【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第33話【若すぎたんだ】

「な、なんですって!?」

 

 ローエの顔が一気に焦りの色に染まっていった。

 向かいの執事セルディスも焦っているが、しっかりとした口調で説明を続ける。

 

「昨日の避難で無理をしたせいかもしれません! いまメイドに動ける医者を探させています!」

 

「そんな……リーネが……」

 

「ローエさん! 急いで行ってあげて!」

 

 声を掛けたのはフランベール先生だった。

「ここは心配しなくていい」とカティアも繋げる。

 

 ローエは素早く頷いて「ごめんなさい!」とセルディスを連れて去って行った。

 

 

 市民の救助活動は昼に差し掛かった。

 別の騎士と交代して、俺は昼食を取ろうと街の中央広場へ来ていた。

 

 城から支給されたパンと水を食べ終えると、

 そこへ俺を探していたらしいカティアさんとフランベール先生に出会った。

 

 すると突然ローエさんの話になり。

 

「え!? 妹さんが!?」

 

 妹さんの病状が悪化したと聞かされて俺は驚いた。

 フランベール先生が「そうなの」と続ける。

 

「昨日の避難で無理をしたせいだって執事さんが言ってたわ」

 

「しかもよりによって調合師がケガなどで全滅している。急いで薬を作ろうにも作れる人間がいないんだ」

 

 カティアさんの言葉に俺は納得した。

【秘薬】を作れば済む話じゃないかと思っていたが、そういうことか。

 

「だったら難民の中に調合師がいないか探してみましょう。たった30人ほどですが、可能性はあるかもしれません」

 

「難民?」

 

 カティアさんとフランベール先生が同時に首を傾げてきた。

 

 あ、知らないのか。

 

「他国からの難民です。S級ドラゴンの襲撃を受けたのは俺たち【エルガンディ王国】だけじゃなかったらしくて」

 

「なんだって!? 昨日なのか?」

 

「はい。S級ドラゴンの同時襲撃ですよ」

 

「そんな……信じられない」

 

「俺もですよ先生。おかげで一つの可能性が浮上しましたからね」

 

「え?」

 

「更なる脅威の存在です。S級ドラゴンが息を合わせたように同時に人間を攻めてきた。ということは発見された4体のS級ドラゴンに指示を出す更に上のドラゴンがいるかもしれないんです。もしくはその4体の内の1体がそうなのかもしれません」

 

「あれより上が存在するのか……冗談もキツイな」

 

 カティアさんが顔を歪めて言う。

 

「そうですね。できれば外れてほしい予想だったんですが」

 

 俺が言うと、何やら周りの家から足音が聴こえ出した。

 かなり速い。

 その足音はどうやら屋根から聴こえてくる。

 

 何者かが屋根を走っている?

 誰だ?

 

「隊長! みなさん!」

 

 声を上げて屋根から飛び出してきたのは金髪で緑の鎧を着たあの人。

 

「ローエさん!」

 

 どっから出て来てるんですか!?

 そんな突っ込みの間もなくローエは地面に着地した。

 

「ぁ、えと、妹さんは!?」

 

 屋根から来たことは無視して俺は質問する。

 よく見ればローエさんの顔色は良くない。

 先の言葉がなんとなく予想できてしまう。

 

「動ける医者に見てもらいましたが、もって1週間らしいのですわ! それも長くて!」

 

「な、1週間!?」

 

 短い……妹さんの命が、もうそれだけしかないなんて。

 

「ですからごめんなさい! わたくしこれから他国へ向かいますわ!」

 

「え?」

 

「あちらの他国の調合師さんに【秘薬】の調合をお願いしてきます。私事で申し訳ありませんが、いったん【エルガンディ王国】を離れさせてもらいますわ」

 

「それは構いませんけど、ちょっと待ってください。難民の中にもしかしたら調合師さんがいるかもしれません。それだけ先に確認してから動きましょう」

 

「え、難民ですの?」

 

「説明は後で。とにかく急ぎましょう」

 

 俺はローエ・カティア・フランベールを連れて【第二城壁】へ向かうことにした。

 

 

 大破した【第二城壁】のゲートを乗り越えて、城壁の間にやってきた。

 そこは手入れのされた芝生が広がり、難民の方々がキャンプを設置して落ち着いていた。

 

 何人かの王国騎士たちもいる。

 監視役みたいだ。

 

「何なんですの彼らは?」っとローエさん。

 

「他国もS級ドラゴンに襲われていたみたいなんです。【オルブレイブ王国】【リングレイス王国】は壊滅したみたいで」

 

「え!?」

「壊滅だと!?」

 

 これまたカティアさんとフランベール先生が驚愕の声を上げた。

 そうか、難民を知らないならこの事も知らなくて当然か。

 

 今は救助活動を優先してるから、情報の回りが遅いのだろう。

 

「【アークルム王国】は撃退に成功したそうです。撃破に成功したのはここ【エルガンディ王国】だけですね」

 

「そ、そんな事態になっていたのか……」

 

 改めて事態の深刻さを思い知ったらしいカティアさんが言った。

 

「そうなんです」と返して、俺はすぐさまキャンプの方へ行き手を上げた。

 

「すみません! 【調合師】の方がいらっしゃいましたら手を上げて頂けませんか? お願いしたいことがあるんです」

 

 シーン……

 

 なんとも懐かしい感じのする沈黙がキャンプに広まった。

 息苦しい静けさと、集中する難民たちの視線がなんか辛い。

 

 やはり【調合師】はいないのか、と落胆する気持ちが湧いてきた。

 手を上げるのを止めようかと思ったその時、一人の黒衣を着た男が立ち上がってこちらに来た。

 

 見たところ中年ほどの男だ。

 先ほど男が座っていた場所には彼の妻と娘らしき人物が見える。

 既婚者なのかもしれない。

 

 男は俺の前まで来ると、後ろにいるローエさん達を物珍しそうに見てきた。

 

「へー、女騎士なんて初めて見たよ。本当にいるんだな【エルガンディ】には」

 

「あなたは?」

 

「ご指名の【調合師】の者さ。こっちは妻と娘。一家で頼りない【オルブレイブ王国】を逃げてきたんだ。どうせ負けるのは分かってたからな」

 

 飄々とした口調で男は肩を竦めてきた。

 酷い言われようだが、俺もそう思っていたから何も反論はしない。

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

 ローエさんが横から出てきた。

 

「お金ならいくらでもありますわ! どうか【秘薬】の調合をお願いしたいんですの!」

 

「【秘薬】の調合か……金はともかく素材はあるのかい?」

 

「【S級ドラゴンの爪】でしょう? ありますわ」

 

「なるほど。なら後は【アンブロシア】が必要だ」

 

「【アンブロシア】?」

 

 聞き慣れない名前にローエさんは怪訝な顔をする。

 

「キノコの一種さ。こいつから出るエキスが必要なんだ。S級ドラゴンの爪はたしかに薬になる。でも効力が強すぎるんだ。弱ってる人間にそのまま【秘薬】を飲ませたら間違いなく死ぬ。それを防ぐために【アンブロシア】がいるんだよ」

 

 なるほど。

 

「どこにありますの!」

 

「ここいらにやたらドラゴンが集まる場所は無いか? あるとすればそこだな」

 

「どういう事ですの?」

 

「【アンブロシア】はドラゴンの好物なんだ。人間の次にな。だからこのキノコが生える場所に奴らはよく群れる。どこにあるかと聞かれたら、それがヒントとしか言えん」

 

 これはまた厄介だな。

 

「わかりましたわ。情報をありがとうございます。必ず持ってきますわ」

 

 ローエさんは男に大きく一礼して踵を返した。

 そのまま急ぎ足で街の方へ戻っていく。

 カティアさんとフランベール先生も小さくお辞儀してローエさんの後について行った。

 

「この国の騎士はみんな腰が低いんだな」

 

「はい?」

 

 突然の男の発言に俺は視線を向ける。

 

「いや、なんて言うか、変に威張り散らしてないって言うか、平民にお辞儀する騎士なんて初めて見たからさ」

 

「【オルブレイブ王国】ではそうじゃないんですか?」

 

「ないね。特にS級騎士の奴らなんかは。肝心な時にまったく役に立たなくて、結局は国が滅んだ。情けない限りだよ」

 

「……」

 

「この国だけなんだろ? S級ドラゴンを撃破したのって」

 

「そうみたいですね」

 

「良かったよ。この国に逃げて正解だった。S級騎士の奴らも少しは役に立ったわけだ」

 

「え?」

 

「なんでもこの国の【ドラゴンキラー隊】が強すぎるってワーワー言ってたんだよ。その噂があったから妻と娘を連れて【エルガンディ王国】へ逃げると決心できた。つまりそういうことさ」

 

「なるほど」

 

「なぁ君。君も騎士ならこの国の【ドラゴンキラー隊】ぐらいは知ってるよな? どんな奴が隊長なんだい?」

 

「あ、俺です」

 

「こら。大人をからかうんじゃない」

 

「いや、本当に──」

 

「わかった。隊長を知らないんだな? そうならそうと素直に言いなさい」

 

「いや、本──」

 

「とにかく、さっきのお嬢さんには金はいらないと伝えておいてくれ」

 

「え?」

 

「その代わり、俺たちの身の安全を保証してくれ。それだけは本当に頼む」

 

「了解しました。必ず伝えておきます」

 

 ──俺が隊長だって信じてもらえなかった。

 ちょっとショック。

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