

 

 今更ながらレミーベールは気づいた。

 自分が身籠っている赤ちゃんの存在の大きさに。

 

 いつか【エルガンディ】を背負う子かもしれない。

 それを自覚した途端に、自分の身の重さにようやっと気づいた。

 

 事の重大さにやっと気づいたらしい姉を見て、グロリアはまたも小さく笑って話す。

 

「アタシとカーティスからすればその子は甥(おい)か姪(めい)になるんだもの。やっぱり優先して守りたくなるの。だからお願いレミー。ここはアタシとカーティスに任せて」

 

「グロリア……」

 

 ここでようやくグロリアはレミーベールと視線を合わせた。

 セレンの輸血によって変色したピンクの瞳がそこにある。

 

 ローエ譲りのエメラルドグリーンの瞳はもうない。

 人間だった頃の瞳は、もうないのだ。

 

 妹はもう人間じゃない。

 それでも、とレミーベールはグロリアの隣へ寄り添った。

 

「グロリア……あなたは帰ってくるのよね?」

 

「え?」

 

「もう人間じゃないからって、どこかへ行ったりしないわよね?」

 

「そ、それは……」

 

 ちょっと考えていた事だからグロリアは驚いた。

 いつか自分も、セレンのようになるかもしれないから、どこか一人で旅に出ようかと考えていた。

 

 人間とは関わらず、孤独に生きようかと……

 

「約束して。あなたも必ず帰ってくるって」

 

「……」

 

「グロリア!」

 

「無理よ!」

 

「な……」

 

「どうなるか分かんないもんアタシ……」

 

「グロリア……」

 

「お婆ちゃんのように人格が2つになって暴走するかもしれない。そうなったらみんなを危険に巻き込んじゃう。自分の手で、誰かを殺してしまうかもしれない。あんたかもしれないし、カーティスかもしれないし、お母さんたちか、お父さんかもしれない。そんなの怖くて無理よ!」

 

「……」

 

「だからアタシは……少しでも異変があったら、すぐに【エルガンディ】を出るわ。もう二度と戻らない」

 

「グロリア……」

 

「わかってよ! アタシの気持ち……」

 

 気づけば泣いていた。

 情けないと思いつつもグロリアは泣いてしまっていた。

 

 一人になるより、自分の手で家族を殺してしまうのが何百倍も怖い。

 

 怪我だってすぐに治ってしまうこの身体が、この先どうなるかなんて分からない。

 

 分からないからこそ怖くて仕方ない。

 

 誰にも理解されないであろうこの恐怖に、グロリアは今にも屈しそうだった。

 

 だがその時、レミーベールがそっとグロリアを抱き締めてきた。

 

「あ……」

 

「…………うん。分かるわ。ごめんなさい」

 

「姉さん……」

 

「ごめんねグロリア……1番怖いのは……あなたよね……ごめん……」

 

「姉……さん……」

 

「ごめんねグロリア……ワタシじゃ……ワタシじゃなにも解決してあげられない……こんな事しかできなくて…………ごめんなさい」

 

「…………ううん。ありがとう姉さん……大好き」

 

 グロリアもレミーベールも、どちらも大粒の涙を流していた。

 どうしようもない現実に絶望しながら、それでもとぬくもりを分け与えて、涙を受け止め合って……

 

 そんな姉二人の事を、陰ながらカーティスは見ていた。

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