【書籍化】S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった 作:ミズノみすぎ
話の後、ゼクードはセレンとレィナを連れてさっそく【エルガンディ】へ帰ろうとしていた。
セレンが【シエルグリス】のド真ん中で暴走しないかハラハラしているせいもある。
「もう行ってしまうの?」
なぜか城門前まで付いてきたミオンに問われ、ゼクードは荷物をまとめながら頷く。
「ええ。母さんも回復しましたし【エルガンディ】が心配ですから」
「回復したって言っても起きてまだそんなに経ってないわよ? 大丈夫なのセレンは?」
「ご心配ありがとうございますミオンさん。でも大丈夫です。私もドラグーンなせいか回復は早いみたいですから」
「……ならいいけど」
「あの、ミオンさん……息子と私を助けてくださって、本当にありがとうございました」
セレンがミオンに頭を下げた。
そういえばレィナがそんなことを言っていた気がするな。
俺もとりあえずお辞儀しとこう。
「いいのよべつに」
「優しい方ですね。ミオンさんは」
セレンが言うと向かいのネオが「それは気のせいです」と即答する。
ミオンも「うるさい」と返し「それより私もついてくわ」と繋げた。
「え?」
みんなの視線がミオンに集中する。
そんなものにはお構いなしにミオンはゼクードに口を開いた。
「またあの連中に襲われたらどうするの? アンタとレィナだけでセレンを守り切れる?」
「いえ……それは……」
「だったら遠慮しないで。力になるわ」
ミオンさん……なんかヤケに協力的だな。
さっきまで壁を感じてたのに。
なんだろ?
母さんに対して妙に優しいような……?
「ほ、本当にいいんですか?」
ゼクードが確認すると「うん」と当然のように頷いてきた。
「……という訳だからレイゼちゃん。行ってくる」
「お、おう……」
一方的に決めたミオンに対してレイゼは戸惑いながら返事した。
どうやらレイゼもミオンのこの態度には驚いているようだ。
「ネオ。留守番よろしくね」
「ああ。まかせておけ」
……しかしネオはミオンの態度に何とも思ってないようだった。
むしろいつもより素直にミオンの言葉に従っているようにも見える。
なんだ?
なんだか、二人にしか分からない何かがあるのだろうか?
「……おいゼクード」
「?」
レイゼに肩を組まれ、セレンたちから離れたところへ連れられた。
そして小声でボソボソと話し出す。
「本当に馬はいらねぇのか? ここから【エルガンディ】まで街道で歩きだと4日は掛かるぞ?」
「わかってるよ。でも母さんの様子も見たいんだ。暴走しないのかどうなのか」
「……4日で分かんのか?」
「なんとも言えない」
「お前なぁ……」
「だってしょうがないだろ? 俺だって分からないことだらけなんだ」
ちょっとムッとなって言ってしまった。
するとレイゼも冷静になったらしく。
「……まぁ、そうだな。悪い」
「いや、いいよ。それより姉さんの方こそドラグーンの警戒を頼むよ」
「ああ。わかってる。気をつけてな」
※
レイゼやネオに見送られて数分。
シエルグリスが見えなくなる距離まで草原を歩いてきた。
ゼクードを先頭にセレン・レィナ・ミオンと並ぶ。
「ごめんな母さん。目覚めたばかりで歩かせて」
「ううん。いいのよ。理由は分かってるから」
「え?」
「私が暴走しないか……それが心配なんでしょう?」
「!」
まさか気づいていたとは。
いや、それもそうか。
起きたときあれだけ聞いてれば誰でも気がつく。
「賢明な判断だと思うわ。私も……いつもう一人の私が出てくるか不安で仕方ないもの」
「母さん……」
「国を焼くのも……家族を襲うのも、もう見たくないから……これでいいと思うわ」
そっか。
たしかもう一人の人格が出ている時もセレンの意識は残ってたから、国を焼く瞬間も、家族を襲う瞬間も、鮮明に見せつけられるんだったな。
もう見たくないと思うのは当然だろう。
「セレンさんがもう暴走しないって証明できれば【エルガンディ】で暮らせるのですが……」
「ありがとうレィナさん。でも大丈夫です。私はもう死んだ身。それなのに可愛い孫たちの顔も見れて充分に幸せですから。だから多くは望みません」
「諦めちゃダメよセレン。これは時間が解決してくれる問題でもあるわ。これから先ずっと暴走しなかったらみんなと暮らせるでしょ? だからドラゴンになったらダメよ」
「ミオンさん……」
「せっかく生き返ったんだから……チャンスだと思って頑張りましょう? 私も手伝うから」
「……! はい! ありがとうございます!」
ミオンの言葉にセレンはしっかり頷き返した。
★
娘を斬られて怒りを覚えない親はいない。
普通の親はそうなのだろうが、ヴァルドレイクは違った。
眼と腕を斬られたレジーナに対して若干の苛立ちを覚えていた。
「レジーナ。もう大丈夫なのか?」
森の奥で丸太に座る娘にヴァルドレイクが言う。
「はい。もう治りました。信じられない回復力です」
信じられないことだが、確かに吹き飛んだ腕と眼が再生している。
少し時間が掛かったが、やはりドラゴンの再生能力は大したものだ。
「普通の人間ならば死んでいた。次は油断するなよ」
「はい! お父様!」
返事だけは良い娘に内心呆れつつも、他の娘たちにも情けなさを覚えていた。
5人掛かりでたった一人のゼクードを仕留めることも出来ないとは。
しかもドラグーンとなった今の状態で。
なんと情けない。
あの絶対的に有利な状況でゼクードを倒せず、セレンさえも逃がすはめになるのなら、最初から自分が出れば良かったと後悔する。
……まぁ、女の身である彼女らにレグほどの何かを期待するべくもないが。
「お父様……これからどうされますか? ゼクードを追いますか?」
青い長髪の娘オルテンシアが聞いてきた。
しかしヴァルドレイクは首を振る。
「それは私がやろう。奴の相手はお前たちには荷が重い」
「父上! オレも連れてってください!」
いきなり人の話を遮ってきたのはレグだった。
「ダメだ」
「どうしてですか!? 奴はオレを侮辱したんですよ!? この手で殺さないと気が済まない!」
「落ち着け。お前はレジーナたちと【エルガンディ】へ向かえ」
「【エルガンディ】へ?」
「そうだ。【エルガンディ】の戦力らを調べてほしい。あまりにも強大ならこちらも戦力を整える必要がある」
「整える……と言いますと?」
レグが首を傾げ、ヴァルドレイクは腕を組む。
「奴らの装備を見たか? あの煌めきはオリハルコンのそれだ。ミスリルではない」
「オリハルコン!?」
「錬成できる奴がいるってこと!?」
娘たちが口々にざわめくが、ヴァルドレイクは構わず続けた。
「使い回しかもしれんが可能性はある。お前たちは【エルガンディ】に潜入し、このオリハルコンを錬成できる錬金術師を捕縛しろ。出来そうになければ武器の調達でも構わん」
「お父様……もし見つかって戦闘になった場合は殺しても?」
金髪の女騎士ドレスが問うてきて、ヴァルドレイクはとりあえず頷く。
「どうしようもない場合は許す。だが極力は殺すな。人口が減れば制圧後の繁栄も遅れる。建国に奴隷は絶対に必要だからな」
「はいっ!」
バッ! と音を立てて娘のメルセーヌがドラゴンへと変身し翼を広げた。
レグやレジーナたちが飛び乗り上昇し、エルガンディのある方角へと飛び去った。
一人残ったヴァルドレイクは目を閉じて、そして……ドラゴンへに変身した。