【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第329話【一つに絞る】

 ローエは湖のふもとへ着いていた。

 グロリアが投げ飛ばされた方角を辿ってきたらココに着いた。

 

「はぁ……はぁ……グロリア……どこ? どこですの!?」

 

 湖沿いをひたすら歩き、娘を探すローエ。

 その途中で何者かが争った形跡を発見した。

 さらには湖から何かを引きずった跡も。

 

 大きさからして人間サイズだ。

 A級ドラゴンじゃない。

 

 この湖にグロリアが落ちたとして、そこから彼女が自分で這い上がったのならこんな引きずり跡は残らないはず。

 

「まさか……あの黒いドラゴンが!?」

 

 何故か味方になっていたあの黒い人型ドラゴンを思い出した。

 アイツはグロリアが投げ飛ばされたのを確認するとすぐさま彼女を追いかけて行った。

 

 なぜセレンではなくグロリアを優先したのだろう?

 まさか連れ去るため?

 グロリアを抱えて?

 餌として?

 味方のふりをしてグロリアを?

 

 様々な疑惑が脳裏に浮かび、最悪な結末を予想したローエは冷や汗がドバっと全身から溢れた。

 

 しかし。

 

「お母さああああああああん!」

 

「!?」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 振り向けばそこにはこちらへ走ってくる娘グロリアの姿が。

 

「グロリア!」

「お母さん!」

 

 生きていた!

 ローエは涙しながらグロリアを受け止めて抱き締める。

 

「良かった! 無事だったのねグロリア! 良かった! 本当に良かった!」

「お母さんこそ! 心配したんだからね!」

 

 娘の体温を堪能し、生きていることを再確認すると、ローエはグロリアの全身を見回した。

 

「大丈夫? 身体はなんともないの!?」

 

「大丈夫よ。それより……」

 

「ローエ!」

 

 思わぬ怒声が響き、ローエは眼を限界まで見開いた。

 

「え!? ゼ、ゼクード!?」

 

「なに勝手に飛び出してんだ!」

 

 あのゼクードが本気で怒っている。

 見たこともない夫の本気の怒りにローエは思わずたじろいだ。

 年下の夫をこんなに怖いと思ったのは初めてだ。

 

「そ、それは……だって……」

 

「お前に何かあったらオラージュたちはどうなるんだ! もう少し考えて行動しろよ!」

 

「……っ! じゃ、じゃあなんですの! 娘が大変な時に黙って待ってろって言うんですの!?」

 

「そうだよ! 俺に任せておけば良かったんだ! そんな身体でムチャしやがって! このバカ野郎!」

 

「バカ野郎って……ああそう! あなたにはわたくしの気持ちなんて分からないでしょうね! 所詮は男ですものねあなたは!」

 

「なんだと! 男とか女とか関係あるのかよ!」

 

「ちょ、ちょっとケンカしないでよこんな時に!」

 

 グロリアが仲裁に入ろうとすると、カーティスがそれを押し留め「父さんもお母様も落ち着いてください。二人とも言葉が過ぎますよ」と落ち着いた声を押しかぶせた。

 

 睨み合うゼクードとローエの間に立ち、カーティスは続ける。

 

「もうすぐ日が暮れます。今日はここでキャンプにしましょう」

 

 

 それから間もなく日が沈み始めてきた。

 視界が暗くなる前に薪を集め、火を起こし、その辺で狩ったA級ドラゴンの肉を焼くグロリアとローエ。

 

 そんな二人を守るようにゼクードとカーティスは見張りをしていた。

 

 ……正直、今はローエと喋りたくないから距離を取っているだけで、自然と見張り役のような立ち位置になっただけなのだが。

 

「父さん」

 

 A級ドラゴンの気配がないと見るや、息子のカーティスがこちらへ寄ってきた。

 

「なんだ?」

 

「……どうしたんですか? いつもの父さんらしくなかったですよ」

 

「……なにが?」

 

「さっきのお母様との言い合い。あまりにも感情的だったと思います」

 

「そんなことない。無事だって分かったらホッとなって、なんか……ムカつきが湧いただけだよ」

 

「そうですか。ですが父さん……お母様の気持ちも汲んであげてください」

 

「いや……でもさ」

 

「さっきの父さん……怒り過ぎでしたよ」

 

「だってアイツ……自分の身体がボロボロなのに飛び出したんだぞ? オラージュだって生まれたのに……無責任だよ行動が……」

 

「父さんの言い分は分かります。お母様はここへ来るべきではなかった」

 

「だろ? だから――――」

 

「でもお母様の気持ちはオレでも痛いほど分かります」

 

「!」

 

「オレがお母様と同じ状況ならきっと同じことをしていたと思います」

 

 ……ああ、わかってる。

 俺もきっとローエと同じことをしていただろう。

 カーティスの言葉を否定する気にはなれず、ゼクードは押し黙った。

 

「父さんだってそうでしょう?」

 

「……さぁな。――――……………………いや、そう……だな」

 

 カーティス相手に意地を張ってもしょうがない。

 

「アイツの気持ちはよく分かってるよ。でもやっぱり、俺としては待っていてほしかったんだ。オラージュたちのためにも」

 

「……心中お察しします。でもどうか、お母様と仲直りしてくださいね? オラージュたちのためにも」

 

 そっくり返されゼクードは苦笑した。

 

「……カーティスには、敵わないな」

 

「どうも。……ただ正直、父さんはセレンとの戦いの後からずっと苛ついてませんか?」

 

「!」

 

「落ち着きがないと言うか、余裕がないというか、そんな感じです」

 

 まいったな。

 

「……ホントよく見てるな」

 

「息子ですからね。……オレで良ければ聞きますよ父さん」

 

「ん……いや、まぁ、頭の中ゴチャゴチャしててさ。それで苛ついてんのかも」

 

「え?」

 

「ローエの事もそうだし、グロリアの事もそうだし、セレンの事だって……」

 

 一呼吸して、そこからはゼクード自身も驚くほど言葉が出てきた。

 

「グロリアをどうすれば助けられるのかずっと考えてて……でも解決策が見つからなくてモヤモヤしてて……。じゃあグロリアを諦めるとしたらローエたちをどう納得させればいいのか分からなくて……。グロリアを諦めたら俺たちは今後も笑って生きていけるのかも不安で……。どうすれば良いか分からなくてさ。そんな頭いっぱいの状態なのにセレンだよ。奴に俺が考えてる作戦が通用するかどうか。それが不安で分かんなくて。でもやらないといつセレンが【エルガンディ】に来るか分かったもんじゃない。セレンを倒すにはローエの力も必要なんだけど……あんなこと言った後にアイツを危険な目に合わせるのはおかしいし、レグナとかに協力してもらった方がいいかなって……いろいろ考えてて頭がゴチャゴチャなんだ。なにが一番最適なんだろって……」

 

「父さん……」

 

「悪い……愚痴っぽくなっちゃったな」

 

「いえ。吐き出してもらえて嬉しいです。そこまで根を詰めていたんですね」

 

「詰めちゃってたな……どうすればいいかな?」

 

 情けないと思いつつもカーティスに助けを求めていた。

 一人で考えていても何も進まないから。

 そして問われたカーティスはすぐに返してきた。

 

「目標を1つに絞りましょう」

 

「え……1つに?」

 

「はい。今もっとも優先しなければいけないのは【セレンの討伐】です」

 

「どうして?」

 

「セレンを倒さないと【エルガンディ】が危険です。みんなが危険な目に遭うんです。お母様やオラージュたちだけじゃなく、みんな」

 

 そうだった。

 なんでそんな簡単なことが分からなかったんだろう。

 ローエを危険から遠ざけても、セレンが倒せないのであれば危険なことに変わりはない。

 

 ならばやはりセレン討伐がもっとも優先されるべき目標だ。

 

「どのみち危険なら父さんの作戦にお母様を付き合わせましょう。どうせ帰れと言っても聞きませんよ。またケンカになるだけです」

 

「確かに……」

 

「それからグロリアの事は……セレンをなんとかしてから考えましょう」

 

「でもセレンを倒したらアイツ……俺たちから逃げるかもしれないぞ?」

 

「オレが捕まえておきます。大丈夫です」 

 

「……頼りになるな。お前はホントに」

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