【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第32話【悪化】

 市民の救助活動を他の王国騎士たちと交代し、カティアは休憩をしていた。

 街の中央広場にある木製ベンチに腰掛けて大きくため息を吐く。

 

「カティアさん大丈夫?」

 

 同じく休憩に入っていたフランベール先生がカティアの顔を覗き込んできた。

 

「ぁ、大丈夫です。すみません」

 

 昨日のS級ドラゴン戦からまともに睡眠などは取れていない。

 だが、それくらいでヘタレるほどヤワな身体ではない。

 

「そう? 疲れてるなら休んだ方が──」

 

「いえ、身体は大丈夫です。ただ……」

 

 言い欠けて、ゼクードのことを思い出す。

 あいつは……やはり凄かった。

 私達が束になっても勝てなかった、あのS級ドラゴンを圧倒してみせたのだから。

 

 一人の騎士として、あまり認めたくはない事実だった。

 その場にいた私達の存在自体に、意味がなかったようで。

 

「……」

 

「もしかしてゼクードくんのこと?」

 

「え、なんで!?」

 

 なんでバレたのか?

 そんな感情が先に来て、思わずそんな返しをしてしまった。

 フランベール先生はやはりと言わんばかりに優しく微笑む。

 

「うん。カティアさんが昔から強さにこだわっていたのは知ってるの。あの圧倒的なゼクードくんの強さに相当まいってるんじゃないかなって思ってね」

 

 だいぶバレてる。

 

「それは! その……──実は、そうなんです……」

 

 この人に嘘をついても仕方ないと思い、素直にそう言った。

 

「やっぱりそうなんだ。ねぇカティアさん。わたしで良ければ吐口になるよ?」

 

「いえ、そんなお手数は……」

 

「ううん、遠慮しないでカティアさん。きっと分かってあげられると思うの。わたしも昔、ゼクードくんの強さには嫉妬してたから……」

 

「先生が、ですか?」

 

 あまりに意外だったのでそのまま聞き返した。

 フランベール先生は苦笑して頷く。

 

「うん。わたしもS級騎士になるためにたくさん頑張ってきたつもりだったよ。でも、ゼクードくんには敵わなかった……」

 

「!」

 

「わたしが13年掛けて積み上げてきた世界を、あの子は一瞬で飛び越えちゃった。悔しいけど、あの子は間違いなく天才だよ」

 

「先生……」

 

「あ、ごめんね! わたしが愚痴っちゃって……」

 

「いえ。なんか、むしろ聞いて良かったです。私も彼の実力には嫉妬していますから……──私は女でも騎士のトップに立てるのだと証明してやりたくて、ここまで来ました。けれど、ゼクードを見ていると……」

 

 あまりにも次元が違い過ぎて。

 

「男とか女とか、そんなレベルの話じゃなくなるよね」

 

 フランベール先生の付け足しにカティアは頷く。

 

「はい。あいつに追い付けるイメージがまるで湧きません。今回の戦いだって、結局はゼクードがいればそれで良かった」

 

「うん。わたし達はローエさんも加えて三人掛かりだったのに歯も立たなかったものね」

 

「ええ。ゼクードを見ているとS級を名乗るのが恥ずかしくなってきますよ。なんのためにいるのか、わからない」

 

「うん……そうだね」

 

「すみません。弱音ばかりで……」

 

「ううん。言ってくれて嬉しいよ。カティアさんって確か8人の妹さんがいるお姉さんだったよね? 吐口とかそういうの、まったく無いんじゃないかなって思ってたから」

 

「そう、ですね。確かに……」

 

 妹たちに弱音など吐けるはずもない。

 またそんな発想自体がなかった。

 弱音を吐くということそのものに。

 

 でも今フランベール先生に聞いてもらって、共感してもらって、凄く胸の奥が軽くなった気がする。

 

 フランベール先生はただウンウンと聞いてくれているだけなのに、なんとも不思議だ。

 

「ローエさんにも言えばいいのに。きっと聞いてくれると思うよ?」

 

「冗談はやめてください。なんで私があいつに。……それにあいつが私の話なんて聞くわけないでしょう?」

 

「んまっ! そんなことありませんわよ?」

 

「なっ!?」

 

 突如聞こえたローエの声にカティアは振り向く。

 家の物陰から現れた彼女に、カティアは弱音を聞かれたのでは!? という不安に駆られ、嫌な汗が噴き出す。

 

「わたくしだって言ってくだされば聞いて上げますのに。それくらいの器は持ってますわ」

 

 ニヤニヤと笑いながらローエは自慢らしい金髪を手で撫で揺らした。

 

「お、お前いつから居た!」

 

「最初からですわ」

 

「んなんっ!?」

 

 嫌な予感が的中して心臓を鷲掴みにされるような衝撃を覚えた。

 よりによってこの女に!

 

「ふふふ、ローエさんもカティアさんが心配だったのよね?」

 

「ご冗談を先生。なんでわたくしがカティアさんを」

 

「あらそう? 暗い顔してるカティアさんをチラチラ見てたから、てっきりローエさんも心配してるのかと思ったわ」

 

「チ、チラチラなんて見てませんわ!」

 

「カティアさんに声掛けるタイミングをず~っと見計らってた感じだったし、てっきり」

 

「だ、だから! 見てませんって! 別に心配なんてしてませんわよ!」

 

「ずっと盗み聞きしてたのに?」

 

「いやそれはですね!」

 

 フランベール先生に攻め立てられてタジタジになるローエ。

 

 話を聞く限り、自分は沈んだ気分が顔に出てしまっていたらしい。

 それでフランベール先生と……ローエにも心配を掛けてしまったようだ。

 

「ローエ……」

 

「な、なんですの?」

「……ありがとう。私は大丈夫だ」

 

「!」

 

 こちらの言葉に驚いた様で、ローエは目を丸くした。

 それからすぐ肩を竦めて。

 

「……そう、なら良かったですわ」

 

 と、どこか安堵した様にローエは言ってくれた。

 

「ところでお前は調合師のところへは行かなくていいのか? ゼクードが切り落としたS級ドラゴンの爪を手に入れたんだろう?」

 

 とりあえず間を取り繕おうとカティアは気になったことを聞く。

 すると今度はローエの顔が暗くなった。

 

「それなんですが、エルガンディの調合師さん達がみんな氷塊の被害に遭われていて、秘薬の調合をしてくださる調合師さんがいないのですわ」

 

「最悪だな……ケガや死亡なのか?」

 

「ええ。その類ですわ。だから仕方ないんですの。ケガをした調合師さんの復帰を待つしかありませんわ」

 

 諦めの言葉を発したローエの後、誰かの足音が忙しなく鳴り響き始めた。

 それはこちらへと近づいており、次の瞬間にはその姿を現した。

 

 

「ローエお嬢様!」

 

 大袈裟に叫んだのは執事服を来た高齢の男だった。

 

「こちらでしたか!」

 

「セルディス? どうしましたの?」

 

 セルディスと呼ばれた執事服の男は息を上げ、なんとか整えながらハンカチで額の汗をぬぐった。

 

 こんなご老体がここまで身体を酷使してローエを探していた。

 それだけで、カティアとフランベールも何かよほどの事態が起きたのだと察することができた。

 

 セルディスは息が整って、意を決したように口を開く。

 

「リ、リーネお嬢様の容態が、悪化しました!」

 

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