【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった   作:ミズノみすぎ

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第348話【ゼクードの迷い】

「……ヴァルドレイクさん。あなた方の目的はなんですか?」

 

 刺激しないようにゼクードは聞いた。

 するとヴァルドレイクはシルクハットを深く被り目元を隠した。

 そして口を緩ませる。

 

「ふ……私は今、少々浮かれていてな」

 

 ヴァルドレイクの片眼が露わになりゼクードを映す。

 紅い眼は不気味に光った。

 ゼクードはその光にゾクッと悪寒を感じる。

 

「貴公が知る通り。我々の心臓にはドラゴンのそれが脈を打っている。ドラゴンの心臓に適合し、ドラゴンの力を手に入れた。つまり我々は選ばれた新人類なのだ」

 

「新人類だと? 進化したとでも言いたいのか?」

 

「その通りだ。人間の知性。ドラゴンの強靭な肉体。その2つを合わせ持った新人類。それに名を付けるのならば、過去にもっとも人を従え、ドラゴンを屠った騎士の名を冠しよう。そう……ドラグーンと!」

 

「ドラグーン……!」

 

 とんでもないことを言い出したぞコイツ。

 新人類ドラグーンだと!?

 

「ゼクード・フォルス。貴公もドラグーンになれ」

 

「!?」

 

 言われたゼクードは驚愕し、後ろのグロリアやレィナたちも驚きの気配を見せた。

 もちろんセレンも。

 

「この初代適合者セレン・フォルスの息子ならば大丈夫だ。適合者の血を引いていれば死ぬことはない。恐れるな」

 

「バカ野郎! あんた達は眠っていたから知らないんだ!【ハーティシオ王国】がなぜ滅んだのか!」

 

 ゼクードが怒り、その言葉にもっとも反応したのはセレンだった。

 セレンは身体を震わせ、レグはそんな彼女を怪訝な目で睨む。

 

 そしてヴァルドレイクは眉をピクリと動かしてから顎を撫でた。

 

「ほう? それは興味深い。聞かせてもらおうか」

 

「そこのセレン・フォルスが心臓に意識を乗っ取られて暴走したんだ! それで【ハーティシオ王国】が焼かれた! フォレッド・フォルスもそれで死んだ! グロリアも、それで……っ!」

 

 セレンをハッキリと指差してゼクードは言い切った。

 セレンの眼とゼクードの眼が重なり合い、ゼクードはハッとなった。

 母の眼が潤んでいた。

 

 国を焼いたこと。

 フォレッドを殺したこと。

 グロリアをドラゴン化させたこと。

 

 それがセレンにとってどれほど重い過去で、どれほどどうしようもなかった過去なのか……知っていたはずなのに。

 

 さらにはレグたちに捕まっているこんな状況で言うべきではなかったと、今さらながらゼクードは気づいた。

 

 自分の国を焼いた者を許す人間なんているはずない。

 

 だが時はすでに遅く。

 レグや女騎士たちがセレンに憎悪の眼を向けた。

 

「おのれキサマだったのか! 我が故郷を焼いたのは!」

 

「痛っ!」

 

 セレンの髪を強引に引っ張って顔を無理矢理上げさせるレグ。

 

「なぜ黙っていた!」

 

「ご、ごめんなさい! 痛いっ! 痛いっ!」

 

 母さんが泣き叫んでいる。

 ゼクードの胸の奥がカァッと熱くなった。

 人格がどうとか言ってる場合じゃない。

 今の母さんは本物の母さんだ!

 助けないと!

 

「おい! やめろ!」

 

 ゼクードが駆け出した。

 するとレグが睨んで怒鳴る。

 

「黙れ! 夫婦の話に首を突っ込むな!」

 

「夫婦!?」

 

 思わず足を止めてしまった。

 

「なに言ってるんだお前は!? お前がオヤジなんてごめんだぞ! 母さんを離せ!」

 

 止めた足を再び走らせたゼクードは、目の前に現れたヴァルドレイクに道を阻まれた。

 

「!」

 

「悪いが通すわけにはいかんな」

 

「どけっ!」

 

 咄嗟にロングブレードを振りおろしたゼクードだが、ヴァルドレイクはその斬撃を片手で防いできた。

 

 鋼鉄のように堅い腕だ。

 長袖で分からないが、受けた腕を竜鱗に覆わせているのだろう。

 

 やはりコイツもセレンと同じ硬度の竜鱗を持っているのか。

 くそっ!

 厄介な!

 

「これはもうレグの妻だ。たくさんの子孫を産んでもらわねばならんのでな」

 

「子孫だと!?」

 

「そうだ。我々は王国を築く。新人類のための王国【ディアマード王国】だ。そのためにいま我々は優秀な人材と豊かな土地を探していた」

 

 バキィンと派手な音を響かせてヴァルドレイクはゼクードの剣を弾いた。

 ゼクードは後ろへ飛んで間合いを取ると、ヴァルドレイクは何事もなかったかのように話を進める。

 

「このセレン・フォルスもドラグーンだ。ドラグーンとドラグーンの間に生まれる子供は間違いなくドラグーンになるだろう。そうして我々は繁栄していく」

 

 すでに正気を疑う発言だった。

 だがこのヴァルドレイクという男は本気だ。

 冗談を言っている眼ではない。

 

「そしてゼクード・フォルス。貴公もドラグーンになり、多くの子孫を残してもらいたい。相手は後ろにいる私の娘たちをくれてやろう。みなドラグーンだ。女としての器量も、父の私が見ても良しだと思うが……どうかな?」

 

 こいつ……自分の家族を道具のように!

 

「断る! それに話を聞いていなかったのか? ドラゴンの心臓は肉体の持ち主の意識を乗っ取る。いずれあんた達もみんな正気を失って暴走するんだ。そんな奴らに国を作れるわけがない」

 

「意識を乗っ取る、か。力の代償というヤツか。……面白い」

 

「なに?」

 

「心臓よ。やれるものならやってみるがいい。我が意志……そう簡単には屈せぬぞ」

 

 自分の胸に語ったヴァルドレイクは不敵に笑いながらそう告げた。

 まるで恐れていない。

 それどころか、楽しんでいるかのよう。

 

「お前たちもだ。心臓に乗っ取られる程度なら、自分がその程度の器だったと知れ」

 

「はいっ!」

 

 ヴァルドレイクの言葉にレグや女騎士たちが迷いなく肯定した。

 なんて奴らだ。

 これがハーティシオの家族の形なのか?

 

「さて……話を戻そうか。ゼクード・フォルス。貴公もドラグーンになれ。私と共に最強の王国を作り上げようではないか」

 

 しつこい。

 グロリアがそれで苦しんでるのに、ドラグーンになれだと?

 ふざけやがって。 

 

「断ると言ったはずだ! そんなことよりセレンを離せ!」

 

 長剣の切っ先をヴァルドレイクに突き付けると、奥でレグに捕まっているセレンがゼクードを見た。

 

「ゼクード……」

 

「待ってろ母さん。いま助ける!」

 

 涙ぐむセレンにそう言うと、ゼクードは長剣を構えた。

 するとヴァルドレイクは溜め息を吐く。

 

「分からん奴だ。これはもうレグの妻だと言っている」

 

「ふざけるな! 力づくでも返して貰うぞ!」

 

「ほう……戦うつもりか? ドラグーンである我々と」

 

 ギラリとヴァルドレイクの紅い眼が光った。

 彼の後ろで控えているレグや女騎士たちも不敵に笑って眼を光らせる。

 

 ゼクードの後ろでは仲間たちも武器を構えており、いつでも戦闘に入れる状態だった。

 こちらの戦闘員は自分を含めレィナ・グロリア・リイド・SS級騎士×6人・S級騎士×8人。

 

 18対7。

 

 数ではこちらが圧倒的に有利だが……

 先程のヴァルドレイクの硬度を見るに、奴らに有効打を与えられる術がない。

 

 一人ひとりに【真・限界突破(オーバー)・竜(ドラゴン)斬り】を使うわけにもいかない。

 

 そんなことをしている暇もないだろう。

 

 このまま奴らと真っ向勝負するのはあまりにも無謀だ。

 

 どうする?

 今ならまだ退けるか?

 だが退いたら母さんが……

 

 いやでも、このまま行けば間違いなく死者が出る。

 俺だって死ぬかもしれない。

 

 幸いにもエルガンディはすぐ近くだ。

 数人でこいつらを食い止めて、残りはカーティスらに応援を要請しに行かせるのがベストかもしれない。

 

 それしか打てる手はない。

 このやり方でも絶対に犠牲者が出るだろう。

 これはもう仕方がない。

 

 だが……そうまでして助けたセレンが、また竜の人格になって襲ってきたらどうする?

 

 本当に助けてもいいのだろうか?

 

 くそ!

 確信を持てる情報が無さすぎる!

 

 せめて俺一人ならこんなに迷わずに済むのに!

 

「ダメ!」

 

 ゼクードの思考をぶった斬るようにいきなりセレンが叫んだ。

 するとセレンの身体が光り出し、あのいつか見た桃色のドラゴンに変身した。

 

 一気に巨大化したセレンはレグの拘束を抜け出し、空へと飛んだ。

 

「母さん!?」

 

「ゼクード! わたしの事はいいから!」

 

 それだけ言ってセレンは羽ばたいて逃げていく。

 

「逃がすな! メルセーヌ!」

 

「はい!」

 

 ヴァルドレイクの指示に即座に反応し、メルセーヌと呼ばれた女騎士がさっきの青いドラゴンに変身した。

 ディアマード家がみなメルセーヌの背に飛び乗って浮上し、セレンの後を追い掛けて行った。

 

「待て! くそっ!」

 

 メルセーヌの飛行は速かった。

 対するセレンの飛行速度はあまりに遅い。

 セレンの動きがぎこちないのだ。

 まるで練度がないような動きだ。

 あれじゃセレンはすぐに捕まってしまう。

 

 助けないと!

 ……でも竜の人格は……

 

 ああくそ! 

 今は考えるな!

 助けてから考えろ!

  

 即決したゼクードは馬に飛び乗って駆け出した。

 

「ちょ、お父さん!?」

 

 一人で突っ走り始めた父を見てグロリアが驚愕する。

 娘の声を背で聞いたゼクードは顔だけ振り返った。

 

「みんないったん戻れ! 王国にこの事を知らせるんだ! 奴らの襲撃に備えさせろ!」

 

 それだけ一方的に言い放ってゼクードは走り去って行く。

 決して止まらない。

 

「待ってお父さん! 一人で行くつもりなの!? ねぇちょっと! お父さあああああああん!」

 

 グロリアの叫びも虚しく。

 ゼクードの背には届かなかった。

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