【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第343話【ディアマード家】

 ドクン……

 

 ドクン……

 

 ドクン……

 

 ドクン!

 

「はっ!?」

 

 セレンは唐突に目を覚ました。

 

 ゆっくりと上半身を起こし、辺りを見渡す。

 

 ここは真っ暗闇。

 

 なにも見えない。

 

 地面はゴツゴツした岩と苔みたいな感触がある。

 それしか分からない。

 

「生きてる……? なんで……」

 

 セレンは自分の胸に手を当てて撫でた。

 

 ゼクードに心臓を抜き取られて死んだはずなのに。

 

 なんで生きているのだろう?

 

 いや、実はもう死んでいて、ここは真っ暗な天国なのかもしれない。

 

 セレンはゆっくりと立ち上がった。

 

 さっき聞こえた心臓の音は自分の心臓だろうか?

 

 再生した?

 そんな奇跡があるのだろうか。

 

 もう一人のセレンはいるのだろうか?

 

 また意識を乗っ取られないか心配だ。

 

 でもこんな右も左も真っ暗で分からない状況だと、もう一人のセレンでさえ声が聞きたくなってくる。

 

 心細い……

 

 今わたしは……どこにいるの?

 

 セレンは天を見上げた。

 

 ほんの僅かに、かなり遠くで光が差している。

 

 両脇に土の絶壁が見える。

 どうやらここはあの時落ちた崖の底らしい。

 かなり深い。

 

 なんとかして登れないだろうか?

 

 翼を生やせれば飛んで上へ行けるのだが……

 

 バサァ……

 

 セレンが背中に意識を向けるとドラゴンの翼が広がった。

 

「わ! ……出た」

 

 驚きつつセレンは翼をバタつかせ浮上した。

 

 視界の悪さは上へ行くにつれて良くなっていき、ついに崖の上へと復帰することができた。

 

 眩しい太陽光がセレンを照らし、透き通った空がセレンを歓迎する。

 

 小鳥たちが楽しそうに囀り、気ままに飛んでいく。

 

 空高く浮上したセレンの真下には【ハーティシオ王国】が広がっていた。

 

 もはや何も残っていない廃墟同然だが、セレンはその地に足をつけた。

 翼を消して、呆然と街中を歩く。

 

 この王国を焼いたのは自分自身で、それらの記憶は鮮明に残っている。

 

 少し前にゼクードたちと戦っていたのも、覚えている。

 

 その過去の記憶がこの景色と一致する。

 

 やはり自分はまだ生きているのだと実感した。

 

 なんで心臓を引き抜かれたのに、まだ動いているのだろう。

 

 セレンは胸に手を当てての目を閉じた。

 

 ドクン……ドクン……ドクン……

 

 心臓の脈動を感じる。

 これは……誰の心臓なのだろう。

 自分の心臓?

 

 再生したの?

 分からない。

 でも意識を乗っ取られる気配はない。

 

 この心臓は本当に自分のものなのだろうか?

 ドラゴンの心臓を抜き取られて、自分の心臓が再生した?

 そんなことが有り得るのだろうか?

 

 セレンは何も確信を持てないまま辺りを見渡した。

 

 何もない焦げだらけの街並み。

 

 人の気配なんて当然、無い。

 

 みんな自分のブレスで焼け死んだのだから。

 

 ……ここに居たら呪われそうだ。

 外に出よう。

 

 でも外に出て……それからどこへ行けばいい?

 

 ふと浮かぶのは息子ゼクードの顔。

 

 ゼクードなら……助けてくれるかな?

 

 でも……また迷惑を掛けるかもしれない。

 

 あの子の家族を、また危険な目に合わせてしまうかもしれない。

 

 自分という不安定な存在はもう居なくなった方がいいのだろう。

 

 やめよう……ゼクードを頼るのは。

 

「……そこに居るのはセレン・フォルスだな?」

 

「え!?」

 

 突如として聞こえてきた男の声にセレンはビクついた。

 声の方に振り向けば、そこにはファーコートを肩に羽織った長身の男が立っていた。

 

 黒と白を基調とした貴族服と着こなし、シルクハットを被っている。

 

 見たことある。

 あれは【ハーティシオ王国】の貴族の格好だ。

 彼はもしかして王国の生き残りだろうか?

 

 だが、妙な違和感がある。

 なんとも言えない威圧感を感じるのだ。

 あの鋭利な紅い眼光は、人間とは思えない光を放っている。

 

「あ、あなたは?」

 

「お前と同じく、上級ドラゴンの心臓を移植した者。ディアマード家のヴァルドレイクだ」

 

 !?

 心臓を移植!?

 じゃあこの威圧感はやっぱり!

 

「この惨状はなんだ? 誰が王国を焼いた? 答えろ」

 

「そ……それは……」

 

【ハーティシオ王国】の惨状の原因はセレンそのもの。

 

 いくらもう一つの人格がやったと説明しても理解してもらえないだろう。

 

 どうしよう……正直に話すべきか?

 でも話したら何をされるか分かったものじゃない。 

 自分の国を焼いた元凶を許す人間なんているはずもない。

 

 ああでも、嘘つくのもなんだか嫌……

 どうすればいいの……ゼクード……

 

「上級ドラゴンにやられたのか……あの男がいながらなんてザマだ」

 

「あの……男?」

 

「フォレッド・フォルス。お前の夫だろう。奴は何をしていた?」

 

 何をしていたって……フォレッドは……暴走するわたしを止めようとしていた。

 けど、止まらなかった。

 

 止まらず、暴れ回ったわたしが王国を焼き尽くした。

 そこに大人も子供も関係なかった。

 家族を逃がそうとする男も、子供も抱いて守ろうとする女も、泣いて逃げる子供も……一人残らず焼き殺した。

 

 自分のこの口から発せられたブレスによって……

 

 思い出すだけでセレンは身の毛もよだつ悪寒に苛まれた。

 

「フォレッドは……もう……」

 

 最愛の夫フォレッドはとうに死んでいる。

 自分の手で殺したのだから知っている。

 これももう一つ人格がやったことだが、このヴァルドレイクという男に説明しても理解してもらえないだろう。

 

 何も言えない悔しさが込み上がってくる。

 

「そうか……あれほどの男が死んだか」

 

 ヴァルドレイクは愁いたような顔で空を見上げた。

 理由は知らないが、この男はこの男なりにフォレッドを評価していたらしい。

 

 セレンにとってヴァルドレイクは初対面だが、なぜか彼はこちらをいろいろ知っている様だった。

 

 フォレッドと面識があったのかもしれない。

 

「やれやれ……覚悟を決めて挑んだと言うのに……国がこの有様ではな……」

 

「覚悟?」

 

「心臓移植の事だ。適合に失敗すれば死ぬ。ダメなら我々はその程度の存在だったのだろう。……そう覚悟を決めて行ったんだがな……」

 

「なぜ……移植を?」

 

「決まっているだろう? 証明するためだ」

 

「え?」

 

「我々ディアマード家が最も優れた一族であることを証明するために……ドラゴンの心臓を移植した。我々ほどの一族ならばきっと心臓も物にできると信じていた。見ろ。私は生きている。この身にドラゴンの心臓を宿してなお生きている。我々が優秀な一族であることはこれで証明された」

 

 そんなことを証明するために心臓を!?

 なんて危険な事を……

 

「だが見せつけたかった下民や王族はもういない。せっかくドラゴンの強靭な肉体を手に入れたのに。これでは宝の持ち腐れだ。この力があれば王国の一つや二つ……簡単に支配できるだろうに……」

 

 支配って……この人……さっきから怖いことばかり言ってる。

 下民とか王族とかに見せつけたかったとか言ってるし、かなり怖い人だ。

 離れた方がいいかもしれない。

 

「父上!」

 

 突如として現れたのは一人の青年だった。

 整った顔立ちのハッキリした金髪で、紅い瞳が特徴的だ。

 紫のマントを羽織り、その下に漆黒の鎧を身に纏っている。

 

 騎士みたいな装備だ。

 ヴァルドレイクを父上と呼んでいたが、まさか親子?

 似てない。

 

「レグか。何か分かったか?」

 

「はい。レジーナが近くにいた下級ドラゴンを捕獲しました」

 

「捕獲だと? なぜそんなことを」

 

「それが……どうやら我々はドラゴンの心臓のおかげでドラゴンの言葉が分かるようになったんです。それで急遽ドラゴンを捕獲し、ソイツから情報を得ました」

 

「ほう? 思わぬ能力を得たものだ。それで?」

 

「はい。どうやらここから遠く離れたところに【ハーティシオ王国】のような国が存在するそうです」

 

「ふむ……フォレッドの故郷【エルガンディ王国】とやらかもしれんな。滅んだと聞いていたが」

 

【エルガンディ王国】!

 セレンにとっても故郷の王国。

 

 ゼクードに会えるかも!

 

 そう一瞬だけ思ったが、こんな心臓を移植した奴らを【エルガンディ王国】へ近づけて良いものだろうか?

 

 彼らからは危険な雰囲気がする。

 彼らは今こそまだ正気だが、いつか自分と同じく正気を失ってドラゴンの心臓に意識を侵食される。

 

 そうなったら【エルガンディ王国】は【ハーティシオ王国】の二の舞になる。

 

 ダメだ。

 こいつらをゼクードたちに近づけさせるわけにはいかない。

 

「まぁいい。行ってみようではないか。手に入れたこのドラゴンの力で、まずはその国を支配する。そこから我々の【ディアマード王国】建国の第一歩を踏む」

 

「はい父上! お供します!」

 

「ま、待ちなさい!」

 

 セレンは勇気を出して声を上げた。

 エルガンディへは行かせない!

 ここで止めてみせ……

 

 ギロッとヴァルドレイクとレグがセレンを睨んだ。

 凄まじい迫力に思わずセレンはビクつく。

 

「ぁ……や……その……」

 

 さっきまでの威勢はどこかへ。

 セレンは縮こまってしまった。

 騎士でもなんでもない一般平民のセレンは素人同然。

 

 たとえ身体にドラゴンの能力が残っていても、それらをまともに扱えるだけの技能は備わっていない。

 

 対してヴァルドレイクとレグはどうやら騎士の家系のようだ。

 さらにドラゴンの心臓をも手に入れている。

 冷静に考えたら勝てるはずなかった。

 

 しかも2対1だし。

 

「お父様。戻りました」

 

 今度は女騎士が声を揃えて5人も現れた。

 ヴァルドレイクをお父様とか言っている。

 つまり敵側だ。

 

 これで7対1だ。

 ぜっっったい無理だ。

 勝てない。

 

 どうしよう……

 

「どうだった?」

 

「はい。下級ドラゴンから得た情報で、ここから南西に向かった先に国があるそうです」

 

 女騎士の一人が答えると、ヴァルドレイクは顎を撫でた。

 

「南西か。よし……行くぞ」

 

「はい!」

 

 なんという統率力だろう。

 ヴァルドレイクの子供たちはみな彼の言うことにすぐ従う。

 よほどの教育が成されているのが窺える。

 

「セレン・フォルス。お前も連れて行く」

 

「え!?」

 

 ヴァルドレイクにガシッと腕を掴まれたセレン。

 

「きゃっ! な、何するんですか!」

 

「フォレッドには悪いが……お前には我々【ディアマード家】に貢献してもらうぞ」

 

「な!?」

 

「心配するな。大人しくしていれば悪いようにはせん」

 

「わたしに何を、させようって言うんですか……」

 

「無論……子作りだ」 

 

「な!?」

 

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