【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
「フォレッドには悪いが……お前には我々【ディアマード家】に貢献してもらうぞ」
「な!?」
「心配するな。大人しくしていれば悪いようにはせん」
「わたしに、何をさせようって言うんですか……」
「無論……子作りだ」
「ぇ……えっ!?」
とんでもないヴァルドレイクの発言にセレンが驚愕した。
レグや女騎士たちもギョッとなる。
しかしヴァルドレイクはあくまで冷静だった。
「ドラゴンの心臓に適合した者同士の子供……いったいどれほどの才を持って生まれてくるのだろうな?」
不敵な笑みを浮かべるヴァルドレイクにセレンはゾッとする。
掴まれた腕を振りほどこうにも相手の腕力はセレンを遥かに凌駕しているのかピクリとも動かない。
やだ……こんな男の子供なんて……生みたくない!
助けて…………助けてゼクード!
「は、離して! 嫌っ!」
暴れたセレンは背から翼を生やしてバタつかせた。
空へ逃げようとするも、やはりヴァルドレイクの腕力からは逃れられず上昇すらできない。
ならばとセレンは生やした翼でヴァルドレイクを叩いた。
が、次の瞬間セレンは地面へと叩きつけられた。
「きゃうっ!」
地面に頭をぶつけて激痛が走り、間髪入れずヴァルドレイクの足がセレンの頭を踏んづけた。
「うぐっ!」
「大人しくしていれば悪いようにはせんと言ったはずだ。次はこの程度では済まんぞ。セレン・フォルス」
「ひ……ぅ……」
凄まじい殺気と共に睨まれたセレンはヴァルドレイクという男の恐ろしさを理解させられた。
こいつはセレンを女としてなんか見ていない。
都合のいい子孫繁栄の道具にしか見ていない。
つぎ暴れれば半殺しにされるだろう。
こんなに怖い人間がいるなんて。
「この女はお前が抱け。レグ」
「は?」
「私にはお前たちという優秀な子孫がいる。それで十分だ。可愛い孫をたくさん見せてくれよレグ。お前たちもな」
レグと後ろの女騎士たちにも言うヴァルドレイク。
「はい!」っとレグと共に唱和する女騎士たち。
勝手に相手を決められたのにレグはまるで異を唱えない。
忠実……悪く言えば、言いなり。
父のやることに対して一切の疑問も反発もないのだろうか?
「よし……南西へ進むぞ。立てセレン・フォルス」
頭から足をどけてヴァルドレイクが言った。
よろよろと力なく立ち上がったセレンは頭に受けた衝撃で身体をフラつかせる。
倒れそうになったセレンを支えたのはレグだった。
「あ……」
「父上に逆らうからそうなるんだ。次は気をつけろ」
支えてくれた手は温かいのに、言葉はとても冷たかった。
「たった今からお前は私の妻だ。本来ならお前のような平民を妻に娶るなど有り得ない事だ。ドラゴンの心臓に適合した自分の身体に感謝するんだな」
「つ、妻って……!? 待って! お願いやめて! わたしには夫と子供がいるの!」
セレンのその言葉にヴァルドレイクが目を見開く。
「ほう? 子供がいるのかお前。ということは……あのフォレッドの子供か?」
「……」
セレンは答えなかった。
視線をそらして俯く。
ゼクードの事は教えない。
こいつらがゼクードの事を知ったら何をするかわかったものではない。
「なんだ? 急にだんまりか?」
「キサマ! 父上が聞いているのに! 答えろ!」
レグはセレンの髪を強引に引っ張った。
「痛いっ!」
「やめろレグ」
「は……」
「……あの男の子孫ならば興味がある。できれば会ってみたいものだ。優秀なら娘たちの婿になってもらおうか」
こ、こいつ!
ゼクードにまで手を出す気なの!?
あの子にだって家族がいるのに!
★
「【ハーティシオ王国】の地下に10人の実験体が?」
【エルガンディ王国】にある城の中でアスレイ陛下は言った。
「はい。みんなS級ドラゴンの心臓を移植された人間でした」
黒騎士ゼクードが重い口調でそう返す。
ここは城内にあるアスレイ陛下の私室。
王の間では他の者の目と耳があるから、敢えてこの私室で謁見させてもらったのだ。
まだグロリアがドラゴン化したことはほんの数人にしか知られていない。
リリーベールが制限しているおかげだ。
知っているのはガイス一家やグリータ一家。
そしてアスレイ陛下とフォルス家一同。
グロリアの眼の色がエメラルドグリーンからピンクに変色していたことはさすがに隠せなかったが、グロリア本人が元からピンクだと押し切ってみせた。
だが、それもいつか限界がくるだろう。
早くなんとかしてやらねばと、ゼクードは今日アスレイ陛下に相談をしにここへ来ていた。
「信じられません……ハーティシオは何故そんな実験を……」
「理由は分かりませんが事実です。彼らを調べる必要があると思います」
真剣な眼差しでゼクードはアスレイ陛下に訴えた。
アスレイ陛下は隣のレミーベールを一瞥してからゼクードに視線を戻す。
「グロリアさんの治療のため、ですか」
「ええ……グロリアはセレンの輸血を受けて一命こそ取り留めましたが、その代償に身体がドラゴンと同じようになってしまいました。再生能力は人間の何十倍もあります」
「そ、そんなに!? 確かにグロリアさんの眼も変色していましたね。以前は緑だったのに、今はピンクでした」
「輸血元のセレンと同じになったんでしょう。まぁそこはともかく……いま一番に深刻なのはグロリアがいつ正気を失うか分からないことなんですよ」
そう。
一番の問題はそこなのだ。
ドラゴン化の末路は前のセレンを見ているので分かる。
自我を失い、最終的にはドラゴンに意識を侵食されて自分が自分でなくなってしまう。
グロリアもそれを一番に怖がっているのだ。
眼の色が変色したとか、再生能力がどうとか、そんなものは些細な問題に過ぎなかったりする。
「それは……グロリアさんがセレンと同じく、中身までドラゴンになってしまうということでしょうか?」
「はい。グロリアもそれを怖がっています。今はまだ何も変化はありませんが……いつかは……」
いつかはセレンと同じ末路になってしまうかもしれない。
そうならないかもしれないし、そうなってほしくない。
だから一刻も早く助けてやりたい。
「なるほど……ならば善は急げです。早急に【ハーティシオ】へ調査隊を派遣しましょう」
「ありがとうございます陛下。その調査隊には自分も同行させてもらいます」
「え!? いや、しかしゼクードさんは帰還されたばかりでおつかれでは? ケガも完治してませんし」
「これくらいどうってことはありません。それにグロリアは今この瞬間にも正気を失う恐怖と戦ってるんです。早く安心させてやりたいんですよ」
「……わかりました。それでしたら調査隊の編成はゼクードさんにおまかせした方が早そうですね。よろしくおねがいします」
「了解です。陛下のお心遣いに、感謝します」
丁寧に一礼をして私室をあとにしようとドアノブを握った。
するとずっと黙っていた娘のレミーベールが前に出てきた。
「待ってお父さん!」
「なんだ?」
「その調査隊にワタシも加えてほしい」
やれやれ……言うと思った。
「駄目だ」
「どうして!? グロリアの人生が掛かってるのに!」
「お前なぁ……お腹に子供がいるんだろ? ついてくるなんて言ったらグロリアに怒られるぞ?」
「それは分かってるけど……でも」
「ああ。お前の気持ちも分かってるよ。分かってるから今は俺に任せてくれ。な?」
レミーベールの顔は不満を募らせていた。
たしかにグロリアはレミーベールにとってかげがえのない相棒であり大切な妹でもある。
だが今回ばかりは許すわけにはいかない。
レミーベールのお腹に俺の孫がいる以上、下手に任務に付かせるわけにもいかない。
「レミー……そんな顔するなって。落ち着いたら陛下と結婚式を上げるんだろ? だったらグロリアも救わなきゃならないし、お前も無事に出産しなきゃ駄目だ。お前はお前の今の役割を果たすんだ」
「……わかったわ」
「いい子だ。グロリアの事は任せておけ。元気な孫を頼むぞレミー」
レミーベールは苦笑混じりに頷いてくれた。
しかしやはりグロリアの事が心配らしく、顔は決して晴れてなかった。
※
「ここに居たんだ。探したよグロリア」
【エルガンディ王国】の外にてフランベールが言った。
ここは城壁の外で、グロリアはその城壁の真下に座っていた。
草原の上に丸太を転がし、そこに腰を下ろしている。
「ママ……」
「旅に出たんじゃないかってローエさんが心配してたよ?」
「ここにいる方が落ち着くのよ。いきなり正気を失っても近くに誰もいないでしょ?」
「あ、そういうことなんだ。なんでこんなところに居るのかと思った」
城壁の外はドラゴンがいる。
こんな危険な場所ではおちおち寝てもいられないが、グロリアはSS級クラスの騎士。
そう簡単にはやられないだろうし、なにより……今のグロリアには周りに誰かがいる方がよっぽと怖いのだろう。
「ママこそ良く見つけたわね?」
「いろんな人に聞いて回ったの。そしたら何人かの人がグロリアが外に出るのを見たって言うから」
「あぁ……」
グロリアはそれだけ言うと遠くを見つめだした。
フランベールはグロリアが嫌がらない程度の距離を考えてから、彼女の隣に座った。
そしてゆっくりと口を開く。
「ゼクードくんが陛下に調査隊の相談に行ったよ。ハーティシオを徹底的に調べるんだって」
「そっか。じゃあアタシもそれに加わろうかしら。暇だし」
「ふふ……わたしも行きたいって言ったら一瞬でダメって言われちゃった」
「そりゃそうでしょ。ママたちはリィンベールたちの側に居てあげてよ。お願いだから」
「うん……ごめんなさい」
「っていうかリィンベールは?」
「いまローエさんが見てくれてるよ。カティアさんとわたしとローエさんでローテーションを組んでるの。それで交代の時にローエさんにグロリアを探してほしいって頼まれてね」
「なるほど……ごめんね。せっかくの休み時間なのに」
「ううん。わたしも心配だったから」
「そう……」
「それと詳しく聞きたいこともあって」
「なに?」
「ほら、グロリアが言ってた海の向こうの話」
「え? ぁ、ああ。ナイトが言ってたやつ?」
「そうソレ! 本当なの? 海の向こうには別の大陸があって、わたし達と同じ人間が住んでるって」
「本当みたいよ。ナイトの奥さんって元は別の大陸のドラゴンだったらしいから」
「凄い……やっぱりここだけじゃなかったんだ! はぁ……行ってみたいなぁ……もしかしたらグロリアの身体を治せるほど医療が発達した国があるかもしれない」
「それなんだけどさぁ……考えたらそんな血の治療法なんて無いんじゃないかなって思う」
「え?」
「だってさ? 全身に回ってる血をどうやって元に戻すの? 薬かなんかで治るもんなの?」
「それは……」
たしかに言われてみると、血を元に戻すなんて、医療でどうにかなるとは思えない。
血を抜いたところで全身に流れている血が変わるわけでもない。
フランベールは冷静になって考えると、グロリアを助けるのはやはり不可能なのでは? っと弱気になってしまった。
「だからさ。前にも言ったんだけど、血はもうしょうがないから、せめて正気を保てるような薬が欲しいわ」
「正気……」
「うん。だって正気さえ保てれば特に生活に問題があるわけじゃないし」
「そう……だね」
「まぁせっかくお母さんから貰った緑の眼がピンクになっちゃったのは残念だけどね。凄く綺麗で気に入ってたんだけど」
「……やっぱりピンクは嫌?」
「ううん。考え方で変わった。このピンクの眼もアタシのお婆ちゃんの眼の色を受け継いだと思えば、そんなに悪い気はしないわ」
「なら良かった」
「っていうかこのピンクの眼……アタシに似合ってる?」
「似合ってるよ? グロリアってもともと色っぽかったからね。ピンクになって余計に色っぽくなったよ」
「色っぽい、かぁ〜。その割には男が寄ってこないのよねぇ……」
「それはきっと怒りっぽいから……」
「え、なに?」
「な、なんでもないよ!」