【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「食ってやる! お前なんか!」
「本当に、ドラゴンになった……!」
「燃え尽きなさい!」
一呼吸の間。
次の瞬間にセレンは大口を開けて特大の火炎放射!
「!」
輝く蒼炎がローエを飲み込み、それは【第一拠点】さえも全て燃やし尽くした。
逃げ場のない超広範囲のブレス。
テントの布地は1秒の間もなく消し炭になり、鉄製の柱は溶けて液体と化す。
全てを焼き尽くしてブレスが止み、セレンは消え去ったローエに嘲笑った。
「ふふ……雑魚は雑魚らしくしていればいいのよ」
「お黙り!」
「え!?」
確かに燃やしたはずのローエの怒声が響いた。
そこに目を向ければ、いつの間にか空へと浮上していたローエの姿があった。
ブレスが直撃する瞬間に風魔法【ハリケーン】を放ち空へと回避していたローエ。
完全に殺したと思っていたセレンは虚を突かれ、次のローエの攻撃に対応が遅れた。
「【ドラゴンインパクト】!」
「待っ……!」
落下の勢いを乗せ、振り絞った【気】を纏わせ、渾身の力を込めたマグナムハンマーの強打撃がセレンの脳天へ叩き込まれた!
追撃のトリガーも忘れず爆砕!
セレンの巨大な顔が地面に叩きつけられ、地面に亀裂を生んだかと思うと顔そのものがめり込み、セレンは動かなくなった。
ローエは焼き畑になった地面に着地し、ハンマーを杖にして息を整える。
「はぁ……はぁ……少しは効いたかしら?」
言ってしばらく、セレンは動かなかった。
が、次の瞬間……翼を広げ、翼膜をピンクに光らせ始めた。
「な、なんですの!?」
翼を羽ばたかせたセレンの翼膜からピンクの光が飛び散り、それは至る所に落ちて爆発を起こした。
「なっ!」
ローエの真横に光が落ちて爆発が起きる。
そのせいで鼓膜がやられて音が遠くなった。
だか、セレンの声はハッキリと聞こえてきた。
「ええ……効いたわ」
地面にめり込んでいた顔を出し、殺意の光に満ちた眼をローエに向ける。
「今までで一番痛かったわ。どんな奴の攻撃よりも」
その声にさえ殺意があった。
いや、もはや怒りが頂点へと達したらしいセレンは、存在そのものが殺意の塊だった。
「……っ!」
ローエは全身が戦慄した。
今までたくさんの殺意を感じたことはあったが、セレンのそれは桁が違った。
震えが始まった。
足がすくむ。
ローエの血が、細胞が、脳が、全てが逃げろと警告している。
逃げろと警告されているのに、足が動かなかった。
セレンの強さが、ローエと比べ物にならないものだと自覚したからだ。
逃げても無駄だと、戦っても無駄だと、その巨大すぎる敵に対してローエの闘争心は一瞬で折られてしまった。
それの元凶は間違いなく覇気。
今にも気絶してしまいそうなほど濃厚なセレンの覇気だった。
な、なんて殺気ですの……っ!?
こんなの、一人では……っ!
一瞬カティアの顔が脳裏を過るローエは後ずさり、ドラゴンセレンがゆっくりと迫りくる。
怒りのあまり血管さえ浮き出たセレンは爪を光らせた。
「殺してやる……」
セレンは短くそれだけ呟いた。
空が黒雲に包まれ、雷鳴が轟く。
セレンは爪を大きく振りかぶり、ローエに向かって振り下ろした!
「……っ!」
ローエは目を閉じて死を覚悟した。
すべての音が聞こえなくなった。
身体が裂かれた衝撃もなく、ローエの意識は無の彼方へ。
……?
意識があることを自覚し、ローエはゆっくりと目を開けた。
そこにはロングブレードで爪を受け止めている紅騎士の姿があった。
一瞬だけカティアに見えたそれは息子のカーティスだった!
「カ、カーティス!?」
「ぉおおおお!」
カーティスは吼え、腕の筋肉を膨張させるとセレンの爪を押し返した。
「なっ!?」
押し返されたセレンは驚愕!
次の瞬間! 雷がセレンを追撃!
「きゃああああああああ!」
痺れたセレンが悲鳴を上げ、彼女はのたうち回った。
黒い人型ドラゴンも現れ、奴が先程の雷をセレンにお見舞いしたのだと分かった。
しかしあのドラゴンは【シエルグリス】でネオが撃退したあの人型ドラゴンだ。
なぜここに?
しかもカーティスと共に現れるなんて。
カーティスがセレンの爪を押し返した瞬間にセレンに雷が落ちた。
あれではまるで共闘しているようなコンビネーションだ。
どういうことなの!?
「お母様! 無事ですか!」
カーティスに聞かれローエはついてこない思考のまま頷く。
「え、ええ……」
「どうしてここに!」
「え? あ、グ、グロリアを探して……」
「! グロリアは……」
カーティスが顔を曇らせると、背後からある声が。
「お母さん!」
ローエは振り返った。
そこには愛娘のグロリアが立っていた
「グロリア!」
ローエの視野は一気にグロリアのみになった。
他には何も見えなくなった。
涙が一気に溢れ出し、ローエはグロリアに向かって走り出す。
それほどまでにローエはグロリアに会いたかった。
真後ろにセレンや人型ドラゴンがいるにも関わらず、ローエはグロリアに抱きついた。
「グロリア! ぁあ! よかった! グロリア……グロリア! うわああああああああああ!」
「お母さん……」
抱きつかれ思いっきり母に泣かれたグロリアは少し戸惑いつつも、そんなローエを静かに抱きしめ返した。
「お母さん……アタシ……」
「会いたかったですわ! 本当に! 本当に! 会いたかった!」
「お母さん……」
ローエはグロリアの胸に埋めていた顔を上げた。
その視線の先には瞳の色がピンクに変色したグロリアの顔があった。
自分と同じだったエメラルドグリーンの瞳は完全に無くなっていた。
だが、それでも、とローエはグロリアの頬を優しく撫でた。
愛しさしかない娘。
色の違いなどローエの愛の前には些細な問題だった。
それに、一番ショックを受けているのは母親である自分ではない。
グロリア本人のはずだから。
自分はただ、どんな姿形になってもグロリアを受け入れるだけ。
それが母親だとローエは思っている。
「レミーから聞きましたわ。あなたが人間ではなくなったことを」
「!」
「それであなたが、一人でどこかへ行こうとしていることも……聞きましたわ」
「……止めに来たの?」
「いいえ。わたくしも連れてって」
「な……!」
グロリアは驚愕し、聞いていたカーティスも驚く。
「何言ってるのよ! 子供はどうするの! そのお腹……生まれたんでしょ二人目が!?」
「オラージュも連れて行きますわ! だから!」
「ダメに決まってるでしょ! なにトチ狂ったこと言ってるのよ! そのオラージュの側に居てあげてよ!」
「オラージュの側には居ますわ! でもグロリア! わたくしはあなたも一人にしたくないのですわ!」
「やめてよ! いつアタシがおかしくなるか分からないのについてこないで! ついてこられたら一人になる意味ないじゃない!」
「グロリア……」
「いつかおかしくなってお母さんやオラージュを手に掛けたくないの。だから一人になるのよ。お願いだから分かってよ! アタシだって好きで一人になるわけじゃないんだから!」
今度はグロリアが泣いていた。
今のグロリアにはローエの愛はあまりに重すぎる。
「どうして……」
ローエは涙しながら崩れた。
「どうしてあなたが……こんな目に遭うの?」
「……」
「どうしてあなたが孤独に……不幸にならなければいいけないの?」
「……」
娘が不幸になっている傍らで、自分は家族と過ごして笑っていられる自信がない。
自分はどうなってもいい。
代わってあげたい。
グロリアと入れ替われるなら代わってやりたい。
わたくしは十分に幸せを感じて生きてきた。
暖かい家族のいる幸せ。
愛しい人の子供を生む幸せ。
たくさんの幸せを経験した。
だからもう十分だ。
グロリアにもそんな幸せを経験してほしい。
だから代わってやりたい。
でもオラージュの事もある。
それは分かってる。分かってるんだ。
だけど……このままではグロリアが、まず間違いなく不幸になる。
いや、もうなってるんだ。
どうしようもない現実に。
だからこそ連れてってほしいのに。
一人にしたくないのに……
「また……また私に逆らったわねカーティス!」
セレンが雷のダメージから復帰してきた。
怒りに満ちた眼光はカーティスと人型ドラゴンを見据え、その奥にいるグロリアとローエも捉えた。
「あ〜らグロリア。少しは反省したんでしょうね?」
反省? なんの事だとローエはグロリアを見る。
グロリアはフンと鼻息を漏らすと口を開いた。
「反省するわけないでしょ! あんなことされて余計嫌いになったわよ!」
「なんですって!?」
セレンが目を鋭くする間に、ローエがグロリアに聞く。
「何をされたんですの?」
「……あいつに全身の骨をバキバキにされて死にかけた」
「なっ!?」
全身の骨をバキバキに!?
そんなことされて生きているグロリアに驚いたが、それこそドラゴン化のおかげなのだろうと察した。
「よくもグロリアにそんなこと!」
「あら何? やろうっての? さっきはビビって一歩も動けなかったくせに」
「……そうですわね。でも、今はもう動きますわ」
グロリアがセレンにされた仕打ちを聞いて怒りが精神を安定させた。
カーティスという頼れる仲間がいるのも大きい。
もはやセレンの覇気に飲まれることはない。
「ふん。動けるから何? あなたなんて私が本気を出したら一瞬で終わるわよ?」
「でしょうね。それは肌で感じてましたわ。でも今はカーティスもいますわ。甘く見ないことですわね」
言われたカーティスは当然とばかりに長剣を構える。
人型ドラゴンもグロリアも戦闘態勢に入った。
ローエを含めた四人が構える。
あの人型ドラゴンが何故こちらを攻撃してこないのかはわからないが、あのセレンと敵対しているなら都合が良い。利用させてもらおう。
「グロリア。カーティス。母親である私にまた逆らうのね。今度は本気で殺すわよ?」
「グロリアとカーティスの母親はわたくしですわ!」
「お前は黙ってろ! 匂いも無いくせに何が母親よ! 笑わせるな!」
「母親が娘の骨を折るわけないでしょう! 息子と娘に向かって『殺す』なんて言いませんわよ!」
「はぁ?」
「親ならただ我が子の幸せを望むものですわ! あなたは何!? 自分の思い通りにならない相手に暴力を振るっているだけではありませんの!」
「!」
「あなたは母親なんかじゃない! 畜生以下の化け物ですわ!」
「この……言わせておけばあああああああ!」