【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
【ハーティシオ王国】の内部は焦げた臭いが充満する廃墟だった。
黒ずんだ石畳みには人骨が所々に転がっており、空気も淀んでいる。
セレンの居場所に心当たりがあるらしいカーティス・グロリア・レミーベールは先行し、ゼクード・ローエ・カティア・フランベールは息子らの背中を追う。
そんなゼクードたちの視線はカーティスたちと歩くナイトに向けられていた。
「信じられないよ。ドラゴンと共同戦線だなんて……」
俺の隣を歩くフランベールが小声で言ってきた。
すると後ろのカティアも。
「裏切ったりしないだろうな?」
すると俺が答えるよりも早くローエが答えた。
「グロリアが大丈夫って言ってますわ。あの子を信じましょう」
言われたカティアとフランベールは少し不安そうに俺の方を見てきたが、俺は頷いて返す。
「俺も一度だけあのドラゴンと共闘してる。大丈夫さ」
「ならいいけど……」
フランベールがそう言うと、ほぼ同時にグロリアたちの驚きの声が聞こえてきた。
「いない!」
そんなカーティスたちの声に目を向けると、いつの間にか大きな建物の前まで来ていた。
あの大きな建物の中にセレンがいたのだろうか?
「どうしたんだ?」
俺はカーティスたちの元へ駆け寄ると、グロリアが肩を竦めてきた。
「もぬけの殻。セレンがどこにもいないわ」
「なんだって?」
「父さん。オレたちが初めてセレンと会ったのはここなんです」
カーティスが建物を指して言う。
やはりそうなのか。
セレンはここにいたらしい。
「ここに来ればいると思ったのですが……」
カーティスが言うとカティアが俺を見た。
「どうするゼクード? 二手に別れて探すか?」
「いやダメだ。戦力の分散は避けたい。作戦にも支障が出る。みんなで街を探索しよう」
「了解よ。ナイトにも伝えておくね」
グロリアはすぐにナイトの方へ寄り、口を開いた。
「ナイト。リィ。悪いけどセレンを探すために街を探索するわよ」
『この人数でゾロゾロ動くのか?』
「え? ええ。誰かが欠けるとお父さんの作戦に支障が出るみたいだから」
『俺が抜けたら問題はあるのか?』
「そりゃあるでしょ戦力的に」
……?
グロリアはナイトと何か揉めているのか?
ナイトの言葉がさっぱり分からない。
『奴に聞け。俺は抜けていいのかと』
「なんでそんなこと……」
『二手に別れた方が早く見つかる。俺はリィとセレンを探す』
「え!? なに言ってんのよ! 一人じゃ勝てないって!」
『わかっている。あくまで素早く見つけたいだけだ』
「んもぅ……ねぇお父さん!」
お? 会話が終わったのかな?
「どうした?」
「ナイトが一人で行動したいらしいの。二手に別れてセレンを探そうって」
ナイトか……まぁアイツなら抜けても【限界突破・竜斬り】を使えるから問題はないか。
セレンを見つけてくれれば助かるし。
「それならナイトは単独で探してくれ。見つけたらすぐ戦闘せず俺たちと合流すること。そこだけは守ってくれ」
「単独で動いてもいいってさ。見つけたらすぐ戦闘しないでアタシたちと合流すること。そこだけ守ってって」
『ふん……言われるまでもない』
ナイトは凄まじい脚力で飛び、街中へと消えて行った。
あれならすぐにセレンを見つけてくれそうだが、大丈夫だろうか?
「……よし。俺たちも探索するぞ」
ナイトを見送ったゼクードたちは【ハーティシオ王国】の探索を開始した。
半壊し、焼け爛れた建物ばかりが並ぶ街並み。
かつてはこの街にも人が暮らしており、仕事や家庭、狩りなど人の営みがあったのだろう。
【エルガンディ】から遠く離れたこんな場所にも人間の文明があったというのには男ながらロマンを感じずにはいられなかったが、この惨状ではそんな気分にさえならない。
普通に暮らしていたであろう住民たちの焦げた遺骨を見て、ゼクードは身の毛もよだつ悪寒を感じた。
ある日突然、ドラゴンのブレスに焼かれて死ぬというのはどれほど恐ろしいことなのだろう。
あらゆる命はあらゆる理不尽との戦いを宿命づけられているが、これほど無慈悲なものもそうは無い。
ドラゴンという人類の天敵が存在するこの世界で、人間が生まれてきたこと自体が間違いだったのではないだろうか?
……そう思わずにはいられないほど、この惨状には目を瞑りたくなる。
過去のあの惨状を思い出しそうになるからだ。
「ゼクード!」
いきなり呼んできたのはローエだった。
セレンを見つけたのだろうか?
いや、それだったらあんな高い声は出さないはず。
「どうしたんだ?」
「あそこを」
ローエが指差した場所は崩れ落ちた建物だった。
他の建物と比べると枠だけでもかなり大きく広いのが分かる。
なにか特別な施設だったのかもしれないが、原型を留めてないから判別もつかない。
「デカい建物だな」
「ええ。それもそうですが、ここを見て」
ローエが前に出て地面を指差す。
そこには燃えた絨毯が黒焦げになっていてボロ雑巾のようになって敷かれていた。
その下には地面とは違う鉄の扉が見えていた。
ローエは焦げた絨毯をひん剥くと、大きな鉄の扉が姿を表した。
「こんなところに扉が!」
レミーベールが驚く。
ローエは構わずその扉を引っ張り開けた。
その扉の向こう側は地下へと通じる階段になっており、奥は暗闇に包まれていた。
さらに異様な気配も感じる。
まさかこの先にセレンが?
しかし入った痕跡などなかったが。
なんにせよ嫌だなこの感じ。
ちょっと昔のエリザを思い出す。
「ゼクード。この先にグロリアを助ける方法があるかもしれませんわ。入ってみましょう」
「ローエ……気持ちは分かるけど焦るなよ。こんなところでもしセレンに襲撃されたらひとたまりもないぞ」
「そ、それはそうですが……」
とは言え、この異様な気配は気になる。
俺だけでも降りて探ってみるべきか?
「父さん」っとカーティス。
「ん?」
「階段の奥から異様な気配を感じます」
「お前もか」
「はい。オレが降りて探ってみます。セレンが隠れているのかもしれません。隠れる意味は分かりませんが……」
「いや、俺が降りるよ。カーティスはここでみんなと待機してくれ」
「はっ!」
「待ってゼクード! わたくしも降りますわ!」
「……じゃあアタシも」
ローエとグロリアが前に出てきた。
おそらく地下に残っている資料などを探したいのだろう。
気持ちは分からなくもないが、まだ地下が実験室とは確定していない。
……だがこの異様な気配はそれを暗に示しているような気もする。
過去のエリザの経験からそう思ってしまう。
「わかった。ならローエとグロリアは俺に同行。カティアたちはカーティスの指揮下で待機してくれ」
「了解だ」
「気をつけてね」
カティアとフランベールの言葉で送られ、ゼクードは妻と娘を連れて階段を降りて行った。