【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
夕日が沈み、辺りが暗くなってきた。
パチパチと弾ける焚き火が三人の母親を照らす。
三人の母親――――ローエ・カティア・フランベールは誰も一言も喋らなかった。
食べ物にも手を付けない。
ただ呆然と丸太に座って焚き火を見つめている。
『アンタたち子供をなんだと思ってるのよ!』
あのグロリアの言葉がよほど堪えたのだろう。
現に三人の母親たちは顔が暗く沈んでいる。
親に向かってアンタと呼んだグロリアを叱りたい気持ちはあったが、それよりグロリアの気持ちの方が分かる自分もいた。
オラージュ・カレンティア・リィンベール。
生まれたばかりの妹たちを置いてこんなところまでグロリアを追い掛けてくるなんて。
しかも出産で弱っている状態で。
あまりに無責任で軽率な行動だ。
グロリアが怒るのも無理はない。
だが母さんたちがどうしてそんな行動をしたのかも分かるから責められず、結局は何も話せないままでいる。
「ねぇカーティス……」
共に見張り役をしていたレミーベールがこっちに来た。
「なんだ?」
「ワタシ……余計なことしちゃったのかな……」
レミーベールは言いながらローエたちの方を見やる。
「グロリアがあんなに怒って……お母さんたちはあんなに傷ついて……ワタシ……」
「仕方ない」
即答したカーティスにレミーベールは虚を突かれた顔を向ける。
カーティスは構わず続けた。
「これだけ家族がグチャグチャになると最適解なんて分からない。今は父さんを待とう。それしかない」
父ゼクードがグロリアを連れ戻してくれれば話が進むだろう。
疲弊し切っている今の【フォルス家】を立て直すにはそれしかない。
「それよりレミー。お腹は大丈夫なのか?」
「え?」
「赤ちゃんの方だ。居るんだろう? お腹に。陛下との赤ちゃんが」
「あ……うん。まだなんとも。症状は何も出てないから大丈夫」
「ならいいが、少しでも体調に変化があったら言うんだぞ?」
「……言ったら、ワタシだけ帰されるの?」
「当たり前だろ」
「……」
暗くなるレミーベールにカーティスは溜め息を漏らした。
「……仮にオレが許しても、グロリアが許さないぞ」
「わかってるわ……でも帰ったらもう…………二度とグロリアに会えない気がして……」
「アイツならオレが意地でも連れて帰る。だから心配するな」
「カーティス……」
「だからお前も今はセレン討伐の事に集中しろ」
「え?」
「グロリアの事も、赤ちゃんの事もその後だ。セレンを止めないと、いつか【エルガンディ】に脅威が及ぶ。それだけは絶対に阻止する。しなくちゃいけないんだ。お婆ちゃんのためにも」
「……うん」
※
3人で焚き火を囲んで、もうどれだけ経つのか。
ローエは揺れる炎をただ見つめ、グロリアの言葉を思い出しては俯いていた。
「ローエ……大丈夫か?」
心配して声を掛けてくれたのは他でもないカティアだった。
焚き火を挟んだ向かいに座っている彼女は薪を焚べた。
「……大丈夫、ですわ」
なんとかそれだけ絞り出したローエは、しかしグロリアの言葉を思い出してしまって俯く。
「でも……さすがに堪えましたわ……」
胸の奥がズキズキと痛む。
娘の言葉がどんな牙よりも鋭く突き刺さっていて抜けない。
「うん……今までの報いが来た感じ……凄く痛い……」
フランベールも同様らしく、胸に手を当てて泣きそうになっている。
「『子供をなんだと思っている』……か………………心臓に穴が空いた気分だ」
カティアの言葉はまさに今のローエの心情を的確に表していた。
心臓を穿たれたようなこの感覚。
親としての無責任さを指摘され、分かっていながら返す言葉も持てなかった。
でも、どうしてもグロリアを見捨てたくない思いがローエにはあった。
そもそもの話……親が子供を見捨てる選択肢があっていいはずがない。
だから……
「カティア、フラン……わたくし、グロリアと旅に出ようと思ってますの」
グロリアに怒鳴られたこの案を諦めてはいなかった。
「世界は広いですわ。もしかしたらあの子が人間に戻れる可能性があるかもしれない。それを探したいと思ってますの」
言い終えるとそこには息を呑み、絶句したカティアとフランベールの視線があった。
「……? あの……」
「あ、いや、すまん」
「わたし達も同じ事を考えてたから」
「二人も?」
「うん。みんなで旅してグロリアを助けようって」
「娘が不幸になるのだけは……どうしても看過できん。その結論が旅に出る、なんだが」
「みんなしてバカ言わないの」
森の奥から聞こえた声。
それと同時に現れたのはグロリアとゼクード。
「グロリア!」
ローエが先に立ち上がり、カティアとフランベールも立ち上がる。
するとグロリアは三人の母親の前に立ち、ゆっくりと口を開いた。
「……さっきはごめんね。みんなに酷いこと言って」
「いや、悪いのは我々だ。すまなかった」
「本当にごめんなさい」
カティアとフランベールが謝ると、今度はローエとグロリアの視線が重なる。
「グロリア……」
「お母さん……」
「ごめんなさい。わたくし……やっぱりあなたを諦めるなんて……できませんわ」
「アタシに嫌われても?」
ローエは迷わず頷いた。
あまりの迷いのなさ。
いっそ清々しい母の諦めの悪さにグロリアは苦笑する。
「バカ……」
「好かれたいわけじゃありませんの。わたくしにとってあなたは……」
「わかってるよお母さん」
「!」
「すぐに居なくなったりしないから。安心して」
「グロリア……」
「お父さんと約束したの。ね?」
「ああ」
ゼクードが頷くと、ローエはそんな夫を見つめた。
その際にカーティスとレミーベールも駆け付け【フォルス家】が全員揃う。
「……みんな聞いてくれ」
みんなの視線を受け止めながら、ゼクードは焚き火の前に立った。
「俺たちは今いろんな問題を抱えている。【フォルス家】の瀬戸際と言っていいだろう」
大袈裟に言ったわけではなかった。
明日を笑って生きていけるかさえ、今の【フォルス家】には分からない。
記憶喪失から一家は一度だけ沈みかけたがゼクードの回復で難は逃れた。
しかし新たな問題でセレンという化け物が生まれ、グロリアがドラゴンと化し、回復しそうだった家族の基盤はあっさり崩れた。
一度崩れてしまえばなんと脆いことか。
だが大黒柱であるゼクードが脆いわけにはいかない。
カーティスのおかげで目標も絞れた。
あとはまたみんなを引っ張って事を成す。
「瀬戸際でも俺たちが解決しなきゃならないものがある。それがセレンの件だ。奴には俺とカーティスでさえ傷一つ付けられない。それが何を意味するのか、みんなには分かるだろう」
レミーベールやローエたちが驚愕の気配を見せた。
「お前とカーティスでダメなら……いったい誰が……!?」
カティアの言葉にゼクードは頷く。
「【エルガンディ】にも【シエルグリス】にも勝てる奴はいない。つまり俺たちは何がなんでも勝たなきゃダメなんだ。セレンに。どんな手を使ってでも」
「勝算はありますの?」
「ある。その勝算を生み出すには俺たち全員の力を合わせる必要がある。特にローエ・カティア・フランベール。お前たち三人の協力が絶対に必要だ」
本来は炎の魔法を使えるカーティスと、雷を操れるナイトと、風の魔法を使えるローエでなんとかするつもりだった。
だが一度それをやった事がある三人の妻がいるならそっちの方が話は早い。
「まさかゼクードくん!」
勘付いたらしいフランベールが言うと、ゼクードはまた頷いて口を開いた。
「【限界突破《オーバー》・竜《ドラゴン》斬り】を使う」