【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
松明を点けて階段を降りる。
カビの臭いが鼻を刺してくる。
階段の1段1段にもホコリが溜まっており、人が通った形跡はまるでない。
この様子だとセレンが奥にいることはなさそうだが、この異常な空気はなんだ?
【オルブレイブ】の時のような【血のバスタブ】というオチだけは勘弁してほしい。
「酷い臭い……吐きそう……」
「大丈夫かグロリア? キツかったら戻っていいんだぞ?」
ゼクードの言葉にグロリアは「大丈夫」と首を振る。
ドラゴン化で嗅覚が鋭くなったグロリアにはこのカビの臭いは地獄だろう。
普通の人間の俺でも辛いのに。
しかし、それでもグロリアはゼクードとローエについてきた。
それからかなり奥深くまで降りた。
もはや何段降りたかすら分からないが、ようやく底が見えてきた。
大きな壁があり、そこには厳重な鉄の扉が閉まっている。
「……お父さん。お母さん。気をつけて。この扉の先にドラゴンの臭いがするわ」
「本当ですの?」
ローエに聞かれグロリアは頷く。
俺とローエは顔を見合わせ、ともに相槌を打った。
ローエは息をするようにドアノブを破壊し扉を開放した。
俺はいつドラゴンが奇襲を仕掛けてきても対応できるように長剣を構えて中へ入る。
グロリアも俺に続いて松明で部屋を照らした。
「……!? なんだこれは……」
照らされた部屋は広かった。
だがドラゴンはいなかった。
あるのは机。
あちこちに机と椅子が置かれており、その上には書物が無造作に散りばめられてある。
何より驚いたのは部屋の9割を占める棺桶の存在だった。
【血のバスタブ】ではなく今回は【棺桶】とは。
なぜこんなところに棺桶が?
「棺桶……これ全部?」
グロリアが驚き、俺は棺桶にゆっくりと歩み寄る。
全部で10個もある棺桶には、それぞれ紙が貼り付けられていた。
【ヴァルドレイク・ディアマード】
心臓の適合に成功。
意識不明。
【ブレザ・ディアマード】
心臓の適合に失敗。
拒絶反応にて死亡。
【レグ・ディアマード】
心臓の適合に成功。
意識不明。
【オルテンシア・ディアマード】
心臓の適合に成功。
意識不明。
【アンナリーナ・ディアマード】
心臓の適合に失敗。
拒絶反応にて死亡。
【アグリス・ディアマード】
心臓の適合に成功。
意識不明。
【メルセーヌ・ディアマード】
心臓の適合に成功。
意識不明。
【リュミエル・ディアマード】
心臓の適合に失敗。
拒絶反応にて死亡。
【レジーナ・ディアマード】
心臓の適合に成功。
意識不明。
【ドレス・ディアマード】
心臓の適合に成功。
意識不明。
……心臓の適合?
まさかセレンと同じ実験か?
S級ドラゴンの心臓を移植するというあの……
いや、待てよ?
そもそもこの棺桶の中には本当に人が入ってるのか?
俺は【ヴァルドレイク】の名がついた棺桶をちょっとだけ開いてみた。
中には確かに男が目を閉じて眠っている。
息はしていない。
「おいおい……本当に人が入ってるぞ」
俺は思わずそう呟いて棺桶を閉めた。
「心臓の適合って……まさかセレンみたいにドラゴンの心臓を?」
ローエが言うとグロリアは頷いた。
「かもね。こいつらからドラゴンの臭いがプンプンするわ。見た目は人でも中身はドラゴンよ」
「……ってことは当たりだな。ここは心臓移植の実験場だったんだ。グロリアを人間に戻す方法があるかもしれない。セレンを討伐したらここを調べよう」
「ですわね! やりましたわねグロリア! きっと人間に戻れますわ!」
「う、うん……」
せっかく希望が見えたのにグロリアの顔は暗かった。
「どうしましたの?」
「ううん……本当に人間に戻る方法なんてあるのかなって」
「「え?」」
俺とローエはグロリアを見た。
グロリアは棺桶を見つめて続ける。
「身体を循環する血を戻すのって、不可能な気がするの。そんなのより正気を保つための薬とか開発されてればって思ってたんだけど……」
「グロリア……あなた」
「ほら……アタシが一番怖いのは正気を失うことだから」
「……そうですわね」
「薬の開発ならそれこそ化学班の協力もいるな。この実験場に連れてきて調査してもらおう。それまでは諦めるなよグロリア」
「うん。わかってるよお父さん。アタシはもう大丈夫。下手に旅に出るとどっかの誰かさんが付いて来そうだからね。そっちの方が恐怖だわ」
グロリアが肩を竦めて見せると、当のローエは苦笑を答えにした。
俺もまんざらローエと同じなので苦笑しかできなかったが。
「……それにしても不気味な場所ですわねここ。この棺桶で眠っている方たちは死んでますの?」
「呼吸はしてないから死んでるな。心臓の適合に成功って書かれてるけど、途中でダメになったんじゃないか?」
仮に起きてこられても困るし、セレンみたいなのが増えても対処し切れないだろう。
彼らには悪いが、このまま眠っていてほしい。
そう脳の片隅で思っていると、近くの机の上にある名簿を見つけた。
俺はその名簿に目を通す。
「この人たちみんな家名が同じなのね。家族なのかしら?」
グロリアが言うと俺は「そうみたいだ」と返した。
手にした名簿にはこう書かれていた。
※実験志願者一覧
※ディアマード家=全員
ヴァルドレイク・ディアマード【夫】
ブレザ・ディアマード【妻】
レグ・ディアマード【長男】
オルテンシア・ディアマード【長女】
アンナリーナ・ディアマード【妻】
アグリス・ディアマード【三女】
メルセーヌ・ディアマード【五女】
リュミエル・ディアマード【妻】
レジーナ・ディアマード【次女】
ドレス・ディアマード【四女】
ご丁寧に家族の続柄がしっかりと書き込まれていた。
かなりの大家族のようだ。
俺の【フォルス家】とほぼ同じである。
さらっと妻が3人いるし。
「このヴァルドレイクって男がこのディアマード家の大黒柱みたいだ。一家揃って実験に志願したらしい」
「何故そんなことを?」
ローエに聞かれたが俺が知りたいくらいだ。
「さぁ……なにかしら理由はあるんだろうけど……」
言いながらもう一度だけ名簿を見ると、俺はあることに気づいた。
心臓の適合に失敗している人物だが、
ブレザ・ディアマード【妻】
アンナリーナ・ディアマード【妻】
リュミエル・ディアマード【妻】
っと、全員が【妻】となっている。
なるほど……ドラゴンの心臓に適合しているのはヴァルドレイクの血か。
彼の血を引いている子供たちはみんな心臓の適合に成功している。
これを俺たちに照らし合わせるとセレンの血を引いていないローエ・カティア・フランベールは心臓に適合できないことの証明になる。
つまり俺やカーティス・レミーベールはグロリアと同じくドラゴンの血に適合できる可能性があるということか。
……もしセレンとの戦いで敗北しそうになったら、最後の手段としてグロリアから血を輸血してもらうことも視野に入れておくか。
あくまで最後の手段だが。
「……お父さん?」
「あ、え?」
グロリアとローエが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
「どうしましたの? 大丈夫?」
「ぁ、ああ。大丈夫。ちょっと考え事をしてただけだよ。とりあえずここは把握した。上に戻ろう」