【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
日はとうに沈み、月がのぼっていた。
どれだけの時間を自分はカーティスに慰めてもらっていたのだろう。
そんなことを脳の隅で考えながらグロリアはカーティスと共に先ほどの
先ほど聞こえた声は【男の声】と【少女の声】だった。
女の子の方はパパと叫んでいたから親子で間違いない。
セレンの声もハッキリ聞こえた。
『逃がさない』って言ってた。
早く親子を助けないと殺されてしまう。
なぜこんなところに人間の親子が居るのか疑問だが、もしかしたら【ハーティシオ王国】を逃げ延びた生存者かもしれない。
そこへたまたま通り掛かったセレンに見つかってしまったのだろう。
とんでもない不運だ。
何がなんでも助けないと!
お願い!
間に合って!
「姉さん! 親子が襲われてるってなんで分かるんだ!」
こんな時に後ろのカーティスが変な質問をしてきた。
なんでって、むしろなんで分からないの!?
「え!? さっきの声聞こえなかったの!? 男の声と女の子の声だったでしょ!? 女の子はパパって言ってたわ!」
「そんな声オレには聞こえなかったぞ!?」
「はぁ!?」
「聞こえたのはドラゴンの咆哮だけだ! 聞き間違いじゃないのか!」
ドラゴンの咆哮だけ!?
そんなバカな!
むしろドラゴンの咆哮なんて聞こえなかった。
ハッキリと人間の声だった。
【セレンの声】と【男の声】と【少女の声】。
どうしてカーティスに聞こえなかったのか。
「こんな時に何言ってんのよ! ドラゴンの咆哮なんてむしろ聞こえなかったわよ!」
「なに言って……。っ! 姉さん! 居たぞ!」
「!」
【第1拠点】から少し離れた草原にてセレンは居た。
彼女が今にも襲おうとしている者の正体……それは
、あまりにも予想外だった。
『リィ! お前は一人で逃げろ! 俺が時間を稼ぐ!』
『やだ! パパも一緒に来てよ! 一人にしないで!』
【男の声】の正体はあの【人型ドラゴン】。
漆黒の鱗を持つ二足歩行のドラゴンだった。
あの時グロリアを刺し殺した張本人である。
そして【少女の声】の正体は、その人型ドラゴンに庇われている小さな緑色のドラゴンだった。
おそらくC級クラスのベビードラゴンだろう。
な……なんで?
なんでアタシ……ドラゴンの声が!?
ハッキリと聞こえたのだ。
人間ではないドラゴンの言葉が。
まさかこれもドラゴン化の影響なの!?
心臓がバクつく。
冷や汗が流れる。
カーティスだけ聞こえてなかった理由が分かった。
アタシの耳がおかしくなってるんだ……
嘘……ドラゴンの言葉が分かるなんて……
凄い事なのに、とんでもない絶望感がグロリアの胸の奥に広がった。
どんどん人間離れしている自分に恐怖している。
「あの人型ドラゴンまだ生きていたのか! おい姉さん! 親子はどこだ! あいつらがやり合っている間に助けるぞ!」
「……」
「……姉さん? どうしたんだ?」
「ごめん……勘違いしてたみたい……」
「なに?」
「親子の声……あの二匹の声だったわ……」
「なんだと!?」
カーティスが驚愕し、グロリアを見た。
何かを言おうとしたカーティスだったが、それよりも先にセレンがこちらに気づき目を丸くした。
「カーティス! グロリア! こんなところに居たのね! ずっと探してたのよ!」
思わずグロリアとカーティスはビクリと全身を震えさせたが、当のセレンは本当に嬉しそうに笑っていた。
それを見たグロリアとカーティスは心底ホッとしていた。
まだ敵対されていない。
これならまだ付け入る隙はある、と。
祖母を相手になんて思考をしているんだと己を責めたくもなったが、そんなことを言ってられる相手でもない。
「急にみんな居なくなるんだからもう! 一人にされて寂しかったんだからね!」
頬を膨らましてプンプンと怒るセレンに殺意はない。
本当にただ純粋に怒っているだけだった。
『くそ……こんな時にあの赤いヤツまで……』
人型ドラゴンがカーティスを見て歯を食い縛った。
『パパ……一緒に逃げようよ……』
リィと呼ばれていた緑のベビードラゴンが泣きそうな声でそう言うと、
セレンがギュルンとその二匹を視界に捉えた。
「逃がさないって言ったでしょう?」
不敵に嗤ったセレンは片腕を突き出した。
すると青い炎の閃熱が弾け、それは人型ドラゴンに直撃する。
かなりの距離を開けてなお凄まじい烈風がグロリアとカーティスに吹き荒れ、フル装備の身体を後退させられた。
そんな凄まじい破壊力を秘めた青い炎を避けもせず人型ドラゴンは受け止めていた。
後ろに娘のリィがいるせいで避けられなかったのだろう。
しかし人型ドラゴンのダメージは少ない。
多少の煙は上がったが、竜鱗に対して炎のダメージはまったく通っていない様だった。
人間とは比べ物にならない炎耐性である。
「ほんっと……あなたって火の通りが悪いわね。厄介なヤツ」
『……リィ。いつまでそこにいるつもりだ? さっさと逃げろ』
『やだ! やだ! やだよ! パパと一緒じゃなきゃやだ!』
『……この、バカが!』
次の瞬間!
人型ドラゴンは自分の娘を蹴り飛ばした。
『きゃう!』
かなり本気で蹴ったらしい。
リィは遠くの草むらにブッ飛んで見えなくなった。
「あいつ! 子供を蹴ったぞ! なんてヤツだ!」
カーティスは怒りを露にするが、会話を聞いていたグロリアには、あの人型ドラゴンの行動は理解できた。
さすがに蹴るのはやりすぎだと思ったが、ああでもしないとあの子は離れなかっただろうし、人型ドラゴンも満足に動けずやられていただろう。
一見非道だが、理にかなったやり方ではあった。
「あらあら……自分の娘を蹴るなんて。それでも親なの?」
『黙れ』
話すことはないと言わんばかりに人型ドラゴンは戦闘態勢をとった。
対するセレンは嘲笑う。
「忘れたのかしら? あなた私に負けたはずよね? なんでまだ逆らうのかしら?」
人型ドラゴンは答えず、地を蹴り一瞬でセレンとの間合いを詰めた。
それは音速にも等しく、その速度を乗せた爪の薙ぎ払いはセレンの頬を掠めた。
しかし!
『ぶっほぉあっ!?』
次の瞬間には人型ドラゴンが腹部をヘコまされ吹き飛んでいた。
「え!?」っとグロリアは驚愕してしまった。
隣のカーティスも「速い!」っと声を漏らす。
それほどまでに速いセレンの反撃。
だが人型ドラゴンも宙を回転し、すぐさま受け身を取って態勢を整え──
「遅いわね」
──すでにセレンが目前に!
『!』
気がついた時にはセレンに蹴られ、大きく吹き飛ばされていた。
大岩に激突した人型ドラゴンは、その大岩さえ粉々にするほどの威力で叩きつけられた。
『がっはっ!』
『パパ! パパァアアアアア!』
草むらから飛び出して来たのは先ほど蹴り飛ばされていた子供のドラゴン『リィ』だ。
リィは倒れた人型ドラゴンに泣きながら駆け付ける。
そんな無防備なリィを視界に捉えたセレンはまたも笑う。
それを見たグロリアは寒気が走った。
まずい!
あの子殺されちゃう!
なんで出てくんのよ!
相手はドラゴンなのにグロリアはそんなことを考えてしまっていた。
声が聞こえるせいだ。
子供の泣き声は心臓にズドンとくる。
ドラゴンだから助ける義理なんてない。
ましてや自分を殺したドラゴンの子供なら尚更。
『パパ! パパァ! お願い死なないで!』
『ぐ……リィ! この、馬鹿ガキが! ……逃げろと、何度言えば分かるんだ!』
『だって! だって!』
泣きじゃくるリィに、セレンが彼女の首根っこを掴んだ。
『きゃう!』
『おいよせ! そいつは関係ない!』
「何が関係ないのかしら?」
『お前の狙いは俺だろう! 殺すなら俺だけを殺せ!』
「あなたも殺すし、この子も殺すわ。言うこと聞かなそうだしね。この子」
『き、きさまっ!』
起き上がろうとする人型ドラゴンだが、セレンに肩を踏まれてまた地面に押し戻された。
『ぐあっ!』
『パパ!』
「……そういえば、あなた私の目の前で娘を刺してくれたわね?」
ギラリとセレンの爪が光った。
リィを持ち上げ、その爪を首に突き立てる。
『ぉ、おい待て! よせ!』
「あなたにも味わわせてあげるわ。娘を殺される痛みをね!」
『殺すな! 俺をやれ! やめろ! やめてくれえええええええええええええええええ!』
人型ドラゴンの悲鳴が夜空に響いた。
振りかざされたセレンの爪が、リィの首を──
──吹き飛ばす前にグロリアの鉄拳がセレンの頬をぶん殴っていた!
「な!?」
『に!?』
カーティスと人型ドラゴンが目を限界まで見開く。
『……!!?!?』
何をされたか理解できずにセレンは吹き飛んだ。
その際リィが解放され、グロリアの胸へと落ちてくる。
それをキャッチしたグロリアは一瞬の間を置いて、ドッと冷や汗を流し始めた。
やっちゃった……