【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
ローエが居なくなっていた。
窓から飛び出したらしい。
俺はレミーベールと共に城門へと向かった。
近くの馬屋に走り込み、俺はそこに居た担当に声を掛ける。
「おいアンタ! ここに金髪の女騎士が来なかったか!? 緑の鎧を着たハンマー使いだ!」
「え!? あ、ああ……それならさっき一匹馬を連れて出て行ったよ」
やっぱりか! と俺とレミーベールは顔を見合わせる。
「こんな時間に危ないよと止めたんだけど、凄い剣幕で怒鳴られてね……止められなかったんだ」
あぁくそ……出来れば止めてほしかったな。
俺は内心で舌打ちし、すぐに口を開いた。
「俺の馬も用意してくれ! 彼女を追う!」
「あんたもかい!? もう夜で視界も悪いし危険だよ!」
「わかってる! いいから早くしてくれ!」
「ああもう! なんなんだよあんたらは!」
苛立ちながらも担当は馬の用意を始めてくれた。
「レミー! すまないが、俺はローエを追う」
「うん。気をつけて……」
「ああ……だがレミー……カティアとフランに事情の説明をしといてくれ。俺が代わりに言うつもりだったが、すまない」
「ううん。いいの。お父さんに甘えるのは良くないって思ってたから。大丈夫よ。こっちは心配いらないから、ローエお母さんをお願い」
「もちろんだ」
※
馬を駆り、草原を走り抜けていく。
風に金髪を靡かせ、ローエはただ無我夢中にグロリアのいる【第1拠点】へと向かっていた。
ゼクードとレミーベールの話を盗み聞きし
『グロリアがドラゴン化したこと』と
『グロリアがもうエルガンディへ帰って来ない気でいること』を知った。
この事実を知って大人しく待っているなど、グロリアの実母であるローエには到底不可能なものであった。
たとえ日が沈んで視界が悪くとも。
普通なら避ける危険な夜の進行でも。
ローエは止まる気にはなれなかった。
グロリア……
グロリア……っ!
ローエの頭の中は、もはやグロリアでいっぱいだった。
涙が浮かんで辺りの景色さえ歪んでいく。
グロリアの姿が脳内に浮かび、それに手を伸ばそうとしても届かず、去っていく後ろ姿。
嫌……
行かないで……
わたくしはまだ……あなたに、なにも……っ!
母親らしいことなんて、なにも出来てない。
それどころか迷惑ばかり掛けて、18年分の愛情だって、捧げられてない。
不安で押し潰されそうになる。
いきなり娘が目の前からいなくなる恐怖に。
「グロリア……お願い……行かないで……っ!」
誰にでもなく呟いたローエは、敵の気配を察知した。
草むらから現れたのはB級ドラゴンとA級ドラゴンの群れだった。
移動中だったらしい彼らはローエを見つけるなり咆哮し、飛び掛かってくる。
「どきなさいっ!」
一刻も早くグロリアの元へ行きたいローエにとっては、今の彼らは進路妨害以外の何者でもなかった。
オラージュを出産してまだ間もないこの身体は万全じゃない。
だが、それでもこんな雑魚ドラゴンどもに遅れを取ることはない。
借り物のマグナムハンマーを取り出し、それを筋肉任せに薙ぎ払う。
掠めただけのB級ドラゴンたちが風圧で吹き飛ばされ、首も引き千切れた。
続けざまにA級ドラゴンから火の玉が飛んでくるが、ローエはそれをカウンターパリィで弾き返し、A級ドラゴンに直撃させる。
数倍の弾速で打ち返された火の玉はA級ドラゴンを貫通し、敵の頭部を消し去った。
圧倒的なローエの強さに残りのドラゴンたちは掛かるのをためらった。
ローエの瞳は怒りで染まっており、邪魔する者は粉砕する迫力があった。
それが生き残りのドラゴンたちにも伝わり脅えさせ、ついには逃げに転じさせる。
「ふん……」
逃げるくらいなら最初から仕掛けて来ないでほしいですわ。
内心で愚痴を吐き、ハンマーを背に仕舞った。
馬に鞭を打って速度を上げ、ローエはただひたすらグロリアのいる【第1拠点】へと疾走する。
★
あぁ……忌々しい……
早く出てきなさいカーティス……
私に逆らった事を後悔させてあげるわ。
握り拳を極限にまで固めながら、セレンはクレバスと化した大地の裂け目を睨んだ。
カーティスに斬られた腕はとうに再生し、黒いドラゴンにやられた眼も回復した。
しかし怒りは収まらない。
溢れんばかりの怒りを近くの岩に拳を振るうことで発散する。
セレンの裏拳が直撃した岩は木っ端微塵に粉砕した。
あれからもう2日は経っている。
カーティスは上がってこない。
下で飢え死にしているのだろうか?
まさか、な。
ちょっとした不安を抱きつつ、セレンは晴れた空を見上げた。
そして思う。
どうしてあんな子になってしまったのか、と。
親に……しかも格上の相手に剣を向けるなんて。
私が本気を出したら、カーティスなんて簡単に倒せるのに。
どうしてあんな身の程知らずになってしまったのだろう?
セレンは泣きそうになりながら、過去を振り返る。
昔のカーティスは……
…………
……?
あれ?
昔のカーティス?
昔って……
あれ? 何も思い出せない……
グロリアの事も……
レミーベールの事も……
何も……思い出せない。
おかしいな……
なんでだろ?
たしかにあの子達からはゼクードの匂いがしたのに……
ゼクード……!
そうだゼクード!
ゼクード!
……ゼクード?
ゼクードって……誰なの?
漠然と記憶に残るゼクードという名前。
今思えば、まるで心当たりのない名前だった。
でもこの名前を聞くと落ち着くのは確かで、なんだかとても大切な……かけがえのないものだったような気がする。
なんなんだろう……この気持ち。
……ただひとつ分かるのは、ゼクードは自分の家族だということのみ。
グロリアたちの匂いがそれを証明している。
彼女たちに混じっていたゼクードの匂いは家族の匂いだった。
自分と同じ匂いだから簡単に分かる。
ゼクード……
ゼクードに会いたいな……
急に冷めたように溜め息を吐いたセレンは、地面に大の字になって横になった。
なんだか寂しい気分になって空をまた見上げると、そこには二匹の小鳥が仲良く飛んでいた。
見せつけられたような複雑な気分になったのと、ちょうど小腹が空いていたのもあって、セレンはその小鳥たち目掛けて手から炎を放射した。
炎の直撃を受けた二匹の小鳥は黒焦げになってセレンの横に落ちてきた。
それを拾ってパクリと食べる。
「マズ! にがっ! 火力強すぎたかな……ペッ! ペッ!」
あまりの不味さに吐き出したセレンは、残った一匹は踏み潰して処分した。
「はぁ……」
なんだか余計に虚しくなってきて、セレンは大地の裂け目を見た。
カーティスたちが上がってくる気配はない。
助けに行くべきだろうか?
でも、親に剣を向けた大バカ者を助けるのはいかがなものだろうか?
いやでも、助けた後こってり
いや、もしかしたら私の助けを待ってる可能性も!
いやいや、そう見せかけて私があの狭い崖の下へ来るのを待ち伏せてる可能性もあるわ。
さすがにあの狭い崖下だと戦うのはちょっと辛いし……
あ、もしかしたらケガをして動けなくなってる可能性もある?
でもこのぐらいの高さでケガなんてするかな?
だいたい100メートルほどしかなかったけど。
「グロリアー! カーティスー! どこですのー!?」
ん?
なに今の声は?