【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第314話【激昂のセレン】

『ねぇグロリア…………なんでわたしを殴ったの?』

 

 セレンの怒りの桁が違う。

 それは彼女の声音と、全身から発せられる怒気によって分かった。

 

 グロリアは全身の震えが止まらなかった。

 ドラゴン化したセレンの顔が今目の前にある。

 顔だけでも自分の倍くらいある大きさだ。

 

 口を開ければ一口で食われるだろう。

 その口からは熱気が凄まじい蒼い炎も漏れている。

 この距離でも火傷しそうな熱だ。

 

 ドラゴン化したセレンのピンクの瞳が凄まじく鋭利になってグロリアを睨んでいた。

 その恐怖は心臓をバクつかせた。

 

「ち、ちがっ! 違うの!」

 

『何が違うの?』

 

「お、お婆ちゃんが……」

 

『お婆ちゃん?』

 

「あ、違う! お母さんが!」

 

 そうだった!

 このセレンはアタシのことを娘だと勘違いしてるんだった!

 ややこしい!

 

「ぉ、お母さんがアタシの獲物を横取りしようとするから……殴っちゃったの!」

 

 咄嗟に思い付いた言い訳がそれだった。

 我ながらなかなかの言い訳なような気がする。

 

『獲物? 獲物ってまさか、その子供の事?』

 

 リィの事を言っているようだが、グロリアは人型ドラゴンの事も含めていた。

 

「両方! あっちもこっちもアタシの獲物なの! アタシこいつに一回殺されたのよ? 仕返しさせてよ」

 

『だったら口で言いなさいよ! なんでわたしが殴られなきゃいけないのよ! 凄く痛かったんだからね!』

 

 さらに怒気を増してセレンが怒鳴ってきた。

 泣きそうになるほどの恐怖を感じたグロリアは一気に縮こまる。

 

「ご……ごめんなさい……」

 

『次こんなことをやったらどうなるか分かってるんでしょうね! その腕の一本でも食いちぎってやるんだから!』

 

 やばい……このセレンは冗談さえ通じない。

 本気で言ってる。

 次やったら本当に腕を食いちぎられる。

 怖い。

 

『グロリア! 返事は!』

 

「は、はい!」

 

『まったく……ほら、そこをどきなさい』

 

「え……?」

 

『そいつらを料理するわ。三人で食べましょう』

 

 そいつらって……まさかリィとこの人型のこと?

 そんな……

 

「ま、待ってお母さん! こいつらはアタシの獲物──」

 

『誰に向かって言ってるのグロリア?』

 

 静かな声で、セレンは言った。

 怒気ではなく、それはもはや殺気と呼べるものを纏って。

 

 グロリアは全身を戦慄させ、畏怖した。

 

「ひ……っ!」

 

『グロリア……あなた上下関係が分かってないみたいね』

 

 ドラゴンの上下関係。

 ドラゴンは自分より弱い奴には絶対に従わない。

 セレンはグロリアよりも強い。

 だからこんなに何も聞いてくれない。

 

 忘れていたドラゴンの習性を思い出し、ドッと汗が浮かんだ。

 逆らえばどうなるか、今になって後悔した。

 

 刹那、そのセレンの巨大な手で全身を掴まえられた。

 

「あぐっ!」

「姉さん!」

 

 ギジギジと力を込められ、グロリアの全身の骨にとんでもない圧力が掛けられていく。

 

「ああああああ! や、やめてお母さん! 痛い! 痛いぃいいいいい!」

 

 しかしセレンは聞く耳を持たなかった。

 力を込めるのをやめるどころか、さらに力を込める。

 そしてついにグロリアの全身の骨が一斉にへし折れた。 

 

「ひぎい!? あぎあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

「姉さん! キサマああああああああ!」

 

『んふ、大丈夫よカーティス。少し痛い思いをさせただけ。骨ならすぐに治──』

 

 ダン!

 

 グロリアを掴んでいたセレンの手首が吹き飛んだ。

 カーティスの【真・竜斬り】が炸裂したのだ。

 切り落とされた手からグロリアが解放されたが、グロリアは血を吐いて白眼を剥いており、各関節が有り得ない方角に向いている。

 

 それを見たカーティスは眼孔を全開にし、腹の底から怒声を張り上げた。

 

「この化け物が! もう許さん!」

 

『カーティス……! あなたまで!』

 

 怒ったのはカーティスだけではない。

 セレンも怒り、その巨大な腕をカーティスへ振り下ろす。

 

 それを寸前でかわしたカーティスは伸びきったその腕を這うように疾走。

 

【気】を極限にまで纏わせた長剣による一秒にも満たない連続斬り。

 その猛攻はセレンの巨腕全部から鮮血を舞わせた。 

 

『ぐ、カーティス! お前ええええええ!』

 

 怒りを露にしたセレンはカーティスを視界に捉えた。

 だがすぐにその視界は赤く染まって暗闇となった。

 

『あ、ああああ! 目がああああああああ!』

 

『油断したな!』

 

 セレンの目をやったのは人型ドラゴンだった。

 カーティスが作った隙をついて彼が動いていた。

 

『この……この…………虫けら共がああああああああああああああああああああああ!』

 

 視界を奪われたセレンは怒声と共に暴れ出した。

 

「くっ!」

『ちっ!』

 

 セレンを攻撃していたカーティスと人型ドラゴンは彼女から離脱する。

 

『カーティス! グロリアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

 血縁者の名前を怒りのままに叫び暴れ回る。

 すると彼女の翼膜からピンクの光が胞子のように放射され、それらが地面に落ちると瞬時に爆発を起こした。

 

 そういえばそんな能力もあるって報告にあったな。

 カーティスは今さら思い出した。

 

 轟音に継ぐ轟音が重なり、大地を激しく揺さぶる。

 

 カーティスは爆発を回避しながら倒れたグロリアの元へ走った。

 

「姉さん! 待ってろ! 今!」

 

 カーティスがグロリアの元へ着いた瞬間……大地に大きな亀裂が走る。

 

「!?」

 

 巨大なドラゴンのまま暴れるセレンと、翼膜から発せられるピンクの爆撃に耐えられなくなったようだ。

 

 慌ててグロリアを抱き抱えるも時はすでに遅かった。

 大地が割れてカーティスとグロリアと人型ドラゴンとリィとセレンはみんな谷底へ落ちてしまった。

 

「うわああああ! くそっ! こんなところで!」

 

 嘆き、落ちながらもカーティスはグロリアを守るようにしっかりと抱き締めた。

 姉の頭を自分の胸に包み込みながら、カーティスは暗い谷底へと消えていった。

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