【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「私? 私はセレンよ。あなた何? グロリア? なんか似てるけど」
「……わたくしはローエ・フォルスですわ。そのグロリアの母ですの」
「母?」
「ええ」
「? ……あなた何言ってるの? グロリアの母親は私よ?」
「はい?」
セレンの唐突な発言にローエは怪訝な顔で頬を掻いた。
「あの……ちょっと何を仰っているか分かりませんわ」
「なんで分からないのよ?」
「なんでって……」
ローエは困惑した。
セレンがあまりにも真面目に言っている。
ふざけている様にはまったく見えないのだ。
……そう言えばレミーベールの説明で、セレンはカーティス・グロリア・レミーベールを家族だと思い込んでいると聞いた。
なるほど、ならばこれもそうか。
こいつは本物のセレン・フォルスではない。
人間だった頃の記憶を混同したドラゴンだ。
フォレッド・フォルスもこいつにやられている。
あのゼクードの母親がそんなことをする人間のはずがない。
こいつは人間の皮を被ったドラゴンだ。
「グロリアは私の家族よ。残念だけどあなたの家族じゃないわ」
「何を根拠に言ってますの?」
さすがにローエはセレンを睨んだ。
自分の腹を痛めて生んだ娘なのに、家族じゃないと断言されるのはいくらなんでも我慢ならなかった。
「あなたこそ何を根拠に自分を母親だと思ってるわけ? 確かにあなたからはグロリアの匂いがするけどそれだけだわ」
「それだけですって? 何が言いたいんです?」
「ゼクードの匂いよ。私たち家族の繋がりを証明するゼクードの匂い。あなたにはそれがない。私やグロリアにはそれがある。カーティスも。レミーも!」
何を言い出すのかと思えばそんなことか。
自分にゼクードの匂いがないのなんて当たり前だ。
血が繋がっていないのだから。
夫婦なんて所詮は他人同士。
どれだけ愛し合っていようと、血が繋がることはない。
そんな当たり前なことを声高らかに言われても溜め息しか出ない。
夫婦は他人だが、家族たらしめる絆というものは確かに存在するものだ。
それを愛というはず。
なのにこのセレンは匂いで敵か家族かを判別しているようだ。
家族とは血の匂いだけで決まるものではない。
「ふふ……残念ね。あなたに家族はいないわ。一人ぼっち。可哀想ね」
「可哀想? わたくしにはあなたこそ一人ぼっちに見えますわ」
挑発してはいけないのにローエは口走っていた。
感情的な性格がここに来て出てしまった。
だが、一太刀返さねば気が済まなかったのも事実だ。
「……私が一人ぼっち?」
「あなたが仰る【ゼクードの匂い】とは【血の繋がり】の事を言っているのでしょう? ですが、それだけで家族を語るなんてハッキリ言って浅はかですわ」
「な……!」
「【血の繋がり】が家族の全てなら、夫婦は永遠に他人ですわ。わたくしで言うなら同じ妻のカティアやフランも。わたくしから生まれてないカーティスやレミー。カレンティアやリィンベールも家族じゃなくなりますわ」
でも、それでも、カティアやフランベールを家族と感じる心に嘘はない。
カーティスやレミーベールだって。
カレンティアやリィンベールだって。
みんなローエと直接の【血の繋がり】はないが家族だ。
理屈じゃない。
心の問題だ。
「何が言いたいのよ!」
「匂いだけで家族だなんだと語るなと言っているんですわ! あなたにはそもそも家族なんていない! 家族がいるのはその身体の持ち主ですわ!」
ハッキリと指を差して事実を突きつけた。
言われたセレンの額に血管が浮かび、両腕の爪がギラリと伸びた。
「……何言ってるか分からないけれど、あなたムカつくわね!」
セレンの目が鋭くなると、次の瞬間にはローエに向かって突進してきていた。
「!」
速い!
それは瞬きの速度。
セレンの飛び掛かりをローエは寸でのところで防御する。
ハンマーを盾にしセレンの突進を受け止めるが、あまりの勢いに全身を押されて、踏ん張っている足が地面を抉ってスライドしていく。
「くっ! ぅぅうっ!」
オラージュを出産してまだ1週間も経っていないローエの身体は悲鳴を上げた。
凄まじい勢いの突進を耐えるだけでもキツイ。
本来なら女性は出産して2週間は安静にしてなくてはならない。
安静にして赤ちゃんに母乳を上げるのに専念するのが普通なのだが、今のローエは完全に無理をして満身創痍の状態で戦っている。
テントなどの景色が凄いスピードで横へ流れていく。
地面をスライドしながら踏ん張るローエの足も、並の女性ならとっくに折れているだろう速度だ。
【第1拠点】をそのまま突っ切りそうになったが、途中で大岩にローエの背中が激突した。
「がはっ!」
大岩が粉々に砕け、セレンに叩きつけられたローエも背中に受けた衝撃のダメージが大きく転倒。
地面に尻もちを着いた姿勢になり、その隙をセレンは逃さず爪を振りかざす。
「死ねばああああっ!」
「くっ!」
至近距離すぎてハンマーを振れないローエは、咄嗟に腰からサバイバルナイフを抜刀し、振り下ろされてくるセレンの腕に合わせて突き刺した。
「痛っ!」
【気】を纏わせたナイフの一撃はセレンの腕を貫き、大きく怯ませた。
ローエは瞬時に立ち上がり、マグナムハンマーを握り直す。
痛む全身に鞭を打ち、渾身の力を込めてセレンの脇腹にマグナムハンマーを叩き込んだ。
カチンとトリガーを引いて打撃のついでに爆破ダメージも追加する。
「ああああああああああああああああ!」
爆破と共にブッ飛んだセレンは黒煙を上げて遠くのテントへ激突。
テントが崩壊しセレンはそれの下敷きになった。
防御もなくまとまにハンマーを食らったのだ。
ただでは済まないだろう。
「はぁ……はぁ……、げほっ! げほっ!」
ローエは膝を着きそうになったが、ハンマーを杖代わりにしてなんとか踏ん張った。
出産後の身体で無茶をしすぎた。
全身が鉛のように重い。
大岩に叩きつけられた背中のダメージも深刻で吐きそうだ。
これくらいのダメージでこんな……
ローエは自分の身体が思っている以上に弱っていることに、今さらながら気づいた。
なまじ鍛えている身体ゆえに、出産のダメージに疎かった。
多少の無茶は利くと思っていたのだが、甘かったか。
まだ戦闘に耐えられるほど回復していない。
「……やってくれたわね」
「!」
黒煙の中から現れたのは……ドラゴンの姿となったセレンだった。
淡いピンク色の鱗に覆われており、その巨大な翼は陽光を浴びて煌めく。
内なる獰猛さを解き放つかのような咆哮。
それは雷鳴のように轟き、大地を震わせる。
あまりの爆音に耳を塞いだローエは、全身が痺れるほどの殺気を感じた。
「食ってやる……お前なんか!」