【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
やっちゃった……
祖母セレンを殴ったこと。
見捨てればいいはずのリィを助けてしまったこと。
これで不意打ち作戦はパーになってしまったこと。
あらゆる後悔がグロリアの胸に一気に押し寄せてきた。
そんな中グロリアに抱き止められたリィが赤い目を丸くして見つめる。
カーティスと人型ドラゴンも口を開けて止まってしまっていた。
当のセレンはかなりの距離をブッ飛ばされ、草原の奥で大の字で倒れている。
今のパンチで死んだとは思えない。
だが、グロリアの予想以上に吹き飛んでいる。
慌てて割り込んで殴ったから、ほぼ本気のパンチになってしまっていたが、ここまで吹き飛ぶとは。
セレンがやたら軽いのか?
それとも、アタシの身体が強くなった?
セレンの血で強化された?
妙に身体が軽いとは思っていたが、まさか……
「な……何やってんだ姉さん!」
さすがのカーティスが怒声を張り上げた。
思わずビクついてしまったグロリアだが、カーティスが怒るのも無理はないと分かっていた。
ドラゴンの声が聞こえないカーティスからすれば、グロリアの行動はあまりにも不自然だからだ。
だけど、わかるけど、そんな怒鳴らなくたって……
ドラゴンでも……悲鳴が聞こえたら無視なんてできないわよ……
泣きそうなる感情を押し殺し、グロリアは弟に言い返した。
「怒らないでよ! アタシだってやりたくてやったわけじゃないのよ!」
そのグロリアの叫びに驚愕したのは人型ドラゴンとリィだった。
『喋った!?』
人型ドラゴンはそう言って立ち上がりグロリアを睨む。
『お前、人間じゃないのか!?』
人間じゃないのか?
アタシが?
アタシは……
「アタシは人間よ!」
口では強く返したが、心ではもう人間であることを諦めてる自分がいる。
今まさに人型ドラゴンと会話している時点でもう否定さえできない。
「誰のせいでこんな…………ぁあもう!」
頭に血が上ってリィを投げたくなったが、それをグッと堪えて地面にソッと置いた。
置かれたリィは逃げるように人型ドラゴンの元へ走っていく。
『パパッ!』
『リィ……良かった……』
人型ドラゴンは安堵した表情を見せ、リィを優しく撫でた。
やはり彼にとってリィは大切な娘だったんだ。
それもそうか……でなければ自らを犠牲にしてでもリィを逃がそうとはしないはず。
「姉さん! 下がれ!」
「っ!? あ、カーティス!」
『! リィ……下がっていろ』
『え……パパ!?』
グロリアとリィを下げた男二人が向き合う。
カーティスは長剣を構え、人型ドラゴンは爪を光らせた。
凄まじい殺気を互いに発している。
このまま黙っていれば戦いになる。
人間とドラゴンなら対立は仕方ないが……
これは、止めるべきではないだろうか?
自分は今、ドラゴンの言葉が分かる。
人間も言葉も分かる。
カーティスと人型ドラゴンの通訳ができる。
この人型ドラゴンはセレンを敵としている。
カーティスもセレンを倒そうとしている。
共通の敵を持っているんだ。
カーティスの実力は知っている。
そしてこの人型ドラゴンの強さも知っている。
この二人が力を合わせれば、あのセレンも倒せるかもしれない。
そして何より、この二人を共闘させる術(すべ)を自分だけが持っているとしたら……!
「ま、待ってカーティス! お願い待って! 戦わないで!」
グロリアは慌ててカーティスと人型ドラゴンの間に割って入った。
本来は自殺行為に等しいだろうが。
「何を言ってるんだ! 下がってろ! 邪魔だ!」
『おいキサマ……娘を助けた礼だ。お前だけは見逃してやる。そこをどけ』
カーティスと人型ドラゴンに挟まれながら言われたグロリアだが、負けずに言い返す。
「話を聞いてカーティス! アタシはこのドラゴンの言葉が分かるの!」
「……っ! な、なんだと!?」
「本当なの! さっきあの子供ドラゴンを助けたのだって、このドラゴンの悲鳴が聞こえたから見捨てられなかったのよ!」
グロリアの冗談ではない声音に、カーティスは額に汗を流した。
カーティスは信じられないと言った顔をしているが、当の人型ドラゴンもグロリアの言葉を聞いて驚いていた。
『声が聞こえただけで……なぜリィを助けた?』
「……ドラゴンのあんたには分かんないかもしれないけどね。アタシたち騎士はみんな誰かの悲鳴を見捨てたりはしないの」
『……きし?』
「ああもう! 説明が面倒だからそこは人間でいいわよ!」
そんなやりとりをするグロリアと人型ドラゴンを見たカーティスは、本当に姉と人型ドラゴンが会話していること分かった。
あの凶悪な人型ドラゴンが、グロリアに一切の殺気を見せなくなっている。
いつの間にか戦闘態勢も崩している。
それがカーティスの中で決定打となった。
グロリアは本当にドラゴンの言葉が分かるのだと。
理解した途端、グロリアが遠い存在になったような気がして、言葉にならない本当の絶望感のようなものを感じた。
「姉さん……本当に言葉が?」
カーティスに確認するように問われ、グロリアは顔を暗くして頷く。
「アタシもう……本当に人間じゃないみたい。ごめんね」
「姉さんが謝ることか! だいたい姉さんがそうなったのはコイツが!」
『!』
「待ってカーティス! 今は──」
言う前に、グロリアたちに巨大な影が覆った。
月光を遮ったそれの正体は桃色の竜鱗に覆われたドラゴンだった。
巨大な翼はピンクの膜を光らせ、大きな口からは蒼い炎を零れさせる。
それは紛れもなく報告にあったドラゴンセレンの姿であり、先ほどのセレンがドラゴン化した姿だった。
凄まじい怒気を発しており、あのカーティスと人型ドラゴンでさえ身体を硬直させた。
『ねぇグロリア…………なんでわたしを殴ったの?』