【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「味方ぁあああ!?」
ドラゴンを呼び寄せてしまうかもしれないのに父ゼクードは叫んでいた。
それも腹の底から。
「そうよ」っとグロリアが腰に手を当てながら返す。
少し前にゼクードとナイトの争いを殴って止め、ナイトが味方であることを説明し今に至るのだが。
「信じられないよ……そいつが味方だなんて」
まぁ、片眼をやられたゼクードからすれば当然の反応だろう。だが今は信じてもらうしかない。
ゼクードとナイトの力があればあのセレンを止められるはずだから。
『おいグロリア! お前そいつの娘だったのか!』
「だったら何よ」
『やってられん! ふざけた話だ! もう付き合ってられるか! お前とはここまでだ! 行くぞリィ!』
『え……でもパパ……』
「アンタこそふざけたこと言ってんじゃないわよこんな時に! お父さんと戦ったことがあるならお父さんの実力は知ってるんでしょ! 協力しなさいよ!」
「ぉ、おいグロリア……急にどうしたんだ?」
ナイトの声が聞こえないゼクードは、グロリアが独りでいきなり怒鳴ったように見えたらしい。
だが構ってられない。
『断る! あの赤い奴とならまだしも。よりによってソイツと協力なんかできるか!』
「なによ! カーティスだってお父さんの息子なのよ!」
『なっ!?』
「もう今更なのよそんな話は! それよりセレンを止めないとマズイってアンタも分かってんでしょ!? アンタ一人でセレンをなんとかできるの!?」
『……っ!』
ナイトが押し黙る。
グロリアはそんなナイトと啞然としているゼクードを交互に見た。
「とにかく今は急いでセレンのところへ戻りましょう! カーティスとお母さんが戦ってるわ!」
「! ローエもいるのか!?」
「いるわ。だからお父さんもお願い! 今は時間がないの!」
「……わかった! 案内してくれ!」
「うん!」
さすがお父さん!
こんな状況でもすぐに対応してくれる!
「ナイトもお願い! リィのためだと思って!」
『……チッ! なぜアイツと俺が……!』
言いながらもナイトはグロリアたちと共に走り出してくれた。
安堵したグロリアの横でゼクードが口笛で馬を呼ぶ。
それに飛び乗ったゼクードがグロリアに手を差し出した。
「グロリア乗れ!」
「うん!」
たくましいお父さんの腕に掴まり引っ張り上げられ乗馬。
ゼクードの後ろに座り父の腰に手を回す。
馬の後ろは乗り心地が悪いが贅沢も言ってられない、
「ナイト! アンタも!」
『可哀想なことをするな! 俺は走る!』
ナイトは乗馬を拒否して疾走した。
さすがドラゴンなだけあって脚力は凄まじい。
「……グロリア」
馬の上でゼクードが呼んできた。
「なに?」
「あいつの言葉が分かるのか?」
!
「……うん」
「そうか……レミーから全部聞いたぞ。お前がドラゴン化したことも」
……そっか。
もう知られてるんだ。
「怖いよな……」
「!」
「お前が一番……怖いよな」
「お父さん……」
「ごめんな。何もしてやれなくて。代わってやれるなら今すぐにでも代わってやりたいよ……」
「ううん……いいよ。その気持ちだけで十分嬉しいから」
「グロリア……」
「アタシが一人で旅に出ることも聞いたの?」
「聞いた」
「そう……お父さんは……やっぱりアタシのこと、止める?」
「……」
返事は、なかった。
馬の走る心地良い振動が全身を揺さぶり、風がグロリアのツインテールを靡かせる。
そんな環境音だけが響く中、グロリアは父ゼクードの背中を見た。
自分より年下のはずなのにやけに逞しく見える父の背中。
やはり父ゼクードは、一人で旅に出る自分を止めるだろうか?
できれば止めないでほしい。
もう放っておいてほしい。
自分はもう戻れないから。
父の返事がないまま数秒後、ようやくゼクードが口を開いてきた。
「ここに来るまで……いろいろ考えてた」
「え?」
「どうすればお前を救えるのかなって……ずっと考えてた」
「……」
「でも結局……何も思いつかなかった」
「……」
「代わってやりたい。それしか思いつかなくて……」
「代わってやりたいって言うけどさ、本当に代わってしまったら今度はお父さんが不幸になるのよ? わかってんの?」
「わかってるよ」
「だったら……」
「……あのなグロリア。親ってのは自分が不幸になることより子供が不幸になることの方が嫌なんだよ」
「!?」
「だから代わってやりたいって言うんだよ。子供が不幸になるより、自分が不幸になった方がマシだからな」
「……」
「だから今もなんとかしてお前を救いたいって考えてる。ずっと……」
「お父さん……」
★
草原のド真ん中をローエはグロリアを探して走っていた。
自分の足で、だ。
連れていた馬はセレンのブレスに巻き込まれて死んでしまっていた。
最悪……という他なかった。
人間の足では大した移動はできない。
時間が掛かり過ぎる。
まして体力的にもキツイ。
出産して間もない今のローエでは数メートル走っただけで息が上がってしまう。
これではグロリアを探すのも時間が掛かるし、そこからゼクードを呼びに【エルガンディ】へ戻るのにも時間が掛かり過ぎる。
モタモタしていたらカーティスが力尽きてしまう。
なんとかしないと!
でも、どうすれば……
何も思いつかず、ローエはただ賢明にグロリアの元へと走り続けた。
★
フランベールは、娘のレミーベールからグロリアの事を聞いた。
彼女はセレンの輸血によりドラゴン化したらしい。
見た目こそ人間だが、瞳はセレンと同じピンクになったそうだ。
今はまだ正気を保っているが、いつセレンのようにおかしくなるか分からないとのこと。
……輸血までの経緯も聞いた。
グロリアはあの人型ドラゴンに腹を貫かれ、助からない傷を負った。
それを救うため、セレンが自分の血をグロリアに分けたそうだ。
結果……グロリアの命は助かったが、人ならざる者へと変わってしまった。
輸血した本人のセレンも正気を失いフォレッドを刺したという。
もうメチャクチャだ。
せっかく【フォルス家】の大黒柱ゼクードが回復したのに、今度はグロリアがこんなことになるとは。
しかも当のグロリアは……もう二度とエルガンディへは帰らないと言っているらしい。
この事実を聞いたのだろうローエは飛び出してしまった。
当然だろう。
わたしだって、今すぐ飛び出してグロリアを探したい。
でも……リィンベールたちを置いてはいけない。
わたし達に何かあったら、また姉さん達に迷惑を掛けてしまう。
それだけはもう絶対にダメだ。
グロリアの事は心配だが、ゼクードくんが出た。
ローエさんも行っている。
きっと大丈夫だ。
わたしとカティアさんは、目の前でスヤスヤと眠る子供たちを護るんだ。
……だけど、最後にグロリアと何を話した?
いきなりこんな別れ方……あんまりだ。
せめて代わってあげたい。
なんでグロリアがあんな目に……
わたしだったら良かったのに……
…………ローエさんもこんな気持ちなんだろうな……
わたしですらこうだもの。
……
どうすれば救えるんだろう?
グロリアを救ってあげたい……
でも……【血】を相手に、どうすればいいのか?
「ねぇ……カティアさん」
眠るオラージュを優しく撫でながらフランベールが言った。
「どうした?」っと窓の外を眺めていたカティアがこちらに振り向く。
「グロリア……どうなっちゃうのかな」
「……」
カティアの返事はなかった。
フランベールは構わず続けた。
「ゼクードくんの記憶が治ったから……このまま【フォルス家】も回復すると思ってたのに……」
「そうだな……」
「代わってあげたいよ……なんでグロリアがあんな目に合わなきゃならないの……」
「……私も同じ事を考えていた」
「カティアさんも……?」
「ああ。グロリアも私の娘だ。自分の子供が不幸になるくらいなら……自分が不幸になった方が何百倍もマシだ」
正直……嬉しかった。
カティアが自分とまったく同じ考えをしていたことが。
そしてそれ故に泣いてしまった。
「うん。わたしもそうだよ。だからなんとかして救ってあげたいのに……何も思いつかなくて……代わってあげたいって、それだけで……」
「フラン……」
泣いたフランベールをカティアは優しく抱擁した。
フランベールはカティアの胸を涙で濡らす。
当のカティアも半泣きで堪えている状態だった。
「カティアさん……わたし達……もうグロリアに会えないのかな……」
「……」
「助けて……あげられないのかな……」
「……」
カティアは……何も答えなかった。
答えられなかったのだろう。
答えはもう分かり切っているから。
「……………………なぁフラン」
フランベールの耳元でカティアは囁く。
「私たちも……旅に出るか?」
「え?」
「グロリアと一緒に……カレン達も連れて……【フォルス家】のみんなで世界を回るんだ。もしかしたらグロリアを救う方法があるかもしれない」