【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
遠い過去で見た記憶が蘇る。
紫色の長髪。
桃色の丸い瞳。
それは間違いなく死ぬ前に見た母セレンのそれだった。
しかし身体が竜鱗に覆われている。
翼も生えており、爪もある。
顔こそ人間だが、どう見ても人外だ。
あれがS級ドラゴンの心臓で蘇ったという俺の母親セレン・フォルスか。
レミーには聞いていたが、本当に若いな。
どう見ても少女じゃないか。
胸もあんなにあったっけ?
「あ……あなたは……」
鼻をクンクンとしたセレンが目を限界まで見開いた。
どうやら俺の匂いに気づいたらしい。
「ゼクード……あなたなの?」
震える声。
全身をも震わせてセレンは舞い降りてきた。
「この匂い……間違いない……あぁゼクード! あなたなのね! 私よ! あなたの母親セレンよ!」
セレンは目に涙を浮かべながら俺の元へと走ってくる。
そんな母を俺は【ブレイブエルガンディ】を突き付けて出迎えた。
「え……ゼクード?」
「お前がドラゴンセレンか。ずいぶんと俺の家族をメチャクチャにしてくれたじゃないか。お前……覚悟は出来てるんだろうな?」
怒り。
ゼクードは本気で怒って、睨み付けていた。
その怒りが本物であることを察したセレンは慌てて反論した。
「ち、違うのよゼクード!」
「何が違う? たった今カーティスを焼き殺そうとしていたな?」
「それは……」
「グロリアもかなり痛めつけたと聞いた」
「違うのよ! グロリアもカーティスも私に逆らうから!」
「俺のオヤジを……フォレッド・フォルスを殺したのもお前だと聞いた。ローエを襲ったのだって……全部お前が!」
「やめてよゼクード! せっかく会えたのに何よ! なんでそんなに怒ってるのよ!」
セレンの叫びにゼクードはギリッと歯が欠けるほど食い縛り、塚が軋むほどロングブレードを握り締めた。
「本物の母さんはそんなことしない!」
ゼクードの本気の怒声が空に響いた。
それはセレンどころかカーティスさえも畏怖するほどの威圧感があった。
こんなにも怒りを露わにした父を初めてみたカーティスはゼクードを凝視する。
セレンも竦み上がり一歩下がった。
「ほ、本物の母さんって……なにを、言ってるの?」
セレンの怯えた上目遣いが(何故?)と問うている。
なぜゼクードがここまで怒っているのか本気で分からない様子だった。
セレン・フォルス。
彼女がゼクードにとってかげがえのない存在だったのは言うまでもない。
『ごめんね……ゼクード……お母さんは…………もぅ……』
過去の記憶が蘇り、掠れていく母の声を思い出した。
優しい母のぬくもりが消えていく感覚。
それは今でもハッキリ覚えている。
セレンは……お母さんは心配性だったから、ゼクードはいつだって強がっていた。
心配させたくないから。
『大丈夫だよお母さん! お婆ちゃんもいるし! 俺、父さんより強い騎士になるから! だから大丈夫だよ! 本当だよ!』
自分が泣いてることにすら気づいてない少年が言った。
母の手をしっかりと握り、安心させようと必死だった。
『強くなったら女の子にモテるって父さんが言ってたから、俺、強くなるよ! そしていっぱい家族を作るから! だから……大丈夫だよ!』
『そぅ…………見てみたかったな……ゼクードの…………家族……――――』
その言葉を最後にセレンはこの世を去った。
あの日ほど泣いた日はないだろう。
あの日ほど本音をぶつけたかった日はなかった。
死なないでお母さん!
置いてかないで!
もっと一緒に居たいよ!
お母さんが大好きだ!
もっとお母さんと遊びたい!
抱きしめてほしい!
キスしてほしい!
撫でてほしい!
愛してほしい!
ずっと側にいてよ!
……それらが叶わぬと、童心ながらに分かっていたんだろう。
死にゆく母を困らせたくなかったから。
安心して眠ってほしかったから。
それが……今はどうだ?
S級ドラゴンの心臓で蘇ったセレンは、俺の家族をメチャクチャにしている。
俺の家族を見てみたかったと、そう言って死んでしまった母がだ。
その心臓に身体を弄ばれて、自分の手で息子の家族を手に掛けている。
こんな地獄があるか?
いったいなんの拷問だ?
俺の母さんが何をしたと言うんだ?
父さん……あんた……本当にとんでもないことをしてくれたな。
母さんを待たせるだけ待たせて、あげくこんな姿にしてしまうなんてさ。
……だけど、もういいよ。
これは身内の不始末だ。
俺がきっちりカタをつける。
そのために来たんだ。
「もう家族面はやめろ」
「なっ!?」
セレンが驚愕するがゼクードは構わず続けた。
「肉だけの母なんているものか。お前はセレン・フォルスじゃない!」
「な、なんですって!? ゼクード……あなた!」
「行くぞカーティス。力を貸してくれ」
「了解!」