【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第311話【姉さんのお願い】

 その後カーティスとグロリア以外の仲間たちは、準備を整えて【エルガンディ】へ向けて出発した。

 

 それを見送ったカーティスとグロリアは【第1拠点】で二人きりとなる。

 

 仲間たちのざわめき一つない静かな拠点と化した。

 数時間前はガヤガヤとうるさかったのに。

 

 しばらくして日が暮れて、美しい夕日をカーティスはグロリアと眺めていた。

 虫が鳴き始め、そよ風がグロリアのツインテールを靡かせる。

 

「レミーも……オフィーリアも……みんな行っちゃったね」

 

「ああ」

 

 大岩に腰を下ろすカーティスが頷いた。

 先のグロリアとレミーベールのやりとりを見てきたカーティスは、もの寂しげに空を見上げるグロリアを見つめる。

 

 グロリアは……どうやら鼻が利くようになっていたらしい。

 

 それでレミーベールの妊娠に気がつき、カーティスにレミーベールも帰還させようと相談された。

 

 いつの間にか妊娠していたレミーベールにも驚いたが、まさかその妊娠させた相手がアスレイ陛下とは。

 

 やる時はやる男なのだなと、内心でアスレイ陛下を見直した。

 

 妊婦ならばこの作戦に付き合う必要はないと、カーティスはグロリアの提案を許可した。

 

 レミーベールもオフィーリアと共にエルガンディへ帰還させる。

 

 レミーベールもオフィーリアも、次の世代を担う大切な命を授かっている。

 

 オフィーリアと自分の子供は、もしかしたら未来のエルガンディを守る最強の騎士になるかもしれない。

 

 レミーベールとアスレイ陛下の子供だって、未来のエルガンディを担う次世代の国王となる子供かもしれない。

 

 子供は可能性の塊だ。

 何より優先して守るべき者だろう。

 だから二人が【フォルス家】であろうと、帰ることに異論はない。

 

 だが……オレがいま本当に悩んでいるのはグロリアの方だ。

 

 あいつはどうすればいい?

 

 どうすれば助けてやれるんだ?

 

 人型ドラゴンに刺され、一度は死んだグロリアは、セレンの輸血によって生き返った。

 

 その代償として……グロリアは人間ではなくなったらしい。

 

 妊娠を見分けるほどの嗅覚と、人間ならば即死のケガを治癒する再生能力を得た。

 

 本当にセレンと同じようになってしまったのだ。

 

 だとすると……グロリアはいつかセレンと同じく二重人格となるのだろうか?

 

 ドラゴンに変身してしまうのだろうか?

 

 王国を焼き付くすほどのドラゴンに、なってしまうのだろうか?

 

 なにか……なにか助ける方法はないのだろうか…………

 

「……ねぇカーティス」

 

「! なんだ?」

 

「隣……いいかな?」

 

 目の前に立つグロリアがカーティスの隣を指差す。

 なぜ急に隣に座ろうと思ったのかは分からないが、こんな寂しそうな顔をしているグロリアを放ってはおけなかった。

 

「ああ」

 

「え……いいの?」

 

 よほど意外だったのか、聞いた本人のグロリアが一番驚いていた。

 確かにいつもなら断っていただろう。

 うるさいし、やたらベタベタしてくるからだ。

 

 でも今は……なんだか、残り少ない姉との時間な気がして……

 

「構わない」

 

「……ありがとう」

 

 するとグロリアはカーティスの隣に腰を下ろした。

 共に大岩に座り、グロリアは肌が当たるほど密着してきた。

 

 まるで人肌が恋しくなったかのように。

 

 お互い鎧さえなければもっとぬくもりを感じ合えるのだろうが、場所が悪い。

 

「えへへ……オフィーリアに怒られるかも」

 

「そうだな。あいつはすぐ早とちりするからな」

 

「ふふ……そこが可愛いんだけどね。あの子」

 

 小さく笑ったグロリアは、カーティスの手に自分の手を重ねた。

 これもまた人肌を感じようとしているグロリアの行動だった。

 

 グロリアもおそらく人間でなくなっていく自分を自覚して、カーティスのぬくもりを自分の手に焼き付けようとしているのかもしれない。

 

 カーティスは重ねられたグロリアの手を逆に握り返してやった。

 まだ暖かい人としてのぬくもりを持つグロリアの手。

 

 握り返されたグロリアは少し驚きつつも頬を赤くしてカーティスを見つめ、察してくれた弟に「ありがとう」と小さな声で感謝した。

 

 グロリアはカーティスの肩に顔を寄せて身を任せた。

 まるで恋人のようにベッタリと。

 

 こんな大胆な事をしてくるグロリアは初めてだが、それだけ彼女は精神的に追い詰められているのだと察した。

 

 カーティスはグロリアの肩を抱き寄せた。

 

「あ……カーティス……」

 

「……グロリア」

 

 肩を抱かれて身を任せる女。

 女の肩を抱いて自分に寄せる男。

 端から見れば誤解しかされないだろう。

 

 でもこれは……最後になるかもしれない姉弟のふれあいなのだ。

 あまりにも悲しく、やりきれない気持ちが沸き立つ。

 

「守ってやれなくて…………すまなかった」

 

 掠れるような小さな声でカーティスは言った。

 それを聞いたグロリアは首を振る。

 

「……ううん。悪いのはアタシよ。カーティスがダメって言ったのに騎士になったから。だから、謝るのはアタシの方。……ごめんね。こんなことになって」

 

「……」 

 

「ねぇカーティス……もしアタシがお婆ちゃんみたいにおかしくなったら、アタシの首……斬ってほしい」

 

「!」

 

 今までの人生で、これほど残酷な言葉を聞いたことはない。

 カーティスは思わず目を限界まで見開いてしまい、耳さえも疑った。

 

「誰かを襲う前に……お願い」

 

 当のグロリアは冗談を言っている気配が微塵もなかった。

 

 確かに自分のせいで誰かが死んでしまうのは考えただけでも恐ろしい。

 もしそれが家族だったりしたら……もう取り返しがつかない。

 気が狂ってしまう。

 

 だけど……こんな……こんな事を姉に頼まれる日がくるなんて……

 

 オレは今、人生のドン底にいるような気分だ……

 

 何を聞かされてるんだオレは……

 

 夢なら覚めてほしい……こんなの悪夢どころじゃない。

 

 地獄そのものだ……

 

「………………勘弁…………してくれ」

 

 堪えていたカーティスはついに涙を流してしまった。

 

「お婆ちゃんを斬るのも辛いのに…………お前まで斬らなきゃならないのか…………オレは…………」

 

「…………ごめん。本当に……」

 

 グロリアもそれしか言えなかった。

 今さらもうどうにもならないから。

 暴走したグロリアをちゃんと止めてくれそうなのはカーティスしかいなかったから。

 

「泣かないでよカーティス……アタシの中でのカーティスは、無敵の存在なんだからさ……」

 

「無理言うな…………お前は……オレの大切な……大切な姉なんだぞ」

 

 絞り出すように放ったカーティスの言葉に、グロリアは目を丸くして、それから微笑んだ。

 

「ありがとうカーティス。でも大丈夫。この件が無事に片付いたらアタシ……旅に出ようかなって思ってるから」

 

「……旅?」

 

「うん。だから絶対じゃないの。この件が片付く前にアタシがおかしくなったら首を斬ってほしいってだけよ」

 

 そうじゃない……首を斬るのも嫌だが、お前がいなくなってしまうのも嫌なんだよ。

 

 …………これを言ってもグロリアを困らせるだけだろうか……

 

「……旅って、どこへ行くつもりなんだ?」

 

「わかんない。人のいないところかな。正気を失って誰かを襲いたくはないもん」

 

「グロリア……」

 

「でも今、ちょっと嬉しいかも」

 

「なんでだ?」

 

「大切な姉って、言ってもらえたから」

 

「!」

 

「カーティスって基本的には冷たいじゃん? アタシやレミーに。……だから嫌われてるのかと思ってた」

 

「そんな訳ないだろう」

 

「もうちょっと素直に優しさを見せてくれれば良いのに」

 

 素直に、か。

 これでも嘘を吐いてきたつもりはないんだがな。

 

「ぁ、怒った?」

 

「べつに。だが言っておくがなグロリア」

 

「?」

 

「オレは一秒たりともお前たちを想わない日はなかった」

 

「!?」

 

「今だって、代わってやりたくて、しょうがない……」

 

「カーティス……」

 

「なぁグロリア。お前の血をオレに輸血したら、オレも……」

 

「それはダメ!」

 

 激しい剣幕で言われ、さすがのカーティスは驚いた。

 グロリアが本気で怒ったのだ。

 

「アンタはこっちに来ちゃいけない。オフィーリアと赤ちゃんの事を考えて」

 

「グロリア……」

 

「あと今後はもう呼び捨て禁止。アタシの事は姉さんって呼びなさい」

 

「なに?」

 

「姉さんって呼んで。お願いカーティス」

 

 なんで今さら呼び捨てが禁止になるのか。

 分からないが、姉の最後の願いになるかもしれない。

 それを拒否する気にはなれなかった。

 

「……わかったよ。姉さん」

 

「ふふ、ありがとう」

 

 まだ暗い影は残っているが、グロリアは先程より明るくなっていた。

 

 それからしばらく……グロリアが満足するまで密着していた。

 

 夕陽に染まる空を共に見上げ、残り少ないかもしれない姉弟の時間を堪能した。

 

 だがその時、どこからともなくドラゴンの咆哮が聞こえてきた。

 しかも複数。

 

 ハッとなったカーティスとグロリアは身を離して屈み、耳を澄ました。

 

 またも鳴り響くドラゴンの咆哮。

 少しずつ近づいてきている。

 先程より近い。

 

「この声……お婆ちゃん!?」

 

 いきなりグロリアが言い出した。

 

「お婆ちゃんだと!?」

 

「た、大変よカーティス! お婆ちゃんが親子を襲ってる! 助けないと!」

 

「親子!?」

 

 どういうことだ!?

 人間の声なんて聞こえなかったぞ!?

 

「カーティス急いで! こっち!」

 

 グロリアが走り出し、カーティスは考える間もなく彼女に追走した。

 

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