【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第342話【ゼクードの宝】

【ハーティシオ王国】から外に出た。

 

 広大な草原は風に揺れて波打っている。

 曇っていた空も今は晴れて透き通っている。

 その下で【フォルス家】の面々はそれぞれ傷の手当てなどをして帰還の準備をしていた。

 

 怪我はとっくに回復していたグロリアは、その家族から少し離れたところでナイトと対面していた。

 

「ナイト。リィ。いろいろありがとね。二人がいなかったら勝てなかったわ」

 

『ふん………………お互いさまだ。だが馴れ合いすぎた。そろそろリィに人間の臭いがついてしまう。悪いがもう行かせてもらうぞ』

 

「ええ。でもこれからどうするの?」

 

『リイスの故郷に行ってみようと思っている』

 

「リイス?」

 

 聞くとナイトの顔が少し暗くなった。

 明らかに女性のような名前だが、まさか。

 

『俺の……一番大切だった雌の名だ。リィの母でもある』

 

 やはりそうだった。

 ナイトの番の名だった。

 一番大切だった、と言うことは彼女はもう……

 

「そっか……奥さんの故郷に行くんだ。遠い場所なの?」

 

『ああ。海を渡る必要があるからな。翼があれば楽なんだが……あいにく俺に翼はない」

 

 確かに。

 娘のリィには小さな翼があるのに、ナイトにはない。

 まぁそもそも翼のあるドラゴン自体が珍しいのだから仕方ないか。

 

 というより今さらっと凄いことをナイトが言っていた。

 

「海を渡るって……海の向こうにはやっぱり別の大陸とかあるの?」

 

『そうらしいな。リイスの話ではそこにもお前らみたいな人間がいるらしい』

 

「うそ!? ほんとに!?」

 

『ああ。リイスも別の大陸からやってきたドラゴンだからな。間違いはないだろう』

 

「凄いこと聞いちゃった……」

 

 まさか……まだ見ぬ海の向こうにも大陸があり、人間が住んでいるなんて。

 もしかしたら本当に探せばドラゴン化を治す方法があるかもしれない。

 

「グロリア! ナイト!」

 

 こちらに駆け寄ってきたのは父ゼクードだった。

 包帯だらけの痛々しい見た目になっている。

 

「あ、お父さん。どうしたの?」

 

「彼はもう行くのか?」

 

 彼……とはナイトの事らしい。 

 随分と丸い呼び方になった。

 

「うん」

 

「だったらこれだけ伝えてくれ。『いろいろありがとう。ナイトとリィがいなかったら勝てなかった』って」

 

 グロリアは思わず吹きそうになった。

 

「ふふ……了解。ナイト。リィ。お父さんが『いろいろありがとう。二人がいなかったら勝てなかった』って」

 

『さっき聞いた』

 

「ふふ……だよね。で、アンタも何か伝えてほしいことある?」

 

 聞かれたナイトは虚を突かれた顔になったが、返事はすぐに来た。

 

『『二度と俺の前に現れるな』とだけ伝えておけ』

 

「はいはい……」

 

 背を向けたナイトを見送り、手を振るリィを手を振り返して見送った。

 

 ドラゴンの親子がどんどん小さくなって見えなくなっていくと、隣にゼクードが立ってきた。

 

「彼はなんて?」

 

「二度と会うことはないってさ」

 

「そうか……まぁ、その方がいいのかもしれないな」

 

「うん……」

 

 所詮は人間とドラゴン。

 水と油。

 相容れることはない。

 

 今回の共闘はグロリアがたまたまドラゴンの言葉を理解できたからこそ成し得た奇跡の共闘だった。

 

 しかもセレンという共通の敵がいたからこそでもある。

 もう二度とこのような奇跡の共闘は起きないだろう。

 

 次また出会ってしまったら……お父さんとナイトには戦わない理由がないから……

 

「……っていうかお父さん! 凄いこと聞いちゃったわ! 海の向こうにも大陸があるって!」

 

「え?」

 

「ナイトが言ってたのよ。海の向こうには別の大陸があって、そこにはアタシたちみたいな人間もいるって!」

 

「本当に!?」

 

「ナイトが嘘つくわけないじゃない。アイツそのへん不器用そうだし」

 

「まぁ、確かに……」

 

「いつか渡ってみたいわね。海の向こうはどうなってるのかしら」

 

「おいおい……まずはお前の身体を治すことの方が最優先だろ?」

 

「わかってるってば。だからいつかって言ったの。それにもしかしたらその別の大陸でアタシの治療法が見つかるかもしれないじゃん」

 

「! ……確かにそうだな」

 

「でしょ? 希望があるかもしれない。問題はアタシがそれまで正気を保ってられるかってことなんだけど……」

 

「グロリア……」

 

「まぁけど、まだぜんぜん平気そうだし、大丈夫よ。アタシがおかしくなる前にちゃんと見つけてよね。治療法」

 

「ああ。ありがとうなグロリア。本当に」

 

 ゼクードは心から娘に感謝した。

 探す時間をくれたグロリアに。

 

 そして歩き出した。

 平らな土を覆う植物の緑。

 遥か遠くには峻険な山々が見える。

 

 ゼクードはグロリアの手を引き、家族の元へと戻って行った。

 

 

 それから数日掛けて【エルガンディ王国】に帰還したゼクードたちはリリーベールやグリータたちに大きく迎えられた。

 

【フォルス家】が誰一人欠けることなく生還したことはすぐに城へと報告され、アスレイ陛下が飛び出してきたのは言うまでもない。

 

 その飛び出してきたアスレイ陛下を捕まえてフランベールが何やらいろいろ話をしていたようだ。

 その会話の一部だけ聞こえたが内容は「せめて料理だけは叩き込んでおきますので!」だった。

 

 うん。

 それが良いと思う。

 これから生まれてくる赤ちゃんに何か変な物を食わせないためにもそれは必要だ。

 

 でも王室なら使用人とか料理人とかいるだろうから大丈夫な気もする。

 

 そんなこんなで【フォルス家】の帰還とアスレイ陛下とレミーベールの結婚で【エルガンディ王国】は大きく賑わうことになった。

 

 正直な話、俺が記憶喪失の時に話が進んでいて、いつの間にかカーティスもオフィーリアと結婚していて、いつの間にかオフィーリアのお腹に赤ちゃんがいることになっていた。

 

 レミーベールの赤ちゃんとオフィーリアの赤ちゃん。

 つまり俺の孫になる赤ちゃん達だ。

 つまり俺はお爺ちゃんになるんだ。

 

 まだ17歳なのに。

 カレンティアたちが生まれたばっかりなのに孫とはこれいかに。

 すんごいワクワクしている自分がいる。

 

 俺の手の中にはこんなにも宝が溢れかえっているのだから。

 

 この幸せを……あの人にも伝えよう。 

 

 

 

 

「……ただいまクソオヤジ。身内の不始末……ちゃんと片付けたぞ」

 

 父フォレッドの墓前。

 ゼクードは家族みんなを連れてやってきていた。

 ゼクードの後ろにはローエ・カティア・フランベールと、その彼女たちの腕にはオラージュ・カレンティア・リィンベール。

 さらに横にカーティス・グロリア・レミーベール・オフィーリアが並ぶ。

 

 すべての【フォルス家】を引き連れてここまで来た。

 この前の時はちゃんとした墓参りはできなかったから。

 

「感謝しろよ? 本当に大変だったんだからな?」

 

 土の中で眠る父フォレッドに語り掛け、ゼクードは続ける。

 

「母さんの遺体は……回収できなかったよ。親父と同じ墓で眠らせてやりたかったんだけどな。それから……見てくれ親父。これが俺の自慢の家族だ」

 

 両手を広げ後ろの家族を紹介する。

 

「みんな今回の件で命を張ってくれた。だからぶっちゃけ親父は俺よりみんなに感謝しろよ? ……いや、やっぱ俺にも感謝しろ」

 

 言うと後ろで何人かがクスクスと笑った。

 構わずゼクードは続ける。

 

「母さんにも見せたかったよ。でも……まぁ、仕方ないよな……」

 

 そしておもむろにゼクードはローエたちの赤子を撫でていく。

 

「ほら。親父の新しい孫オラージュ・カレンティア・リィンベールだ。もうすぐ曾孫も生まれるぞ。俺もついにお爺ちゃんだ。【フォルス家】はどんどん栄えていってる」

 

 すやすやと母親に抱かれて眠る我が子を見つめながら、ゼクードはまたフォレッドの墓の正面に立つ。

 

「だから……しっかり見守っていてほしい。ずっと」

 

 それで……もう許してやるから。

 

 ゼクードは黙祷を始めた。

 その大黒柱に習って、後ろの妻たちや息子たちも黙祷する。

 

 優しい風が吹いて【フォルス家】を撫でていく。

 花びらが舞い、それは天へと上っていった。

 

「……よし。気が済んだ。ありがとなみんな。付き合ってくれて」

 

 ゼクードが黙祷をやめると、カティアは頷いた。

 

「構わんさ。墓があるならやるべきことだ」

 

 墓があるなら……

 

 カティアの父クロイツァーは遺体さえ見つからず、墓さえない。

 だから彼女の言葉は重かった。

 

 だが、だからこそこういった墓参りの大切さを思うのだろう。

 墓参りができるというのは、とても大切なことなんだと。

 

「ええ。わたくし達もお祖父様には子供を見せたかったですもの。ね?」

 

 ローエの言葉にフランベールも頷く。

 

「うん。孫の可愛さは格別だって言うからね。でも実際お祖父様がどんな顔したかだけ見たかったかも」

 

「それならお父さんの顔を見ればいいじゃない」

 

 いきなりグロリアがそんなことを言ってきた。

 なんで俺の顔?

 

「そうね。もうすぐ孫が生まれるんだから。ね、オフィーリア」

「はい! お父様がどんな顔をするか楽しみです!」

 

 レミーベールとオフィーリアがお腹を擦りながら言った。

 そこでようやく俺は気づいた。

 

「ああそっか! 俺もお祖父様になるのか!」

 

 まだお爺ちゃんになるという実感が沸かないせいでウッカリしてた。

 そんな俺にカーティスは苦笑する。

 

「父さんさっき自分で言ってたじゃないですか」

 

「俺……ワシさいきん物忘れがヒドくてのぉ」

 

「お前が一番若いだろ馬鹿者」

 

 カティアの突っ込みを境に家族みんなが笑った。

 

 いつかの孤独だった自分はもうなく。

 今はもうこんなにもたくさんの家族に囲まれている。

 

 ローエ

 カティア

 フランベール

 カーティス

 グロリア

 レミーベール

 オフィーリア

 オラージュ

 カレンティア

 リィンベール

 

 そしてレミーベールとオフィーリアのお腹にいる孫二人。

 

 見てるか親父。

 そして母さんと義母さん。

 

 これが俺の家族だよ。

 凄いだろ?

 

 今度は親父たちが成し得なかった【孫を抱いて】。

 また墓参りに来るよ。

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