【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
市民の救助活動を他の王国騎士たちと交代し、カティアは休憩をしていた。
街の中央広場にある木製ベンチに腰掛けて大きくため息を吐く。
「カティアさん大丈夫?」
同じく休憩に入っていたフランベール先生がカティアの顔を覗き込んできた。
「ぁ、大丈夫です。すみません」
昨日のS級ドラゴン戦からまともに睡眠などは取れていない。
だが、それくらいでヘタレるほどヤワな身体ではない。
「そう? 疲れてるなら休んだ方が──」
「いえ、身体は大丈夫です。ただ……」
言い欠けて、ゼクードのことを思い出す。
あいつは……やはり凄かった。
私達が束になっても勝てなかった、あのS級ドラゴンを圧倒してみせたのだから。
一人の騎士として、あまり認めたくはない事実だった。
その場にいた私達の存在自体に、意味がなかったようで。
「……」
「もしかしてゼクードくんのこと?」
「え、なんで!?」
なんでバレたのか?
そんな感情が先に来て、思わずそんな返しをしてしまった。
フランベール先生はやはりと言わんばかりに優しく微笑む。
「うん。カティアさんが昔から強さにこだわっていたのは知ってるの。あの圧倒的なゼクードくんの強さに相当まいってるんじゃないかなって思ってね」
だいぶバレてる。
「それは! その……──実は、そうなんです……」
この人に嘘をついても仕方ないと思い、素直にそう言った。
「やっぱりそうなんだ。ねぇカティアさん。わたしで良ければ吐口になるよ?」
「いえ、そんなお手数は……」
「ううん、遠慮しないでカティアさん。きっと分かってあげられると思うの。わたしも昔、ゼクードくんの強さには嫉妬してたから……」
「先生が、ですか?」
あまりに意外だったのでそのまま聞き返した。
フランベール先生は苦笑して頷く。
「うん。わたしもS級騎士になるためにたくさん頑張ってきたつもりだったよ。でも、ゼクードくんには敵わなかった……」
「!」
「わたしが13年掛けて積み上げてきた世界を、あの子は一瞬で飛び越えちゃった。悔しいけど、あの子は間違いなく天才だよ」
「先生……」
「あ、ごめんね! わたしが愚痴っちゃって……」
「いえ。なんか、むしろ聞いて良かったです。私も彼の実力には嫉妬していますから……──私は女でも騎士のトップに立てるのだと証明してやりたくて、ここまで来ました。けれど、ゼクードを見ていると……」
あまりにも次元が違い過ぎて。
「男とか女とか、そんなレベルの話じゃなくなるよね」
フランベール先生の付け足しにカティアは頷く。
「はい。あいつに追い付けるイメージがまるで湧きません。今回の戦いだって、結局はゼクードがいればそれで良かった」
「うん。わたし達はローエさんも加えて三人掛かりだったのに歯も立たなかったものね」
「ええ。ゼクードを見ているとS級を名乗るのが恥ずかしくなってきますよ。なんのためにいるのか、わからない」
「うん……そうだね」
「すみません。弱音ばかりで……」
「ううん。言ってくれて嬉しいよ。カティアさんって確か8人の妹さんがいるお姉さんだったよね? 吐口とかそういうの、まったく無いんじゃないかなって思ってたから」
「そう、ですね。確かに……」
妹たちに弱音など吐けるはずもない。
またそんな発想自体がなかった。
弱音を吐くということそのものに。
でも今フランベール先生に聞いてもらって、共感してもらって、凄く胸の奥が軽くなった気がする。
フランベール先生はただウンウンと聞いてくれているだけなのに、なんとも不思議だ。
「ローエさんにも言えばいいのに。きっと聞いてくれると思うよ?」
「冗談はやめてください。なんで私があいつに。……それにあいつが私の話なんて聞くわけないでしょう?」
「んまっ! そんなことありませんわよ?」
「なっ!?」
突如聞こえたローエの声にカティアは振り向く。
家の物陰から現れた彼女に、カティアは弱音を聞かれたのでは!? という不安に駆られ、嫌な汗が噴き出す。
「わたくしだって言ってくだされば聞いて上げますのに。それくらいの器は持ってますわ」
ニヤニヤと笑いながらローエは自慢らしい金髪を手で撫で揺らした。
「お、お前いつから居た!」
「最初からですわ」
「んなんっ!?」
嫌な予感が的中して心臓を鷲掴みにされるような衝撃を覚えた。
よりによってこの女に!
「ふふふ、ローエさんもカティアさんが心配だったのよね?」
「ご冗談を先生。なんでわたくしがカティアさんを」
「あらそう? 暗い顔してるカティアさんをチラチラ見てたから、てっきりローエさんも心配してるのかと思ったわ」
「チ、チラチラなんて見てませんわ!」
「カティアさんに声掛けるタイミングをず~っと見計らってた感じだったし、てっきり」
「だ、だから! 見てませんって! 別に心配なんてしてませんわよ!」
「ずっと盗み聞きしてたのに?」
「いやそれはですね!」
フランベール先生に攻め立てられてタジタジになるローエ。
話を聞く限り、自分は沈んだ気分が顔に出てしまっていたらしい。
それでフランベール先生と……ローエにも心配を掛けてしまったようだ。
「ローエ……」
「な、なんですの?」
「……ありがとう。私は大丈夫だ」
「!」
こちらの言葉に驚いた様で、ローエは目を丸くした。
それからすぐ肩を竦めて。
「……そう、なら良かったですわ」
と、どこか安堵した様にローエは言ってくれた。
「ところでお前は調合師のところへは行かなくていいのか? ゼクードが切り落としたS級ドラゴンの爪を手に入れたんだろう?」
とりあえず間を取り繕おうとカティアは気になったことを聞く。
すると今度はローエの顔が暗くなった。
「それなんですが、エルガンディの調合師さん達がみんな氷塊の被害に遭われていて、秘薬の調合をしてくださる調合師さんがいないのですわ」
「最悪だな……ケガや死亡なのか?」
「ええ。その類ですわ。だから仕方ないんですの。ケガをした調合師さんの復帰を待つしかありませんわ」
諦めの言葉を発したローエの後、誰かの足音が忙しなく鳴り響き始めた。
それはこちらへと近づいており、次の瞬間にはその姿を現した。
「ローエお嬢様!」
大袈裟に叫んだのは執事服を来た高齢の男だった。
「こちらでしたか!」
「セルディス? どうしましたの?」
セルディスと呼ばれた執事服の男は息を上げ、なんとか整えながらハンカチで額の汗をぬぐった。
こんなご老体がここまで身体を酷使してローエを探していた。
それだけで、カティアとフランベールも何かよほどの事態が起きたのだと察することができた。
セルディスは息が整って、意を決したように口を開く。
「リ、リーネお嬢様の容態が、悪化しました!」