【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第317話【娘の涙】

 それから少し経った。

 フォレッドを土に還したゼクードは、ローエたちと共に黙祷を捧げる。

 

 本来なら……この俺の後ろに並ぶ妻達をフォレッドに見せたかったが、もはや叶う願いでもない。

 

 ただひとつ言うなら『おかえり』だろうか。

 

 故郷である【エルガンディ】の土で、どうか安らかに……

 

 

 全てが済んで、落ち着いてから【フォルス家】の実家にみんな集まった。

 

 みんなと言っても、そこにカーティスとグロリアの姿はない。

 

 ローエ・カティア・フランベール・レミーベール・オラージュ・カレンティア・リィンベール。

 

 そして俺。

 

 みんな広間の椅子に座り、レミーベールは【ハーティシオ王国】で起こったことを、成り行きを話してくれた。

 

「──そうか……カーティスに看取られて、オヤジは逝ったのか……」

 

「うん……」

 

「だからあんなに幸せそうな顔だったんだな」

 

「え?」

 

 レミーベールが意外そうな視線を向けてきた。

 子供たちを抱くローエたちも、俺に対して意外な眼を向けてくる。

 俺は子供たちが冷えないように暖炉に薪を入れながら続けた。

 

「あの顔を見たとき、きっと悪くない最後だったんだろうなって思ったよ。孫の手の中で眠れたんなら、あの安らかな顔も納得だよ」

 

 俺は一息吐くと、テーブルにあるコップを手にして中のエールを一口飲んだ。

 

「オヤジの事はよく分かったよ。教えてくれてありがとうなレミー」

 

「……うん」

 

「それで、セレンの事なんだが……本当なのか?」

 

 ドラゴンセレンの正体……それは俺の母である【セレン・フォルス】だと言うこと。

 

 S級ドラゴンの心臓で生き返り、どこか不安定な二重人格者になってしまっているらしい。

 

 エリザの件があるから蘇生に関してはそこまで驚かなかったが、かなり若い姿で生き返っているのには驚いた。

 

 外見だけなら13~14歳くらいらしい。

 俺より年下じゃないか。

 

「本当よ。【ハーティシオ王国】を燃やしたのはお婆ちゃんなの。レィナさんやリイドたちに火傷を負わせたのも……」

 

 レミーベールの言葉にカティアとローエの顔が砂を噛んだようなものになる。

 カティアにとってレィナは妹。

 ローエにとってリイドは甥っ子。

 

 その二人に大きな火傷を負わせた犯人が旦那(おれ)の母となれば、文句を言いたくても言えないのだろう。

 

「そうか……。なぁレミー。なぜカーティスとグロリアだけ【第1拠点】に残ったんだ?」

 

「お婆ちゃんは血縁者に対して隙を見せるの」

 

「隙?」

 

「凄い鼻が利くの。匂いだけでワタシやグロリアの事を血縁者だと気づいていたわ。そして血縁者に対してお婆ちゃんは家族のように接してくるわ。そこに隙があるとカーティスは踏んだの」

 

「……血縁者に対して敵意を持たないってことか?」

 

 カティアの問いにレミーベールは頷く。

 

「でも血縁者だけ。他の人間なら容赦なく攻撃してくる」

 

「……まぁ、王国を焼き尽くすくらいだからな」

 

 俺は言いながら腕を組んだ。

 

「つまりカーティスは血縁者に隙を見せるセレンを一発で仕留めるつもりなんだな?」

 

「ええ。だから他のみんなは先に帰したの。これは【フォルス家】であるオレたちが片付けなければいけないものだって……」

 

「その通りだな」っと俺は椅子から立ち上がった。

 

「俺も明日の早朝にカーティスたちの応援に向かう。ローエたちは子供たちを頼む」

 

「え!?」っと妻達が驚いた。

 

「ゼクードくんあなた! 一人で行くつもりなの!?」

 

「ああ。フランはリィンの側に居てあげてくれ」

 

「待てゼクード! せめて私は連れていけ! カーティスが心配だ!」

 

「ダメだ。カティア。お前はまだ万全じゃないだろ?」

 

「万全ではないが、腹に子供がいるわけじゃない。前よりは戦える」

 

「ダメだカティア。お前はここで待機だ。カレンティアを頼む」

 

「ゼクード!」

 

「ダメだ!」

 

 しつこいカティアに怒鳴って返した。

 それに驚いたカレンティアたちが泣き始めてしまう。

 慌ててあやすカティアやフランベールたち。

 

 ローエもオラージュをあやしながらゼクードを見つめたが、それだけで特に何も言わなかった。

 言っても連れてってくれないと理解したのだろう。

 

「……お父さん」

 

 泣き声がこだまする中、レミーベールがゼクードの側に寄って来た。

 

「どうした?」

 

「ちょっと、いいかな?」

 

 言うとレミーベールは玄関へ向かい歩き出す。

 なんだろうとゼクードも娘の後を追うと、レミーベールはそのまま外へ出てしまった。

 

 俺も外へ出ると、レミーベールは玄関の扉を閉めた。

 子供たち泣き声が遮断されて少し静かになる。

 

「どうしたんだレミー?」

 

「……お父さん……ワタシ……どうすればいいか……」

 

「?」

 

「まだ……話してない事があるの」

 

「話してない事?」

 

「……グロリアの、事なの」

 

「グロリアがどうかしたのか?」

 

「ローエお母さんに…………みんなに、なんて説明すればいいか……分からなくて……」

 

 うつむいたレミーベールは涙を流していた。

 それも大粒。

 

「ぉ、おいレミー?」

 

「お父さん……ワタシ……言うのが怖い…………助けて……」

 

 レミーが肩を震わせて、俺の胸にすがりついてきた。

 

 助けてって……いったい……?

 

「レミー……」

 

 俺は理由が分からず、娘の肩に手を添えるしかできなかった。

 

 あのしっかり者のレミーベールがこうも泣くなんて……

 しかも助けてとまで言った。

 

 グロリアの事だと言っているが、いったい何があったのか?

 

 ローエや、他のみんなにも言いづらい事のようだが、まさか……グロリアはセレンに食われて遺体すら残らなかったとか!?

 

「レミー……泣いていたら分からないよ。教えてくれ。いったい何があったんだ?」

 

「…………グロリアが………………グロリアが…………人間じゃ、無くなったの……」

 

 

 

 

 ──────…………え?

 

 

 

 

 人間じゃ………………なくなった?

 

 

 

 

「そ……それは…………どういう事なんだ?」

 

「お父さんが……前にネオと戦った【人型ドラゴン】を覚えてる?」

 

「ぁ、ああ……あの黒いヤツか」

 

「あのドラゴンにグロリアは腹部を爪で貫かれて……一回死んだの……」

 

「な!?」

 

 グロリアが死んだ!?

 しかも一回って……

 

「その時、その場にいたお婆ちゃんがグロリアに自分の血を垂らしたの。……そしたらグロリアの傷が治って、息を吹き返したわ」

 

「母さんの血で蘇生したのか! まさか、その時の輸血で!?」

 

 察した俺にレミーベールは頷いた。

 

「人間じゃなくなったわ……。グロリアはどんな傷でもすぐに治るし、瞳の色もお婆ちゃんと同じピンク色になってしまった……。嗅覚だって人間離れしてた……」

 

 嘘だろ……おい……

 

 信じられない……

 

 グロリアが……

 

 あのグロリアが……人間じゃなくなったなんて……

 

 信じられない……信じたくない……

 

 頭がおかしくなりそうだ。

 

 ……告げるのが怖いと泣いていたレミーベールの気持ちが分かる。

 

 こんなの……辛すぎる。

 心に……いや、心臓に風穴が空いたような損失感だ。

 

 これが我が子を失う親の心境なのだろうか……

 

 生きているのに、どこかそこに居ないような、なんとも言えない虚無感がある。

 

 味わいたくなかった……こんな感情……

 

 あまりにも衝撃的すぎて、嘘であってほしいと願う自分がいる。

 

 さらにローエの顔が不意に浮かび、彼女が泣くところまでイメージしてしまった。

 

 俺は思わず片手で頭を覆った。

 

 これからこの事をローエに伝えなければいけないのかと思うと、胸の奥が激しく痛んだ。

 

 隠しても……いつかはバレる。

 

 だったら早い方がいいのかもしれない……

 

 だが、その前に気になることがある。

 

「グロリアは……どうしてるんだ?」

 

 当の本人がドラゴン化したことについて、どう思っているのか。

 落ち着いているのか?

 それが心配だ。

 

「……」

 

 レミーベールからの返事はない。

 レミーベールはただうつむき、言葉を詰まらせている。

 

 その仕草に不安が募ったその時、ついにレミーベールが口を開いてきた。

 

「グロリアは……もう【エルガンディ】へは帰らないって……」

 

「なんだと!?」

 

「いつ自分が正気を失うか分からないから……もうここへは帰らないって……言ってた……」

 

「そんな……グロリア……」

 

「自分の手で家族や仲間を殺したくないから……一人でどこかへ旅に出て、一人で生きていくって……」

 

 なんてことだ……

 

 確かにドラゴン化は正気を失う例は知っている。

 エリザがそうであるように、セレンもその一人だろう。

 

 グロリアも……例外ではないかもしれない。

 

「グロリア……あいつ……」

 

「お父さん……ワタシ……グロリアを、引き止められなかった……」

 

 レミーベールは滝のような涙を流し始めた。

 とめどなく流れるその涙は地面を濡らしていく。

 

 グロリアを引き止められなかった、か。

 それは…………当然だろう。

 

「止めようと思ったけど……止めきれなかった…………っ!」

 

 大泣きするレミーベールを、俺はまた抱き締めた。

 優しく頭を撫でながら、俺は娘の耳元で囁く。

 

「止められなくて当然だ」

 

「!?」

 

「一番辛いのは俺たちじゃない。……グロリア本人だ」

 

「!」

 

 いつ正気を失うか分からない状態なんて、それだけでとんでもない恐怖だ。

 

 俺がグロリアと同じ状況なら、俺もグロリアと同じ行動をするだろう。

 

 一人で生きていく。

 それしかないのだから。

 だから止められたって困るんだ。

 どうなるか分からないから。

 

「お母さんたちに、この事を話そう」

 

「…………うん」

 

「心配するなレミー。俺が母さんたちに話すから」

 

「お父さん…………ごめんなさい……」

 

「謝らなくていい。お前も辛かっただろう? よく俺に教えてくれたな。ありがとう」

 

「お父さん……」

 

 ゆっくりと抱擁を解き、俺はローエたちが待つ実家の玄関を開いた。

 

 子供たちは泣き止んでおり、部屋は静かになっていた。

 カティアとフランベールが子供を抱っこしており、なぜかローエの姿だけなかった。

 

 よく見るとカティアはカレンティアとオラージュを二人同時に抱いている。

 

「あれ? ローエは?」

 

 俺が聞くとカティアが答える。

 

「しばらくオラージュをお願いって言って、二階に上がった」

 

「二階に? 仕方ないな……カティアとフランはここで待っててくれ。大事な話がある」

 

 それだけ言い残して俺は二階に上がり、ローエの部屋をノックした。

 

「ローエ? ちょっと話があるんだ。下りてきてくれるか?」

 

 返事はなかった。

 そもそも中に誰かがいる気配すらない。

 ただ風が通る音だけがする。

 

「ローエ?」

 

 俺は失礼ながら、妻の自室を無断で開けた。

 

 そこにローエの姿はなかった。

 窓が全開になっており、風が心地よく通るだけ。

 

 いない?

 どこに行ったんだ?

 別の部屋にいる、なんてオチはないだろうが……

 

 ……ん?

 

 俺は部屋を見渡すと、あることに気づいた。

 

 ローエの武器がない。

 緑のアーマーもなくなっている。

 

「おい、まさか……!」

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