【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
リーネの錬金店は城の近くにある大きな館だ。
ここでは何人かの女性錬金術師たちが騎士の武器を錬成している。
主な鉱石はミスリルだが、リーネの才能のおかげでオリハルコンも錬成できるようになっている。
武器の発注はもちろんのこと、武器の修復も承っている。
他にも大砲やバリスタの部品。
家具の錬成なども行われており、一般市民にも必要とされている。
錬成も立派な魔法なのだが、なぜか過去の女性たちはこの【錬金術】を使える女性は迫害せず【攻撃魔法】を使える女性は迫害した。
騎士であり、男でもあるカーティスにとってそれはまったく理解できないものだった。
自分の母親たちもその迫害の対象にされていたらしいから、尚のこと意味が分からない。
レィナ叔母さんもそうだったとか。
まさかエルガンディの過去にそんな汚い過去があったとは驚きでもあった。
あまり知りたくない史実(しじつ)だったが、知っていないとまた同じことを繰り返すかもしれない。
知識はあって損はないだろう。
カーティスはカティアと共にリーネの店へ赴き、扉を開いた。
カウンターで受付の女性がいて、カーティスとカティアを奥へ案内してくれた。
あちこちに武器が立て掛けられている廊下を歩き、リーネが働く現場へとついた。
そこにはローエにそっくりなふわりと美しい金髪のリーネがいた。
年齢は30を越えているのにそれを感じさせない若々しい顔。
昔は病弱で細かったらしい身体も、今は健康的で標準的な見た目となっている。
優しそうなエメラルドグリーンの瞳がカーティスとカティアを写した。
リーネはパッと明るくなり、錬金したての剣をテーブルに於いて立ち上がってきた。
「こんにちはカティアさん。カーティス」
リーネは錬金術師のみが着れる紺色のローブを羽織っていた。
いわば仕事服だ。
騎士のそれとは違って鉄製のものは一切ない。
「お世話になっていますリーネさん。武器の錬成が終わったとのことで引き取りに参りました」
カティアが丁寧に頭を下げると、リーネも丁寧に頭を下げた。
「はい。出来てますよ。今お持ちしますね」
「あ、オレが運びますよ叔母さん」
討伐用の武器は重いからとカーティスが名乗り出た。
リーネは嬉しそうに笑う。
「ありがとう。あなたのレクスも出来てるわよ」
「恐縮です」
レクスとはカーティスの愛剣【レクスオブルージュ】のこと。
セレン戦の時に父ゼクードに渡してから破損した。
それで今回リーネに頼んで新しいレクスを錬成してもらったのだ。
錬成してもらったのはそれだけではない。
ローエ・カティア・フランベールの3人の武器も今回は錬成してもらった。
セレン戦で使っていた母親たちの武器はすべてミスリルのレンタルもの。
S級以下の騎士が使うレベルのものだった。
前に使っていたオリハルコン製の武器は【雪のドラゴン】戦にて無くしていた。
ここへ帰還してからもしばらく武器を錬成されなかったのは、3人ともずっと妊娠していたからに他ならない。
今はカレンティアたちの出産を終えて、身体も回復してきているからそろそろ良いだろうと、ゼクードから許可が下りたのだ。
「どうぞカティアさん。オリハルコンで錬成した【クリムゾングレイス】です。希望通り前の型と同じにしました」
「おお! ありがとうございますリーネさん」
カティアは嬉しそうに武器を握った。
紅い銃槍と巨大なタワーシールドを軽々と持ち上げるカティアに、リーネは目を丸くして少し驚いていた。
カティアの扱う【クリムゾングレイス】は並の騎士では持ち上げることすら困難な重量を誇る。
それを銃槍と大盾でそれぞれ片手で持ち上げて展開しているカティアはやはり一般女性の筋力を遥かに凌駕している。
あのしなやかな細腕のどこにそんな筋力が隠れているのだろう?
我が母ながら謎である。
自分より細い腕なのに。
「うむ。前のとまったく同じ感覚だ。これならすぐに使いこなせる」
満足そうに言うカティアに、更に満足そうに頷くリーネがこちらを見てきた。
「カーティスはどう?」
「問題ありません。手に馴染むようです」
【レクスオブルージュ】の2代目をカチンと鞘に納刀してからカーティスは言った。
「なら良かった。それじゃあこの【ブルーブランド】と【ヴェルデリボルバー】もお姉さまたちによろしくね」
後から台車で運ばれてきたローエの銃槌とフランベールの大弓。
それを受け取ったカーティスはお辞儀する。
「了解です。お手数をお掛けしました」
「お安い御用よ。――――……それより、グロリアの事なんだけど」
ピクリとカーティスとカティアは身を震わせた。
リーネはおもむろに続ける。
「あの子は……助かるの?」
……やはりみんな考えることは同じようだ。
リーネもおそらくグロリアの血のことを言っているのだろう。
いや、そもそもリーネとグロリアは血が繋がっている。
リーネとローエは姉妹。
そのリーネの姉であるローエ。
その姉の娘がグロリアだ。
つまり姪。
心配にならないわけがない。
「それは……正直わかりません」
カーティスの答えに「そう……」と暗くなるリーネ。
カティアも何も言わず、ただ床を見つめるのみ。
重苦しい沈黙が発生し、カーティスはなんとかそれを破って言葉を発した。
「ですが、すでに父さんが動いています。今は父さんと調査隊の報告を待つしかありません」
★
ゼクードが調査隊の編成が終わらせた頃には日が沈んでいた。
夜の行軍は危険なので、出発は翌日の朝にした。
城壁の門前にて調査隊が並んでゼクードを待つ。
その中にはグロリアも当然いた。
「お父さん。準備出来てるわ。いつでも行けるわよ」
「わかった。じゃあ行って来るよ」
ゼクードは見送りに来てくれた『フォルス家一同』に片手を上げる。
するとオラージュを抱っこしたローエが前に出てきた。
「気をつけてねあなた。グロリアをお願いですわ」
「ああ」と返したゼクードはこちらをジッと見ているカレンティア・オラージュ・リィンベールに目を向けた。
「それじゃあみんな〜。パパ行って来るよ〜」
ニコリと笑って手を振るが、子供たちはみんなプイッとお母さんたちの胸に顔を埋めてしまった。
普通にショックである。
なんで俺はこうも自分の子供に好かれないのだろう?
昔のカーティスもそうだったし。
「ありゃ……やっぱり嫌われてるわ俺」
「今だけです。ただの人見知りですよきっと」
まさかのカーティスからの一言だった。
ゼクードはおもわず苦笑してしまう。
さりげなくカティアも。
「はは、お前が言うと説得力あるよ」
「え?」
「まぁいいや。俺が留守の間エルガンディを頼むぞ。カーティス」
「任せてください」
頼れる長男に国と家族を任せて、ゼクードは馬に乗って調査隊と共に城門を潜った。
★
空は陽射しが強く、雲が少なかった。
見通しが良くて結構だった。
草原も風に靡いて波打っている。
ゼクードが率いている調査隊の編成は馬車が1台。
その馬車の中には科学班が4名。
その外には馬に乗ったS級騎士が8名だ。
「ゼクード隊長! お供できて光栄です!」
「伝説の英雄と任務に当たれるなんて夢のようです!」
このようにS級騎士には若い騎士が多い。
彼らの間ではすでにゼクードは尊敬の対象になっているようだった。
「君たちこそ、この任務に志願してくれてありがとう。頼りにしてるぞ」
「「はい!」」
熱のある若い騎士たちだ。
ああいう若者たちを見るとエルガンディの未来もまだまだ明るいなと思える。
そしてS級騎士だけではまだ危険なのでSS級クラスの騎士を8名募っておいた。みんな馬に乗っている。
その一人がSS級騎士屈指の実力者であろう彼女――――
「レィナちゃん。大丈夫なのかい?」
――――グリータの妻であるレィナだ。
セレンのブレスを受けて入院していたが、グリータの言ったとおり無事に復帰していた。
「大丈夫ですよ。もう火傷の痛みは引きましたから」
「そう? リイドくんも大丈夫?」
SS級騎士では上位に食い込む実力者のリイド。
彼もまた調査隊への志願をしてくれた一人だ。
「はい〜。大丈夫ですよ〜。僕もこの調査には興味があるんで〜」
相変わらず間延びした喋り方である。
「そっか。助かるよ本当に。でもレィナちゃんは良かったのかい? 他に仕事があったんじゃ……」
「今はレグナがしっかり私の代わりを務めてくれてますから。けっこう暇なんですよ。ありがたいことに」
「レグナって普段はチャラチャラしてるけど、しっかりする時はしっかりするんだよね〜」
リイドが言うとレィナはウンウンとどこか誇らしく頷く。
「ほんっと……いざって時に頼りになるのは父親譲りかもね」
「えー? 父さんってそんな頼りになるぅ〜?」
「なるわよ! あんた知らないだけよ! リーネにも聞いてみなさい!」
「興味ないからイイや〜」
「なんでよ!」
そんなリイドとレィナのやりとりに笑った。
仲の良い家族だ。
そういえば最近……こうやって家族で笑って話してないな。
最後に笑ったのは墓参りの時か。
あれからまったくだな。
原因は知っている。
みんなグロリアが心配で笑ってられないだけだ。
そしてそのことにグロリアも気づいている。
酷く悪循環な環境だ。
「グロリア」っとゼクードは馬を寄せてグロリアの隣に来た。
「なに?」
「さっきから一言も喋ってないけど大丈夫か?」
「大丈夫よ。っていうか行軍中はあんまり喋らないもんでしょ?」
「そうだけどさ。仲間との会話はコンディションチェックにはうってつけなんだよ」
「初めて聞いたわ」
「俺も初めて言った」
「あのね……」
「まぁそう怒るなって。馬車を引きながらだと速度は出せないし【ハーティシオ王国】まで1週間以上は掛かる。かなりの長旅になるんだから適度な会話はした方がいい」
「それ、お母さんに言われたの?」
「まさか。ローエが俺に言ったことなんて『一緒に連れてってくれ』だけだよ。もちろんカティアとフランも言ってきたさ。カーティスとレミーもな」
「……なんて返したの?」
「グロリアに嫌われたかったらどうぞ? って」
「……」
「その一言でみんな一発沈黙だよ。まぁレミーの時は陛下の御前だったから別の言い方したけどな」
「重い」
「ん?」
「日に日に重くなるのよね。……みんなの思いが」
みんなの思い?
「時間が経てば経つほど……明日には自分が自分で無くなってるんじゃって、不安になるの」
ああ……やっぱり不安と恐怖で押し潰されそうになってるんだな。
ゼクードはしっかり聞こうと気持ちを切り替えた。
せっかくグロリアが弱音を吐いてくれてるから。
受け止めてやりたい。
「明るく振る舞おうと思っても、最近は本当にキツくてさ……」
「……それで昨日は城壁の外に居たのか」
「うん……あそこは凄く落ち着くの。自分が自分で無くなっても、すぐには誰も巻き込まないから」
「そうか……言ってくれてありがとな」
「べつに……」
そっぽ向くグロリアにゼクードは娘の頭を撫でた。
「俺の側から離れるなよ? 何があっても必ず止めてやるから」
「……ありがとう」
頭を撫でても怒らない。
それがもうすでにグロリアの心境を表している。
よほど堪えているんだ、と。
陛下に相談してすぐに準備して良かった。
一秒でも早くグロリアを安心させてやりたい。
「ゼクード隊長! 前方の空に影を確認! ドラゴンです!」
あまりに唐突に部下の声が弾けた。